ガシャンッ ガシャンッ
「ひゃーはっはっは!!やったぞー!やってやったぞーー!!」
奇声を発しながら、奥へ奥へと進み続ける九条。
その顔は狂気に満ちていて、とても正常な人間ではなかった。
彼はただ、求めたのだ。想い人の姿を・・・。
「・・・・クジョウさん」
「っ!!?・・・あぁ・・」
求め続けた声の主を見つけた九条は、ゆっくりと神機兵から降りる。そして、ふらふらとした足取りで、彼女の側へと近付いていく。
「この日を・・・どれ程、待ちわびたか・・。ラケルさん・・・、ラケルさーん・・くぅ・・、うっうっ・・」
涙を零しながら、車椅子に座るラケルの膝の上に顔を埋める九条。そんな彼を、優しく撫でながら、ラケルは妖艶な笑みを浮かべてそっと顔を上げさせる。
「私の願い、叶えて下さったのね。ありがとう・・。これで私も、復活することが出来ました」
「貴女の為なら、何だってします・・・ラケルさん」
涙ぐみながら頬を染める九条の頬をそっと撫でて、ラケルは舌なめずりをしながら口の端を浮かせる。
「私も、それなりに運命を感じてました。・・・役に立ってくれて、本当にありがとう。さぁ・・・、1つになりましょう。・・・永遠に、ね」
そう言った瞬間、景色は一気に黒く染まり、彼の身体は徐々にその闇の中に溶けていく。恍惚な笑みを浮かべたまま、九条が消えて無くなると、ラケルはゆっくりと立ち上がり、瞳を青から、赤く染める。
「さぁ・・・、始めましょうか」
螺旋の樹の最上階層。
そこに眠るジュリウスの身体の前に移動したラケルは、ゆっくりとした手つきで、彼を覆っている透明の殻をなぞる。
「あぁ・・、ジュリウス。待っていなさい・・・」
そう言ったラケルは、彼の心の世界へと、意識を潜り込ませる。
ザァンッ!
『はぁ・・はぁ・・、くそ!中々、数を減らせないな・・』
『・・・いつまで抗うつもり?世界は、終焉を求めているというのに・・』
『なっ!?ラケル!?』
『貴方がどれだけ頑張っても、結果は変わらないのよ?』
『黙れ!もう俺は、貴女の言葉に惑わされない!必ずやり遂げて、仲間の許へ帰る!』
『あら、冷たいのね。・・・仲間・・だけなの?なら、この娘はもう・・・いらないかしら?』
『なん、だと!?』
『・・・・ジュリウス、助けて・・』
『ユノ!待て!ラケル!彼女を・・!』
『・・・・・・・ふふっ。もう逃がさない』
『しまっ!!・・・・・・っ!!?』
黒い蝶で覆っていた殻から、ゆっくりと体を離してから、もう1度ラケルは殻に手を当てる。すると、その手は中へとズブリと埋まっていき、奥に眠るジュリウスへと到達する。
「さぁ、私のモノになりなさい。全てを、終わらせましょう・・ジュリウス」
そう言って笑い出したラケルに呼応するように、螺旋の樹は地響きを鳴らして、黒く変貌しだした。
開口部で異変に気付いたヒロ達は、螺旋の樹の方へと振り返る。
すると、螺旋の樹の内部から、荒神が1体・・また1体と、出現し始めたのだ。
「何だ、こいつは!?」
「荒神が、生まれてるの!?」
「この数は、異常だぞ!」
「ヒロ!とても私達だけでは、対処しきれません!」
「くっ!!」
全員が戸惑いに声を洩らしていると、レンカから無線が入る。
『ブラッド!大量のオラクル細胞を感知した!開口部の制御装置を破壊して、撤退しろ!』
「レンカさん、駄目です!今塞いだら、ジュリウスは助けれないし、『終末捕食』も止められない!」
『だからと言って、どうするというんだ!!ヒロ!』
レンカの言葉に、必死に考えたヒロは、ポケットから感応制御システムを取り出して、神機にセットする。
「・・・・僕が、防ぎます。だから、応援を!クレイドルの皆さんをここに!ブラッドレイジも使って、10分はもたせますから!」
『なっ!?馬鹿を言うな!そんなことを・・!』
レンカとの無線を切ってから、ヒロは耳からインカムを外して、シエルに手渡す。
「みんな、撤退だよ。僕が殿になるから、先に行って。クレイドルに応援を要請したから・・」
「駄目です」
ヒロの話を遮って、シエルは目に涙を浮かべながら、自分の無線も切って、インカムを耳から外し、地面へと落とす。
「シエル・・・」
その行動に倣って、ギルも、ナナも、リヴィも、同じように無線を切ってからインカムを捨てる。
「一人でなんて、無理に決まってんだろ?一緒に戦わせろよ、ヒロ」
「ヒロにばっかり、負担をかけたくないよ。あたし達は、家族なんでしょ?ヒロ」
「お前達を守ると、言っただろう?ヒロ・・。どうせ死ぬなら、仲間と共にが良い」
「ギル・・ナナ・・、リヴィ」
三人が笑いながら神機を手に前へ進み出ていくと、シエルが涙を拭ってから笑顔を作り、そっとヒロの手をとる。
「最後まで・・・ずっと、一緒にいさせて下さい。死ぬも生きるも、あなたと一緒が良いんです、ヒロ」
「シエル・・・・・・・、ありがとう」
自分の事を大事に思ってくれる仲間に、ヒロは照れくさそうに笑ってから、自分も神機を構える。
「でも、どうせなら・・・・生きて帰ろう!みんなで!」
そう言ったヒロに、皆笑顔を浮かべてから、声を張る。
《了解!!》
もう100体以上となった荒神の大群を目の前に、ヒロ達は声を上げて走り出す。
《おおぉぉぉーーーーーーっ!!!!》
その時、全員の心を揺さぶる何かが、奇跡を起こす。
キイィィィィンッ
「え?・・嘘!?」
「この感じは・・あいつの!?」
「ありえません!だって彼は・・!?」
「・・・・そんな、まさか!?」
「・・・・ロミオ?」
気を取られてしまったと、皆が神機を構えると・・・。
「・・・・あ・・れ・・?」
荒神の大群は、その場から消えていた。
その不思議な出来事に、皆は気が抜けたように、その場に座り込んでしまった。
「大馬鹿者が!!」
レンカの声が響き渡る作戦指令室で、ブラッド隊は頭を深々と下げていた。
その様子に溜息を吐いてから、リンドウは怒りの治まらぬレンカの肩に手を置く。
「もう良いだろう、レンカ?このままじゃあ、地面に埋まっちまうぜ?」
「これが怒らずにいられるか!?俺は!・・・くそっ!」
リンドウの顔を見て、毒気を抜かれたのか、レンカはブラッドに背を向けて自分のデスクを殴る。
「俺は・・・・こいつ等に、俺のような馬鹿なことを、させたくないだけだ」
「あぁ。わかってるよ・・。後は任せろ」
「・・・・・・・あぁ」
レンカが去って行くと、リンドウが苦笑しながら頭を掻いて、全員の肩を軽く叩いて顔を上げさせる。
「あの・・・・リンドウさん・・」
「昔の自分と、ダブったんだろ。気にすんな・・」
そう言ってから、リンドウはヒロ達について来いと手招きしてから、先を歩き始める。
ブラッドも顔を見合わせてから、リンドウを追って後について行った。
神機保管庫に連れられてきたブラッド隊は、ロミオの神機が保管されてる部屋へと案内され、先に来ていたソーマとリッカに軽く礼をする。
「来たか・・・。空木の説教は終わったのか?」
「あぁ~、俺が終わらせてきた」
「ははっ。リンドウさんが出しゃばっちゃあ、レンカ君も太刀打ちできないよね」
レンカとは打って変わって明るい雰囲気に、少しだけホッとしたヒロ達に、ソーマは軽く息を吐いてから、話し始める。
「今回のお前等の行動・・・。嫌いじゃないが、褒められたことじゃない。・・仲間に救われたことを、ありがたく思うんだな」
「あの・・・すみませんでした。・・・それで、仲間ってやっぱり」
ヒロが代表して質問すると、ソーマは小さく頷いて見せてから、話を続ける。
「気付いたんだろ?お前等を助けたのは、こいつだ・・・。ロミオの神機に残った、あいつの意志が・・・お前等のピンチを救ったんだ」
「ロミオ・・・・。あれは、やっぱり・・」
リヴィが胸に手を当てて目を閉じると、その肩をシエルがそっと抱く。
「あの時、ロミオの血の力が、神機から突然発生した。『圧殺』・・とでも言うべきか・・。正直、危険な能力だがな」
「危険・・・ですか?」
シエルが聞き返すと、今度はリッカが代わって説明を始める。
「ロミオ君の神機から力が発動した瞬間、極東中のオラクル細胞・・・主に神機なんかが沈黙したんだよ。つまり、今回荒神が消えたのも、例のマルドゥークが逃げ出したのも、1時的とは言え、オラクル細胞の活動が停止させられたからなんだって考えに、至ったんだ。下手に使えば、自分の仲間にも影響しかねない諸刃の剣。それが、ロミオ君の『圧殺』の力だね」
「・・・すっごーい」
ナナが素直に感心しているのをクスリと笑ってから、リッカはソーマに話の主導権を返すように、目で合図する。
「今回はロミオの神機のお陰で、開口部を閉じずに済んだが・・新たな問題が起こった。お前等が説教されてる間に、アリサが調べに行ったが・・・・中でオラクル細胞による暴風壁が起こっていたそうだ」
「暴風壁っすか?」
「あぁ。要するに、それ以上先には進めないってことだ」
ギルの疑問にソーマが端的に答えると、何かを察したかのように、リヴィが肩を抱いていてくれたシエルの手から離れて、前に進み出る。
「・・・ロミオの神機に残る意志の力に、頼らねばならないと」
「そうだ・・。俺は強要はしない。どうする?リヴィ」
ソーマとリヴィの会話にハッとさせられたブラッド隊は、リヴィへと注目する。
「迷う事はない、ソーマさん。私が、ロミオの神機を使う」
「リヴィちゃん・・」
ナナが心配そうに寄ってきて、彼女のスカートの裾を掴むと、リヴィは優しく微笑んでから、そっと頭を撫でる。
「大丈夫だ、ナナ。ロミオの神機と共に戦えるなら、それこそ望むところだ」
「でも・・・、リヴィちゃん・・苦しそうだし」
「やらせてくれ。仲間の為に・・」
そう言ってからリヴィは、改めてソーマへと顔を向ける。
「・・・時間の猶予は?」
「わからない。ただ、時間がないとだけ、言っておく」
「了解した。訓練所を借りる。1日程、私に時間を・・」
「・・・あぁ」
ソーマの返事に頷いてから、ゆっくりと前に進み出て、リヴィはガラス越しに固定されている、ロミオの神機を見つめた。
ブラッドが去った後、部屋に残ったリンドウとソーマは、それぞれに携帯端末で連絡を試みる。
しかし、呼び出しのコールすらならず、目的の相手には繋がらない。
「・・ちっ・・。どうだ?リンドウ」
「駄目だな。こっちも繋がらない・・。今回は、マジでヤバいってのにな~」
リンドウが頭を掻いて携帯端末を眺めていると、ソーマは手早くメールを打って送信する。
それから、別の番号を呼び出して、ソーマは連絡する。
「・・・・俺だ。久しいな」
『どうしたんですか?ソーマさんが連絡してくるなんて』
「あぁ。お前に聞きたいことがあってな」
『僕にですか?はい、何なりと!』
「畏まるな・・。ユウとツバキに連絡が取れない。何かあったのか?」
『そう言う事ですか。極東、厄介になってるみたいですね。すぐに連絡をつけます!』
「あぁ。頼んだぞ、フェデリコ」
訓練所に一人籠ったリヴィは、ゆっくり深呼吸をしながら、ロミオの神機を握る手に力を入れる。
ブラッドアーツは何とか使えたが、肝心の血の力は、まだ使えていない。
「・・・・まったく・・、頑固者め」
苦笑しながら声を洩らしてから、リヴィはゆっくりと神機を持ち上げ、目の前に構える。それから、ブラッドの皆に聞いたように、自分の内側から神機へ、そして神機から外へ・・・という力の流れを想像する。
すると・・・。
キィィンッ
「くっ!・・」
少しだけ反応があったのか、立眩みのようなものに襲われて、リヴィは膝をつく。少し息が乱れたが、それを整えるように大きく息を吸って吐き出してから、リヴィは希望の笑みを浮かべる。
「よし・・・・、わかってきたぞ。言う事を聞け、ロミオの相棒」
それから、リヴィは何度も同じように血の力のコントロールに時間を費やした。
実はちょっとウルッときた設定でした。
ロミオ素敵や~って!