GOD EATER2 ~絆を繋ぐ詩~   作:死姫

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63話 過去を背負って、未来へ 後編

 

 

意識を取り戻したナナは、横たわった身体を起こしてから、目を擦って周りを見渡す。

「・・・あれ?ここって・・・」

どこか懐かしさを覚えるその場所に、ナナは首を傾げていると、自分の目の前に人の気配を感じて、視線を向ける。

「あら・・、起きたの?ナナ」

「あ・・・、お母さん・・」

彼女の目に映ったのは、亡くなったはずの母親の姿だった。

「なんで・・・」

「おでんパン・・、食べるでしょ?」

「え?・・・う、うん」

テーブルの上に置かれたおでんパンを差し出され、ナナは戸惑いながらもそれを手にし、一口頬張る。

「どう?美味しい?」

「うん・・・・・、美味しいよ。お母さん」

ぎこちなく笑うナナに、母親は優しく微笑んで、彼女の手を取る。

「今まで・・・いっぱい、頑張ったね?でももう、良いのよ?これからは、お母さんとずっと・・・一緒にいましょう」

「ずっと・・・、一緒?」

「そうよ・・」

ナナが聞き返すと、母親はその微笑みを絶やさずに、更に話を続ける。

「ゴッドイーターになって、沢山戦って・・・。もう、疲れたでしょ?だから、もう休みましょ?お母さんが、ずっと傍にいるから」

「・・・・うん。・・いいな、それ・・」

母親の手の温もりに、ナナは照れくさそうに笑いながら、その手を握り返す。

「・・でもね、無理だよ」

「・・え?」

ナナはゆっくりと立ち上がってから、近くに立てかけてあった神機の前へと移動する。そして、それを手に取ってから、どこか諦めたような笑顔を母親へと向ける。

「だって・・、お母さんは・・死んじゃったんだもん」

「・・・お母さん、ここに居るわよ?」

「うん、知ってる。あたしの・・・、夢の中だし」

「夢・・って」

母親が困惑していると、ナナは自分の手の中の神機を目にしながら、大きく深呼吸をする。

「これはね、あたしの夢・・・理想だよね。だから、2度と会えないと思ってたお母さんに会える、唯一の手段。たまに見てたから、わかるよ・・・。久し振りに見れたし、本当はもっと一緒にいたいけど・・・、もう行かなきゃ。みんなが待ってるし!」

満面の笑みを浮かべるナナに、母親は少し厳しい目つきをしてから、喋りかける。

「いいの?もう2度と、お母さんとは会えないかもしれないのよ?その”みんな”も、ナナを必要としていないかもしれない・・・。邪魔に思ってるかもしれないのに・・」

「そんなこと、絶対無いよ」

「・・・どうして、言い切れるの?」

問われてから少し考えて、ナナは再び満面の笑みで答えた。

「だって、ブラッドも極東支部のみんなも・・・、あたしの家族だもん!お母さんが死んじゃった後のあたしを支えてくれた、あたしのもう一つの家族だから!絶対無いんだよ!」

「・・・・・」

何の迷いもなく口にするナナに、母親は恨めしそうに見つめながら、ただ黙っている。そんな彼女に背中を向けて、ナナはゆっくりと出入り口へと向かう。

そこで今更ながらに、彼女は気付く。そこは、ナナが幼少期に母親と暮らしていた家だという事に・・・。

「・・・そっか。ここが、あたしの家・・だったんだ」

そう声を洩らしてから、ドアノブに手をかけて、力強く開け放つ。そして、振り返ってから、ナナは母親に笑顔で別れを口にする。

「じゃあね、お母さん!話せて良かった!今度は、もっとゆっくり・・いっぱい話そうね!」

「・・・・・ナナ」

ナナが家の外へと目を向けると、夢の中と思っていたその場所に、リンドウとサクヤ、コウタが立っている。

「ん?あっれ~?夢の中に、リンドウさん達が見える!?なんで~?」

「はぁ?夢って・・・。お前、何呑気にごばぁ!」

コウタが何かを言おうとしたところで、リンドウが拳を口の中に突っ込んでから黙らせると、ナナへと声を掛ける。

「・・もう、いいのか?ナナ」

「えっと~・・はい!だって、ジュリウスが待ってるし!」

「そうか・・」

そう言ってリンドウは、コウタの口から手を引き抜くと、ゆっくりと前に出る。そんな彼に首を傾げているナナに、サクヤが優しく微笑んでから、両手を伸ばして彼女を呼ぶ。

「ナナちゃん・・、おいで」

「え?・・・えへへ。サクヤさんにも優しくされて、良い夢だな~!」

照れながらナナは、サクヤの胸へと飛び込むと、その豊満な胸の中に顔を埋める。それを優しく受け止めて、ナナの視界を遮ったのを確認してから、サクヤはリンドウに目配せして頷く。

彼女の合図に頷き返してから、リンドウは冷たい目のまま、ナナが母親と呼んでいたラケルへと近付き、右腕から神機を形成する。

「俺達ゴッドイーターが、絶対の正義なんて思ってないがなぁ・・。あんた・・相当、悪趣味だぜ」

「貴方の右腕は、とても素敵ね。雨宮リンドウさん・・」

「勧誘してんのか?褒めても・・・、これ位しかやれねぇな」

そう言って、リンドウは神機を振り上げて、ラケルの首と腹を斬り付ける。

ザシュッ ザンッ!!

すると、ラケルの姿は黒い蝶となって消え、荒神がその場に倒れ伏せる。それを見下ろしながら、リンドウは咥えていた煙草をプッと吐き捨ててから、後ろへと振り返る。

「・・・よう!ナナ!よく寝られたか?」

「ん?え?・・・・あれ?さっきまで、あたしの住んでた家が・・・」

サクヤの胸から顔を上げてから、ナナはキョロキョロと周りを見回していると、サクヤが優しく彼女の頭を撫でながら、喋りかける。

「ちょっと疲れて寝ていたのよ。大丈夫?良い夢、見れた?」

そう聞かれてから、ナナは笑顔で答える。

「えっと・・はい!とっても、良い夢でした!」

「そう・・」

ナナの笑顔に、リンドウとサクヤは笑顔で応えてから、ラケルのいた場所へと視線を向ける。

それから、一人拗ねたように座り込んでいるコウタに目を向けてから、苦笑いを浮かべる。

「あー・・・・、コウタ?悪かったって・・」

「ごめんね、コウタ」

「良いですよ・・。どうせ、夫婦の阿吽の呼吸には、付いていけないっすから」

そっぽを向くコウタに、ナナが首を傾げながら、ポケットの中を探って何かを取り出して差し出す。

「コウタさん、元気ない?これ・・・『初恋回復錠』食べる?」

「そんな不吉なモン、まだ持ってたのかよ!?本気で慰める気、あんの!?」

思わぬモノに勢いよく距離を取るコウタに、リンドウは笑いながら煙草を咥えて、火を点けて煙を吐くと、神機を肩に担いでから口を開く。

「おし!コウタも元気になったし・・・、ナナ!ジュリウスでも、迎えに行くか!?」

「あっ、そうだ!行きま~す!!」

「元気になってないっすよ!いや、元気だけども!」

コウタが騒ぐ中、ナナを連れて、リンドウ達も上へと向かって歩き始めた。

 

 

一人暗闇の中を歩くシエルは、時折聞こえる蝶の羽音に耳を澄ませながら、神機を握る手に集中する。

そこへ・・。

「何をしに来た、シエル・・・」

聞きなれた声に、足を止めると、シエルは銃型へと変形させてから、声の出所を探る。

「お前は、ここを俺に任せたんじゃないのか?・・・ならば、お前に出来ることなど・・無い。即刻、ここから立ち去れ」

「・・・・私に意見を言いたいのなら、ご自分の声で仰ったらいかがですか?ラケル先生・・」

そう言って振り返ってから、剣型へと戻して突き出すと、そこに黒い蝶が集まって、ラケルがその姿を見せる。

「流石ね・・、シエル」

「貴女がジュリウスの声真似をするのは、2度目ですから。もう、惑わされません」

「ふふっ・・、優秀ね。嬉しいわ・・」

妖艶に笑う彼女とは対称に、シエルは冷ややかな目つきでラケルを見つめる。そんな彼女の視線をモノともせず、ラケルはシエルに語り掛ける。

「優秀な貴女なら、わかっているでしょう?特異点であるジュリウスを、助けることは出来ないと・・。特異点を失えば、『再生無き永遠の破壊』により、世界は破壊しつくされる・・。それならば、『終末捕食』を完遂し、『破壊から生まれる再生』を選ぶのが、賢明じゃなくて?」

「・・・その為に、ジュリウスを諦めろと・・仰るのですか?」

「そうは、言わないわ・・。私の下に帰りなさい、シエル。そうすれば、ブラッドもジュリウスも・・・、皆一緒に永遠となれるわ」

「お断りします」

ラケルの提案に、シエルは間髪入れずに、強い眼差しで答える。その表情に、ラケルは間抜けにも、口を半開きに硬直してしまう。

「貴女の仰る通り、どこかで理解しているのかもしれません。・・ジュリウスを救うのが難しいという事も・・。『終末捕食』を止める事も・・」

「だったら・・」

「それでも!貴女に従うことは出来ません!!」

「・・・何故かしら?」

強く言い切ったシエルに、ラケルが問い返すと、彼女は怒りの表情で、言い放つ。

「貴女は、私の愛しい人を傷付けました。あの眩しい笑顔を、曇らせました!理由は、それで十分です!!」

ザンッ!!

言葉尻に思い切り神機を斬り付けると、ラケルの姿は蝶となって崩れ始め、その後ろで荒神が沈黙し倒れる。

振り抜いた状態で睨みつけてくるシエルに、ラケルは口の端を嫌らしく吊り上げてから、姿を消していく。

「たった一人の為に、世界を危険に晒そうなんて・・・。もっと、賢いかと思っていたのに・・。残念ね、シエル」

完全に姿を消したラケルに、シエルは大きく深呼吸をしてから構えを解き、声を洩らす。

「人の思いは、小さくとも良いんです。寄り集まれば、それは大きな力となる。極東に来て・・・彼と共に歩んで、知った事です。ラケル先生・・」

暗闇が晴れていくと、シエルの目の前には、レンカとアリサが笑顔で立っている。

「アリサさん・・。空木教官」

「助けは、必要なかったみたいですね」

「あぁ。シエルは優秀だからな・・」

二人の並び立つ姿に、シエルは笑顔を見せてから駈け寄り、そのまま三人は先へと歩き始める。

「・・・いつか、私もお二人のように・・・、ヒロと肩を並べれるでしょうか?」

「え?あ、はい!?それって・・・、そういう事ですか?」

「そう・・・いう、ことか?」

二人が困惑して顔を見合わせて、照れ笑いを浮かべると、シエルは小さく頷いてから、前を見据える。

「絶対に、生きて帰ります。ジュリウスを助けて・・・、ブラッドと・・ヒロと共に!」

強い決心を口にするシエルに、レンカとアリサは驚いてから苦笑する。

「誰かの為に戦えることは、悪いことじゃないな」

「まさか、ここでシエルさんが素直になるとは思いませんでしたけど」

そんな二人の台詞が聞こえてか、当のシエルは耳まで顔を真っ赤にして、顔を見せぬように前を陣取って進んだ。

 

 

最上層に一早く到達したヒロとリヴィは、中心に立つ大きな柱を目指して足を進める。そして、その頂上付近の光るモノが確認できる位置まで来た瞬間、二人は目を大きくして声を洩らす。

「・・・ジュリウス」

「あれは・・・、囚われているのか?」

元は青かったであろうモノが赤く染まっていく殻の中に、ジュリウスは拘束されたような状態で眠っている。

「解放すれば、ジュリウスは助かるのか?」

「どうだろう?とにかく、行ってみよう!」

ヒロが駆けだすのに続いて、リヴィが駆けだすと、そこへ黒い蝶が集まってきて、渦を形成しだす。

ゴオォォォォッ

「ちっ!何か来る!」

「くぅ・・・・、やっぱり、簡単にはいかないよね。そうでしょ?・・・ラケル!!」

ヒロがその名を叫ぶと、ジュリウスの前に姿を現したラケルが、見下すように笑いかけてくる。

そして、黒い蝶の渦が晴れると、そこには終焉の王が仮面をつけた、赤黒い荒神が姿を現す。

「なんだ・・、こいつは?」

「・・以前ジュリウスが、荒神化したヤツに似てるよ。強さも、ジュリウスそのもの・・だったけど、今回は・・」

「察しが良いわね、ヒロ。前回のようには、いかないわよ?さぁ・・・、足掻いて見せなさいな。人間・・」

そう言って、ラケルが殻に手を当てると、その色は急速に赤へと変化を始める。

「何となくだが、あのまま赤く染めたら不味そうだな?」

「その前に、決着をつけよう!」

ヒロが神機を構えると、リヴィも次いでロミオの神機を構える。

その行為に反応してか、仮面の終焉の王も、背中の6本の刃を構えて、ヒロ達を警戒する。

「行くよ!リヴィ!」

「了解だ!」

二人が駆けだすと、仮面の王は大きな声で吠え、二人へと飛び掛かった。

 

 

 





このまま最終決戦へ突入!

ラケルの陰謀を砕け、ブラッド!



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