GOD EATER2 ~絆を繋ぐ詩~   作:死姫

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9話 災厄の雨

 

 

冷たい壁に背中を預けた状態で、ナナは耳元に意識を集中する。

そこへ陣取ってから10数分。焦る気持ちを必死に押さえつけ、自分の任された事を頭の中で反復させる。

『・・・・ナナさん。標的を追い込みました。7秒数えてから振り抜いてください』

「・・・・了解」

シエルからの連絡に頷いて見せてから、手の中の神機にゆっくり力を籠める。そして・・・、

「・・えぇいっ!!」

ゴシャッ!!

ぴったりのタイミングで振ったハンマーに殴られ、壁伝いに移動していたコンゴウはその身を転げさせる。

確かな手応えを感じてからナナも飛び出し、標的へと走り出す。

動揺でもしているかのごとく暴れるコンゴウの上から、ギルがスピアの先端を下に飛び降りてくる。それが突き刺さったのに合わせて、シエルが捕食形態で襲い掛かり、

ギャブゥッ!!

コアを引き千切りコンゴウを沈黙させた。

「・・・捕食、完了です」

コアを確認したシエルの声に、二人は肩の力を抜いてフッと笑みを浮かべる。

「中々良かったんじゃないか?」

「えぇ。標的が少数なら、この戦術はかなりの効果を得られそうですね」

「とにかく~、良かった良かった!」

ナナの締めにシエルとギルは苦笑してから、ジュリウス達との合流地点へと向かった。

 

 

任務の報告を済ませたブラッドは、1時間の休憩を経て、会議室の1室を借りて集まっていた。

今後の予定などを共有するために、簡単な話をする為に、ジュリウスが集合を掛けたのだ。

「・・・・皆、疲れている中集まってもらって、悪いな」

「そういうの良いからさ、早く始めようぜ」

「ふっ・・、そうだな」

ロミオの返答に少し笑って見せてから、ジュリウスは話の本題へと移る。

「現在フライアは北京支部での補給を済ませ、一路極東支部へと向かっている。今後しばらくは、最前線の極東支部で任務にあたるようになるからだ」

「・・極東に根を下ろすってことか?」

「『しばらくは』だ、ギル。やはり最前線というだけあって、優秀な人材が揃っていようと、極東支部の荒神との戦いは常にギリギリと言って差し支えない状態だからな」

ジュリウスの綺麗な返しに、ギルは頷いてから、乗り出した体を背もたれへと戻す。

「今言ったこととは別に、理由は幾つか存在する。その内の1つに、『感応種』の存在がある」

「・・・・『感応種』?」

聞き返してくるヒロに視線で頷いて見せ、ジュリウスは更に続ける。

「以前ヒロが退けた荒神。・・・あれだけではないが、最近はああいった荒神が姿を現すようになった。なにより感応種の厄介なところは、第2世代までの神機を、沈黙状態にすることにある」

「それって・・・つまり・・?」

「わかりやすく言うならば、生体兵器である神機を、1時的に眠らせるということだ」

その言葉に、誰もが息を飲み込む。

神機が眠る。それは=神機が使えないと、同義であるということだ。

荒神に唯一対抗できる武器、神機。それを戦場で唐突に使えなくなるということは、その瞬間『死』という恐怖に背中を撫でられるようなものであろう。例の件でエミールの神機を目撃したヒロは、ジュリウスの言っていることを誰よりも重く理解をしていた。

しかし、そこで1つの疑問が浮かぶ。

「・・・あ・・。でも、僕等は使えた」

「そうだ。ヒロの言う通り、俺達ブラッドは感応種の影響を受けない。だからこそ、感応種の数が最も確認される、極東支部に赴く。・・・ここまで、大丈夫か?」

自分の話についてこれているかを確認してから、ジュリウスは再び話し始める。

「特殊な電磁パルス・・、『偏食場パルス』というものを発生させる感応種だが、第3世代である俺達ブラッドは、その偏食場パルスの影響を跳ね返すことが出来るらしい。血の力の影響か・・・、詳しいことは解明されていないが、とりあえず俺達にとっては、戦えるという事実だけで十分だろう。今後は感応種討伐の任を優先するようになると思う。そのつもりでいてくれ」

《了解》

その返事に微笑んでから、ジュリウスは立ちっぱなしの足を緩め、席についてから一息つくように促した。

 

少しの間の休憩後に、ジュリウスはもう1つの話へと移る。

「さて・・。極東に行くもう1つ大きな理由も話しておこう。それが、『無人制御型神機兵』の実験の為だ」

「もう・・・、そんな段階まで?」

「そのようだ」

シエルとジュリウスが納得し合ってる中、残された四人は置いてけぼりにあったようになる。そこで、真っ先に手を上げたナナに気付いて、ジュリウスは彼女の発言を促す。

「あのさぁ・・、神機兵って、あれ人が乗らなきゃ動かせないんじゃなかった?でも、ジュリウスは今、無人って・・」

「良い質問だ、ナナ。これに関しては・・・、シエル」

「はい」

名を呼ばれてから立ち上がり、シエルは手元の端末に手早く資料を呼び出し、ジュリウスに代わって説明を始める。

「従来の神機兵は、ナナさんの言う通り、中のコクピットに人が乗り込んでから操縦する、というモノでした。しかし、この研究に並行して、無人制御システムを搭載した、遠隔操作による神機兵の研究が行われていたのです」

「遠隔操作・・・・。それが、試運転まで研究が進んだ・・・ってこと?」

「どうやら、そのようです」

ヒロの質問に、端末で資料を確認してから、シエルは慎重に答える。

「現在閲覧できる資料によりますと、フライア外での試運転をするのに、極東を選んだ模様です。今のところの実験段階では、有人の時と遜色ない成果を確認しているようです」

「そいつはつまり・・・、第2世代の平均以上の力を、無人の状態で望めるってことか?」

「あくまでも実験段階で・・ですが」

ギルの質問に答えるシエルの方も、驚いた表情を見せる。ジュリウスやヒロも、少し考えるような素振りを見せる。

そんな中、ナナとロミオは、いまいちわかってないという顔で首を傾げる。

「・・・・・・わからないなら、後で勉強しろ」

「あんだよーっ!まだ、なにも言ってないだろ!?」

「はーい!勉強する!シエルちゃん、お願い!」

「わかりました。後程わかりやすく説明します」

素直なナナに笑みを浮かべるシエル、ギルの冷たい一言に噛みつくロミオ。騒がしくなってきた場を引き締めるよう、ジュリウスが咳払いをしてから話を引き継ぐ。

「わからない者は、わかる者に聞くのが一番だな。・・・話を戻す。この無人制御の神機兵の試運転を近々行う。研究主任の九条博士が、最前線で十分通じると判断してのことだろう。話が長くなったが以上だ。極東支部の管轄内に入れば、戦闘もより困難になると予想する。だが、やることはこれまでと同じだ。皆、しっかりな」

《はい!》

皆の返事が部屋に響き渡ると、ジュリウスが立ち上がるのを合図に、をの場から解散した。

 

 

荒野を駆けるフライア。

その行く手を阻まれたかのように、体で感じられる程に、急にスピードが遅くなる。

ロビーに集まっていたブラッドの面々は、その感覚に違和感を覚えてか、皆それぞれに顔を見合わす。

そこへ・・・。

 

『ご連絡いたします。現在、フライアは赤い雨の中を走行中。万が一に備えて、走行速度を押さえての進行へと切り替えます。いかなる事情があろうとも、屋外への出入りを固く禁じます』

 

2,3度流された放送後に、ロビーは静けさに襲われる。

そんな中、やはり静寂に我慢できなかったのか、ロミオが半笑いで口を開く。

「な、なぁ?・・・赤い、雨って?」

それに対しては、上手く答えられないという空気になってしまうブラッドの中で、唯一知識として勉強していたシエルが、重い口を開き、話し始める。

「現在、極東地域を中心に見られる、赤い積乱雲から発生する特殊な雨のことです」

「なんか~、聞いたことがあるよ。確かそれに触れたらなる、病気?だっけ。・・こくしゃ・・・コクショ・・」

「・・・・『黒蛛病』」

その禍々しい名を口にしてから、シエルは目を閉じてから話を続ける。

「赤い雨に触れることにより、高い確率で発症すると言われている病、通称『黒蛛病』。今のところ、有効な治療法は確立されておらず、その致死率は・・・100%と・・・されています」

「・・・ひゃ、100・・!?」

所詮『正』か『負』か。『陰』か『陽』か・・・。二つに一つの答えしかない世界。

しかし、可能性ではなく・・・絶対の100という数字に、いつも涼しい顔をしているジュリウスさえも、眉間に浮かせた皺を隠そうともせず、苦悶の表情を見せる。

雨は・・・・、日付を跨ぐまで降り続いた。

 

 

目的地へと進み続けるフライア。その側面に位置する場所から外へと出るテラスのような場所に出て、ヒロは世界を見渡す。

走る音はうるさいが、外を見渡せるその場所に来ることを、彼は気に入っている。

そんな自分ぐらいしか足を運ばぬであろうという場所に、もう一人影を落とす。

「・・隣、よろしいですか?」

「え?シエルか・・。良いよ」

シエルは了解を得てから、設置された長椅子に腰かけるヒロの隣へと自分も腰を下ろす。

後数刻も経てば、朝日が見えるという時間。

二人は申し訳程度に見える星を見上げながら、静かに時の流れに身を預ける。

「・・・・・・知らなかったよ。全然・・」

「黒蛛病の・・・ことですか?」

「うん・・・」

彼もまた、外で生きてきたはずなのに・・・知らなかった。その事実が、彼の心に大きな動揺を生み出しているのだ。

「私も、極東地域での活動に合わせて調べている時に、知った事です。まさか、そんな病気が存在するなんて・・」

「・・・うん。ちなみに・・何だけど、・・・・ゴッドイーターも・・・なるの?」

おそるおそると言った感じの口調で聞いてくるヒロに、シエルは自分にも改めて言い聞かせるように、返事を返す。

「はい・・・。人の病気に対して、ほぼ絶対態勢を持つ我々ゴッドイーターでさえも、黒蛛病には・・・勝てません」

「そう・・なんだね」

どこか予想していたかのように頷くヒロ。しかしその現実はあまりに酷で、彼は再び心を揺さぶられる。

そんな彼を気遣う様に、シエルはそっと肩に手を置く。

「安心して下さい。現在赤い雨発生の原因となる赤い積乱雲を発見した場合、ゴッドイーターは撤退の自由を許されています。私達が、赤い雨の中戦うことはありません」

「うん・・・・そっか。ありがとう、シエル」

「いえ・・」

その言葉に少し救われた気がして、ヒロはようやく険しい顔を崩して笑みをこぼす。

それを喜ばしく思って手を離してから、シエルはヒロに触れていたという事実に顔を赤くする。

それに気付かずか、ヒロは立ち上がり大きく背伸びをしてから、何かを吹っ切った表情を浮かべる。それから、シエルへと振り返ってから、笑顔で声を掛ける。

「そろそろ入ろうか?」

「あ・・・、はい」

二人が中へと戻った後も、フライアはその冷たい巨体を走らせ続けた。

極東支部までの、道のりを・・・・。

 

 

 





フライアの構造を、勝手にいじってます!

初めて見た時、正面の円のところから、ビームみたいなの出るかなとガキ臭いこと考えてました!

出ないかなー


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