作戦指令室で様子を伺っているフェルドマンは、状況を映像で確認できないことに、苛立ちを感じていた。
元々現場を見る機会は少なく、報告書のみで情報を管理していたので、リアルタイムの情報がこんなにも乏しい事に、落胆していたのだ。
(こんな悪条件で・・、ゴッドイーターは戦っていたのか・・)
オペレーターにしても、腕輪のビーコン反応とオラクルレーダーの確認のみで、現場へと指示を仰ぐ状態。
機材の不足差加減に、最前線に対する本部の怠慢を感じずにはいられない。
色んなことが目に入り、フェルドマンが集中できずにいると、榊博士が肩を軽く叩いてから、声を掛けてくる。
「落ち着いて下さい、フェルドマン局長。今は・・・彼等を信じる以外、私達研究者には出来ることが無いのだから。必要な時に動けるように、今は耐え忍んで」
「・・・すみません」
ただ謝ることしかできず、フェルドマンはそのまま項垂れると、榊博士は気を遣って背中を優しく撫でてやる。
そこへ、ユノとサツキが足早に入ってきて、榊博士へと一礼する。
「博士、お願いです。私達も、ここにいさせて下さい」
「私からも、お願いします。身勝手は承知してます。ですが・・どうか!」
ユノに続いて、サツキも頭を下げると、榊博士は二人の頭を上げさせてから、厳しい表情で頷く。
「構わないが・・・、覚悟の上だね?・・・誰かが死ぬことも、ここでは即座に耳にすることになるんだよ?」
そんな彼の言葉に、ユノもサツキも、深く頷いてから強い眼差しを向ける。
「知らないところで、大切な人を失うくらいなら、死んだ方がましです!」
「私は元ジャーナリストです。言いたくはないですけど・・・、慣れてますから!」
二人の覚悟を確認してから、榊博士は彼女達に場所を提供し、自分もまた、スクリーンへと目を向ける。
サツキが緊張に顔を強張らせている隣で、ユノは胸の前で手を組んでから、祈るように目を閉じる。
(・・・ジュリウス・・・みんな。どうか・・、無事で!)
キィンッ! ギンッ!
「くっ!・・リヴィ!後ろを!」
「もう、とった!!」
ザシュッ!
ヒロが目の前で刃を受けている隙に、リヴィが背中を斬り付ける。
少し仰け反ってバランスを崩したところを見計らって、ヒロとリヴィは距離を取って合流する。
「おい、ヒロ。今更ながら思い出したが、以前はお前一人で決着をつけた相手ではなかったか?」
「以前はね。ジュリウスとまったく同じ力に戦闘スタイルで動いてたけど、戦闘を真似てる間は、大したことなかったんだよ。でも、こちらの出方を伺いながらだと別だよ」
「つまり・・・本当の意味で、こいつは完成体と言う事か?」
「そうなるかな・・。本当の意味で、ジュリウスそのもの・・だよ」
ヒロの言葉に、リヴィは忌々し気に舌打ちをしてから、笑みを零してしまう。
「厄介だな。だがジュリウスそのものなら、活路は見出せないか?」
「だと良いけどさ・・。ただ・・ジュリウスは、刃を6本も持ってないし、浮いてないけど?」
「それを言われたら、元も子もない!」
そう言ってから、リヴィはヒロを蹴り飛ばしてから、その勢いで自分は後ろへと跳ぶ。そこへ、仮面の王の3本の刃が降って来る。蹴られた勢いを利用して、ヒロは近場の柱を切ってから倒し、煙を上げる。
それを隠れ蓑に、リヴィが思い切り斬りかかると、仮面の王はそれをいなしてから腕で殴りつける。
「ぐぅ・・はぁ!」
「リヴィ!」
当てが外れたのに焦っていると、仮面の王は標的をヒロへと移して、拡散レーザーのようなモノを撃って来る。
「くそっ!」
盾でヒロがそれを受けていると、相手は距離を詰めてきてから、ヒロの背中を斬り付ける。
ザシュゥ!!
「ぐあっ!・・・この!!」
ドドドドドドドッ!!
咄嗟に銃形態に切り替えてから連射して、その反動で距離を取ってから、ヒロは剣形態へと戻して、肩で息をする。
「はぁ・・はぁ・・、ああいうの、ズルくない?人の出来ない動きを、してくれちゃってさ・・」
「だから・・、神なのでしょう?」
ヒロのぼやきに、ラケルが嫌らしく笑みを浮かべながら答えると、ヒロはそちらへと視線を向ける。
「以前とは比べ物にならないでしょう?ジュリウスそのモノの動きに、人には出来ない立ち回り。人に出来ぬことをやってのけるからこそ・・・神なのよ」
「・・・そうかもね。・・・・でも、神なら・・勝てる」
「はい?・・・」
その笑みを保ちながらも、苛立ちを含ませた声を洩らすラケルに、ヒロは立ち上がってから、神機を構える。
「前にも言ったはずだ・・、ラケル・クラウディウス。僕達はゴッドイーター・・神を喰らう者だ。相手が神なら、絶対に負けない!」
「それはお前の言葉ではないでしょう!神威ヒロ!」
感情を露わに叫ぶラケルに、ヒロがフッと笑みを浮かべると、軽く息を吐いて答える。
「そうだよ・・。でも、僕は・・僕達は負けない!この言葉をくれた、あの人の遺志を継ぐ、ゴッドイーターだからね!・・・・でしょ?」
その言葉に応えるように、ヒロの側に1つ、2つと影が降り立つ。
「そうだな、ヒロ。ユウさんの言葉は、俺達の言葉でもあるんだ」
「神薙ユウさんか・・。随分と期待された部隊に、入ったものだな・・私は」
「それにソーマさんやリンドウさんにも、いっぱい鍛えてもらったんだから!」
「私達の意志の力は、貴女には屈しません。英雄の示した道を・・・私達は知っているのですから!」
ギル、リヴィ、ナナ、シエル・・・。そしてロミオの神機に、ヒロ。ジュリウス・・。
今まさに、ブラッドが1ヶ所に集まった事に、ヒロは涙をこらえながら目を閉じ、そして力強く開いて叫ぶ。
「極東支部ブラッド隊!荒神を、喰い荒らせ!!」
《了解!!》
ヒロの声に答えてから、皆一気に仮面の王へと走り出す。
そして、ヒロだけはその場に残り、感応制御装置を神機にセットし、皆へと指示を出す。
「みんな!今度はしくじらない!1分だけ、僕に時間を!!」
それに無言で頷いてくれたのを確認してから、ヒロは感応制御システムを起動する。
ヒロだけが留まっているのに違和感を感じ、ラケルは眉間に皺を寄せてから、そこへ行こうとする。
しかし、彼女の腕を掴むモノがあり、ラケルは思わず振り返ると、意識のないままのジュリウスが、右腕の拘束を解いて掴んでいたのだ。
「くっ!・・・ジュリウス!貴方・・!」
「・・・・」
物言わぬままのジュリウスが、どこか笑っている気がして、ラケルは逆上に目を見開き歯を鳴らす。
その時・・・。
パッアァンッ! ドォーーーーンッ!!
「なに!?」
彼女が視線をジュリウスからヒロへと向けた時、彼の身体を、金色のオーラが包んでいた。
ガキィ! ズバッ!
「ぐあっ!くぅ!」
ギルが横腹を斬られて転がったのを目にして、ナナが庇う様に前に立つ。
「ギル!平気!?もう1度、あたしの『誘引』で!」
「よせ!使いすぎると、すぐにへばるぞ!?」
そう言って立ち上がってから、ギルはナナに並び立ってから神機を構える。
「でも、リヴィちゃんもシエルちゃんも・・そろそろ限界だよ!?」
「1分ってのも、意外と長いんだな。・・・・けど、もう経ったぜ!」
「ホント!?シエルちゃん!リヴィちゃん!離れて!!」
「了解!」
「わかってる!丁度、1分だ!・・ヒロ!」
リヴィが叫ぶと、ヒロはゆっくりと神機を前に構えて、戦況を覆す言葉を口にする。
「ブラッドレイジ、発動」
その瞬間、ヒロの背中と右腕から金色のオーラが噴き出し、彼の身体を包む。
「行くぞーーー!!!」
そう叫んだ時には、ヒロの姿は仮面の王の前まで移動し、その仮面を思い切り叩き割っていた。
バキンッ! ザシュッ ザシュッ
「はぁぁぁーーーーーっ!!」
ザスザシュバシュガキィッ! ザァンッ!!!
「何なの・・・あれは!?」
ヒロのブラッドレイジを目にして、ラケルは恐怖の色をその顔に見せる。
そして、ジュリウスの言葉を思い出してから、殻の中で腕を掴み続けるジュリウスへと目を向ける。
『ヒロを・・甘く見ないことだな。ラケル・・』
「・・・おのれ・・。人間風情が・・」
悔し気に声を洩らしてから、もう1度ヒロへと視線を向ける。
その先で、今まさに決着がつこうという瞬間だったが、ラケルはあることに気付いて、再び嫌らしく笑い始める。
「これで・・・、終わりだーーー!!!」
ザンッ!!! バキィンッ!!
胸のコアごと真っ二つに斬り付けて、ヒロのブラッドレイジが時間切れと言わんばかりに解ける。
「うっ・・・はぁ・・はぁ・・。よし・・・、よし!」
仮面の王はその場で霧散し、ヒロはそれを確認してから、付いた膝に力を籠めて立ち上がる。
そこへブラッドの皆も駈け寄り、全員でジュリウスの側に立つラケルを、睨みつける。
「これで・・、勝負ありでしょ?・・・ジュリウスは、返してもらうよ?」
ヒロの言葉に同意するように、訴えかけてくるブラッド隊に、ラケルは可笑しそうに笑い続ける。
「なんだよ・・。ついに頭が、おかしくなったのか?」
「ふふふふふっ。・・”勝負あり”ですって?」
笑い続けるラケルに、声を掛けたギルの方が苛立って神機を構えると、ラケルは笑い声を唐突に止め、静かに口を開く。
「ほんの少し焦ったけど・・・、切り札は使いどころが大事よ。ヒロ」
「・・・っ!?まさか!?」
ヒロが声を上げた瞬間・・・。
ガァーーーーンッ!! ゴゴゴゴゴゴゴゴッ!
「何だ!?ぐぅ!」
「えぇ!?地震!?わぁ!」
「くっ!まだ、何かしようってのか!?・・なっ!?」
「頭を下げて!体勢を低く!きゃっ!!」
「くぅ・・、嘘でしょ・・。ぐぅ、あ!」
突然の地響きに足を取られていると、皆の足元から螺旋の樹の触手が伸びて、全員の手足を拘束する。
それを見下しながら、ラケルは手の中の黒い蝶をふっと一吹きしてから散りばめる。
「・・な・・、何を・・した!」
拘束された身体を無理矢理起こしながら、ヒロが叫ぶと、ラケルは右手を口元に当ててから、再び笑い声を洩らす。
「ふふふっ・・。貴方のお友達に、プレゼントよ」
そう彼女が口にすると、螺旋の樹で戦ってる者の声が、階層全体に響き渡る。
『こちらエリナ!新たに荒神が出現して、エミールも・・・。もう抑えきれません!!』
『そんな!・・・螺旋の樹全体に、大多数のオラクル反応を確認!これでは、いずれ極東支部も!!』
『こちらハルだ!応援呼べねぇよな!?タツミ!』
『悪い、ハル!こっちもいっぱいだ!シュンの野郎もへばってきてるしな!』
『はぁ!?へばってねぇし!っと・・ぐわ!!』
『口より手を動かせよ・・。一人、50ノルマか?』
『極東支部!このままじゃ、新人達がもたない!せめて開口部近くだけでも、撤退させてやってくれ!』
『う~ん・・・。弾、もたないかしら?』
『はぁ・・はぁ・・、ハルさん!回復弾が、もう!』
聴こえてくる仲間のピンチに、ブラッドの皆が、絶望の色を顔に浮かべる。
「・・・やめろ・・。くそぉ!ラケルーーー!!!」
ヒロが悔しそうに叫ぶのを聞いてから、ラケルは更に口の端を浮かせて笑い出す。
「そう!やはりさっきの切り札は、連続での使用は出来ないのね!更に言えば、条件が必要なんでしょう!?わかるのよ!私も研究者だから!!」
それからラケルは、自分の身体を螺旋の樹に溶け込ませるように姿を消し、ジュリウスの殻を中心に黒い蝶を大量に発生させて、形を成していく。
それは大きく・・・どんどん巨大化し、ラケルの容姿の名残を残した、荒神へと姿を化す。
ジュリウスを、コアのように胸に光らせて・・・。
『切り札は・・・、こうやって使うのよ。お勉強になって?人間』
「・・・・・くっ」
ヒロがギリッと歯を鳴らすと、ラケルは愉快そうに笑いながら、ゆっくりとブラッドの許へと近付いてくる。
『さぁ。もう・・眠りなさい。1つになりましょう?ジュリウスが・・寂しがっているわ?』
彼女の言葉に、全員が悔しがっている中、ヒロが静かに喋りだす。
「・・・みんな。先に謝っとくね・・。ごめん」
「え?・・・」
ヒロの言葉に、シエルが声を洩らすと、ヒロは自分の右手を力いっぱい持ち上げて、神機を口の近くで離してから、話を続ける。
「このままじゃ、みんな死んじゃうから・・。だから、もう1度ブラッドレイジを使うよ」
「なっ!?だが、お前・・動けないだろ!?」
ギルが疑問を口にすると、ヒロは自嘲気味に笑いながら、答える。
「わかってるよ。・・・だから、折れた左腕を・・・斬り捨てる」
《っ!!?》
彼の言葉に信じられないといった顔をする皆を無視して、ヒロは更に続ける。
「この触手みたいなのが絡まった時にね・・・。だから、左半身は拘束が甘いんだ。左腕を切り捨てれば、後は力技で抜け出れると思うんだよね」
「失敗したら・・どうする?」
「その時は・・・どうしようかな?」
リヴィに痛いところを突かれたという顔を見せるヒロに、全員がもがきだす。
「待て!ヒロ!ならば、私がこのまま『圧殺』を使う!』
「いや!俺のスピアをギリギリまで伸ばせば、あいつの右腕辺りの拘束を斬れるかもしれねぇ!」
「あたしが『誘引』を使うよ!これも荒神なんでしょ!?だったら!」
「どれも駄目です!『圧殺』を万全で使えなければ、全員共倒れ!ギルの神機にヒロが触れれば、暴走を起こしかねません!それにナナの『誘引』だって、ナナがただで済むはずが!」
皆が自分の為に必死になっているのを聞いて、ヒロは最悪の状況なのに、嬉しさに笑顔を浮かべる。
「議論してる暇、ないでしょ?最悪、ブラッドレイジを使えない時には、みんなの拘束を解くから・・・。よろしくね」
そこまで言うと、ヒロは神機の柄を口で咥えてから、思い切り首を伸ばし自分の左腕まで切っ先を運ぶ。
「馬鹿!よせ!」
「ヒロ!やめてよ!!」
「くそ!動けよ!俺の腕!!」
「ヒロ!やめて下さい!いや!いやーー!!」
鼻息がどんどん荒くなる中、ヒロは目を閉じてゆっくりと刃を刺し込もうとする。
その瞬間・・・。
ズァーーーーンッ!!!!
「なっ!」
「あれっ!?」
「こ、拘束が・・」
「これは・・、ブラッドアーツ?」
「・・え?」
突然拘束が解かれて、全員が地に落ちると、皆驚いて顔を上げる。
『・・・な、なに!?』
巨大荒神化したラケルが見つめる先に視線を移動させてから、ヒロ達は声を失って涙を零す。
そこへゆっくりとした足取りでヒロの前まで来た青年は、神機を肩に担いで皆に声を掛ける。
「みんな、よく頑張ったね。ありがとう・・・、極東を守ってくれて」
彼の言葉に、皆それぞれに喜びを嚙みしめていると、ラケルがその者の名を叫ぶ。
『お、のれ・・・。神薙ユウーーーー!!!』
「・・・お久しぶりですね。ラケル・クラウディウス博士」
ユウが不敵に笑って立つ姿に、ラケルはその巨体を震わせながら怯えた表情を見せる。
ユウとラケル、遂に対面です!
この瞬間の為に、書いてきました!w