GOD EATER2 ~絆を繋ぐ詩~   作:死姫

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56話 闇を照らす金色の翼

 

 

螺旋の樹の体皮を、いくつか採取し終えたソーマは、軽く息を吐いてから、それを鞄へとしまう。

そこへ、

ガシャンッ

「・・・あ?」

頭の上の方から、神機兵が降って来る。

「ソーマさん!」

「こんのー!!」

ギルとナナは咄嗟に神機を構えて、ソーマを助けにと走り出す。

しかし、二人がそこに辿り着く前に、神機兵は上半身を吹き飛ばし、残った足だけがその場に崩れ落ちる。

「・・・ほぅ。ブラッドアーツってのは、いよいよ便利だな」

《・・・・》

自分の振るった神機を眺めながら、ソーマはゆっくりと立ち上がり、元来た道を歩き出す。

「ギルバート。ヒロと連絡を取れ。こっちの作業は、終了したとな」

「あ・・、はい」

「ソーマさん・・・、すっごーい」

指示を出されたギルが連絡を取り出すのを確認してから、ソーマはナナの頭を軽く撫でる。

少し歩みを進めたところで、ギルがソーマへと声を掛けてくる。

「ソーマさん。向こうも、神機兵と接触したみたいです」

「そうか・・。荷物を置いたら、一応応援に移動するか。お前等は、先に行ってろ。後で追いつく」

「「了解!!」」

二人の背中が遠のいていくのを見ながら、ソーマは帰りの合流地点へと歩みを進めた。

 

 

ギィンッ!

「ぐぅ!」

神機兵の振り下ろした刃を、ヒロが受け止めて踏ん張る。その隙に、リヴィが後ろに回って背中へと一閃する。

「はぁっ!!」

ザァンッ!!

弱冠の暴走が見られる背中のAI部分を斬り付けられ、神機兵は膝を崩す。そこへ、シエルがバレッドを放ち、ヒロとリヴィは同時に離れる。

ドンッ!! ブゥゥーーン!

眼の光が消え、神機兵が沈黙すると、ヒロ達は息を吐いて肩の力を抜く。

「お疲れ様です。では、移動しましょう」

「そうだね。リヴィは、大丈夫?」

「問題ない」

そのまま移動を始めたところで、三人は妙な音にその足を止める。

ズズズズズズズズズッ

「・・・・何か、来る」

リヴィの言葉に、再び神機を構える。

しかし、その向かってくるモノを目にして、三人は驚きに表情をしかめる。

「・・あれは・・・、あの時の!?」

シエルの叫びと共に、皆一斉に踵を返して走り出す。

螺旋の樹を形成する触手の波が、こちらを飲み込もうと迫ってきたのだ。

「何なんだ、あれは!?」

初めて目にしたリヴィに、ヒロとシエルが簡単に答える。

「あれは、『終末捕食』が起こった時に出てきた・・・・いわゆる、螺旋の樹の基になったモノだよ!」

「飲み込まれると、おそらく死にます!」

「・・・厄介だな!」

徐々に早くなってくる波のスピードに、リヴィは苛立ちを口にする。

そこで、目についた螺旋の樹の汚染された根元を目にしてから、ヒロへと声を掛ける。

「ヒロ!あれを倒して足止めする!私は左、お前は右だ!」

「了解!」

声を掛け合ってから、リヴィとヒロは左右へと飛び、螺旋の樹の1部を斬り付ける。

「はぁっ!!」

「ふっ!!」

ザァンッ! ザンッ!!

倒れたそれらが妨害となってか、波は一気にそのスピードを緩める。それを機にと、走る足に力を込める三人。

しかし・・・。

ゴゴッ ゴゴゴゴッ

「なっ!?」

足元が急に割けだし、それを目にしたヒロは思わず声を洩らす。

更に、そのひび割れは、リヴィの足元へと広がっていき、ヒロはそこへと足を向ける。

「リヴィ!跳んで!」

「何!?・・くっ!」

バキバキバキィッ!!

その声と同時に、裂け目から足元が崩れ落ちていき、リヴィは大きな穴へと吸い込まれていく。

それをさせまいと、ギリギリ手を取ったヒロが、神機を残った地面へと突き立て、握った手に力を入れる。

「ぐ・・・・くぅっ!!」

「くっ・・・、私を離せ!そうすれば、お前だけでも!」

「い・・・嫌、だ・・」

リヴィの提案を断り、必死にリヴィを持ち上げようとするヒロ。目の端には、シエルがこちらへと助けに向かってくる姿が映る。

それで気が抜けた瞬間、ヒロの神機を握っていた手は、汗でするりと抜けてしまう。

「く・・っそ!ごめん!」

「仕方ない!着地に備えろ!・・シエル!皆に連絡を・・!」

「ヒロ!!リヴィさん!!」

シエルが辿り着いた頃には、ヒロとリヴィの姿は、穴の奥深くの闇の中へと消えていた。

愕然と膝をつくシエル。そこへ、ギルからの無線が入る。

『こちらギル。シエル、ヒロと連絡が取れねぇんだが、何かあったか?』

「・・・ギル。応援を・・・、早く来てください!リヴィさんが・・、ヒロが!」

 

 

『・・・・お前には、何もない。だからこそ、英雄になれる!』

(・・・・また・・・、夢?)

『さぁ・・・・全てを、受け入れるんだ。全てを・・』

(・・・・何だろう・・・。すごく、嫌だ・・)

『さぁ・・さぁ・・、さぁ!!』

(嫌だ・・・・・・、やめて・・)

 

『受け入れるんだ・・・・。化け物!』

 

 

「はっ!!?」

勢いよく起き上がったヒロは、全身から噴き出した汗に寒気を感じながら、ゆっくりと周りを見回す。

「気が付いたか?」

声を掛けられ、そちらを向いてから、それがリヴィだっと理解すると、安心したかのように息を洩らす。

「うなされていた様だが、大丈夫か?」

「・・・うん。大丈夫・・、っ痛!」

笑って見せたところで、ヒロは自分の身体に走る激痛に顔をしかめる。それを気遣う様に、リヴィは側によって肩を抱く。

「無理はするな。あばらが2本ほど折れていた。固定はしてあるが、しばらく動かない方が良い」

「くぅ・・・ご、ごめんね。・・足引っ張っちゃって」

「謝ることはない。私こそ、足元が厳かだったばかりに、お前を巻き込んでしまった。その上・・・・、お前の神機が・・」

それを聞いてから、ヒロは自分が神機を手放してしまったことを思い出す。手から離れてしまった相棒を思いながら、手を握っては開いてみて、ほんの少し寂しい気持ちになる。

「もし・・・戦闘になったら・・」

「気にするな。皆の救援が来るまで、私が守ってやる」

「心強いね・・」

少しだけ笑みを見せたヒロに小さく頷いてから、リヴィは無線を繋ごうと試みる。しかし、ザーッと音がするだけで、誰からの反応もない。

「やはり・・、無線は駄目か。結構下に落ちたようだしな・・」

「そっか・・。じゃあ、上のみんなに期待して、動かない方が良いよね」

「そのようだな・・」

短い会話を済ませてから、リヴィはヒロの隣へと腰を落ち着ける。

そんなリヴィに後を任せるように、ヒロは身体を横にして楽な姿勢を取り、折れたあばらの負担を軽くしようとする。

そこで、ふと気になってか、ヒロはリヴィの右腕にまかれた包帯に視線を向ける。

「ねぇ、リヴィ・・・。その・・、右腕って・・」

「ん?・・あぁ、これか?別に大したことはない。昔から、何度も神機適合の実験をされていてな・・。あまり、人の目に見せて気持ちいいものではないだけだ」

「そ・・そうなの?」

「あぁ。興味があるなら、見るか?」

そう言って、おもむろに包帯を取ろうとするリヴィに、ヒロは起き上がって必死に手を振る。

「いやいやいや、良いよ!?」

「そうか?・・・そういえば、ロミオにも嫌がられたな。別にお前達になら、見せても構わないんだが・・」

「見たくないよ!怖いよ!あっ・・痛ぅ・・」

「騒ぐな。傷に障るぞ?」

「う・・・、はい」

リヴィの言葉に、ヒロは大人しくもう一度横になろうとする。

だが、そこで異変に気付き、ゆっくりと立ち上がる。当然、リヴィも気付いてか、神機を手に構え、ヒロの前へと出る。

「・・・最悪のタイミングだな。私も、まだジュリウスの神機への適合が不完全だというのに・・」

「くそ!僕は、神機事態ないのに・・」

文句を口にしながら、二人が身構えていると、それはゆっくりと闇の奥から姿を現し、彼等を標的にして声を洩らす。

グルルルッ!

背中から大きな腕を2本前へと伸ばし、四肢を大きく踏ん張ってから、二人へと声を上げる。

グアォォォーーーーーッ!!!

「・・・新種か」

「本当に・・・、最悪だね」

黒い体表面に、骨のような鎧を纏った荒神が、二人へと襲い掛かろうと、体重を前に低く構えた。

 

 

底の見えない穴を覗き込みながら、ブラッドの面々は途方に暮れていた。

どうやって降りるか、二人は無事なのか・・・、と。

「どうすれば・・」

「くそっ!ロープでどうにかって、レベルじゃねぇし・・」

「思い切って飛び込んでも、どうなるかわかんないし・・」

三人が迷いを口にしていると、黙っていたソーマが、覚悟を決めたように息を吐いてから、そちらへと振り返る。

「リンドウに救援を要請してる。とにかく、俺達はヒロ達を迎えに行くぞ。万が一・・、あいつ等が荒神と遭遇してるなら、助けは必要だろうしな」

そう言ってから、ソーマはヒロの神機の前まで移動する。それに思い当たることがあってか、シエルは声を洩らす。

「ソーマさん・・、まさか・・」

「黙ってろ。・・・俺も、初めてだからな。後は頼むぞ・・。っ!!」

大きく深呼吸をしてから、ソーマはヒロの神機へと手を伸ばし、その持ち手を掴んだ。

グジュッ バキバキッ!

 

 

ギィンッ! キンッ!!

「くぅ・・・、本当に・・厄介だな!」

実質リヴィは一人で相手をしながら、敵に対して文句を洩らす。

背中からはやしているもう2本の腕は、神機のように刃を形成し、スピードに乗せて風の如く斬り付けてくる。

ヒロも陽動になればと動いてはいるが、荒神は神機に反応する様に動いていて、あまりヒロの方へは意識を向けてはこない。

「賢いね!こんな時に・・、感心なんかしたくないけど!」

「ヒロ!あまり無理はするなよ!?」

攻め込めきれない二人は、とにかく声を掛け合ってと、何とかお互いの士気を保っている。

だが、それを嘲笑うかのように、荒神はその場で回転して、竜巻を起こしてリヴィを吹き飛ばす。

ギャァンッ!

「ぐあっ!!」

「リヴィ!!」

吹き飛ばされたリヴィを庇って、ヒロはその体を受け止めてから、壁に打ち付けられる。

「あ・・・がはっ!!」

「く・・馬鹿者・・。私を庇って・・」

衝撃に動けないでいると、荒神はゆっくりと近付いてきて、背中の腕から刃を覗かせ、貫こうと眼を光らせる。

それをさせまいと、ヒロはリヴィを庇う様に前に立ち塞がり、乱れた息を整える。

「・・く、そ・・。どけ・・ヒロ」

まだ立てずにいるリヴィの声に、ヒロは首を横に振ってから、前を見据える。

「諦めない・・・。僕は、誰の命も・・・もう、諦めないって誓ったんだ。だから、・・・仲間には手出しさせない!!」

「ヒロ・・・・」

「・・・なら、こいつが必要だろう」

ヒロの叫びに応えるように、何処からかリヴィとは別に声がしたと思った矢先に、

キィィンッ!

ヒロの前に神機が降って来る。

「っ!!?これは・・・僕の・・」

おそるおそる手にした神機を持ち上げると、上層からシエル、ナナ、ギルと順に降り立って、荒神へと神機を構える。

「みんな・・・」

声を洩らすと、隣に左腕を押さえながら、ソーマが歩み寄る。

「助けが必要だろうと思ってな・・。だが、俺は暫く無理だが・・」

「ソーマさん・・。まさか、僕の神機を!?」

左腕の袖が割けて、火傷を負ったような痕を見て、ヒロは驚きの声を上げる。それに応えるように、ソーマは苦笑しながらその場に座り込む。

「ユウの奴を真似てやってみたが・・・・、2度とごめんだな」

「・・・ありがとうございます」

そう言ってから、ヒロは自分の身体の状態と、状況を加味して、シエル達に声を掛ける。

「みんな!1分でいいから、僕に時間を!!」

「はっ!来て早々、注文かよ!・・わかったぜ!」

「1分でいいの!?りょーかい!!」

「了解しました!」

三人が荒神へと駆け出すと、ヒロは自分の懐から感応制御システムを神機へとセットし、自分の血の力と呼応させる。

「・・・みんなの血の力と連動、リミッター解除時間は30秒、神機との感応率クリア・・・・。リッカさん、切り札・・・使います!」

「・・・ヒロ、お前・・・」

ソーマの声に頷いてから、ヒロはリヴィへと声を掛ける。

「リヴィ・・・。後は頼むよ」

「ヒロ・・・、何をする気だ?」

その言葉に返事をせず、ヒロはゆっくりと前へと進み出て、神機を前に構える。それを見て何かを察したのか、ソーマが戦闘中の三人に叫ぶ。

「お前等!そこから離れろ!!」

「へ?」

「何だ?」

「・・ヒロ?」

ソーマの声と、ヒロの姿を確認してから、全員戦闘を中断して、荒神から距離を取る。

そして、ヒロは神機のコアに浮かび出た結晶に力を込めるように、手の中の神機に力を籠めて、口を開く。

「・・・『ブラッド・レイジ』発動」

パキンッ ドオォーーンッ!!!

その瞬間、結晶は弾け、ヒロの右腕と背中から金色のオーラが溢れ出して、彼の身体の周りで小さな嵐を起こす。

「はあぁぁぁーーーっ!!!!」

溢れる力に身を任せて、ヒロは声を張り上げながら、荒神へと走り出す。

それは、まるで光の線を引いていくが如く、荒神は抵抗できずに斬り刻まれていく。

ザシュッ! ザンッ! キィンッ! ザシュゥッ!!

「ああぁぁぁーーーーーっ!!」

グッガガッ ガァァーーッ!!

閃光となったヒロに成すすべなく、荒神は身体を斬り裂かれ、遂には背中の腕も斬り飛ばされ、その場に倒れ伏せる。

「なんだ、こりゃ・・」

「すっごーい。ヒロ、羽が生えてるみたい」

「これは・・、一体・・」

その圧倒的な力に、誰もがこのまま決まると思った瞬間・・。

「・・・っ!!?ぐ・・うぅ・・、あ・・」

パッァン!!

《っ!!?》

ヒロから発していた金色のオーラが、音を立てて消え、そのまま彼は倒れ伏せる。

「ヒロ!?どうした!?」

「どうしちゃったの!?」

「限界・・・?ヒロ!?」

「ちっ!・・・、元のダメージがデカすぎたか」

ヒロが倒れたのを隙と見たのか、荒神は震えながらも体を起こし、そのままヒロへと突進しだす。それに意表を突かれたと、誰もが焦っている中、リヴィが口の端を浮かせながら神機を構えて迎え撃ちに掛かる。

「・・後は、任されたぞ。ヒロ・・」

そう言って飛び込んでいったリヴィに、ジュリウスの神機から映像が流れ込む。

キイィィィンッ

(くそ・・・こんな時に・・)

一瞬顔をしかめたリヴィだったが、その映像に目を見開いてから、口を開く。

『友が・・・帰りを待っている。だから、邪魔をするな!はぁぁーーーっ!』

「ジュリウス・・・なのか・・」

一人荒神へと剣を振るうジュリウス。そんなジュリウスと同調したように、リヴィは神機を構えて声を洩らす。

『「ブラッドアーツ、『疾風の太刀・鉄』」』

ザシュザシュザシュザシュザシュッ!!

駆け抜けた斬撃によって、荒神はその体をゆっくりと地面に沈める。それをチャンスと、シエル達は一斉に捕食しコア回収を始める。

自分の握ったジュリウスの神機を見つめながら、リヴィは倒れたヒロの側へと歩み寄ると、他の皆も集まってくる。

シエルがヒロの様子を見てから、気絶しているだけだと笑顔を浮かべると、全員が胸を撫で下ろす。

「・・・・まったく、大した奴だな。お前は・・・」

ソーマの言葉に、全員が優しく微笑んだ。

 

 

 

 





少しの間お休みしてましたが、来週からまた加速していきたいと思います!



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