GOD EATER2 ~絆を繋ぐ詩~   作:死姫

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66話 少女の願い

 

 

『ラケル!ラケル!!お父様!?ラケルは、死んじゃうの!?』

(・・・・お姉様・・?)

『私、ちゃんとする!あの娘に、優しくするから!だから・・・死なないで』

(・・・・・・あぁ・・。そうだ・・。私は・・・・・、これが・・欲しかった)

 

 

ヒロの隣に横たわっていたジュリウスが、ゆっくりと目を開くと、周りに集まっていたブラッド隊は、その顔を覗き込む。

「ジュリウス!?目が覚めた!?」

「よう・・。気分は、どうだ?」

「会うのは初めてか?ジュリウス。私はリヴィ。お前の後にブラッドに・・」

「リヴィさん、自己紹介は後程に・・。ジュリウス、またお会いできて、嬉しいです」

皆の言葉に微笑んでから、ジュリウスは身体を起こして、隣で眠るヒロへと視線を向ける。

「・・・そうか。ヒロが・・・、また・・やってくれたか」

そう言ってから、ジュリウスはヒロの頭を優しく撫でる。

そこへ、ユウが歩み寄ってから、ジュリウスの肩へと手を置く。

「やぁ、ジュリウス。初めましてになるね・・。独立支援部隊クレイドル隊長の、神薙ユウだよ」

「・・・存じています。こんな時ですが・・・、お会いできて光栄です」

そう言って握手を求めると、ユウは笑顔でそれに応えてから、ラケルへと顔を上げる。

ズリッ ズリッ

失った腕の代わりに、顎を使ってこちらへ・・・ジュリウスへと近付いてくるラケルに、ソーマが神機を振り下ろそうと構える。しかしそれを「待って欲しい」という感じに、ユウが首を横に振ってから、彼女の前へと移動する。

『・・う・・じゅ・・・、ジュリウ、ス・・・』

ユウの姿に動きを止めるが、彼女はジュリウスを呼び続ける。

そんな彼女の側に、ジュリウスはナナとギルの肩を借りて、歩み寄る。

「・・俺は、貴女の下には・・・戻らない。人と神の戦争に・・・、貴女は負けたんだ」

『・・まだ・・・・・、負けていない・・。特異点の・・貴方を、手に・・・・入れれば・・』

ほとんど力を失ってきているのか、足先から霧散し始めるラケル。その姿に、ジュリウスが目を反らすと、ユウが代わりに話し始める。

「ラケル・・博士。あなたは・・・本当は、何が欲しかったんですか?」

『・・・何を?・・・それ、は・・、ジュリウスを・・』

「違うでしょう?・・・・人であるあなたが欲しかったのは、特異点でも、『終末捕食』でもなかったはずでしょ?」

『・・・・・・・・・・・そ、れは・・・』

ユウの言葉に迷いの色を見せるラケルに、彼はそっと手を当ててから、口を動かす。

「・・・失礼します。感応現象、『想』」

『な・・・やめ・・・』

キイィィィィンッ!

ユウが感応現象を発動させると、ラケルの頭の中に、人であった記憶が濁流のように流れ込んでくる。

そして・・・・。

 

『お前は・・・・何を、望む?人間・・・』

「・・・・私は、お姉様と・・・仲良く・・。兄妹が・・・家族が、仲良くいられる、世界が・・・欲しい」

『・・・・・それは、『終末捕食』の先に、ある・・。私が、力を貸してやろう』

「・・・貴方は・・・・・、誰?」

『・・・神だよ・・、ラケル・クラウディウス。そして、これからは、お前になる』

 

「・・・なら、私の願いは・・・・・叶いますか?」

 

願ったことは、些細な事。

ただ、無垢な少女と・・・荒ぶる神の見解が、違っただけ・・。

 

在りし日の記憶に、自分の想いを気付かされた時、ラケルは涙を零し始め、その瞳はゆっくりと青い・・・人の頃の色へと変化する。

『・・・・・そうだ。私は・・、ただ・・・お姉様と仲良く・・・。お父様と、三人で・・・家族で、仲良く暮らせればと・・。そして、そんな幸せを・・、お父様の作ったマグノリア=コンパスの子達にも・・・』

そう泣き出すラケルに、ジュリウスやナナ、リヴィにシエル・・・。マグノリア=コンパス出身の者達は、切なげに顔を伏せる。

「・・・あなたが犯した罪は、赦されるものではないです。でも、あなたが本当に望んだ事により作り上げられた、彼等の事は、どうか・・・誇りに、思って欲しい。・・・かつて同じ過ちを犯した、ヨハネス・フォン・シックザールのように」

『・・・・・』

オラクル細胞が霧散し、もう顔だけとなったラケルは、そんなユウをジッと見つめてから、フッと笑みを零す。

『・・・・ふふっ。だから・・・、貴方は嫌いよ・・・神薙ユウ。そんな優しい嘘を、簡単に口に出来るのだから・・・』

「・・・ラケル・・先生」

彼女が消えてしまうと思った瞬間、ジュリウスは思わず声を掛ける。そんな彼を中心に集まったブラッド隊を目にしてから、ラケルは最期の言葉を置いていく。

 

『さようなら・・・子供達・・。幸せに・・仲良く、ね』

 

彼女の姿が消えてしまうと、白い蝶が舞う様に、螺旋の樹の上へと昇って行った。

 

 

ピシィッ バキバキィッ

ラケルが消えてしばらくしてから、螺旋の樹は崩壊を始めたのか、音を立てて亀裂を走らせ始める。

「・・・もう、もたねぇな。どうする?」

ソーマが声を掛けると、ユウは神機を肩に担いでから、ジュリウスへと視線を向ける。それから、リヴィの手の中のロミオの神機を見てから、ブラッド隊へと喋りかける。

「手は、あるよ。・・ロミオの神機を使って、螺旋の樹を不活性化しよう」

「ロミオの・・・ですか?」

そう言ってジュリウスがそれに目を向けると、リヴィが持ち上げて見せて、口を開く。

「ですが、『圧殺』を使って不活性化しても、一時しのぎにしかならないのでは?」

「え?『圧殺』って?」

リヴィの言葉に、ユウが首を傾げると、話の嚙み合わなさに、全員が同じように首を傾げる。

「えっと~・・・。だから、ロミオ先輩の血の力で・・」

「うん。ロミオの神機に残っていた血の力でしょ?『対話』だよね?」

「『対話』・・・?」

ソーマが推察した名前と違ったものを口にするユウに、リヴィが聞き返すと、ユウは説明しだす。

「前にロミオの神機に触れた時にわかった事だけど、ロミオの意志・・・血の力は『対話』って言った方が良いんじゃないかな?オラクル細胞に意志の疎通を行って、不活性化を促す・・・。優しい彼らしい力だな~って」

《・・・・・・》

皆が黙ってしまうと、ユウは頬を掻きながら苦笑する。

その発言が初耳だったのと、自分の考えが外れていた恥ずかしさに、ソーマはユウの側へと足を運び、横腹へと拳を軽く打ち込む。

「おい。知っていたなら、何で言わねぇんだ?」

「え?痛っ!だって、ソーマなら気付いてるかなって・・」

「てめぇは・・いつも、言葉が足りねぇんだよ」

「あれ?何で、怒ってんの?痛いってば」

珍しく顔を赤くしているソーマに、皆苦笑いを浮かべていると、いつの間にか目を覚ましていたヒロが、シエルの手を借りて起き上がって来る。

「じゃあ、ロミオ先輩の『対話』の力で、螺旋の樹の不活性化を試みる・・・ですよね?」

「うん。そういうこと」

そんなヒロに笑顔を向けてから、ユウは更に付け加えるよう話をしだす。

「それでも1回きりの博打だから、ブラッドみんなの力を持ち寄った方がいいよ。シエルの『直覚』で螺旋の樹の意志を特定して、ナナの『誘引』でこちらへと引っ張り込む。ギルの『鼓吹』で力の倍増を測り、ジュリウスの『統制』でみんなの意志を取りまとめる。後は、ヒロの『喚起』の力でもう一押し・・・。リヴィさんがロミオの『対話』を発動するのに合わせて、そこまでやれば、きっと君達の・・・僕達の願いは聞き届けられると思う」

《・・・・・はい!》

ブラッドの返事に、ユウは満足そうに笑って、ヒロの肩を軽く叩いてからソーマを連れて距離を取る。そこへ、クレイドルの皆が集まって、ヒロ達を見守る。

 

「ヒロ・・・大丈夫か?」

ジュリウスが声を掛けると、ヒロは苦笑しながら、ジュリウスの頬に軽く拳を当てる。

「・・・とりあえず、1発。後は全部終わってから、だからね・・ジュリウス。散々僕達に心配させて、散々僕に無理をさせたんだから・・」

「・・・・ふっ。わかった・・覚悟しておく」

そんな二人に肩を回してから、全員が円陣を組み、その中心にロミオの神機を突き立ててから、リヴィがそれに手を置く。

「では、やるぞ・・」

「あぁ。・・いつでもいいぜ」

「やるよー!」

「えぇ。ロミオも、一緒に・・・」

「守ろう。この世界を・・・」

「うん!ブラッド隊!いくよ!!!」

キイィィィィィィィィンッ!!!!

ブラッドの周りに、ヒロの影響からか、ブラッドレイジの時と同じ金色のオーラが舞いだす。

それを見守りながら、ソーマがユウへと話し掛ける。

「・・・どうにかなると、思うか?」

「なるよ・・・。きっとね」

その言葉にソーマがフッと笑みを浮かべると、ブラッド隊を中心に、オーラが天へと昇り始め・・・そして、

 

ドオォォォォーーーーーーーーーーンッ!!!!!!

 

巨大な光の柱となって、その場を全て包み込む。

 

 

極東支部の作戦指令室で、映像を見ていた者達は、眩しい光に顔を背ける。

その光がゆっくりと治まって行くと、ツバキが真っ先にスクリーンへと目を向ける。

そして、自分が目にした光景に、小さく息を吐いてから、無線を全回線へと繋いでから、声を発する。

「・・・・・成功だ。皆、良くやった」

《『よっしゃーーーー!!!!』》

その声に反応してか、徐々に皆はスクリーンへと顔を向けて、目にした景色に声を洩らし始める。

 

禍々しく変化した螺旋の樹は消え、そこには・・・美しい『自然の大地』が映し出されていたのだ。

 

 

『・・・あぁ・・。最後に、貴方達の奇跡を目に出来るなんて・・・。ありがとう、子供達。・・・・奇跡には、相応の奇跡を・・。私からも、貴方達へ・・奇跡を授けましょう』

 

 

ゆっくりと目を開けたヒロ。それに続くように、ブラッド隊の面々が目を開けて、周りを見渡す。

その美しい景色に、誰もが心を奪われて、声に出来ずにいた。

「・・・凄いね」

最初に口を開いたヒロに、ジュリウスが肩に手を置いてから、優しく微笑む。

「・・・やったな、ヒロ。本当に・・・大した奴だよ、お前は・・」

「・・・みんなの力・・でしょ?ジュリウス」

そう言って笑い合う二人に、皆が笑顔を零しだすと、少し離れた湖の近くから声が聞こえるのを耳にする。

「・・・あれー?・・えっと、俺・・なんで?」

《っ!!?》

その懐かしい声に、全員が即座に振り向く。

そして、その在りえない筈の光景に、皆涙を浮かべて、肩を震わせる。

「えっとー・・、俺・・生きてる?」

《ロミオーーー!!!》

首を傾げて苦笑いを浮かべるロミオに、全員が飛びついて、押し倒す。

「ロミオ!この野郎が!マジで生きてんのかよ!?」

「先輩だーー!!夢じゃないよね!?お母さんみたいに!」

「ロミオ!何て・・・奇跡が・・!」

「ロミオ!俺は・・、俺は・・お前に・・・!くっ!!」

「えぇ!?なになになに!?何だよ、これ!?」

「ロミオ先輩!!よ、よがったーー!!」

みんながそれぞれに泣きながら声を掛けてくるのに、困惑するロミオ。そこで、一人まだ信じられないといった表情の白髪の少女に、ロミオは驚いてその名を口にする。

「・・・え?リヴィ!?」

「っ!!?」

名を呼ばれてから、自分の中の何かが吹っ切れたのか、リヴィは思い切りロミオの胸に飛び込み、大粒の涙を流しながら想いを叫ぶ。

「馬鹿者!!この、大馬鹿!!大馬鹿者!!私を置いていくなと、何度も・・・。お前が・・・あぁ、お前がいないと・・私は・・!生きられないと言っただろう!!ロミオーーー!!」

「あ・・・・・っと・・、ごめん、な。リヴィ・・。でも、生き返った・・みたいだから、勘弁してくれよ?」

「駄目だ!絶対に許さん!許さないからな!!!ああぁぁーーーっ!!!」

泣きじゃくるリヴィの頭を優しく撫でるロミオ。そんな二人を囲むように、ブラッドはこの奇跡を喜んだ。

 

 

林の側に神機を置いて、クレイドルの皆は優しく微笑んで、後輩達を見守っている。

そして、ユウが視線をそのままに、ソーマへと話し掛ける。

「ソーマ・・・」

「あ?・・・なんだ?」

「どうにか、なったでしょ?」

「・・・ふん。・・・・・・そうだな」

ユウの笑顔にそっぽを向きながら、ソーマは目を閉じてから頷いた。

 

 

ブラッドの無事を確認してから、黙って全ての成り行きを見守っていたレアは、ホッと胸を撫で下ろす。

そんな彼女を見つめるように、ふわふわと白い蝶が背後を舞う。

 

『さようなら・・・、お姉様。これからは・・どうか、ご自分の幸せの為に・・』

「え?・・・」

 

声が聞こえた気がしてレアが振り返ると、そこには誰もおらず、ただキラキラと光る何かが宙を舞っている。

それを手でそっと救い上げてから、レアはハッとしてから目を閉じて、笑顔で涙を零した。

「・・・・さよなら、ラケル」

全ての事件が解決した喜びの声が上がる中、レアは静かに泣き続ける。

 

少女の願いは、今・・・報われた・・。

 

 

 





これで本当に、決着です!!

レイジバースト編、いよいよ終幕です!!



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