GOD EATER2 ~絆を繋ぐ詩~   作:死姫

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7話 新生部隊ブラッド

 

 

朝から研究室に集められたブラッドは、新たな仲間を目の前に、期待と興味の視線を向ける。

「本日付けで、極致化技術開発局所属となりました、シエル・アランソンと申します」

綺麗な姿勢で敬礼をしてから、自己紹介を続けるシエル。

「ジュリウス隊長と同じく、児童養護施設『マグノリア=コンパス』にて、ラケル先生より薫陶を賜りました。基本、戦闘術を特化した教育を受けてまいりましたので、今後は戦術、戦略の研究に勤しみたいと思います」

その真面目な口ぶりに、皆一様に黙ってしまい、それを見ていたジュリウスは自然と笑みをこぼしてしまう。

当のシエルは、何かまずいことを言ったのかと目だけで様子を伺い、敬礼していた右手を胸の前で握ってから少し俯く。

「・・・以上です」

その言葉に、息を止めて緊張していたロミオが大きく息を吐く。余計なことを言いそうなら息を止めろと、ナナとギルに釘を刺されていたからだ。

そんないつもより大人しいブラッドに静かに笑いながら、ラケルはシエルの傍へと近寄る。

「シエル。固くならなくて、いいのよ。ようこそ、ブラッドへ」

「あ・・・、はい」

「これで、ブラッドの候補生は揃いましたね」

シエルの隣から皆の顔が見える場所へ移動して、ラケルは改めて全員の顔を見回す。

「血の力を以って、遍く神機使いを・・・ひいては救いを待つ人々を導いてあげて下さいね・・・。ジュリウス」

話の主導権をジュリウスに渡し、ラケルは後ろへと少し下がる。入れ替わりで前に立ったジュリウスが、自分の部隊に声を掛ける。

「これからは、戦術面における連携を重視していく。その命令系統を1本化するために副隊長を任命する。ブラッドを取りまとめる役割を担ってもらいたい。そこで・・」

1度言葉を切ってから、ジュリウスはヒロに顔を向けてから、再び話し始める。

「ここまでの立ち回り、血の力に早々に目覚めたことから・・・、ヒロ。お前に副隊長を任せたいと思っている」

「・・・・そういうこと」

「ふっ・・そういうことだ」

昨日の思わせぶりを思い出して、ヒロはジュリウスに苦笑する。それから、皆の意見をと、目を向ける。

「どう?」

「聞くのかよ・・・。まぁ、順当じゃないか」

「いいじゃん!副隊長!ヒロ、がんばれ~!」

「俺も構わないよ!・・ギルじゃなきゃな」

「お前だってありえねぇよ」

また喧嘩になりそうなのを、ジュリウスは軽く咳をしてから空気を読ませ、ヒロの方へともう1度確認する。

「俺個人的にも、お前が適任だと思ってる。やってくれるな、ヒロ?」

「了解です。僕で良ければ・・」

敬礼をして応えてくれたヒロに笑いかけ、ジュリウスは皆を見回してから、話の終わりを告げる。

「まだ不安は尽きないが、今日からは正式な部隊だ。皆、より一層励むように」

《了解!》

この日、本部の承認をもらい、極致化技術開発局移動支部フライア所属、特殊部隊『ブラッド』は正式に認可された。

 

 

顔合わせが終わった後、ヒロは別の部屋へと呼び出される。

おそるおそる入ってみると、そこにはタブレット型の端末に目を落とし、考えに耽っているシエルが立っていた。

ジュリウスに伝えられたからか、ヒロはてっきりラケルに呼ばれたものと思っていたので、少しだけ驚きを表情に浮かべてから、シエルの傍へと足を運ぶ。それに気付いてか、シエルも顔を上げてから一礼し、こちらへと歩み寄る。

「改めまして、シエル・アランソンと申します。本日よりよろしくお願いします、副隊長。それで、これからの連携戦術を踏まえて、実践とは別に、私なりに訓練プログラムを組んでみましたので、その確認と意見をお伺いしたく、お呼び立てしました」

「あ・・・、はい・・」

丁寧な説明と口調に、ヒロは自分の思考がフリーズしないよう、耳に入る言葉の一つ一つをきちんと理解する為、必死に頭を回転させている。

そんな相手の気も知らずか、シエルは更に話を続ける。

「私の調べたところによる個々の技量や能力、ツーマンセルでの動き、任務の達成時間や内容などを加味して、1日のスケジュールから行う実技訓練と座学、任務での采配などを記したのが、こちらになります。後程副隊長の端末にも転送いたしますので、今はこちらをご覧ください」

「・・・」

彼女に淡々と言われるままに、ヒロはシエルの差し出したタブレットを受け取ってから、それに目を向ける。

表に区切られたそれを目にし、急ぎ頭に入れるよう、ヒロは文字や数字に目を走らせる。

シエルの几帳面さのあらわれか、食事や寝る時間までも、全て記載されている。

「・・・・・これを・・、みんなに?」

「はい。何か問題があれば、修正させていただきますが?」

そう言われても、何が正しいのか・・。ヒロは皆の名前の部分を一つずつ確認してから、頭を掻いてそれをシエルへと返す。

「う・・ん。・・・・・・・・とりあえず、実際に任務をこなしてからじゃ、駄目・・ですか?」

「新参者の私に、敬語は結構です副隊長。それで・・・、任務をこなしてからというのは?」

変わらずクールに喋り続けるシエルに、ヒロは軽く深呼吸をしてから、自分なりの意見を口にする。

「データ上の・・・これ、間違ってないけど・・。実際にみんなのことを知ってからでも、良いんじゃないかな?」

「・・・・つまり、『自分の目で確かめてから、先のことを決めろ』と、そうおっしゃるのですね?」

「えっと・・・、そうかな?」

「成る程・・・一理ありますね」

少し考えるように下を向いてから、シエルは背筋を伸ばし敬礼をする。その行為に、思わずヒロも敬礼を返す。

「了解しました。データだけに依存しない為、副隊長に従います。明日の任務後に、改めてご相談させていただきます。本日は、貴重なお時間ありがとうございました。それでは、失礼いたします」

「・・・・はい」

一方的に喋られた感が否めないヒロは、彼女が部屋を去るまで動けずにいて、部屋に一人になってから、大きく溜息を吐いて、首をカクッと下げて疲れを表したのだった。

 

 

任務へと向かうヘリの中で、何度目かの溜息を吐くヒロに、見かねたジュリウスが声を掛ける。

「どうした?副隊長としての初任務、プレッシャーを感じているのか?」

「・・・・本当は、そうでありたい・・」

ヒロの言葉に、昨日シエルと二人で話したであろうことを思い出してから、ジュリウスはフッと笑みを浮かべてから、彼の肩に手を置く。

「そう難しく考えるな。シエルは単に真面目なだけだ」

「でも・・、問題が起こりそうなんでしょ?ジュリウスが僕に押し付ける時は、大抵そうじゃない?」

「・・・まぁ、否定はしないがな。だが、お前しか副隊長は無理だと思ったのも、本当だ」

「それは・・・、嬉しいけど・・」

自分を高く評価してくれることは、素直に嬉しい。隊長で尊敬するジュリウスの言葉なのだから、尚のことだ。

しかし、彼の笑顔には、何だか騙されてる気分になるのも事実。それを拒否できない性格なのも、承知な上で言ってる気がして、ヒロは恨めしそうな表情を返すことしかできないでいる。

「そんな目をするな。ヒロ、お前にしかできないことだ」

「ずるいなぁ。・・・・頑張るけど」

「頼もしい限りだ」

笑ってその場を去り、目的地を確認するジュリウス。もう諦めたと言わんばかりに、もう1度大きな溜息を吐いてから、ヒロは対面に座るギルの前まで行ってから、すでに手にしている神機を担いでから話し掛ける。

「ギル・・・、揉めないでね」

「・・お前がそう心配してくるってことは、約束はできないな。だが・・・、副隊長命令なら努力する」

「じゃあ、命令」

「はっ!癖が強い女らしいな・・。了解だ」

疲れた顔のヒロが可笑しいのか、ギルは笑って立ち上がり、自分の神機を手にする。

そこへジュリウスが戻ってくると同時に、無線からフランの声が入る。

『目的地上空です。皆さん、降下して任務開始してください』

「了解」

『了解しました』

ジュリウスと別のヘリに乗り込んでいるシエルからの返事に合わせて、ヘリの降下用扉が開く。三人はそこへと足を運び、目の前のヘリからシエル、ロミオ、ナナの降下を確認する。

「俺達も行くぞ」

「「了解!」」

そしてジュリウスを先頭に、ヒロとギルも飛び降りた。

 

「はっ!!」

ザシュッザスッザンッ!!

目の前から飛んでくる3体のザイゴートを、華麗な体捌きで斬り付けるシエル。通り抜けた先で銃型へと変形させ、スコープに捉えた敵を、貫通弾で綺麗に3体撃ち抜く。

沈黙した荒神のコアが破壊されているのを黙視で確認してから、シエルは離れた場所のロミオとナナのところへと走り出す。

そんな彼女に、自分達の標的のコクーンメイデンからコアを回収しながら、ギルは関心の眼差しを向ける。

「正に教科書通りだな。ナナとロミオの手本に、打って付けじゃないか?」

そんな彼に同調してか、ヒロも頷きながら隣に立ち、ジュリウスも満足気な表情で歩み寄って来る。

「シエルに負けていられないな。俺達も、残りを片付けに行くぞ」

「了解だ」

「了解」

そして三人も、苦戦しているナナ達の元へと駆け出した。

 

 

戦闘の疲れからか、ロミオが勢いよく腰を落とす。

それに合わせてか、少し離れた場所で、ジュリウスはフランへと任務完了の報告をしている。

そんな中、今日も生きていることに安心しきっていた皆の心とは裏腹に、少し渋い顔をしていたシエルが、おもむろに口を開いた。

「・・・少し、よろしいですか?」

「へ?」

ロミオが疲れた様子で顔を上げて声を洩らすと、シエルはそれをきっかけに話し始める。

「今の戦闘を拝見させていただいて思ったのですが・・・。まず、ナナさん。どうして飛び回るザイゴートに対し、銃型での牽制、足止めを行わないのですか?ブーストハンマーは強力ですが、敵がスピード重視ならば捉えるのが難しいのでは?」

「あ~・・・あたしね・・、銃を撃つのって苦手だから・・」

「苦手ならば、克服するために訓練することをお勧めします。今の立ち回りですと、いつ後ろや上を押さえられるともしれません。明日からは任務を休んで、銃型の訓練を行うべきです」

「え~・・・そんな~」

困ったように肩を落とすナナから視線を外して、今度は座り込んでいるロミオへと話し掛ける。

「ロミオさん。あなたも同様です。銃型に切り替えるところは良いですが、私が数える限りでも命中率が10%にも達しません。ナナさんと共に、銃型の訓練に入って下さい」

「えぇー!?俺はいいって!」

「駄目です。今のままでは、連携以前の問題です。実際、私や隊長達が介入するまで、標的の荒神を倒した数は2体。残りの8体に同時に責められた場合、行き当たりばったりで事を解決では、今後のブラッドの任務に支障をきたします」

「だ・・・だけどさー・・」

正しい意見を言い切ったという表情で威圧するシエルに、ロミオとナナは顔を見合わせて戸惑う。流石にそれは目に余ったのか、黙って聞いていたギルが割って入る。

「おい、シエル。その辺で良いだろう?こいつらは実戦経験が浅いんだ。誰もがお前やヒロみたいに、器用にこなせるやつばかりじゃない」

「実戦での経験が必要なのも理解しますが、訓練での努力で補えることもあります。明日も大丈夫という訳ではないのが、戦場ではありませんか?」

あくまでも自分が正論だと主張するシエルに、ギルも眉をピクリと動かしてから、引かぬと彼女へと詰め寄る。

「訓練はいつだって必要だ。だがお前の言う、御大層な戦術やら連携やらを学ばすには、実践こそが最大の近道じゃないのか?」

「個々の最低限の技量の話をしているんです。それを欠いて、戦術など成り立ちません。彼等には訓練を優先してもらい、それから連携に加わってもらうべきです」

「連携もままならない状態で、二人も割けるか。安全マージンを稼ぐためには、こいつらの力も必要だ。これは荒神と人との戦争だ。遊びじゃないんだぞ?」

「その戦争で、彼等を無駄死にさせるのですか?遊びじゃないからこそ、訓練を行うんです」

一触即発の状態の二人の間に、黙って見ていたヒロが神機を地面に突き立ててから、間に割って離れさせ口を開く。

「二人共、そこまでだよ。ここは二人の言う『戦場』なんだから。話はフライアに戻ってからにしよう?」

「・・・・・了解しました」

「・・・わかった」

副隊長の言葉として受け止めてか、睨み合いが続いていた二人は素直に引き下がる。

そこに離れてタイミングを伺っていたジュリウスが戻ると、上空に迎えのヘリが到着する。

「・・・話し合いは結構だが、まずは帰投してからにしろ。それと、いがみ合いになるなら、俺か副隊長を交えてからにするんだ。いいな?」

「・・・了解」

「了解です」

二人の返事に頷いてから、下を向くロミオとナナの肩を軽く叩いて促すジュリウス。それを合図に、ブラッドは全員ヘリに向かって歩き始めた。

 

 

 

 

 





ブラッド全員集合しました!

シエル、好きだな~。クーデレ最高!


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