GOD EATER2 ~絆を繋ぐ詩~   作:死姫

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64話 英雄の帰還

 

 

作戦指令室で様子を伺っているフェルドマンは、状況を映像で確認できないことに、苛立ちを感じていた。

元々現場を見る機会は少なく、報告書のみで情報を管理していたので、リアルタイムの情報がこんなにも乏しい事に、落胆していたのだ。

(こんな悪条件で・・、ゴッドイーターは戦っていたのか・・)

オペレーターにしても、腕輪のビーコン反応とオラクルレーダーの確認のみで、現場へと指示を仰ぐ状態。

機材の不足差加減に、最前線に対する本部の怠慢を感じずにはいられない。

色んなことが目に入り、フェルドマンが集中できずにいると、榊博士が肩を軽く叩いてから、声を掛けてくる。

「落ち着いて下さい、フェルドマン局長。今は・・・彼等を信じる以外、私達研究者には出来ることが無いのだから。必要な時に動けるように、今は耐え忍んで」

「・・・すみません」

ただ謝ることしかできず、フェルドマンはそのまま項垂れると、榊博士は気を遣って背中を優しく撫でてやる。

そこへ、ユノとサツキが足早に入ってきて、榊博士へと一礼する。

「博士、お願いです。私達も、ここにいさせて下さい」

「私からも、お願いします。身勝手は承知してます。ですが・・どうか!」

ユノに続いて、サツキも頭を下げると、榊博士は二人の頭を上げさせてから、厳しい表情で頷く。

「構わないが・・・、覚悟の上だね?・・・誰かが死ぬことも、ここでは即座に耳にすることになるんだよ?」

そんな彼の言葉に、ユノもサツキも、深く頷いてから強い眼差しを向ける。

「知らないところで、大切な人を失うくらいなら、死んだ方がましです!」

「私は元ジャーナリストです。言いたくはないですけど・・・、慣れてますから!」

二人の覚悟を確認してから、榊博士は彼女達に場所を提供し、自分もまた、スクリーンへと目を向ける。

サツキが緊張に顔を強張らせている隣で、ユノは胸の前で手を組んでから、祈るように目を閉じる。

(・・・ジュリウス・・・みんな。どうか・・、無事で!)

 

 

キィンッ! ギンッ!

「くっ!・・リヴィ!後ろを!」

「もう、とった!!」

ザシュッ!

ヒロが目の前で刃を受けている隙に、リヴィが背中を斬り付ける。

少し仰け反ってバランスを崩したところを見計らって、ヒロとリヴィは距離を取って合流する。

「おい、ヒロ。今更ながら思い出したが、以前はお前一人で決着をつけた相手ではなかったか?」

「以前はね。ジュリウスとまったく同じ力に戦闘スタイルで動いてたけど、戦闘を真似てる間は、大したことなかったんだよ。でも、こちらの出方を伺いながらだと別だよ」

「つまり・・・本当の意味で、こいつは完成体と言う事か?」

「そうなるかな・・。本当の意味で、ジュリウスそのもの・・だよ」

ヒロの言葉に、リヴィは忌々し気に舌打ちをしてから、笑みを零してしまう。

「厄介だな。だがジュリウスそのものなら、活路は見出せないか?」

「だと良いけどさ・・。ただ・・ジュリウスは、刃を6本も持ってないし、浮いてないけど?」

「それを言われたら、元も子もない!」

そう言ってから、リヴィはヒロを蹴り飛ばしてから、その勢いで自分は後ろへと跳ぶ。そこへ、仮面の王の3本の刃が降って来る。蹴られた勢いを利用して、ヒロは近場の柱を切ってから倒し、煙を上げる。

それを隠れ蓑に、リヴィが思い切り斬りかかると、仮面の王はそれをいなしてから腕で殴りつける。

「ぐぅ・・はぁ!」

「リヴィ!」

当てが外れたのに焦っていると、仮面の王は標的をヒロへと移して、拡散レーザーのようなモノを撃って来る。

「くそっ!」

盾でヒロがそれを受けていると、相手は距離を詰めてきてから、ヒロの背中を斬り付ける。

ザシュゥ!!

「ぐあっ!・・・この!!」

ドドドドドドドッ!!

咄嗟に銃形態に切り替えてから連射して、その反動で距離を取ってから、ヒロは剣形態へと戻して、肩で息をする。

「はぁ・・はぁ・・、ああいうの、ズルくない?人の出来ない動きを、してくれちゃってさ・・」

「だから・・、神なのでしょう?」

ヒロのぼやきに、ラケルが嫌らしく笑みを浮かべながら答えると、ヒロはそちらへと視線を向ける。

「以前とは比べ物にならないでしょう?ジュリウスそのモノの動きに、人には出来ない立ち回り。人に出来ぬことをやってのけるからこそ・・・神なのよ」

「・・・そうかもね。・・・・でも、神なら・・勝てる」

「はい?・・・」

その笑みを保ちながらも、苛立ちを含ませた声を洩らすラケルに、ヒロは立ち上がってから、神機を構える。

「前にも言ったはずだ・・、ラケル・クラウディウス。僕達はゴッドイーター・・神を喰らう者だ。相手が神なら、絶対に負けない!」

「それはお前の言葉ではないでしょう!神威ヒロ!」

感情を露わに叫ぶラケルに、ヒロがフッと笑みを浮かべると、軽く息を吐いて答える。

「そうだよ・・。でも、僕は・・僕達は負けない!この言葉をくれた、あの人の遺志を継ぐ、ゴッドイーターだからね!・・・・でしょ?」

その言葉に応えるように、ヒロの側に1つ、2つと影が降り立つ。

「そうだな、ヒロ。ユウさんの言葉は、俺達の言葉でもあるんだ」

「神薙ユウさんか・・。随分と期待された部隊に、入ったものだな・・私は」

「それにソーマさんやリンドウさんにも、いっぱい鍛えてもらったんだから!」

「私達の意志の力は、貴女には屈しません。英雄の示した道を・・・私達は知っているのですから!」

ギル、リヴィ、ナナ、シエル・・・。そしてロミオの神機に、ヒロ。ジュリウス・・。

今まさに、ブラッドが1ヶ所に集まった事に、ヒロは涙をこらえながら目を閉じ、そして力強く開いて叫ぶ。

「極東支部ブラッド隊!荒神を、喰い荒らせ!!」

《了解!!》

ヒロの声に答えてから、皆一気に仮面の王へと走り出す。

そして、ヒロだけはその場に残り、感応制御装置を神機にセットし、皆へと指示を出す。

「みんな!今度はしくじらない!1分だけ、僕に時間を!!」

それに無言で頷いてくれたのを確認してから、ヒロは感応制御システムを起動する。

 

ヒロだけが留まっているのに違和感を感じ、ラケルは眉間に皺を寄せてから、そこへ行こうとする。

しかし、彼女の腕を掴むモノがあり、ラケルは思わず振り返ると、意識のないままのジュリウスが、右腕の拘束を解いて掴んでいたのだ。

「くっ!・・・ジュリウス!貴方・・!」

「・・・・」

物言わぬままのジュリウスが、どこか笑っている気がして、ラケルは逆上に目を見開き歯を鳴らす。

その時・・・。

パッアァンッ! ドォーーーーンッ!!

「なに!?」

彼女が視線をジュリウスからヒロへと向けた時、彼の身体を、金色のオーラが包んでいた。

 

ガキィ! ズバッ!

「ぐあっ!くぅ!」

ギルが横腹を斬られて転がったのを目にして、ナナが庇う様に前に立つ。

「ギル!平気!?もう1度、あたしの『誘引』で!」

「よせ!使いすぎると、すぐにへばるぞ!?」

そう言って立ち上がってから、ギルはナナに並び立ってから神機を構える。

「でも、リヴィちゃんもシエルちゃんも・・そろそろ限界だよ!?」

「1分ってのも、意外と長いんだな。・・・・けど、もう経ったぜ!」

「ホント!?シエルちゃん!リヴィちゃん!離れて!!」

「了解!」

「わかってる!丁度、1分だ!・・ヒロ!」

リヴィが叫ぶと、ヒロはゆっくりと神機を前に構えて、戦況を覆す言葉を口にする。

「ブラッドレイジ、発動」

その瞬間、ヒロの背中と右腕から金色のオーラが噴き出し、彼の身体を包む。

「行くぞーーー!!!」

そう叫んだ時には、ヒロの姿は仮面の王の前まで移動し、その仮面を思い切り叩き割っていた。

バキンッ! ザシュッ ザシュッ

「はぁぁぁーーーーーっ!!」

ザスザシュバシュガキィッ! ザァンッ!!!

 

「何なの・・・あれは!?」

ヒロのブラッドレイジを目にして、ラケルは恐怖の色をその顔に見せる。

そして、ジュリウスの言葉を思い出してから、殻の中で腕を掴み続けるジュリウスへと目を向ける。

 

『ヒロを・・甘く見ないことだな。ラケル・・』

 

「・・・おのれ・・。人間風情が・・」

悔し気に声を洩らしてから、もう1度ヒロへと視線を向ける。

その先で、今まさに決着がつこうという瞬間だったが、ラケルはあることに気付いて、再び嫌らしく笑い始める。

 

「これで・・・、終わりだーーー!!!」

ザンッ!!! バキィンッ!!

胸のコアごと真っ二つに斬り付けて、ヒロのブラッドレイジが時間切れと言わんばかりに解ける。

「うっ・・・はぁ・・はぁ・・。よし・・・、よし!」

仮面の王はその場で霧散し、ヒロはそれを確認してから、付いた膝に力を籠めて立ち上がる。

そこへブラッドの皆も駈け寄り、全員でジュリウスの側に立つラケルを、睨みつける。

「これで・・、勝負ありでしょ?・・・ジュリウスは、返してもらうよ?」

ヒロの言葉に同意するように、訴えかけてくるブラッド隊に、ラケルは可笑しそうに笑い続ける。

「なんだよ・・。ついに頭が、おかしくなったのか?」

「ふふふふふっ。・・”勝負あり”ですって?」

笑い続けるラケルに、声を掛けたギルの方が苛立って神機を構えると、ラケルは笑い声を唐突に止め、静かに口を開く。

「ほんの少し焦ったけど・・・、切り札は使いどころが大事よ。ヒロ」

「・・・っ!?まさか!?」

ヒロが声を上げた瞬間・・・。

 

ガァーーーーンッ!! ゴゴゴゴゴゴゴゴッ!

「何だ!?ぐぅ!」

「えぇ!?地震!?わぁ!」

「くっ!まだ、何かしようってのか!?・・なっ!?」

「頭を下げて!体勢を低く!きゃっ!!」

「くぅ・・、嘘でしょ・・。ぐぅ、あ!」

 

突然の地響きに足を取られていると、皆の足元から螺旋の樹の触手が伸びて、全員の手足を拘束する。

それを見下しながら、ラケルは手の中の黒い蝶をふっと一吹きしてから散りばめる。

「・・な・・、何を・・した!」

拘束された身体を無理矢理起こしながら、ヒロが叫ぶと、ラケルは右手を口元に当ててから、再び笑い声を洩らす。

「ふふふっ・・。貴方のお友達に、プレゼントよ」

そう彼女が口にすると、螺旋の樹で戦ってる者の声が、階層全体に響き渡る。

 

『こちらエリナ!新たに荒神が出現して、エミールも・・・。もう抑えきれません!!』

『そんな!・・・螺旋の樹全体に、大多数のオラクル反応を確認!これでは、いずれ極東支部も!!』

『こちらハルだ!応援呼べねぇよな!?タツミ!』

『悪い、ハル!こっちもいっぱいだ!シュンの野郎もへばってきてるしな!』

『はぁ!?へばってねぇし!っと・・ぐわ!!』

『口より手を動かせよ・・。一人、50ノルマか?』

『極東支部!このままじゃ、新人達がもたない!せめて開口部近くだけでも、撤退させてやってくれ!』

『う~ん・・・。弾、もたないかしら?』

『はぁ・・はぁ・・、ハルさん!回復弾が、もう!』

 

聴こえてくる仲間のピンチに、ブラッドの皆が、絶望の色を顔に浮かべる。

「・・・やめろ・・。くそぉ!ラケルーーー!!!」

ヒロが悔しそうに叫ぶのを聞いてから、ラケルは更に口の端を浮かせて笑い出す。

「そう!やはりさっきの切り札は、連続での使用は出来ないのね!更に言えば、条件が必要なんでしょう!?わかるのよ!私も研究者だから!!」

それからラケルは、自分の身体を螺旋の樹に溶け込ませるように姿を消し、ジュリウスの殻を中心に黒い蝶を大量に発生させて、形を成していく。

それは大きく・・・どんどん巨大化し、ラケルの容姿の名残を残した、荒神へと姿を化す。

ジュリウスを、コアのように胸に光らせて・・・。

『切り札は・・・、こうやって使うのよ。お勉強になって?人間』

「・・・・・くっ」

ヒロがギリッと歯を鳴らすと、ラケルは愉快そうに笑いながら、ゆっくりとブラッドの許へと近付いてくる。

『さぁ。もう・・眠りなさい。1つになりましょう?ジュリウスが・・寂しがっているわ?』

彼女の言葉に、全員が悔しがっている中、ヒロが静かに喋りだす。

「・・・みんな。先に謝っとくね・・。ごめん」

「え?・・・」

ヒロの言葉に、シエルが声を洩らすと、ヒロは自分の右手を力いっぱい持ち上げて、神機を口の近くで離してから、話を続ける。

「このままじゃ、みんな死んじゃうから・・。だから、もう1度ブラッドレイジを使うよ」

「なっ!?だが、お前・・動けないだろ!?」

ギルが疑問を口にすると、ヒロは自嘲気味に笑いながら、答える。

「わかってるよ。・・・だから、折れた左腕を・・・斬り捨てる」

《っ!!?》

彼の言葉に信じられないといった顔をする皆を無視して、ヒロは更に続ける。

「この触手みたいなのが絡まった時にね・・・。だから、左半身は拘束が甘いんだ。左腕を切り捨てれば、後は力技で抜け出れると思うんだよね」

「失敗したら・・どうする?」

「その時は・・・どうしようかな?」

リヴィに痛いところを突かれたという顔を見せるヒロに、全員がもがきだす。

「待て!ヒロ!ならば、私がこのまま『圧殺』を使う!』

「いや!俺のスピアをギリギリまで伸ばせば、あいつの右腕辺りの拘束を斬れるかもしれねぇ!」

「あたしが『誘引』を使うよ!これも荒神なんでしょ!?だったら!」

「どれも駄目です!『圧殺』を万全で使えなければ、全員共倒れ!ギルの神機にヒロが触れれば、暴走を起こしかねません!それにナナの『誘引』だって、ナナがただで済むはずが!」

皆が自分の為に必死になっているのを聞いて、ヒロは最悪の状況なのに、嬉しさに笑顔を浮かべる。

「議論してる暇、ないでしょ?最悪、ブラッドレイジを使えない時には、みんなの拘束を解くから・・・。よろしくね」

そこまで言うと、ヒロは神機の柄を口で咥えてから、思い切り首を伸ばし自分の左腕まで切っ先を運ぶ。

「馬鹿!よせ!」

「ヒロ!やめてよ!!」

「くそ!動けよ!俺の腕!!」

「ヒロ!やめて下さい!いや!いやーー!!」

鼻息がどんどん荒くなる中、ヒロは目を閉じてゆっくりと刃を刺し込もうとする。

その瞬間・・・。

 

ズァーーーーンッ!!!!

 

「なっ!」

「あれっ!?」

「こ、拘束が・・」

「これは・・、ブラッドアーツ?」

「・・え?」

 

突然拘束が解かれて、全員が地に落ちると、皆驚いて顔を上げる。

『・・・な、なに!?』

巨大荒神化したラケルが見つめる先に視線を移動させてから、ヒロ達は声を失って涙を零す。

そこへゆっくりとした足取りでヒロの前まで来た青年は、神機を肩に担いで皆に声を掛ける。

「みんな、よく頑張ったね。ありがとう・・・、極東を守ってくれて」

彼の言葉に、皆それぞれに喜びを嚙みしめていると、ラケルがその者の名を叫ぶ。

『お、のれ・・・。神薙ユウーーーー!!!』

「・・・お久しぶりですね。ラケル・クラウディウス博士」

ユウが不敵に笑って立つ姿に、ラケルはその巨体を震わせながら怯えた表情を見せる。

 

 

 





ユウとラケル、遂に対面です!

この瞬間の為に、書いてきました!w



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