GOD EATER2 ~絆を繋ぐ詩~   作:死姫

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6話 意志の覚醒

 

 

一心不乱。

こんな時に使うべき言葉だろうと、今考えるべきではないことを頭に浮かべながら、エミールは必死の形相で走る。

「何故だ・・・。何故なんだ!?」

沈黙を続ける自分の神機に、問いかけるように叫ぶエミール。

後ろから迫る脅威に立ち向かうには、神機が起動しなければ話にならない。彼の心は騎士道精神を忘れて、ただひたすら疑問を叫び続けるばかりだ。

「何故だ!何故・・ぐわぁっ!!」

ガンッドザーッ!

砂埃を上げて転がったエミールは、もう何も考えれなくなり、ゆっくりと瞼を閉じる。そこへ、容赦ない荒神の1撃が、振り下ろされる。

 

ギィンッ!

 

その爪によって貫けるはずだったと疑問を覚えてか、荒神はゆっくりとした動きで、阻止した人間へと目を向ける。

低姿勢に神機を構えるヒロが、威嚇する様に睨みつけてそこにいた。

 

ギリギリ間に合ったとはいえ、自分一人、劣勢だと思い浮かべるヒロ。

しかし逃げるそぶりは見せずに、その構えのまま踏ん張る足へと力を籠める。

「あの人なら・・・、絶対に逃げない!」

そう言ってから勢いよく突っ込み、ヒロは下から神機を斬り上げる。そのスピードが予想外だったのか、相手も躱せずにいる。

「とった!」

ギィンッ

「な!?ぐぅ!!」

バチィッ!!

斬り裂いたはずの荒神の胸は、その攻撃を弾き、逆にヒロの方が相手の尻尾に吹き飛ばされる。

「ぐ・・・うぅ・・、かはっ!」

体制を立て直そうと咳込んでから、ヒロは神機を杖に立ち上がる。

だが、こっちの攻撃は通らない。

(どうする・・・・どうする・・・)

必死に考えるが、浮かんでくる映像は、エミール諸共荒神に喰い殺されるモノばかり。

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

息が荒くなる・・・。

汗が全身から吹き出る・・・。

絶望に目が見開く・・・。

どうしようもないと、死の覚悟を決めかけたその時・・・。

 

『もし神機を握る時が来たら、大切なものを守るために使うんだよ』

『この力を以って、俺達は世界に蔓延る荒ぶる神に、終止符を打つ』

『選ばれた人間には、特別な力を・・・』

『この神機を振るって、僕の大切なものを・・・』

 

「・・・守る!!」

 

キイィィィィィィンッ!!!

 

 

「何だ?」

「これって・・」

「隊長の時と・・・同じ」

「・・・覚醒、したか」

 

ブラッドの皆に届いた朗報。

それに応えるように、ヒロの神機は赤く、血のように紅いオーラを纏う。そして、

 

「はあぁぁぁっ!!!!」

ザンッ!!!

クゥオォオォォォッ!!

 

剣は荒神の左目を斬り裂き、その巨体を後方へと吹き飛ばす。

「はぁ・・はぁ・・はぁ・・」

すぐに起き上がった荒神だが、ヒロの気迫に気圧されたのか、1歩後ろへと距離を取る。そこに、

ダダダダダッ!!

無数のバレットが、その身を包む。たまらず近くの建物に上ってから、現状を把握する様に伺う。

ようやく到着できたギル、ロミオ、ナナの顔を見て、その後ろでヒロを支えるジュリウスを見る。

その場を劣勢と判断したのか、荒神は自分に傷を負わせたヒロを見つめてから、その場から走り去った。

残されたものは、緊張を解くように息を吐き、立っていられなくなったヒロを支えるジュリウスの一言で、皆笑顔を見せる。

「まったく・・・、大したやつだ」

 

 

フライア2階の庭園に来ていたヒロは、ボーっと景色を眺めていた。

正確には、虚空を見つめていたのだが・・・。

覚醒したおかげで、何とか新種の荒神を退けることが出来たが、自分の実力がまだまだだと思い知らされたので、反省の意も込めて、静かなその場所に身を置いていたのだった。

「・・・おい」

「ん?・・・あ、ギル」

止めていた時間を再開するきっかけとなったギルを見て、口の端を浮かせてから、差し出されたジュースの缶を受け取る。

「ありがと・・」

「あぁ・・」

隣に腰を下ろしてきたギルに倣って、ヒロもプルタブを開けてから喉に流し込む。その様子に安心したのか、ギルは1度安堵の息を吐いてから、真面目な顔をする。

「ヒロ、あまり無茶するなよ。人を守るのも結構だが、自分の命も守るようにしろよ」

「うん。ごめんね・・・」

「まぁ、良い仕事をしたとは、思うがな」

そう言って一気に飲み干すギルを見て、ヒロは目を閉じて微笑みながら、もう一口口に入れる。

しばらく黙った後に、ギルが再び口を開く。

「・・・なぁ。覚醒した・・」

「あぁーっ!!ヒロ、見っけぇ!!」

ギルの声を遮って、ナナが走り寄って来る。その後ろにはロミオの姿もある。

「昨日あんまり話せなかったのに、どっか行っちゃうんだもん。探したよぉ」

「そうだよ!なぁ、なぁ、血の力に目覚めたんだろ?どんな気分だ?力が漲る感じか?」

「あぁ・・うっせぇな」

「おまえに聞いてんじゃ、ないだろ!?」

静かな庭園が、急転騒がしくなる。そんな様子が嬉しいのか、ヒロは笑顔で喜びを露わにした。

 

「なぁ、ヒロの力って、どんなやつ?」

「あたしも知りた~い!」

「・・・俺も、興味がある」

「・・・・・よく、わかんない」

「「「・・・・は?」」」

 

 

研究室に来ていたジュリウスは、ヒロの覚醒のことをラケルに報告していた。

本人も自覚できないと知ると、さしものラケルも顎に手を当て、少し考える仕草を見せる。

「そう・・・。いずれ分かると思いますが、彼自身が疑問に悩まぬように、私の方でも調べてみましょう」

「お願いします。力に目覚めたばかりで、ヒロも不安になってると思いますので」

軽く一礼をするジュリウスの行動に、ラケルは嬉しそうに目を細める。

「仲良くやれてるみたいで、嬉しいわ。彼は、お気に入り?」

「私にとっては、ブラッド皆が特別です」

「そうね。・・・・この子も、きっとあなたの特別になるわね」

「この子・・とは?」

質問を返してから、ジュリウスはラケルの眺めるPCの画面が見えるよう移動する。そこに写っている資料の写真を見て、少し驚いた後に、フッと笑みを浮かべて答えを返す。

「当然です。一緒に育った、妹のような存在ですから」

答えに満足してか、ラケルは資料の名前の部分をなぞりながら、声を洩らす。

「これで・・・・、全員揃ったわ」

 

 

訓練所を借りたヒロとジュリウスは、神機を構えて並び、静かに呼吸を整える。

「いいか、ヒロ。ブラッドアーツは、己の血の流れを早くするイメージを作るんだ。そして、それを神機を握る手に、そこから神機の切っ先まで広げる」

「・・・・うん」

二人の神機の刃が、徐々に輝きだす。それを目で確認できたところで、ヒロはジュリウスを真似て、神機を上段へと持ち上げる。

「それを前方に飛ばすように振り抜き、オーラを飛ばせれば、きっと自由に技を出すことが出来る。いくぞ?」

「・・・・いきます!」

 

ブンッ!ギャァンッ!!!

 

二人同時に振り下ろした神機から、ブーメランのように飛び出したオーラが、設置した障害物を真っ二つにし、ヒロはゆっくりと息を吐く。

「ふっ・・、上出来だ。おまえは呑み込みが早くていい」

「ど、どうも・・」

集中したことに疲れたのか、ヒロは膝に手をついて苦笑する。

「今は自由度にかけるが、訓練を続ければお前の望んだ時に技を繰り出せる。精進だな」

「・・はぁ・・、そうする」

落ち着きを取り戻したヒロが背筋を伸ばすと、ジュリウスは肩を軽く叩いて訓練所の外へと促す。ヒロも大きく息を吐いてから、ジュリウスの後へと続いた。

 

休憩室に入ってから、ジュリウスは静かに口を開く。

「明日・・・、新しいブラッドが配属される」

「そうなの?これで・・・、六人か」

「あぁ」

手に持ったドリンクを口にしてから、ジュリウスはフッと笑みを浮かべて話を続ける。

「それと・・・・。いや、これは明日にしよう」

「え?何?気になるんだけど・・」

聞き返すヒロに対して、ジュリウスは少し悪戯めいた顔を見せてから、空いた缶をゴミ箱に入れてから、出入り口に歩き出す。

「楽しみにしているんだな。・・・訓練、がんばれよ」

「ん~・・・、わかりました」

不満の表情を隠さないヒロに手を振ってから、ジュリウスは部屋を出ていく。残されたヒロは溜息を吐き、ブラッドアーツのイメージを浮かべる為、目を閉じて手を前に構える。

 

部屋に戻る途中、気配を察知したのか、エレベーターの前で足を止める。

「お久しぶりです。ジュリウス・・」

その声に、心の中の予感を核心に変え、ジュリウスは背中越しに声の主へと返事を返す。

「久しぶりだな・・・、シエル。もう着いていたのか」

「えぇ。挨拶もかねて、今日到着するようにしました」

「そうか・・・」

軽く頷いてから、改めて声の主シエル・アランソンの方へ振り向く。

「よく、来てくれた」

「はい。正式にブラッドの隊員として招聘された・・」

「挨拶は明日でいい」

そう言われて、シエルは下げかけた頭を上げ、小さく首を縦に振る。

同じ施設育ちの彼女の変わらない態度に、静かに微笑んでから、ジュリウスは改めてエレベーターへと向かう。

「ブラッドは癖はあるが、良いやつばかりだ。仲良くやってくれ」

「・・・努力、します」

少し戸惑った顔を容易に想像してか、また問題にならないかと心配しながら、開いた扉に入り、ジュリウスはその場を後にした。

 

 

ヘリポートの出入り口で、見送りに来たブラッドに対し、エミールは華麗なポーズを決めていた。

「君達のお陰で、僕は命を繋ぐことが出来た。特に、ヒロ君!君の騎士道によってね!」

「・・・・違います」

おもむろに握った手に力を籠めるエミールに、ヒロは肩を竦めて返事を返す。その言葉が聞こえてないのか、エミールは更に自分の世界で話し続ける。

「僕は、まだ未熟だった。相棒ポラーシュターンも、きっと慢心するなという意味を込めて、僕にメッセージを送ったに違いない。だからこそ、君の永遠のライバルである、僕は立ち上がる!共に騎士道精神を磨く者として、新たなエミール『NEWエミール』として、再び君の隣に並ぶために!!」

「・・・・・」

もう何を言ってもという諦めから、口を噤むヒロ。それに何を納得したのか、エミールは深く頷いて見せてから、ヘリポートへの扉を開く。

「ふっ・・・。『本物の男同士の友情に、別れの言葉は無い』ということだね。ならば!僕も黙って行こう!再会の、輝く未来まで!!」

ヘリの風圧で扉が閉まると、エミールの高らかな笑い声は聞こえなくなる。それに合わせて、ブラッドは踵を返してその場から離れる。

「最後まで、やかましい奴だったな」

「そうだね・・・」

「でもぉ、きっと良い人だよ!」

「そうだな」

「ヒロは永遠のライバルなんだろ?な~んか、大変だな」

それぞれの感想を言い合いながら、明日に備えて皆部屋へと戻って行った。

 

 

 





ヒロの覚醒!

そして、次回にやっとブラッド終結です!



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