GOD EATER2 ~絆を繋ぐ詩~   作:死姫

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61話 手が届かなくても・・・

 

 

ブラッドが螺旋の樹内部からの帰還の報告を受け、レンカは大きく息を吐いて安堵する。

その隣で、インカムを外したソーマも、フッと笑みを浮かべる。

「・・・中腹までは、問題なかったか」

「そうだな。ソーマ博士の、見立て通りだ」

「博士はよせ、空木。うすら寒い・・」

ソーマが溜息を吐いてその場から離れると、レンカは改めて螺旋の樹のマッピングデータを参照する。

「ジュリウスは・・・、無事だろうか?」

つい弱気に発言をしてしまい、ハッとするレンカに、ソーマは歩みを一旦止めてから口を開く。

「無事じゃなかろうが、あいつは引きずってでも連れて帰る。それが・・・俺達だろ?空木」

「・・・・・そうだな。そうだったな」

苦笑するレンカに、ソーマは「ふん」と鼻を鳴らしてから、作戦指令室を後にした。

 

 

螺旋の樹、最上層。

ジュリウスを包む殻を撫でながら、ラケルは極東に飛ばした自分の分身、『黒い蝶』によって映し出される映像に、目を細める。

そこから読み取れる感情が、彼女の望んだ『焦り、憤り、嘆き、悲しみ』よりも、『望み、励み、慈しみ、優しさ』の方が、勝っていたからだ。

『・・・怖いのか?』

「はい?・・」

突然の呼びかけに応じるように、ラケルはその身体を、蝶と化して霧散させる。

 

心の深層世界に舞い降りてから、捉えたジュリウスの目の前に現れたラケルは、苦しげにも笑う彼に、苛立ちの表情を浮かべる。

『どうした、ラケル?極東支部に・・・ヒロに啖呵を切った割には、随分と気にしているじゃないか?』

『情報を得るのは、戦術の基本よ。教えたでしょう?ジュリウス』

『あなたが覗いていたのは、そう言ったモノではなかったように思えるが?』

『・・・・・人の心を覗き見なんて、いけない子ね』

『正に今、あなたもしている・・』

少しの間、睨み合う二人。

その沈黙を切るように、ラケルがいつもの調子で、クスクスと笑い声を洩らしだす。

『ふふふふっ。とても、良いわよジュリウス。上に立つ王に相応しい、見事な見解ですこと・・』

『・・・・ふっ。どうせ俺の意志のない話だ・・。どこか他所で、一人でやっていただきたいな』

まだ勇ましく振舞えるジュリウスに、ラケルはゆっくりと近付いていき、鎖に繋がれて無防備な彼の顎を、優しく撫でる。

『世界が再構築される際には、重要かもしれないわよ?貴方の意志も・・ね』

そう楽しそうに喋るラケルに、ジュリウスも負けじと余裕の笑みを作って見せ、顔に掛かった彼女の手を振り払って、喋り返す。

『やはり・・、神の紛い物だな。荒神は・・』

『・・・・・どういう、意味かしら?』

ジュリウスの言葉が癪に障ったのか、ラケルは一変して表情を硬くする。

『荒ぶる神と呼ばれていようと、『終末捕食』の先の世界の事などわからない・・。壊すしか能のないお前達が、偽りの神以外、何だというんだ?』

『・・・・・口が、過ぎるわよ?・・・・』

怒りに身を震わせ出したラケルに、ジュリウスは更に続ける。

『わかっていたのだろう?あなたの中の、”人間の心”も!資源の枯渇しがちな地球は救えても、意志ある生物である人や動物・・・・荒神は、救えないと!』

『黙りなさい!ジュリウス!』

パァンッ!

息を荒げてから、自分がジュリウスを平手打ちしたことを認識し、ラケルはその突き出した手を優しく撫でて、引っ込める。

『感情的になるのは、図星の証拠。あなたから教わった事だ。やはり・・・、あなたの中には、まだ人の心が残っているのですね?』

『ち、違う!・・私、は!?・・・・うっ・・・』

珍しく狼狽えてしまった自分に更に苛立ってか、ラケルは軽く指を鳴らして、ジュリウスを縛り付けた鎖を、強く締め出す。

『ぐぅっ!・・がっ、は・・・・!』

『人の心が残ってるから・・・、どうだって言うの?破壊が終われば、きちんと再生する・・。月が、証明してるわ』

そう言ってから、ラケルは踵を返してから背中越しに話しかける。

『もう少しで、『終末捕食』は完遂される準備が整う。そうなれば、誰も止められない・・・。そう・・・・・・、貴方のブラッドにも・・』

どこか寂し気な声を発したラケルに、違和感を感じながらも、ジュリウスは今一度訴えるように、喋りかける。

『・・・ブラッドを・・・・、ヒロを・・甘く見ない事だな。ラケル・・』

『・・・・何ですって?』

首だけを少し振り向かせて、ラケルが聞き返してくると、ジュリウスは渾身の力で強がって見せ、話を続ける。

『あいつは・・・ヒロは、俺なんかよりも・・ずっと、優秀だ。さっき貴方が恐れていたのは、あいつを取り巻く・・・絆・・、だろ?』

『絆・・・』

その言葉に思うところあってか、ラケルの赤い瞳の片方が、ゆっくりと元の青い瞳へと変化しだす。

『俺は・・・ヒロを、信じている・・。あいつなら、奇跡を起こせる・・英雄になれると。・・・・3年前、ここ極東を救った・・・神薙ユウさんの・・ようにな』

『っ!!?・・・神薙・・ユウ・・!!』

彼の出した名に我を取り戻したのか、ラケルは首を横に振ってから、青く変化した片目を隠すように押さえてから、キッとジュリウスを睨みつける。

『・・ははっ・・・。余程荒神は、彼の事が・・怖いようだな。だが、今恐れるべきは・・・ユウさんじゃない。彼の意志を継いだ俺達ブラッドの隊長、神威ヒロだ!』

『・・・・・なら、・・・・殺せばいい。神薙ユウも・・・、神威ヒロも!』

叫んでから手を顔から離すと、ラケルの目は、赤い色に戻っていた。それから両手を広げて見せてから、嫌らしく口の端を上げて、目を大きく見開き声を上げる。

『絆?・・・そんな不確かなモノが力になるなら、それごと壊してしまえばいい!人間の繋がりが、いかに脆いか・・・。そこで見ているがいい!!ジュリウス!所詮傀儡のお前には、見ている事しか出来ないでしょうけど!』

そう言って消え去ろうとするラケルに、ジュリウスは何故か悲し気な眼を向けながら、声を洩らす。

『俺は・・・人間だ。・・・あなたもだろう?ラケル・・』

 

「は?・・・・・」

疑問に声を洩らした頃には、ラケルは元の位置に立っていた。

それから自分の頬に手を当てる。

「・・・・なに?これ・・・・」

自分の手についた液体に、ラケルは驚きに眼を細めて何度も触る。

1度青く元に戻っていた瞳から、涙が伝っていたのだ・・。

 

 

 

極東のヘリポートに来ていたユノは、装甲壁の向こうに見える螺旋の樹を見つめながら、軽く深呼吸をする。

それから、胸の前に組んだ手をゆっくりと広げながら、目を閉じて歌い始める。

螺旋の樹の中に囚われているであろう、ジュリウスを想って・・・。

 

 

遠い空の下で あなたは何を想ってる?

私の事 考えてくれたら・・・

世界のルールが こんなにも悲しく

別れを強要してくる だけど・・・

 

あなたの声が 温もりが 二人を繋ぐ

不確かな Melody

言葉では 言い尽くせない程

涙が 溢れる程

気持ちよ 風に乗って 愛しい人へ

届けて Melody

約束のない 形のないモノより

もう一度 優しく笑って・・・

 

 

歌い終わってから、ユノは広げた手をゆっくりと下ろし、閉じていた目を開ける。

「・・・ユノ」

「サツキ?・・・居たんだ」

「えぇ・・」

少し離れて聴いていたのか、サツキはゆっくりとユノへと近付いてから、持ってきたストールで彼女を包む。

「夜は冷えるのよ?上着くらい、持って出なさい」

「うん。ありがとう・・・」

それから二人並んで、螺旋の樹を見つめる。

ソーマから聞いた話では、ジュリウスを助けれる可能性は、1%もないという。それは、『終末捕食』を止められたとしても、変わらない。

何故なら、彼が特異点として『終末捕食』を、螺旋の樹に留めていたからだ。

『終りのない破壊と再生』

榊博士の提唱したことによれば、螺旋の樹は、中でそれを繰り返し、『終末捕食』を半端に、局地的に繰り返していたのだという。

・・・・・ジュリウスの手によって・・。

「・・・やっぱり、ジュリウスは・・・、助からない・・かな?」

少し弱気に目を伏せるユノを、サツキは慰めるようにそっと肩を抱いてから、口を開く。

「・・・大丈夫よ。ソーマ君が言ってたでしょ?『可能性は、0じゃない』って。信じましょう?みんなを・・・、ジュリウス君を・・」

「うん・・・」

「それに・・」

少し前置きしてから、サツキはフッと微笑んで見せてから、ユノを元気づける言葉を口にする。

「私達がピンチの時には、あの子が来てくれるわよ!」

「あ・・・・、そうね。きっと、来てくれる!」

そう確かめるように言葉にしてから、二人は遠い地で戦う兄妹を思って、希望をその目に宿した。

 

 

研究室で何度目かの添付ファイルを送ってから、ソーマは背筋を伸ばすように立ち上がって、背伸びをする。

そこへ、ノック無しで顔を出したリンドウが、「よっ」と手を軽く上げて、ビールを投げてよこす。

「おい・・・、俺は・・」

「部屋に籠って出来ることは、もう無ぇだろ?ソーマ。息抜きしようや」

「そうよ。たまには、私にも付き合いなさい♪」

リンドウの背中からひょっこりサクヤが顔を見せると、ソーマは溜息を吐いてから、デスクから離れてビールを開ける。

「明日は世界の命運をかけるってのに・・、呑気な夫婦だな」

「明日の事がわかんねぇから、今日を楽しんで生きるんだろ?」

「な~に?負ける気なの?『地上最強』の名が、泣くわよ?」

「そんな名に、興味は無ぇ。何なら、リンドウ。お前にくれてやる」

「冗談だろ?いらんいら~ん」

他愛のない話をしながら、三人はビールを片手に笑い合う。

かつては、第1部隊で共に戦った三人。

気の許し合える仲間だからこそ、こんな状況でも彼等は笑い合えるのだ。

「・・・それで?明日はどうするんだ?ソーマ」

「作戦概要なら、空木に伝えてある」

「今、聞かせろよ・・」

「ちっ・・・。面倒な奴め」

言葉とは裏腹に、笑顔を見せてから、ソーマは作戦内容を口にする。

「もう小細工をする必要は無い。総力戦に持ち込む・・。ブラッドに先行させて、その後を追う形で、クレイドルに出てもらう。それから・・・全員で、螺旋の樹内部を、完全に制圧する。リンドウは、アリサとコウタ、それと空木を連れていけ。俺は最後尾に着く。・・・以上だ」

「ほぉ~。お前にしては、力押しに出るな。・・・焦ってるか?」

そう聞き返されてから、ソーマは少し黙って見せてから、ビールの缶をテーブルに置いて答える。

「焦ってないとは・・・・、言えないな。まだユウと連絡がつかねぇし、ラケルが何を仕掛けてくるかわからないしな」

「成る程。・・・まぁ、不測の事態に備えて、ハルんとこと、防衛班は前に出しといてくれ。ブラッドがヤバい時には、完璧にフォローしてやりてぇしな」

「わかった・・・」

「あ、それなんだけど・・」

二人が話しているところへ、サクヤが口を挟んでから、軽く息を吐いてから喋りだす。

「明日は、私も参加するから」

「「・・・・はぁ?」」

サクヤの突然の言葉に、二人は素っ頓狂な声を上げてしまう。

「・・あのー、奥様?明日がどういう日か、わかって言ってます?」

「わかってるから、言ってるんじゃない。私がただ黙って見送るだけの女じゃないことぐらい、あなた達が1番よく知ってるでしょう?」

「・・・・ふん。違いないな・・」

「おいおい、ソーマ・・」

リンドウが訴えてくるような目を向けてくるのを、ソーマは素知らぬ顔でサクヤへと話し掛ける。

「・・娘の方はどうする?ベビーシッターは、いねぇぞ?」

「お婆ちゃんに預けてあるから、大丈夫。ちゃんと訓練も続けてるから、問題ないわ」

「はぁ・・・、言い出したら聞かねぇよな・・お前さんは。・・・死ぬなよ、サクヤ」

リンドウが頭を掻きながら苦笑いを浮かべると、サクヤはウィンクしながら、笑みを返す。

「元隊長に対して、失礼よ?リンドウ。私は死なないわ」

「へぇ~へぇ~、そうですか。じゃあ、背中は頼むぜ・・サクヤ」

「任されたわ♪」

「ふん・・」

二人が笑い合うのを見て、ソーマは鼻を鳴らしてから、コーヒーを入れようと移動する。

そんな彼に、リンドウは自分達にもと手で2つと指を立ててから、口を開く。

「そういやよ~・・、本当に向こうの二人は間に合わねぇか?」

そう声を掛けられてから、ソーマはコーヒーを入れる手を止めて、窓の外へと視線を移してから、フッと笑みを浮かべる。

「・・間に合う。あいつが、本当にヤバい時に、間に合わなかった試しがねぇ」

 

 

 





久々に、歌詞を書きました。
実は元々、地元のアマチュアではありますが、作詞作曲をしていたバンドマンでしたのでw

お好みでユノっぽくメロディを想像してみて下さい!


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