神機保管庫で出撃準備をするブラッド部隊。
そこに、最も珍しい人物が遅れてやって来る。
「すまない!せっかく植えたトマトの葉から、謎の物体が生まれて・・。対処していたら、遅くなった!」
「今日はジュリウスが当番だったね、野菜の。良いよ。揃ったし、行こうか?」
《了解!!》
ヒロが笑顔で声を張ると、皆は返事をしてから車庫へと向かう。
その途中、ロミオがヒロの傍まで駈け寄り、小さく耳打ちをする。
「なぁ、ヒロ。最近ジュリウス、疲れてないか?」
「え?・・・そう、ですね。農業の件に関しても、率先して行動してますし・・。少しきつそうですよね」
ロミオに言われて、何となしにジュリウスの顔を伺ったヒロは、少し心配そうに表情を曇らせる。
そんな二人の会話が耳に入ったのか、リヴィがロミオの隣へと並び、会話に参加してくる。
「あいつが選んだことだ。疲れた時には、私達がフォローすればいい。それよりも、あいつは彼女に会っているのか?」
「彼女?誰だよ、それ?」
ロミオが首を傾げると、リヴィとヒロは顔を見合わせてから、誰も彼に伝えてなかったのかと溜息を洩らす。
「葦原ユノのことだ」
「あー・・・・、実はですね。ロミオ先輩が知らぬ間にと言いますか・・、はは」
「・・・・・・・・・・・・・・っ!!!?」
声を出さずに固まってしまったロミオを、すれ違いざまに見たジュリウスは、心配そうに声を掛けてくる。
「どうした、ロミオ?疲れているのか?」
「あ、あはは・・・。それをジュリウスが、言っちゃうんだ」
ヒロが苦笑すると、ジュリウスはしきりに首を傾げだしたが、リヴィがロミオの前に立って「ふん」と鼻を鳴らし、手で追い払う様に振って見せる。
「先に行け。少しムカついたので、文句を言うついでに、私が連れていく」
「んー・・・うん。じゃあ、任せたよ。車は、4号機だから」
「い、いいのか、ヒロ・・?」
ジュリウスがしきりに訊ねてくるのを流しながら、ヒロは彼の背中を押して先へと歩き出す。
残されたリヴィは、立ったまま気絶しているロミオの前で指を鳴らしながら、肩眉をひくつかせながら、口の端を浮かす。
「そうか・・・。ユノのファンだという事は認識していたが、ショックで気絶するほど好きだとはな。・・・ふふふふ」
一頻り笑ってから、リヴィは拳を振り上げて、ロミオの鼻っ柱へと叩き込んだ。
「・・・どうしたの?ロミオ先輩」
「いや・・・、なんか・・記憶が曖昧で・・。俺、事故った?」
「今車に乗り込んだ奴が、どうやって事故るんだよ?」
「階段などで転びましたか?それにしては、顔が・・・。リヴィさん?」
「知らん。私が駆け付けた時には、こうなっていた。通り魔かもしれん」
「・・・嫉妬の悪魔でしょ?」
「ロミオ・・。一体、何があったというんだ?」
極東地域に作られた、第2サテライト拠点。
新しい入居者の受け入れ作業を行う為に、ユノとサツキは訪れていた。
黒蛛病の脅威が去ったとしても、外は荒神が闊歩する世界。住居の確保や食料配給が充分となった今、出来うる限り周りの住民を、混乱なく受け入れなければならない。
その為に、極東からもアリサとカノン・・・それと、ユウが二人の護衛も兼ねて同行していた。
「当面の予定よりは、まだ余裕なようです。手続きを済ませた方から、簡単な食事と、毛布などの支給も間に合っているようですね」
「そう。流石アリサだね。極東のサテライトの件、君に頼んで正解だったよ」
「褒めても何も出ませんよ?隊長」
アリサがお道化て返してくると、ユウは苦笑しながら頬を掻く。
そこへ、作業が一段落したのか、ユノとサツキが合流しに来る。
「お疲れ様、ユノ。サツキ姉さんも」
「あはは・・、ちょっと疲れたかも」
「はぁ~・・!つっかれたわ!!」
肩をぐるぐる回しながら、衛兵と一緒に配給品を渡していた疲れをほぐすサツキ。ユノの御付きという立場なのに、何故かサツキにも握手を求めてくる人間もいるので、慣れないアイドル対応に疲れたのだ。
「聞いてよ!私の手を必死に撫でるおっちゃんがいたの!こんなご時世じゃなきゃ、ぶん殴ってるところだわ!」
「ちょっと、サツキ!?駄目よ、そんなの」
「サツキさんも、モテますね」
「まぁ、姉さんは綺麗だしね」
そんな談笑をしていると、ユウの肩にスッと光が集まり、ミコが姿を現す。
『どうせ使いどころねぇだろ?需要があるうちに、使ってもらえよ』
「あんた・・・、久々に出てきたと思ったら、随分なご挨拶じゃない?」
ミコを睨みつけるサツキに、ユウとユノが落ち着くよう宥めていると、カノンが周辺の偵察から戻って来る。
「ユウさーん。この辺りに荒神の反応、ありませんね」
「ありがとう、カノン。それじゃあ、休憩にしようか?」
ユウが笑顔で声を掛けると、皆は簡易テントへと移動を始める。
その移動途中に、ユウは何となしにユノへと話し掛ける。
「ところで、ユノ。ジュリウスとは会ってるの?」
「え!?に、兄さん!」
「この前、全然会えないってソーマと僕の所に・・」
「待って待って!!それ、待って!!」
ユノが静止したのも遅く、首を傾げるユウ以外の者達は、ニヤリと笑って目を光らせる。
「へぇ~。ユノは隠れて、そんな相談を♪」
「随分と楽しそうなお話ですね♪」
『ユノの新しい恋の話ってやつか~♪』
「是非!今後の参考に!!」
楽しそうに前を行く四人を見てから、やっと察したユウは苦笑いを浮かべながら、ユノへと顔を向ける。ユノの方は、顔を真っ赤にして頬を膨らませて、恨めしそうに睨んでくる。
「もう!兄さんのバカ!」
「はは・・・、面目ない」
ユウが申し訳なさそうに頭を撫でると、ユノはそっぽを向いてみせながらも、暖かなユウの手に嬉しさを感じていた。
ザシュッ!
ギャウゥッ
「回り込んで!シエル!」
「了解!」
ヒロに斬り付けられて、後退るプリティ・ヴィマータの後ろから、シエルが銃型で構えて撃ち抜く。
ドゥオンッ!
ギャァッ
足を弾かれてバランスを崩して倒れたところへ、ジュリウスが瓦礫の上から飛び込んで、背中かから捕食形態を喰い込ませ、コアを捥ぎ取る。
ガリュウッ!
コアを回収されると、プリティ・ヴィマータはその場に倒れ伏せ、身体を霧散化させだす。
そこまで確認してから、シエルが警戒を解くと、ヒロとジュリウスも構えた神機を下ろす。
「周囲に反応は無いようです。お疲れ様です、二人共」
「うん。お疲れ、シエル」
「どうやら、任務完了のようだな」
三人が笑い合うと、ヒロの無線にギルから連絡が入る。
『ヒロ。こっちも片付いた。今から、合流地点に向かう』
「うん、気を付けてね。こっちも向かうよ」
『はっ!子供じゃねぇぞ?まぁ、お互いにな』
無線が切れると、そのまま本部へと連絡を始めるヒロ。そんな彼に視線を向けるジュリウスに、シエルは軽く服の埃をはたいてから、話し掛ける。
「ジュリウス。最近、休みを取られてませんね。そろそろ休ませろと、ツバキさんからお話をいただいたのですが・・」
「・・そう、だったな。すまない・・。少し農業が、楽しくなってきていてな。もう一段落着いたら、申請を・・」
「そう仰るだろうと思い、ツバキさんからお言葉を預かっています。『休め。これは、命令だ』だそうです」
「・・・・そ、そうか・・」
自分の行動を見透かされていたのに恥ずかしくなり、ジュリウスは照れ笑いを浮かべる。そんな彼に微笑み、シエルはヒロの方へと歩み寄りながら、喋りかける。
「明日明後日は、貴方はお休みです。・・良い機会ですから、しばらく会えてない方に会ってはいかがですか?ちょうど彼女も、明日お帰りになるそうですよ?」
「・・・そうだったな。では、そうしよう」
観念したように笑みを零しながら、ジュリウスもシエルに続いて歩き始める。
しばらく会っていなかった、彼女を想いながら・・・。
次の日の午後。
ジュリウスは極東支部全域を見渡せるよう、ヘリポートへと一人来ていた。
忙しさを理由にしていたつもりはないが、彼女と会うのが久方ぶりで、何を話そうかと考えているうちに、自然とここにやって来ていたのだ。
自分が守り、暮らす小さな世界を眺めていると、そこへソーマがやってきてから、隣へと並び立つ。
「休みか、ジュリウス?」
「はい・・。雨宮指揮官に、怒られてしまい・・」
「ふん・・。あの女らしいな」
鬼の教官、戦場の鬼女と呼ばれる彼女を”あの女”呼ばわりするソーマに、ジュリウスは思わず笑ってしまう。
それからしばらく黙っていると、珍しくソーマの方から話を振って来る。
「・・・お前、妹とはどうなんだ?」
「え?そ、それは・・・・。何と言いますか」
「会ってやってるのか?」
「・・いえ。今日、久方ぶりに・・」
特に悪いことをした訳でもないが、ここ最近この話題を色んな所で言われたものだから、ジュリウスは少しだけ罪悪感を感じていた。
そんな彼の表情を見てから、ソーマは溜息を交えながら話しかける。
「そんなに気負わなくていい。俺にとっては、どうだっていい話だ。・・・ただ、妹が会いたいと騒ぎ立てに来るから、とっとと会ってやれってだけだ」
「そう・・なんですか?」
「あぁ。仕事の邪魔だ。ちゃんと、相手してやれ」
そうソーマが言ったところで、遠くからヘリの駆動音が聞こえだし、数分もしないうちに彼等の頭の上へとやって来る。
ゆっくりと着地を済ませると、中から飛び出すように駆けてきたユノが、ジュリウスの胸へと飛び込む。
「・・もう!いつまで待たせるの!?」
「あぁ、すまなかった」
「はい、許します!・・久し振り、ジュリウス」
「久し振りだな・・・、ユノ」
後から降り立ったユウ達は、そんな二人の様子を見ながら笑顔を浮かべる。そこへソーマが歩み寄り、ユウへと話し掛ける。
「・・お前、今どんな心境だ?」
「う~ん・・。ちょっとだけ、複雑だけど・・・嬉しいかな」
そんな二人の会話を耳にすることなく、久方ぶりに会えたジュリウスとユノは、黙って抱き合っていた。
サテライトから戻って早々、ユウはソーマに研究室に呼ばれていた。
彼の入れたコーヒーを口にしながら、ユウは軽く息を吐いてから話し掛ける。
「それで?わざわざヘリポートまで迎えに来てたけど、僕に用があったの?」
「あぁ。・・・少し、気になった事があってな」
そう前置きしてから、ソーマはデスクの椅子に腰を落ち着けてから、ユウへと視線を向ける。
「お前とツバキが、螺旋の樹の事件を知ったのは、フェデリコに聞いてからってことだが・・・。それまで、何処にいた?俺もリンドウも連絡がつかなかったが・・面倒なことにでもなっていたのか?」
「あれ?ツバキさんから報告書、回って来てない?」
その言葉に、ソーマは「ちっ」と舌打ちをする。
「・・本部か。もしかしたら、握りつぶしたのか?」
「まぁ、やりそうだけどね」
「俺が気掛かりなことと、重なるかもしれねぇ。ユウ、話せ」
「良いけど、少し長くなるよ」
そう言ってから、ユウは近くに折りたたまれた椅子を引っ張り出して、腰を下ろす。
すでに話す気でいる彼に、ソーマはフッと笑みを浮かべてから、目を閉じて片手を上げて見せる。
「構わねぇ。時間はあるしな・・」
夜の星空を見上げながら、ユノはジュリウスへと寄りかかって目を閉じている。
特に会話は無いにしろ、二人はそれだけで十分といったように、満足気に笑みを浮かべている。
そこに、スッと流れ星が流れる。
気付いた時には無くなってしまっていたが、ジュリウスはユノの肩を軽く揺すってから、空を指差す。
「今、流れ星を目にした。気を付けていれば、また見れるかもしれない」
「本当に?じゃあ、見つけたらお願い事しなくちゃ」
「それは、不可能な迷信では?流れ落ちるまでに、3回願い事を言うなど・・」
「ロマンを追い求めなさい、ジュリウス。貴方に足りないモノです」
ワザとらしい口調で言うと、ユノはペロッと舌を出して見せ、それを見たジュリウスは困ったように照れ笑いを浮かべる。
「ロマン・・か。そうだな・・。そういう心のゆとりは、大事なのかもしれないな」
「そうよ?そういう気持ち、ちゃんと大事にしてね」
「あぁ・・」
それから二人は再び星空を見上げる。
そこで、ユノは一際輝く青い月に手をかざしてから、優しく声を洩らす。
「・・・・おかえり・・、ジュリウス」
「・・・あぁ、ただいま。・・ユノ」
螺旋の樹の事件から約2ヶ月。
二人はようやく、大切な言葉を口にすることが出来たのだった。
ジュリウスとユノ。
私にとっては、自然な関係です。
こんな距離感がすごく好きですね!