GOD EATER2 ~絆を繋ぐ詩~   作:死姫

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60話 死の黒蝶

 

 

慎重な足取りで前へと進んでいたアリサは、周囲の安全を認めて、神機の構えをとく。

螺旋の樹内部に巻き起こった、オラクルの渦。

それを忌まわし気に睨みつけてから、無線を作戦指令室へと繋ぐ。

「こちらアリサです。予定通り、オラクルの暴風壁手前までの、制圧完了。ただ、今後の荒神の発生を予測しかねますので、今連れてきている部隊を残してから帰投します」

『了解した。気を付けてな、アリサ』

無線の向こうからレンカが返事をしてくると、アリサは優しく笑みを浮かべてから返事を返す。

「はい、気を付けます。あなたも、無理はせずに・・」

『あぁ、わかってる』

そう言って途切れた無線のスイッチを切ってから、アリサは今1度、オラクルの渦へと目を向ける。

「・・・私達の極東は、やらせません・・・」

声に出して宣言してから、アリサは踵を返し、極東支部へと戻って行った。

 

 

神機保管庫で自分の神機を見つめながら、ヒロは手の中に握っている、感応制御装置をポケットから出す。

そちらへと視線を落としながら、つい先程にリッカに言われたことを思い返す。

 

『良い?ブラッドレイジは、あくまでも神機のリミッターを解除するだけ・・。君自身の身体能力や動体視力、精神力が上がったわけじゃないことを、良く理解して使ってね。ゴッドイーターであっても、光速で飛ぶ戦闘機に、生身で掴まっていられないのと同じとでも、思ってくれたらいいかな?とにかく、無理はせずにね』

 

全快で使ったわけでは無くても、ブラッドレイジの負担は半端ではなかった。

気絶してしまったのも、そのスピードとパワーに翻弄されたからだ。諸刃の剣だからこその、切り札・・。

ヒロは何度も自分に言い聞かせながらも、どこかで別の覚悟をしながら、大きく深呼吸をする。

(・・・それでも、僕は・・・。ジュリウスを助けるためなら・・)

ヒロが決意を胸に、感応制御装置をポケットにしまったところで、神機保管庫にブラッド隊が入って来る。

「時間だぜ、ヒロ」

ギルが声を掛けてきた言葉に応えるように、ヒロはもう1度深呼吸をしてから、自分の神機を手に取り、仲間へと振り返る。

「・・行こう。ジュリウスを助けに・・」

彼に頷いてから、ブラッドの皆も、自分の神機を認証してから手に取り、ヒロの後へと続く。

それに交じって、リヴィもロミオの神機を手に、彼等と共に歩き始めた。

 

 

現場にブラッドが到着したのを確認してから、レンカは軽く頷いてから、インカムをソーマへと手渡す。

それを装着してから、ソーマはブラッド全体の無線に声を掛ける。

「準備はいいな?まずは目の前のオラクルの暴風壁を、リヴィに『圧殺』の力で、局地的に解除を試みてもらう。上手くいかなかった場合、お前達の神機が一時的に使えなくなるかもしれんが、焦らず・・ヤバければ即撤退しろ。いいな?」

《『了解!!』》

全員の返事を受け取ったところで、ソーマはリヴィへと指示を出す。

「リヴィ、頼むぞ」

『了解です。任務、開始します』

彼女の返事を聞いてから、無線のマイクに落としていた視線を、目の前のスクリーンへと向けるソーマ。

その隣で、レンカも真剣な眼差しで、様子を見守る。

「・・・上手く、いくのか?」

「いかなかったら、その時だ。別の手を考える」

いつも通りの言動のソーマだが、その表情は珍しく緊張の色を見せている。そんな彼に小さく頷いてから、レンカは最悪は自分も神機を握る覚悟を決める。

 

「みんな・・・、良いな?始めるぞ」

そう言って自分から少し離れて位置を構えるブラッド隊に、リヴィは声を掛けてから、手の中のロミオの神機を、目の前へと構えて目を閉じる。

キイィィンッ

ゆっくりと力が神機へと集まり、リヴィの呼びかけに応えるように輝きだす。

それからリヴィは目をカッと開いてから、神機へと声を掛ける。

「私に・・・私達に、力を貸せ!ロミオ!!」

キイィィィィィィンッ!!!

その叫びを合図に、神機は一気に輝きを増して、四方へと光の波紋を放つ。

少しの間を置いてから、リヴィは眩しさに閉じた眼をゆっくりと開いてから、目の前の暴風壁を確認する。

ほんの数秒前まで吹き荒れていた風は、嘘のように消失している。

それからブラッドの皆へと振り返って、皆の様子を伺う。彼女の不安を打ち消すように、彼等が笑って神機を持ち上げてみせると、リヴィも自然と口の端を浮かせてから、無線を作戦指令室へと繋ぎ、口を開く。

「作戦成功。暴風壁は消え去り、ブラッドの神機も無事のようです」

『よくやった。流石だな・・。今から、アリサとリンドウがそっちへ向かう。そこを引き継いだら、お前等は奥の探索へと移れ』

「了解です」

ソーマに返事を返したリヴィの側に、ヒロがゆっくりと足を運んでから、微笑んで喋りかける。

「お疲れ、リヴィ。君がいてくれて、本当に良かった」

「・・・”ロミオがいてくれて”の間違いだ。私は、あいつの力を借りただけだ」

そうそっけなく言ってから、リヴィはシエル達の方へと足を運ぶ。そんな彼女の背中に頷いてから、ヒロはオラクルの渦が消失した、更に向こうへと目を向けて、友の無事を祈るのだった。

 

 

現場に到着したリンドウとアリサは、簡単に引継ぎを済ませてから、改めて周りを警戒しながら、偏食場パルス制御装置を設置するのを見守っていた。

「やれやれ・・。こんなけったいな場所で、サテライト拠点を作るってのは・・皮肉なもんだな」

「正確には、違いますけどね」

リンドウの言葉にツッコんでから、アリサは周辺のチェックを済ませて、彼の隣へと並び立つ。

「済み次第、追いますよね?彼等の事・・」

「当然だろ。なんてったって今回の相手は、自分が失敗した時の事まで想定していた奴だぞ?まーったく、敵ながらあっぱれと言うべきかなぁ」

煙草を吸いながら頭を掻くリンドウに、アリサも同意するように頷いてから、先へ進んで行ったブラッドを心配するように、螺旋の樹の奥を見つめる。

「・・・また、全面戦争になるんですね」

彼女が洩らした言葉に、リンドウは煙草を踏み消してから、自分も螺旋の樹の奥へと振り返り見つめる。

「そうだな。・・・世界を滅ぼす神と、世界を守る人間の・・な」

そう言葉を発してから、リンドウは目の前にヒュッと右手を伸ばしてから、ゆっくりと引っ込める。

「・・?リンドウさん?」

「・・・・いや、何でもない」

アリサが首を傾げる横で、リンドウは踏み消した煙草の横に落とした黒い蝶を、素早く踏みつけてから、忌々し気に眉間に皺を寄せた。

 

 

先を進んだブラッド隊は、大きく拓けた場所に出てから、周りを見渡していた。

今まで毒々しかった景色が、一変して初めの螺旋の樹に似た、澄んだモノになったからだ。

「ふ~ん。中はまだ、綺麗なところもあったんだね~?」

ナナが神機で足元を突ついたりしていると、ギルは壁の外の事を想像しながら、少しだけ気分悪げに顔をしかめる。

「ギル?どうしました?」

シエルに声を掛けられると、ギルは軽く手を上げて見せてから、首を横に振る。

「いや・・・、何でもない。・・・少し、高いところが苦手でな」

「へぇ~?ギルにも、苦手なモノあったんだ~」

「茶化すなよ・・。少しだけだ」

可笑しそうに笑いながら近付いてくるナナに、ギルは軽くおでこを小突いてから、苦笑いを浮かべる。

そんな彼等の様子に笑顔を向けてから、ヒロは先頭を更に前へと進む。

すると・・。

ヒラヒラッ

「・・・黒い、蝶?」

リヴィが口にしたのに反応して、皆がそれに注目すると、

ドバァーーーーっ!!!

その蝶が波のように発生し、全員を覆う様に渦を描き出す。

「くっ!みんな!気を付けて!!」

咄嗟に声を上げたヒロに、皆は神機を前に盾を展開する。

その姿が、大量の蝶で見えなくなってきたと彼が思った瞬間・・・。

世界が、ヒロを中心に黒く染まる。

 

「・・・・みんな?」

盾を引っ込めてから声を洩らすと、ヒロは皆がいない事の不安以上に、背中に悪寒を感じてから、神機を突き出して振り返る。

「・・・・・・・・ふふっ。何をしに来たのかしら?・・・ヒロ」

彼が突き出した刃の先には、妖艶に笑みを浮かべる、ラケルが立っていたのだ。

「ラケル・・博士・・・・」

ヒロが声を洩らすと、ラケルは神機の切っ先手前までゆっくりと歩いてきてから、彼の目を見ながら話し掛ける。

「意外・・・と言う訳では、なさそうね。ソーマ・シックザールさん辺りが、私の復活を想定していたのかしら?」

「・・はい。あなたが、エメス装置によって、散らばった自分の意志を収束させて、形を成しているだろうと・・」

「ふふっ・・、流石ですね。・・・それで?貴方は、何をしに来たのかしら?」

特に驚きもせずに淡々と、ラケルは最初にした質問をヒロへと向ける。

「ヒロ・・・。貴方は、ジュリウスに全てを任せ、彼を一人ここへ置いて行ったのでしょう?『終末捕食』を止められず、彼に頼って・・・」

「・・・・」

「もし、貴方が彼を手放したくなかったのなら、そう願えばよかったものを・・。例えば・・・・ロミオが、生贄に捧げられた時に・・ね」

「っ!!?」

ブンッ!!!

ロミオの名前を出されたことに怒ってか、ヒロは迷わずラケルを斬り付けに掛かる。しかし、刃は空を切り、ラケルは黒い蝶と共に、今度はヒロの横へと姿を形作る。

「ふふふっ、・・・怒ったのかしら?確かに・・私が起こした事。白々しく聞こえるかもしれませんが・・。あの時、ロミオとジュリウスに付いて行けば、ロミオは死なず・・・ジュリウスが黒蛛病を発症させることは、無かったのではなくて?」

「・・・あなたは・・!!」

「図星・・でしょう?ジュリウスがブラッドを去ったのだって、そう。貴方がもっと、彼を留めていれば、螺旋の樹なんてものは・・・生まれずに済んだのかもしれない」

「くっ!この!!」

ブォンッ!!

苛立ちに更に神機を振るうと、同じようにラケルは黒い蝶となって霧散し、今度は彼の後ろへと立つ。

「全ては、私が貴方達に与えた試練・・。でも、人の作為、無作為に関わらず、これまでの事象は、起こりえた貴方への試練」

「・・・勝手な・・事を!」

怒りに肩を震わせながら、ヒロはゆっくりと後ろへと振り返る。

「・・・もう一度、尋ねます。成すべき時に、成すべき事を成せなかった貴方が、・・・・」

そこまで言ってから、ラケルはスッと彼の目の前まで瞬時に顔を突き出して、その真っ赤な瞳を大きく開いて、口の端を嫌らしく浮かせる。

 

「今更・・・、何故ここにいるのです?」

 

「ふっ!!!」

ブォンッ!!!!

胴を斬り裂くように神機を振るってから、ヒロはその勢いで前へと駆け抜ける。

変わらず空を薙いだ音が響き、それに続いて彼女の笑い声が響き渡る。

「ふふふふっ。迷いなく、3度も斬り付けてくるなんて・・。覚悟を決めて・・とでもいうのかしら?ふふふっ」

「くそっ!ラケル!!」

今度は姿を現さないラケルに、ヒロはその名を叫んで辺りを見回す。

しかし、彼女の声以外、確認できるものはなく、黒い世界は蝶となって、ゆっくりと崩れ始める。

「良いでしょう・・。ジュリウスを取り戻したければ、せいぜい足掻いて見せなさい。・・・奇跡は、そう起こるモノでは・・・ないのよ。ふふふふふっ・・・」

「くっそぉ!!逃げるなー!!」

黒い蝶が飛んでいくと、光が彼の周りを包む。

 

身体を揺すられてハッとしてから、ヒロは辺りを見回す。

すると、心配そうにこちらを見てくる仲間達が目に入り、小さく溜息を吐く。

「ヒロ、大丈夫ですか?すごい汗ですけど・・」

「え?・・・汗・・って?」

シエルに言われてから、自分が汗だくになっているのに気付くヒロ。それから、顎に滴る汗を拭ってから、深呼吸をして息を整える。

「・・・何でも・・、無い」

そう口にしてから、ヒロはラケルが言った言葉を思い返して、神機を握る手に力を籠めた。

 

 

 

 





なんか、ホラーですねw

作品となんの関係もありませんが、ソードアートオンラインの劇場版を見に行ってきました。
ハーメルンでもたくさんの方々が題材として書いてらっしゃる、SAO。
今回の映画をまだ見てらっしゃらない方は、是非に御鑑賞いただきたい!
マジで、面白かったですから!

ちなみに、GOODSは初日で売り切れたと言われて、何も買えませんでした。
ちくしょー!!


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