極東支部長室。
そこで榊博士は、新たに起こった事件の報告書を基に、日記のようなものを個人的にまとめながら、小さく溜息を吐く。
人類の共有財産として『聖域』認定した螺旋の樹は、故ラケル・クラウディウスの二重の画策により、再び『終末捕食』を起こす、爆弾と化した。
その脅威を止めた、極東支部ゴッドイーター。
特にブラッド部隊が起こした奇跡のおかげで、『終末捕食』は地殻変動のような緩やかなものに変化し、人類は滅びの危険から救われた。
螺旋の樹のあった場所には、美しい自然の大地が広がり、ブラッド隊の面々は、力の代償からか腕輪を失って、普通の人へと戻っていた。
(「喜ぶべきか?」と、本人達は複雑そうであったが、これこそが『究極の破壊と再生』と言うべきかもしれない)
ちなみにフェンリル本部上層部は、責任の所在をどこに向けるかで、躍起になっている。
借りを作りたくないが為に、神薙ユウと雨宮ツバキに極秘と偽った任務を与えて遠ざけ、更には自分達が指名した研究者、九条ソウスケの暴走によって、螺旋の樹崩壊に一役買ってしまった事など・・。
ラケルの手の上で踊らされていたのを隠すために、おそらくは現場総指揮についた、アイザック・フェルドマン情報管理局長になすりつけるであろうが、本部に貢献してきた彼との対峙に、結果はどうなることか・・・。
結局、人はどこまでいっても人であって、常に荒ぶる神に、試されているのかもしれない・・。
書き終えてから、榊博士はそのウィンドウを保存してから消し、目を閉じて大きな溜息を吐く。
そこへ、ノックをしてから、ユウが顔を見せる。
「どうも、博士」
「やぁ、ユウ君」
短い挨拶を交わしてから、ユウは榊博士にいくつかのファイルを手渡す。
「こちらに協力的な意向を示してくれた支部での、今後の問題点や、改善点なんかをまとめたモノです。確認して下さい」
「そうか。もう2年・・いや、もうすぐ3年か・・・。長い間飛び回ってもらって、悪かったね」
「いえいえ。僕がそもそもに、言い出したことですから」
ユウの笑顔にホッとしてか、榊博士は先程の険しい表情はどこにといったような笑みを見せる。
「コーヒーでも・・、どうだい?」
「じゃあ、いただきます」
そう答えたユウの為に、榊博士はわざわざ立ち上がってから、コーヒーを2つカップに準備し、片方を彼に渡す。
それを口にしながら、ユウはデスクの上に置かれた報告書を目にして、少しだけ神妙な表情を見せる。
「・・・・君が戻って来てくれて、本当に助かったよ・・ユウ君」
「いえ・・。僕の力なんて、たかが知れてます。今回の事件を解決したのは、間違いなくヒロとブラッドのみんなですから」
「そんな彼等を、導いたのは君だよ。・・・また・・、助けられたね」
「はは・・。そんなに持ち上げられると、何か怖いですね」
ユウが苦笑する姿に、榊博士は初めて会った時の彼を重ねる。
懐かしさに微笑みながら、榊博士はユウへと喋り掛ける。
「・・・・覚えているかな?ユウ君。君が初めてゴッドイーターになった時に、言った言葉を?」
「・・・えぇ。今でも、変わらない僕の・・・決意ですから」
「『明日を切り開く』・・・。君のあの言葉に、私は救われた気がしたよ。きっと私だけじゃない。当時のソーマ君や、荒神化したリンドウ君。極東の古参のメンバーから始まって・・・、今やブラッド隊の子達も、君の決意に救われた。あの時、君に賭けた私は、間違っていなかったよ」
「・・・大袈裟ですよ」
そう言ってから、ユウは照れくさそうにカップを傾けながら、昔を懐かしむように話し出す。
「誰にしたって、自分の意志で行動した結果です。僕自身がそうであったように・・。でも・・・もし、僕の言葉や行動が救いとなっていたなら、逆に僕も関わった人達から救われているんです。僕一人がどうかではなく、みんなとの繋がり・・・絆が、世界の救いになっているんですよ」
ユウが笑顔で答えると、榊博士は小さく頷いて見せてから、手の中のカップに視線を落とす。
それからユウは、飲み終えたカップをテーブルに置いてから、軽く一礼をしてから扉へと向かう。
「それじゃあ、僕はこれで・・。大切な用事がありますから」
「うむ。それじゃあ、またゆっくり話でもしよう」
「えぇ・・」
ユウが出て行ってしばらくしてから、榊博士はもう1度デスクへと戻り、先程閉じたウィンドウを呼び起こしてから、もう1文付け加える。
それでも私は、信じている。人と人とが繋ぐ、絆という名の未来を・・・。
団欒室に集まっていたブラッドの面々は、腕輪の失くなった右腕を擦りながら、今後の事を話していた。
「どうだ?久方ぶりに、普通の生活に戻って?」
ジュリウスが全員を見回して聞くと、ナナが勢いよく手を上げてから発言する。
「はい!!ご飯が美味しいと思います!」
「元々美味そうに、食ってたじゃんかよ?」
彼女の言葉に、ロミオが苦笑しながら言うと、皆一様に笑いだす。
そして、ヒロが自分の右手を掲げながら、目を細めて口を開く。
「・・・うん。何て言うのかな・・。正直に言うと、”物足りない”・・かな?」
彼が言った言葉に納得したように、ギルが頷いてからキャップをかぶり直す。
「そうだな・・・。今更普通に暮らせって言われてもな・・」
「私もだ。『未来の選択肢が増えた』と、フェルドマン局長に言われたが、どうにも落ち着かない」
ギルに続いて、リヴィが思いを口にすると、シエルがフッと笑みを浮かべながら、喋りだす。
「私達は・・もう、戦う理由があるからだと・・思います」
皆がジュリウスへと視線を向けると、彼は静かに頷いてから、ヒロへと笑顔を向ける。
「・・・決まりだな、隊長」
「それ、やめてって言ってるでしょ?ジュリウス」
彼の言葉に苦笑して返してから、ヒロも覚悟の眼差しを皆に向けてから、頷いて見せる。
「だったらさ、この覚悟を・・・受け取ってもらいたい人がいるんだ」
神機保管庫の奥にある作業場で、リッカは調整が終わったばかりの神機を前に、大きく息を吐く。
「んー・・・・、よしっと」
「リッカ」
「ひゃい!?」
突然声を掛けられて驚いたのか、リッカは変な声を上げてから、振り向く。
そんな彼女に声を掛けて不味かったのかと、ユウは苦笑しながら頬を掻く。
「あれ?タイミング、悪かった?」
「ユウ君か・・。いや、だって・・・独り言・・。ううん。何でもない」
落ち着きを取り戻したのか、リッカは軽く咳払いをしてから、いつもの笑顔を見せる。
「えっと・・それで?どうしたの?ユウ君」
「うん。話があってさ・・。ちょっと出ない?」
そうユウが誘ってくると、リッカは困ったように眉を下げる。
「ごめんね。今急ぎで終わらせなきゃいけない仕事があって、抜けられないから・・。話なら、ここで聞くよ」
「そっか。じゃあ、ここで」
彼女の提案に素直に従って、ユウは作業を再開するリッカに話しかける。
「えっとね・・・。僕の仕事がさ、やっと一段落ついたんだ」
「へぇ~。それじゃあ、しばらくは極東?」
「しばらくというか・・・、出張以外はずっとここかな?」
「ふ~ん。良かったじゃない?これで気が休まるってもんでしょ」
「うん。それでね・・・、約束してたこと、ちゃんと叶えようかなって」
「約束ね~。・・・・・ん?・・約束?」
リッカが疑問に思って振り返ると、ユウが小さな小箱を目の前で開けて見せてから、笑顔を見せる。
「ずっと待たせて、ごめんね。リッカ・・、結婚しよう?」
「・・・・・・・・・」
しばらくその小箱の中に光る物を見つめながら、リッカは言葉を失ってしまう。
そして・・・。
「ええぇぇぇーーーーーっ!!!?」
「わっ!?びっくりした」
彼女が叫ぶと、ユウは驚きながら1歩後退ってしまう。
「え?ちょっ!?えっと・・えぇ?何?これ?え?・・・これって、結婚?えええぇぇ!?」
「えっと・・・・うん。指輪、受け取って欲しいかな?」
困惑して慌てるリッカに、ユウは照れながら頭を掻きつつ、指輪の入った小箱を更に前に出す。
震えながらそれを受け取ってから、リッカは何度もユウと指輪に視線を移動させてから、顔を真っ赤にして怒り出す。
「何でここーー!?ここ作業場だよ!?私、作業着だよ!?何で、このタイミング!!?」
「え?だって、ここで話聞くって・・。それに早い方がいいって、リンドウさんが」
「言ったよ!?言いましたよ!?でも、ここ!?早い方が良いけど、ここなの!?」
リッカが騒ぎ立てるから、ユウは首を傾げながら困った表情になる。
そんな顔を見せられたら弱いリッカは、呼吸を落ち着けながら胸に手を当ててから、小箱をユウへと突っ返す。
「・・・・もう・・。わかったから、やり直して」
「え?」
「ちゃんと!私の指に、はめて!」
「・・・あぁ、そうだね!でも・・・作業中だし、後にした方が」
「そんな事を気遣わないでよ!正しいけど!いいから!・・・お願い」
「えっと・・・じゃあ」
とにかく自分が悪かったのだと思い、ユウはリッカの突き出してきた左手を手に取り、薬指にスッと指輪を通す。
飾りっ気のない銀の指輪を、優しく撫でてから微笑むリッカに、ユウは改めて大切な言葉を口にする。
「・・・楠リッカさん。僕と、結婚して下さい」
「・・はい。喜んで・・・」
そう答えてから涙を浮かべるリッカを、ユウは優しく抱きしめる。
そんな二人の時間を破るように、扉がバタンッと開く。
「うっ・・うっ・・、ユウざん!リッカざん!!よがっだーーー!!」
「へ?」
「は?」
何故が涙を流しまくるヒロと、それにつられて涙ぐむブラッドの皆が、盛大に拍手をしながら入ってきたのだ。
そんな状況に、流石のユウも顔を真っ赤にして、同じく真っ赤になったリッカと抱き合ったまま固まってしまう。
「素敵です!とても素敵です!!」
「おめでとーー!ユウさん!リッカさん!」
「やっとっすか、ユウさん。・・・良かった」
「おめでとうございます、二人共。次は私とロミオだ」
「えぇ!?何でこのタイミングで!?と、とにかく、おめでとうございまーっす!」
「ユウさん、リッカさん。俺は今、とても感動的な場面に、心が震えています!」
皆が口々に祝福の言葉をかけてくるのに、やっと我に返ってか、ユウは軽く咳をしてから、喋り掛ける。
「えっと・・・・ありがとう。それで?みんな、どうしたの?」
「あ、そうでした」
一番冷静そうなジュリウスに視線を向けると、ジュリウスは一番泣きじゃくるヒロの背中をさすりながら、全員を整列させる。
「こんな大切なお二人の時間に恐縮ですが、是非ユウさんに聞いていただきたいことがあります」
「えっと・・僕に?」
ようやく落ち着いてきたリッカを離してから、ユウはブラッドへと向き直す。すると、ヒロが涙を拭ってから深呼吸をして、ユウを真っ直ぐ見つめて口を開く。
「えっと・・・、以前ユウさんに誓ったことを、もう1度誓いに来ました!」
「僕に・・・誓った事?・・・あぁ~・・・、そっか」
思い当たることがあったのか、ユウは自分も姿勢を正してから、改めてブラッド隊を見つめる。
「・・・聞こうか」
「はい!・・・僕達は、改めて戦う覚悟を決めました!ですから、その覚悟をユウさんに誓わせて下さい!」
「うん。・・・良いんだね?」
《はい!!》
ユウの聞き返した言葉に、力強く答えたブラッド。そんな彼等に、ユウとリッカは顔を見合わせてから、頷き返した。
ガァンッ ガァンッ・・・・・・・ ガァンッ
『これで・・君達は・・・・・・』
広大な庭園を見下ろせる高台に位置取り、七人のゴッドイーターは神機を構える。
「予定通りだな。数は大したことないが、油断せずに行こう」
「オッケー!まっ、俺等なら楽勝でしょ!?」
「軽口を叩くな。そういうのを、油断と言うんだ」
「まぁまぁ~。大丈夫!みんな、いるんだし!」
「そうだな。気張り過ぎも良くねぇしな」
「では隊長、ご命令を・・」
ジュリウス、ロミオ、リヴィ、ナナ、ギル、シエル・・。仲間の視線を一身に受け止めて、ヒロは大きな声で叫ぶ。
「極東支部所属、新生ブラッド隊!荒神を、倒せ!!」
《了解!!》
そして彼等は、荒神が闊歩する戦場へと飛び込んだ。
戦う覚悟と、仲間との絆を以って・・・。戦場を駆ける少年達の物語は、新たな幕を開く。
GOD EATER達の物語は、続いていく・・・。
レイジバースト編、完結です!!
正直ブラッド編より長く感じましたが、何とかこの章も完結まで辿り着けました!w
これも読んで下さる皆さんのおかげだと思います。
本当に本当に、ありがとうございます!!
ですが・・・、当然まだ終わりではないです!
ここからもう少し物語は続きます!
・・・終わらねぇ~w
まだ本編での事が残ってますし、回収してないネタがありますんで、全て喰い尽すまで終わりません!
更に!
本編をたどった後に・・・・・オリジナルも・・・考えてたり・・。
はぁ~・・・頑張らんと。
自分が読みたいだけで始めた物語。いつになったら、ゆっくり読めるのか?w
まぁ、納得いくまで書き続けますよ!
なのでなので、もう少しこの物語にお付き合いいただければと思います!
それでは引き続き、GODEATER2~絆を繋ぐ詩~をお楽しみ下さい!!