GOD EATER2 ~絆を繋ぐ詩~   作:死姫

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57話 開かれた魔窟

 

 

フッと目を開いたヒロは、自分がベッドの上だと気付くのに、少しばかり時間が掛かった。

螺旋の樹の下層に落ちてから、1日。彼の記憶は、気絶したそこで、プッツリと途切れていたからだ。

「・・・目が覚めたか」

「あ・・・、リヴィ」

ベッドの側の椅子に座っていたリヴィが、不愛想ながらも笑って見せる姿に、ヒロも自然と笑顔を見せる。

よく周りを観察すると、シエルとナナは長椅子でお互いに寄りかかって眠り、ギルも壁に背を預けたまま、静かに寝息を立てている。

「・・・皆疲れているのに、お前が目覚めるまでと聞かなくてな」

「そっか・・・。ありがとう、リヴィ」

「私に礼を言われてもな・・。お前の切り札のお陰で、助かったわけだ。礼を言うのはこちらの方だ。ありがとう・・、ヒロ」

リヴィが軽く頭を下げると、ヒロは軽く首を横に振ってから、頭を上げさせる。

三人の寝息を、心地良さげに耳を傾けるヒロを見て、リヴィはゆっくりと立ち上がる。

「では、私はお前が目覚めたことを、榊支部長とフェルドマン局長に伝えてこよう。・・・今は、ゆっくり休め」

「うん。そうするよ・・」

そう言ってリヴィは入口に足を向ける。

しかし、すぐに出て行かずに、少し迷う様な表情を浮かべてから、彼女は再びヒロへと振り返る。

「ヒロ・・・。皆にはすでに話したことだが・・、やはりお前にも伝えておこう」

「ん?なに?」

そう前置きをしてから、リヴィは小さく息を吐いてから、真っ直ぐにヒロを見つめて口を開く。

「・・・・ジュリウスは、生きている」

 

 

医務室を出てからしばらく歩いた廊下の先で、リヴィは設置された長椅子に座るフェルドマンを目にし、近寄って一礼する。

「丁度、お伺いしようと思っていました」

「そうか・・。彼の様子は?」

「今しがた目覚めたところです。最初は多少の記憶の混濁が見えましたが、今は安定し、問題はないかと・・」

「そうか・・。それで、君の方はどうだ?」

そう言われてから、リヴィは右腕をそっと撫でながら、目を閉じて答える。

「ジュリウスの神機との適合は、出来ました。ブラッドアーツも習得したので、こちらも問題ないかと・・」

「その報告は受けている。・・・君の、身体の事を聞いているんだ」

フェルドマンの台詞に少し驚いた表情を見せるリヴィ。しかし、すぐにいつもの冷静な顔つきをしてから、首を横に振って見せる。

「そちらも、問題ありません。先程も申しましたが、安定してますので」

「そうか。ならば・・・、もう聞かないことにしよう」

そう口にして小さく息を吐いてから、フェルドマンは軽く顎を擦りながら、別の質問をする。

「・・ブラッドアーツに目覚めた際に、ジュリウス君が生きていると判断したそうだが?」

聞かれてから、少し考えるように視線を外すリヴィ。それから自分なりの解釈で返事をする。

「彼の神機から、感応現象で読み取れたことから判断しました。彼は、螺旋の樹の中で、戦っていました。それは、おそらく今も・・・」

「・・・ふむ。根拠のないことだが、君がそう言うのであれば・・・信じるしかないな。第2世代以降のゴッドイーターの持つ、感応現象か・・」

再び考えるような姿勢をとるフェルドマンに、リヴィは軽く頷いて見せる。

「報告できることは、以上です。榊支部長にも、ヒロが目覚めたことを伝えるので、私はこれで・・」

「あぁ」

フェルドマンの返事に礼をしてから、リヴィはそのまま廊下を歩き始める。

そんな彼女に、フェルドマンは気にかかったことがあるのか、もう1度呼び止める。

「リヴィ。彼の・・・神威ヒロの、『喚起』の力について・・君はどう思う?」

背中越しに訊ねられたリヴィは、しばらく立ち止まった後、顔だけ振り向かせて答える。

「私には、わかりかねます。・・・血の力・・、彼の意志だという事以外は・・」

言い終わると、リヴィはそのまま歩いて行く。その背中を見送ってから、フェルドマンは自嘲するように苦笑いを浮かべる。

「・・・・嫌われてしまったか、な?」

そう口にしてから、もうしばらく長椅子に座って、今後の事を考えるのだった。

 

 

次の日。

再び集められた極東の主だったゴッドイーター達は、目の前のフェルドマンの言葉に耳を向けていた。

「今回、螺旋の樹の汚染によって、ジュリウス君の特異点反応が消えてしまったのは、皆も承知しているだろう。それについて、我々は議論の末、螺旋の樹の内部調査を早め、螺旋の樹の安定化を試みようと思う」

「・・・螺旋の樹の、安定化ね」

リンドウが息を吐きながら声を洩らす。しかし、それを聞こえなかったかのように、フェルドマンは話を続ける。

「ソーマ博士が回収してきた、螺旋の樹の表面皮を調べたが・・・結果を述べると、良くわからないっと言った状態だ。ただ、人類に何らかの影響は出そうだという・・」

「回りくどいぞ・・」

フェルドマンの話を遮って、黙っていたソーマが前へ出てくる。そんな彼を恐れてか、情報管理局の職員達は身体を強張らせる。

「現場に行くのは、俺達ゴッドイーターだ。情報はわかりやすく正確に伝えろ。『終末捕食』が、再び発動しそうだってな・・」

《っ!!?》

ソーマの言葉に、ゴッドイーター達は息を飲み、フェルドマンは目を閉じてから溜息を洩らす。

核心をついてもなお、喋り辛そうなフェルドマンの代わりに、ソーマは続けて説明を始める。

「俺が採取した螺旋の樹の表面から、微量ながら偏食場パルス特有の反応が検出された。そこから導き出される答えは、中のジュリウスが保つ均衡が崩れつつあるという事だ。つまり・・」

「『終末捕食』が・・・再び、起ころうとしている」

「そういうことだ」

ヒロが口にした言葉に、ソーマは頷いてから答え、フェルドマンへと視線を向ける。そこで、ようやく観念したのか、彼も重い口を開く。

「・・・今の話に、間違いはない。だからこそ、中の調査を急務と考えたのだ。2日後に、準備が整う。そこで、螺旋の樹の開闢作戦を決行する。・・・君達の力を、再び借りたい」

そう言って頭を下げるフェルドマンを見て、皆が戸惑う中、目を細めて静かに怒りを見せるコウタが、彼の前へと出てくる。

「なぁ、あんた・・。もしソーマが言わなかったら、今の事実を俺等に言わないまま、作戦を決行しようとしてたのか?」

「・・・・」

黙って頭を下げ続けるフェルドマンに、その質問に対して「イエス」と判断したコウタは、胸倉を掴んで頭を無理矢理上げさせる。

「あんた等にとって、俺等兵士は使い捨てかもしれねぇ。けどな、こっちは仲間の命がかかってんだ。そういうの、マジでやめてくんねぇっすか?」

「・・・コウタ、よせ」

顔を突き付けて睨みつけるコウタを、レンカが肩に手を置いて引かせる。

その様子に大きく溜息を吐いてから、タツミは黙ったままのフェルドマンに、ブラッドの先頭に立っていたヒロの肩に手を置いてから喋りかける。

「局長さん。今回も、おそらくこいつ等が1番危ない橋を渡ることになるのは、わかってんだろ?取り繕うのは、世界の人達に勝手にやってくれて構わねぇよ。でも今は、関係ねぇだろ?いつまでも、良い恰好すんじゃねぇよ」

「・・タツミさん」

珍しく手を震わせるほど怒っているタツミに、ヒロはそんな状況でないのを理解しつつも、嬉しさに顔を綻ばせてしまう。

タツミの言葉に共感したゴッドイーター達に注目され、黙ったまま動けないでいるフェルドマンに助け舟を出すべく、榊博士が彼の隣まで歩み出て、作戦概要を口にする。

「とにかく、今は一刻を争う事態なんだ。フェルドマン局長の事は、一先ず横に置いておくとして、作戦の内容について私から・・。先ずはジュリウス君の神機に適合したリヴィ君に、螺旋の樹への入り口を開いてもらう。それを、本部から明日届く予定の、開闢ドッグによって広げ、固定する。そこから内部に、神機兵に搭乗した作業員の手で、偏食場パルス制御装置を内部にて設置する。そこから探索を行い、ジュリウス君との接触を試みて、今後の対策を練ろうと思う。質問はあるかな?」

榊博士が視線を巡らせると、皆納得したように頷いて見せる。

「ありがとう。その際、ブラッドは護衛の任で、入り口付近を固めて欲しい。他のみんなには、その周辺と極東の守りを固めてくれ」

「ちなみにっすけど、何処を開くんっすか?」

少し落ち着きを取り戻したタツミが質問すると、榊博士は静かに頷いてから、口を開く。

「・・・・フライアの・・、神機兵保管庫からだよ」

その言葉に、ヒロ達ブラッドは、身体に緊張を走らせた。

 

 

ゴッドイーターの居住エリアの窓から、フライアを眺めるヒロ。

再び古巣が戦場になるのかと思うと、色々な事が頭の中を駆け巡る。それを落ち着けるために、夜の月明かりに照らされるその場所を、目に焼き付けていたのだ。

(・・・いつかは、失くなっちゃうのかな・・。ロミオ先輩のお墓、移せるかな)

思いはロミオの墓石へと切り替わってきたところで、突然彼の視界が閉ざされる。

「・・だ~れだ?」

「へ?え!?・・・えっと・・」

突然の出来事に戸惑っている彼にくすくす笑いながら、目を手で覆い隠していた人物が、振り向かせて笑顔を見せる。

「久しぶり、ヒロ君」

「あ・・、レア博士」

レアの優しい微笑みに、ヒロはつられて笑顔を見せてから、身体ごと彼女に向き直る。

「何時こっちに来たんですか?」

「うん。少し前に、ね。シエル達とはさっき会ってきたんだけど、ヒロ君の姿が見えないから、探しに来たの」

「あはは・・、すいません」

何故か恐縮して謝ってしまうヒロに、レアは再び笑い声を洩らしてから、隣へと並んで立つ。

「今回ね、フェルドマン局長の要請で、有人神機兵のメンテナンスと、偏食場パルス制御装置の管理と監視の為にこっちに来たの。兵士としては・・まだまだだけど、作業用ロボットとしては神機兵も使い道があるってね」

「そうだったんですか。・・じゃあ、しばらくはこっちに?」

「えぇ、そうなるわね。嬉しい?」

「はい!」

素直に返事を返してくるヒロに、レアは慈しみの目を向けながら、小さく息を洩らす。

『家族』を知らないヒロにとって、もうレアは、母親のような存在であり、レアの方も、彼等の母のような気持なのだろう。

「螺旋の樹の汚染の話を聞いた時、私も焦ったわ。・・中のジュリウスの事も心配でね・・」

「はい・・。でも、ジュリウスは絶対生きてます。だから・・、僕は」

ヒロの強い信念を見える眼差しを見つめてから、レアも大きく頷いて見せてから、再び螺旋の樹とフライアに視線を向ける。

「えぇ。助けましょう・・。私達の、家族を・・」

そっとヒロの肩に手を置いてから、レアもまた強い眼差しを見せた。

 

 

作戦当日。

ブラッドに護衛されながら、神機兵が2機、装置を抱えて、作戦域へと到着する。静まり返ったその場所には、多くの神機兵が眠ったまま、保管カプセルに収まっている。

しばらく待っていると、無線からフェルドマンの声が入る。

『神機兵搭乗者、準備はいいか?』

「神機兵α、準備出来ました!」

「こ・・こちら、神機兵β、・・も、問題ありません!」

『よろしい』

その声に聞き覚えがあってか、ギルは眉間に皺を寄せてから、ヒロへと話し掛ける。

「何で、九条の野郎がいるんだ?」

神機兵βの搭乗者を買って出た九条。

螺旋の樹周辺の制御装置の件で、責任を感じた彼が、自ら申し出たことに対し、フェルドマンが特別に容認したのだ。

「来ていることは、昨日レア博士に聞いていたけど・・」

「信用ならねぇな。何か企んでたりしねぇよな?」

疑ってかかるギルに、シエルが横から口を挟む。

「以前の事件の事で言うなら、彼もまた被害者です。汚名返上のチャンスを与えても、よろしいのでは?」

「ふん・・・。お優しいことだな」

ギルがそっぽを向くと、再び無線からフェルドマンの指示が入る。

『ブラッド諸君。不測の際は、よろしく頼む』

「了解です」

『リヴィ、頼む』

「・・了解。皆、離れてろ」

返事を返してから、リヴィは螺旋の樹へと近付いていき、ゆっくりと神機を構える。

「・・・ふぅー・・・」

息を静かに吐き出しながら集中し、それから一気に振り上げて力を籠める。

「・・はぁっ!!」

ザンッ!!

ほんの数秒の沈黙の後、螺旋の樹の表面に大きな亀裂が入り、そこから大きく口が開く。

「・・・任務完了。・・・作戦は成功のようですね・・」

 

 

 

 





いよいよです!
色んな意味で、いよいよです!!!


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