開発局の一角。
リッカの作業場に来たユウは、彼女が新しく考案した感応制御装置の実験に協力していた。
「えっとー・・・・、うん。これでよしっと!お待たせ」
「うん。もう使ってみても良いのかな?」
「うん!よろしくね!」
リッカガ明るく答えると、ユウは目を閉じて深呼吸をしてから、装置を起動する。
「んっ・・・。」
しばらく神機を握る手に痺れを感じたが、それを我慢してやり過ごすと、痺れと入れ替わりに、大きな音が響き始める。
「・・・ね、ねぇ、リッカ。これ、大丈夫だよね?」
「えっと・・・・、設計も組み立てにも・・不備は無い筈なんだけど・・」
リッカもその事象に戸惑っているのか、頬を掻きながら苦笑いする。
パリィッ バリバリィッ!!
空を切り裂く稲妻のようなモノが発生しだすと、装置の音はより一層大きく鳴り出す。
そして・・・。
キイィィィィィィィンッ!!
「うっ!・・・・感応現象・・・きたみたい・・」
「ほら!大丈夫!って・・・・、ユウ君!?」
耳鳴りのような音に頭を痛めながらも、ユウはそれ以上に激しく動悸する胸を押さえて膝をつく。
そんな彼を心配して、リッカが駈け寄ると、急に光が部屋いっぱいに広がる。
「わっ!?」
「きゃっ!?」
二人が眩しくて目を遮ると、頭の上の方から、声が聞こえてくる。
『・・・ん?・・はっ?あれー!?・・・これ、マジかよ?』
「はい?」
「・・・女・・の声?」
ゆっくりと顔を上げた二人の目の前には、常識では計り知れない存在が浮いていた。
『はは・・・。お?よぉ!ユウ!何ていうか・・・、久しぶりだな!それと、リッカ!初めましてか?はははっ!』
「・・・・あんた、誰よ?」
「えっとー・・・・、ミコ・・だよね?」
「ミコって・・・・、はいー!?」
ユウの口にした名を耳にして、リッカは驚きにユウへと顔を近付けて叫ぶ。そんな彼女が可笑しかったのか、けたけた笑いながら、神楽ミコは戸惑う二人の前にVサインして見せる。
『おうよ!あんたの1番目の嫁の、ミコさんだぞ!旦那!』
「はぁ~・・・・」
話を聞きながら、感心の声を上げるヒロを見て、具現化したミコは楽しそうに笑っている。
そんな彼女に触れられないかと、同席しているユノは、ミコの肩や髪の毛に指でつついたりしていた。
「なんか・・・凄いですね。やっぱりユウさんは!」
「はは。そうかな?」
『お前はどんだけ、ユウを美化して見てんだよ?面白い奴だな!』
ヒロが目を輝かせながら見つめる姿に、ミコが茶々を入れると、ユウとユノは苦笑いを浮かべる。
ちなみにユウの部屋に集まっていて、ヒロとユノの他に、サツキとリッカも同席していた。サツキはやんちゃな子供を見守るような表情を見せ、リッカは面白くなさげに目を細めて頬杖をついている。
「あの・・・、質問なんですけど・・」
「ん?何、ヒロ?」
ヒロが手を上げてユウに質問する光景に、ユノとサツキは『朝凪』の頃のユウを連想し、懐かしみながら笑顔になる。
隣に、ミコの姿があるからでもあろう・・・。
「今日は凄くあっさりとミコさんが姿を出してくれたんですが、螺旋の樹の時点では、やっぱりまだ慣れてなかったとか・・・無理なさってたとか?」
「あぁ・・。実は~・・・、それね・・」
少し言いにくそうに言葉を濁すユウに代わって、ミコが胸を張って堂々と声を張る。
『ああいう風に出た方が、インパクトあるだろ?真打登場!!みたいな?・・なっ!!』
《・・・・・・・・》
「あ・・あはは」
悪びれもせず口にしたミコの言葉に、全員が固まってしまい、ユウは困ったように頭を掻く。
そんな少しの沈黙を破るように、サツキが眉間に皺をよせながら、ミコへと詰め寄る。
「あんたねぇ!あの状況で、よくもそんな事をユウにやらせたわね!?馬っ鹿じゃないの!?」
『はぁ~?なに言ってんだよ、おっぱい眼鏡。最初が肝心だろ?「神薙ユウに、神楽ミコ在り!」みたいなよ~』
「大勢の命がかかってたのよ!?世界の存亡も!?本当にそういうところ、変わらないわね!後、おっぱい言うな!!」
『うるせぇな~。ちゃんと勝ったんだから、問題ないだろ?なぁ、ヒロ!?』
耳を押さえる仕草を見せながら、ミコがヒロへと話を振ると、彼はより一層目を輝かして、ガバッと勢いよく立ち上がる。
「はい!!カッコいいです!!」
『ほら、見ろ!』
「純粋な少年の憧れを、利用すんじゃないわよ!」
「はは・・、そっかな?」
「兄さんも照れてるけど?」
「・・はぁ。・・・・何なのよ、もう」
ヒロとユウのやり取りにサツキが溜息交じりに頭を抱えていると、ユノが落ち着くように背中を擦る。
それを遠目に眺めるように見ていたリッカは、ふとミコの表情に目を止めて、訝し気に眉を上げる。
皆を見つめるミコの顔は、どこか切なく、儚げな影を落としているように見えたのだ。
夜。
忙しいユウとリッカの二人には珍しく、寝所を共に出来る時間を得られ、ユウの部屋で同じベッドに横になっていた。
隣で穏やかに寝息を立て始めたユウの頭を優しく撫でてから、リッカは一人起きだしてから上着を羽織り、静かに口を開く。
「・・・ミコ。起きてるんでしょ?出てきてよ」
そう喋りかけると、ユウの背中から一瞬の光を放ってから、ミコが姿を現す。
『なんだよ、リッカ。眠れないのかい?』
「ちょっと・・、あんたに話があってね」
唯一「あんた」と呼ぶミコに対して、リッカは小さく息を吐いてから、話し始める。
「・・昼間、なんか表情を曇らせてた瞬間・・あったでしょ?ユノちゃんやサツキさんと再会できたのに、なんか・・・思う事でもあったの?」
『・・・・そんな顔、してたのかい?参ったねぇ・・』
頬を掻く素振りを見せてから、ミコは夜の極東支部を窓から見つめながら、観念したように口を開く。
『リッカ・・・。あたしさ、いつまで”このまま”でいられるかな・・ってさ』
「いつまでって・・、ずっとじゃないの?あんた、ユウ君の心臓なんでしょ?」
そうリッカが口にすると、ミコが「それ」と言ったように、指を差してくる。
『あたしは、あくまでユウの心臓・・・体の、1部さ。こいつの偏食因子過剰投与も、循環器官のあたしが、元々ゴッドイーターの適正にあったから、受け皿の役目を担っていた・・・て、こいつはユウが言ってたことだけどな』
「・・それで?」
『話逸れたか?とにかくな、あたしはユウの身体の1部だからかな・・・。今日ユノとサツキに会って確信したんだけど、徐々に昔の事を・・・思い出せなくなってるなって・・』
「え?」
ミコの言葉に、リッカは腰かけていた椅子から思わず立ち上がりそうになる。それをミコが制してから、苦笑する。
『まぁ、当たり前だよな?あんたの作った感応制御装置で、イレギュラーに具現化した曖昧な存在だ。ユウっていう主人がいる身体に、二人もいらねぇだろ?・・普通』
そんな彼女が、再び切なげな表情を見せたので、リッカも眉を下げてから、言葉を返す。
「・・そう、だね。正直、あんたの事はわからないことだらけで・・。ただ、ユウ君の体内に流れる偏食因子・・オラクル細胞があんたの心臓に残った思念を具現化したものじゃないかって、榊博士も言ってたよ。『心臓移植を行った患者には、その心臓のドナーとなった人の人格が、一時的に備わる』っていう・・・例に、基づいたモノじゃないかともね」
『な?曖昧だろ?存在自体がさ・・。だからさ、ちょっとセンチメートルになった訳だよ』
「・・センチメンタル、でしょ?」
『サツキみたいに返してくんなよ』
そのまま少しの沈黙が、二人の間に訪れる。
神楽ミコは、もう存在しない・・。この事実を捻じ曲げる存在の自分に、彼女は溜息を洩らしながら、極東の明かりを見つめ続ける。
リッカも、これ以上どんな言葉を掛けたらいいかと迷っていると、ミコの方から、リッカへと声を掛ける。
『なぁ、リッカ・・。ちょっと頼みたいこと、あるんだけどな・・』
「なに?ユウ君はあげないけど?」
『先に結婚したのはあたしだろ?そうじゃないって。・・・聞いてくれるかい?』
「・・・・いいよ」
リッカが笑顔を見せると、ミコもニッと笑って見せてから、頼みごとを口にした。
翌日。
リッカ立っての頼みで、ツバキから休暇を貰ったユウは、彼女と二人で車を走らせていた。
急な申し出だったが、いつかはと思っていた場所へと、リッカが連れて行って欲しいと望んだからだ。
極東から2時間程走らせた先で車を止めると、ユウは小さく頷いてからリッカへと目的地に着いたと知らせる。
リッカも頷き返してから車を降り、後部座席に積んでいた花束を手に持ってから、ユウの隣へと位置取り、付いていく。
少し歩いた場所でユウが足を止めると、そこには小さな石が綺麗に積まれていた。
何もない荒野にひっそりと置かれた場所・・。
朝凪カンパニーの最後の場所・・。
そこへリッカは花束を添えてから、静かに祈りを捧げる。隣でユウも、同じように目を閉じて祈る。
少しの時間を経てから顔を上げて、リッカはユウへと視線を向けて、口を開く。
「着いたわよ・・。ミコ」
「え?」
ユウが驚いていると、ミコは姿を現してから、周りへと視線を巡らせる。
『・・・・うん。ここだったな・・。サンキュー、リッカ』
「私もいつかはって、思ってたからさ。ついでだよ・・」
「え?リッカ?・・・ミコも、ここに来たかって事?」
一人用途を得ないユウに微笑んでから、ミコは花束の置かれた小さな墓石に手を当てる。
そして・・・。
『・・・感応現象、『想』』
呟くように口にすると、その場所を包み込むように、一斉に光が溢れ出す。
その光がユウ達の目の前に集まりだすと、ミコはその光にゆっくりと手を伸ばす。
『ユウ・・。みんなの気持ち、受け取ってくれよ』
「みんな・・って。まさか!?」
『気をしっかり、もてよ?』
そう言い終わると、ミコは伸ばした手で、光に触れる。
すると、その場に残る想いの欠片たちが、ユウの頭へと流れ込んでくる。
『優・・・』
『優!・・』
『お前が生き残ってくれて、良かったよ!』
『先生!先生・・僕、守れたよ?先生との約束!』
『先生!あたし、ちゃんとカケルと仲良くするよ?だから、ね!』
『どうか・・・どうか。お前さんは、幸せにの?優・・。ずっと、嘘ついていて・・悪かったのぉ。わしの・・・大切な・・自慢の孫よ』
『えぇんよ?幸せになって・・・。わしらの分も、幸せにおなり』
光が飛び去ると、辺りはまた、何もない荒野へと変わる。
伸ばした手を下ろしてから、ミコはユウへと顔を向けてから優しく微笑むと、リッカと二人包み込むように、ユウを抱きしめる。
ユウは、肩を震わせながら、下を向いて涙を零していたのだ。
「ぼ・・僕は、ずっと・・・後ろめ・・たかった、んだ。怖かった・・。みんなを、守れずに・・・・いた、ことを・・。だから!」
『良いんだよ・・。あたしがあんたに命を託したのと同じだけ、みんなもあんたの事を、想ってたんだよ?』
「うっ・・くぅ・・・ううぅぅっ!!」
ユウはその場に崩れるように膝をつくと、久方ぶりに声を上げて泣いた。そんな彼を抱き締め、リッカも涙を零しながら、ミコへと微笑む。
「・・・ありがと・・、ミコ」
『良いってことさね♪』
ミコがウィンクして見せると、リッカはそのままユウへと顔を埋める。
それから二人が泣いているのを見守りながら、ミコは手に残った光を自分の胸に抱いてから、声を洩らす。
『婆様。ナズナ、カケル・・・みんな。もう少し、あたしをユウの・・・二人の側に留めておくれよ』
そう言って光を自分の中に取り込むと、ミコは優しい声で、ユノの歌を歌い始めた。
二人が泣き止むまで、ずっと・・・。
終了・・・とかいいながら、番外編です!w
まぁ、これは本編から外して書きたかったので!
ミコの設定はここまで含めてです。
ですから、ユウの過去編を書いた時から、この話を書くまでやめられないなっていう思いもあって2に手を付けたのもあります。
私のオリジナルのキャラ、神楽ミコ。
きっともうしばらくはユウの力になってくれるはずです!