GOD EATER2 ~絆を繋ぐ詩~   作:死姫

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62話 過去を背負って、未来へ 前編

 

 

一夜明けてから、ヒロは大きく深呼吸をして、自分の部屋の鏡に映る、自分を見つめる。

それから、昨日のラケルの言葉を思い出してから目を閉じて、もう1度深呼吸をしてから目を開く。

「・・・・うん。大丈夫・・」

そう声に出してから、自分を奮い立たせてから部屋から出ると、廊下でブラッド隊の皆が、待っていた。

「遅ぇぞ、ヒロ」

「ちゃんと眠れたのか?」

「今日は頑張ろう!ヒロ!」

「・・ジュリウスを、助けましょう。ヒロ」

皆がそれぞれ口にする言葉を受け止めてから、ヒロは笑顔で頷いて、先に立って歩き出す。

「うん。・・・行こう!」

そんな彼に続いて、ブラッドは神機保管庫へと歩き始めた。

 

 

螺旋の樹の開口部前で、レンカは久方ぶりに握る神機を手に、無線でヒバリと連絡を取る。

「ヒバリさん、ブラッドの方は?」

『はい。現在中腹地点を更に奥へと進み、3階層へと上がる手前です』

「わかりました。5分後に俺達も動きます。後の指示は、お願いします」

『了解です。ご武運を』

無線が切れたのを見計らってから、リンドウが彼へと話し掛ける。

「どうだ、レンカ?フライアの時より長く握ってもらう訳だが、調子の方は?」

「あぁ。今のところ、問題はない。サクヤさんはどうですか?」

そうレンカが話を振ると、軽くストレッチをしていたサクヤは、笑顔で手を上げて応える。

「大丈夫よ。あなたと違って、私は復帰を目処に、偏食因子を打ち込んできてたから」

「そうですか。・・・まさか、育児休暇中のサクヤさんまで出てくるとは、思いませんでした」

そう心配そうな表情をするレンカに、アリサが溜息交じりに声を掛けてくる。

「貴方の場合、サクヤさんより自分の心配をして下さい。ただでさえ、無理をしたがる質なんですから」

「ははっ、違いねぇな~。一人で突っ走ってくれんなよ?」

「そんな事はしない。子供扱いは、勘弁してくれ」

「ふふっ。どうかしら?」

レンカに気を回しつつ、和やかに時を待つクレイドルの元に、ソーマがコウタと一緒にやって来る。

「そろそろ時間だ」

「ごめん!やっとエリナとエミールに、指示出し終わったよ!」

合流を果たしたコウタを含めて、リンドウが咥えていた煙草に火を点けてから、ソーマへと頷いて見せる。

「そんじゃ、行きますか!ソーマ。後ろが落ち着いたら、合流してくれ」

「あぁ・・・。頼むぞ」

二人が拳を軽くぶつけたのを合図に、サクヤ達は螺旋の樹へと、足を踏み出す。

「さ~て、久々のお仕事ね」

「まっ、この面子なら楽勝でしょ!?」

「油断は禁物ですよ?コウタ」

「俺は、足を引っ張らないよう、気を付ける」

そんな四人に続いて、リンドウは前へと進み出て、仲間へと声を掛ける。

「クレイドル・・・、行くぞ!」

《了解!》

隊長不在にも拘わらず、その圧倒的な強さのオーラを発しながら、独立支援部隊クレイドルは、戦場を駆けだした。

 

 

中腹を抜けて、3階層へとやってきたブラッド隊は、再び赤黒く染まった景色を目に、緊張を高める。

「・・・いよいよだな」

「ここを抜けたら、ジュリウスがいるんだよね?」

ギルの洩らした言葉に、ナナが次いで口を開くと、皆静かに頷きながら、慎重に足を進める。

五人が足を動かすたびに、ふわふわと舞う黒い蝶に、リヴィが視線を巡らせながら口を開く。

「・・黒い蝶が、増えてきたな。昨日のヒロの話が事実なら、これはラケルの分身とでも思うべきか・・・」

「・・・それで、良いと思うよ。僕は確かに、この蝶に包まれた瞬間、ラケルが目の前に現れたから」

ヒロが警戒しながら答えると、ナナは気持ち悪そうに顔をしかめる。

「う~ん・・・。虫、嫌いじゃないんだけど・・・、これは・・何か気持ち悪い」

「・・・そうですね。しかも、こう多いと・・」

シエルが顔の前に跳んできた蝶を掃うと、ナナはそれが落ちるのを目で追っていく。

「実はさ・・・、この地面が黒いのも・・。蝶のせいとか・・・、ないよね?」

その言葉にハッとさせられて、皆一斉に足元へと視線を向ける。

その瞬間・・・。

 

ドババババババッ!!!

「ぬぁっ!くそ!」

「わぁっ!なになにー!?」

「前が・・、くぅっ!」

 

後ろについて歩いていたシエル、ナナ、ギルの三人の足元から、大量の黒い蝶が舞い上がり、ヒロを包んだ時同様に、彼等を閉じ込めてしまう。

「しまった!?」

「くっ!ヒロ、どけ!『圧殺』を使う!!」

リヴィが神機を構えて叫ぶと、ヒロは後ろへと距離を取る。しかし、彼女が『圧殺』の力を使う前に、黒い蝶の壁は消えて、三人の立っていた場所には、大きな穴が開いていた。

「・・やられたな。まさか、分断に掛かって来るとは・・・。どうする、ヒロ?」

「くっ!・・・・・ラケル!」

怒りに震えて、次の行動に移れないでいるヒロに代わって、リヴィが無線を作戦指令室へと繋ぐ。

「こちら、リヴィ。シエル、ナナ、ギルの三名と分断された。三名のビーコン反応を確認してほしい」

『リヴィさん、了解しました!少々お待ちを!』

返答に応えたフランを待ちながら、リヴィは立ち尽くすヒロへと視線を向ける。彼の視線は、今だぽっかりと空いた穴へと注がれている。

『・・・・ビーコン反応、確認しました!三名とも、無事です!』

「・・ふぅ。そうか・・・」

『ただ・・・三名とも、中腹辺りにおられるようですが?』

「あぁ・・。ちょっと、落ちたからな。生きてるなら、問題ない」

そう言ってから、リヴィは無線から意識をヒロへと向けて、話し掛ける。

「ヒロ、三人は中腹まで落ちたようだ。どうする?戻るか?それとも・・・、救援を要請するか?」

「・・・・・・僕は・・」

頭の中で色々考えているのか、ヒロは目を泳がせて、はっきりと言葉を言えないでいる。

そんな彼の額を、リヴィは軽く小突いてから、真剣な眼で彼を見つめる。

「ヒロ・・。昨日ラケルに何を言われたかまでは聞かなかったが、それに惑わされるな。お前の正しいと思う事を信じて、それを実行しろ。例え間違っていたとしても、私達は仲間だ。罰も一緒に受けてやる」

「でも・・・・、みんなが・・」

「しっかりしろ!お前は、ブラッド隊の隊長だろ!?お前の答えが、我々隊員の答えだ!信じろ!」

「・・・・リヴィ」

彼女の声が届いたのか、ヒロは徐々に気を引き締めた表情へと変わる。その時、無線からフランとは違う声が、聞こえてくる。

『良い仲間が揃ったな~、ヒロ。お前の人徳ってやつだな』

「っ!?リンドウさん!?」

無線の向こうで、我が事のように嬉しそうな声を発するリンドウに、ヒロは驚いて声を裏返してしまう。

『事情はフランから聞いたぜ。中腹辺りなら、丁度俺達がいる。仲間の捜索は、俺達に任せろ』

「でも!?・・良いんですか?」

『あぁ。こういう時は、仲間を頼るのも大事だぜ。ナナの方は、俺とサクヤ、コウタが行くか』

『なら、シエルの方は俺とアリサで探そう』

リンドウに続いて、レンカの声も耳に入る。

『なら、ギルは俺等第4部隊に任せろよ、ヒロ。迷子も神秘も、捜すのは得意だぜ』

『中腹全域のフォローは、防衛班で固めますよ、リンドウさん。これで、問題ないだろ?ヒロ』

「ハルさん・・・、タツミさん」

ハルとタツミが会話に参戦してくると、ヒロは自然と涙を零していた。そんな彼に、もう一人声を掛けてくる。

『ヒロ君、聞こえる?あなたはもう、極東支部のゴッドイーターなのよ?ブラッドだけじゃないのよ?あなたの仲間はね』

「ジーナさん・・・。ありがとうございます」

礼を口にしながら頭を下げると、再びリンドウが声を掛けてくる。

『行ってこい、ヒロ。仲間は俺達が送り届けてやる。そっちにも、迎えを待ってる仲間がいるんだろ?』

「・・はい!・・みんなを、お願いします!」

『《了解!!》』

希望を取り戻したヒロの背中に、リヴィはフッと笑顔を浮かべてから、無線の向こうで待機していたフランに、喋りかける。

「捜索は、リンドウさん達に任せる。私とヒロは、一足先にジュリウスの元へと向かう」

『了解しました!お気をつけて、リヴィさん!』

「フラン・・・・、ありがとう」

『あ・・いえ。オペレーターとして、当然の事をしたまでです!』

そのフランの言葉に嬉しさを感じながら、リヴィは自分もすっかり極東のゴッドイーターなのだと認識し、照れ笑いしてしまう。

無線を切ってから、今一度緩んだ顔を引き締めて、リヴィはヒロへと視線を向けると、彼も強い眼差しで見つめ返してくる。

「行こう!ジュリウスの元へ!」

「あぁ。行こう!」

そう二人は声を掛け合い、螺旋の樹の最上層へと足を向けた。

 

 

ゆっくりと目を開いたギルは、自分が立っている場所に困惑し、目を大きく開いて声を洩らす。

「ここは・・・、グラスゴーの・・・。イギリス、なのか?」

かつて自分が所属していた支部の管轄区域。見慣れた景色に、ギルは驚いてしまっていたのだ。

そして、その場所は・・・・彼にとって、忘れられない場所・・。

「どうして・・ここに・・」

「・・・ギル」

「っ!!?」

突然声を掛けられ、振り返った先に見た人物に、ギルはまたも驚きに表情を硬くする。

「・・な・・、ケイトさん」

「ギル・・・」

そう。ここは、赤いカリギュラとの因縁が出来た場所。ハルの妻だった、ケイト・ロウリーが亡くなった場所。

ギルが最期を看取った彼女が、彼の目の前に立っていたのだ。

「どうして・・。ケイトさんは、あの時・・」

「実はね、ラケルさんに助けてもらってたの。1時的に、だけどね・・」

「そんな・・馬鹿な!?」

ギルが困惑していると、ケイトはゆっくりとした足取りで彼に歩み寄りながら、喋りかける。

「ねぇ、ギル。ラケルさんの言ってる事って、間違いなのかな?『終末捕食』が起これば、神機使いも荒神も、みんないなくなる・・・。必要なくなるんだよ?そうしたらさ、誰も・・・明日に怯えなくて済むんだよ?それって、悪い事なのかな?」

「そ、それは・・・。でも、俺は・・」

ギルが目を反らすと、ケイトは彼の頬をゆっくりと撫でながら、優しく微笑む。

「ギルも、楽になりたいでしょ?誰も傷つかない方が、良いでしょ?」

「・・・・違う」

「え?・・・」

振り絞ったように声を洩らしてから、ギルは泣きそうな顔を見せながらも、必死に訴えかける。

「それは違うよ、ケイトさん!例え『終末捕食』を止めることが、間違っていても・・・。ユウさんや、ジュリウスや・・・、ヒロ達が戦ってきたことが、間違いなわけじゃない!そんな絆を・・・、あなたが俺に・・教えてくれたじゃないですか!?」

「・・・ギル」

思いを言い切ってか、ギルはケイトの顔を見れずに、目を伏せる。そんな彼に、ケイトは優しく語り掛ける。

「それでいいの?『終末捕食』は、全ての苦しみから解放してくれる、唯一の望みなのに・・」

「・・ケイトさん」

「あんまり人の嫁さんの事を、捏造するのやめてくれるか?」

「え?」

背中から聞こえた声にギルが振り返ると、神機を前に突き出したハルが、軽くウィンクしてくる。

「ハルさん!?」

「よっ。迎えに来たぜ、ギル」

そう言ってから、ハルは自分の突きつけた神機の先にいるケイトに視線を移し、溜息を吐いてから話し掛ける。

「こんな狭い空間に、よくもまぁこんな場所を再現したもんだ。ついでに死んだ嫁さんまで作って、ギルを惑わそうなんて・・・。あんた、相当性悪だな?ラケルさんよ」

「・・・・」

黙って睨みつけてくるケイトから目を反らさずにいるハルに、ギルは戸惑いながら声を掛ける。

「ハルさん・・、これは一体?」

「いいか、ギル。ここにはな、何も無いんだよ。螺旋の樹の中腹の、だだっ広い景色が広がってるだけだ」

「でも!ここは、グラスゴーの!?」

「あぁ、そうだ。俺にも、そう見えてる」

ギルの疑問に頷いてから、ハルは更に説明を続ける。

「どうやらブラッドのお前等が、心のどこかで見たいモノが具現化しているのかもしれねぇな。俺の場合は・・・、わかるだろ?」

「・・そうか。ケイトさん・・」

ギルが納得してからケイトの方へと顔を向けると、彼女は可笑しそうに笑っている。

「どうしたの?ハルオミ。私は、あなたの奥さんでしょ?」

「・・・わかってねぇな。やるなら、ちゃんとリサーチしてから再現してくれ。ケイトは、俺を”ハルオミ”なんて呼ばねぇ」

「・・・・・あら、そうだったの?失敗ね」

そう言ってから、ケイトは黒い蝶に覆われてから、ラケルへと姿を変える。

それを目にしてから、ギルが怒りに神機を構えるが、ハルの方は可笑しそうに声を洩らして笑い始める。

「あらあら、どうしたのかしら?」

「いや~、笑っちまうぜ。なぁ、ギル?」

「え?いや・・」

ハルの反応に、ギルが戸惑っていると、彼は鼻を鳴らしてからラケルに言い放つ。

「さっきの話、嘘に決まってるだろ?場合によっちゃあ、”ハルオミ”とも呼ばれてたしな」

「あ・・・」

ハルの機転に、ギルはハッとさせられ、ラケルは表情を硬くする。

「さぁ~て、笑ったことだし・・・。ギル、合図したら後ろに跳べよ?」

「は?どうしてっすか?」

「・・・ご立腹の上に、待ちくたびれてんだよ。うちの隊員が、な」

ハルの言葉に驚きつつも、ギルは笑いをこぼしてから、後ろへと意識を集中する。

「さてさて、しっかり味わえよ。極東の最強の1撃を放つのは、ユウとソーマだけじゃないんだぜ!」

「ふっ!」

言葉尻に跳んだハルに合わせて、ギルも後ろへと跳ぶと、入れ替わりに飛び込んできたデンジャラスビューティーが、目を大きく見開いてから、冷たく声を発する。

「・・ギルさんに、2度と近付くな。下郎が・・」

ドゴォーーンッ!!!

爆風に乗って後ろへと着地したカノンの1撃に、景色は一気に晴れて、元の中腹の広場へと変わる。

よく見てみると、ラケルが立っていた辺りに、荒神らしき姿を確認して、ギルはハルの方へと顔を向ける。

「ハルさん、あれって!?」

「あぁ。俺やお前には、見えてなかった真実だ。ケイトに見えていた俺達と違って、カノンには最初から荒神に見えてたみたいだ。目の前でお前がやられそうなんだ。恋する女としちゃあ、怒り狂って当然だろ?」

「恋って!?・・・ま、まぁ、良いですけど」

照れくさそうにキャップを深くかぶるギルに、カノンは黙って駈け寄って来てから、神機をその場に投げ捨ててから、抱き着いてくる。それに応えるように、ギルの方も微笑みながら、頭を撫でてやる。

「ありがとな・・・、カノン」

「うぅ・・うぅぅうぅうぅぅっ!!!」

言葉にならないのか、カノンは顔をギルの胸に押し付けたまま、首を横に縦に振って、泣きじゃくる。

そんな二人に笑顔を見せてから、ハルはグッと親指を立てて右手を前に出す。

「これで、お前も簡単には死ねなくなったな!」

「・・・べ、別に・・・。もう、死のうなんて・・思ってないっすよ」

彼の返事に満足そうに頷いてから、ハルは上を見上げながら息を吐く。

「落ち着いたら、上に向かうぞギル。ジュリウスを、助けにな!」

「・・・はい!」

カノンを撫でながら、ギルは力強く返事をして、神機を握り直した。

 

 

 





ハルさんに見抜けぬ女は、いない!!

という、オリジナルな設定?w


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