GOD EATER2 ~絆を繋ぐ詩~   作:死姫

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55話 狂い始める歯車

 

 

『まずはこの極東において・・・、皆さんと共に人類の新しい1歩を踏み出すことを、喜ばしく思います。ご存知の通り・・あの螺旋の樹は、ジュリウス・ヴィスコンティ元大尉の尽力によって、『終末捕食』をあの場に安定させ、留保し続けている。正に、奇蹟の産物と言えます。つまり・・・、我々人類は、『終末捕食』の脅威から・・・、永久に解放されたのです!』

《ーーーっ!!!》

 

 

極東の会議室でモニタリングしていた研究員は、フェルドマンの言葉に感心の声を洩らす。

「流石局長だな・・・。言うことが違うぜ」

「だなー。・・・ん?」

その一人が、モニタリング中の偏食場パルス制御装置の1つを見て、首を傾げる。

「なぁ、また5番の制御装置の波形、おかしくなってないか?」

「はぁ?・・いや、ノイズが入りやすい場所だって、九条博士が言ってただろう?波形が見えてるうちは、荒神に配線を齧られたりしてねぇよ」

「そ、そうか・・」

そこで気にするのを止めた研究員は、再びフェルドマンの演説に視線を向ける。

しかし、状態を表す波形は、どんどんと大きくうねり出す。

 

ズズズズズズズッ

バキンッ!!・・・・

現場に設置された例の5番の制御装置は、赤く染まっていき、そして・・。

バキャァッ ズガガガガガガッ!!!

黒い触手のようなものを伸ばして、螺旋の樹の根元へと張り付く。

 

『よって我々、フェンリル本部は・・・あの輝かしい人類の至宝を、『聖域』として認定し・・・未来永劫、安全に管理していくことを、ここにお約束します!』

《ーーーーーーっ!!!!》

 

グジュグジュッ バキュッ

ズズズズッ

黒い触手に取りつかれた螺旋の樹は、そこからゆっくりと紫色に毒されていく。

そして・・・・。

 

 

ガァーーーーーーーンッ!!!!!

 

 

「なっ!?ぐわっ!!」

「ちっ!頭を下げろ!!」

「うわっ!じ、地震!?」

「ヒロ!そのまま、伏せて下さい!」

「なんて・・タイミングだよ!」

「ナナ!私から離れるな!」

「わわわっ!う、うん!!」

「サクヤ!掴まってろよ!?」

「この状況じゃあ、死んでも離さないわ!」

 

突然の地震が治まると、フェルドマンはゆっくりと立ち上がる。そして、目の前に見えたモノに対し、驚愕の表情を浮かべる。

「・・・・何だ・・、これは・・」

その台詞は、おそらく目にした者全てが思ったであろう。

ついさっきまで、穏やかに呼吸をしているように見えた螺旋の樹が、その姿を毒々しい紫色の悪魔の手のように変化させていたのだから・・・。

それを目にしたソーマは、すぐに立ち上がり、会場を出ていく。それと入れ替わりに、管理局の者が、フェルドマンに駈け寄り、何やら耳打ちしている。

それを聞き終えたフェルドマンは、強い口調で指示を出している。

状況の変化についていけないでいたヒロは、隣のシエルへと視線を向ける。すると、シエルは驚きに眼を見開いた状態で、静かにブラッドだけに伝える。

「今、管理局の方が・・・・フェルドマン局長に耳打ちした言葉を、読唇しました。・・・・・制御装置で確認できていた・・・ジュリウスの生体反応が・・・消失、したと・・・」

《っ!!!?》

平和の象徴とされるはずの螺旋の樹は、たった数分で・・・恐怖の象徴へと変わった。

 

式典に呼ばれていたユノは、ゆっくりとした足取りで、螺旋の樹を見渡せる位置まで移動する。

その禍々しい姿に、肩を震わせながら、ユノは想い人の名を口にする。

「・・・何なの・・これ・・。ジュリウス・・・、嫌よ・・」

 

 

ガァンッ!!

「ぐぅっ!!」

式典が中断されたので、ヒロ達は話を聞こうとフェルドマン訪ねて大会議室へと駆け込んだ。そこで、フェルドマンはソーマに胸倉を掴まれて、壁へと押し付けられているのを目にする。

「ソーマさん!」

「き、貴様!何を!?」

「黙ってろ・・」

殺気をぶつけて、ブラッドと管理局の職員を威嚇すると、ソーマはその鋭い眼光を、フェルドマンへと向ける。

「御大層に並べた、細心の注意とやらが裏目に出たな。どうするつもりだ?あぁ!?本部の犬が!!」

「ぐっ・・うぅ・・。申し、ひらきも・・ない」

「これでもまだ!極東が原因と言い張るのか!?」

「うっ・・・・・、が・・はっ・・」

息が苦しくなってきたのか、フェルドマンは足をばたつかせて、口から泡を吹きだす。

それを止めさせようと、遅れて到着したリンドウが、ソーマの腕を掴んで声を掛ける。

「その辺で良いだろう、ソーマ。お偉いさんが、死んじまうぞ?」

「・・・・・・・ちっ!」

舌打ちをしてから、ソーマは掴んでいた手を離し、その場にフェルドマンを落とす。それから、何度も咳込んでいる彼を見下ろしてから、「ふん」と鼻を鳴らす。

「・・・・2度と、極東を悪く言うな。生きてる人間に恨み言が必要なら、前支部長の息子の、俺に言え」

そう吐き捨てると、ソーマは苛立ちを押さえるために、離れた場所の壁に背を預けて、静かに目を閉じる。

ソーマが落ち着いたのを見て、リンドウは面倒くさそうに頭を掻いてから、フェルドマンの前に屈む。

「手は貸しませんぜ、お偉いさん。ソーマの言う事には、俺も一理あるんでね」

「・・・・承知・・・げほっ・・、している・・」

そう言って立ち上がると、フェルドマンは上着の襟を整えてから、ふらつきながらもスクリーンの前へと移動する。

「まずは・・・、状況を確認だ。・・・現場の、様子は?」

彼に聞かれて、研究員達はすぐに操作盤をせわしく打ち出す。そして、衛星カメラの映像を呼び出してから、説明へと移る。

「現在、確認できることだけを説明します。螺旋の樹は何らかの事象により変貌。その原因の1つに、例のノイズを発していた5番制御システムが関与していた模様。それと、螺旋の樹内部で確認できていた、ジュリウス元大尉の特異点反応が消失。全ての問題が、なぜ起こったかは、今のところ特定できておりません」

「・・・・そうか」

説明を聞いてから、フェルドマンは何度か頷いて、それから駆け込んできたブラッドとリンドウ、ソーマに視線を向けてから、話し掛ける。

「・・聞いた通り、今は何もわからない状況だ。原因究明のためには、現場に赴くしかない」

《・・・・・》

全員が黙っているのに対して、フェルドマンはゆっくりとした動作で、頭を深く下げる。

「力を、貸して欲しい。ゴッドイーター・・。極東の為・・・・世界の、為に」

皆思うところがあるのか、中々返事を出来ずにいると、ソーマが会議室の出入り口に向かって足を進めながら、口を開く。

「・・なら、2つ約束しろ。1つは、現場の判断は、俺達ゴッドイーターに一任すること」

「わかった。・・・2つ目は?・・」

聞かれてから、ソーマは足を止めて、フェルドマンへと振り返る。

「今回の螺旋の樹の事が治まったら、情報管理局の局長であるお前の権威で、全ての真実を人類に公開しろ」

「っ!!?・・・そ、れは」

驚いて答えを迷うフェルドマンに、ソーマはフッと笑みを見せる。

「・・・冗談だ。出来ない約束を取り付けても、何の意味もない。・・2つ目は、ジュリウスを助ける方法を、全力で考えろ。以上の2つを飲めば、少なくとも・・・俺とブラッドは、協力してやる。それで、良いか?」

「あ・・・」

話を振られたブラッドは、全員が希望をその目に浮かべて、深く頷く。そんな彼等を見て、フェルドマンは改めて頭を深々と下げる。

「委細承知した。・・・ありがとう」

「ふん・・・・。今の言葉、忘れるなよ」

そう言って、ソーマはブラッドを促して会議室を出る。ソーマに頷いたブラッドも、フェルドマンに一礼してから彼の後を追って、出ていく。

その場に残ったリヴィとリンドウは、1度顔を見合わせる。それからリンドウが、リヴィに「お先に」と促したので、リヴィが先に要件を口にする。

「局長。ならば、私はブラッド共に行動する。・・ジュリウスの神機を、適合させます」

「・・・任せる」

フェルドマンの言質を取ってから、リヴィはブラッドを追ってすぐに出ていく。

そんな彼女の背中を見送ってから、リンドウは無線を繋いで話し掛ける。

「レンカ・・。極東の全ゴッドイーターに伝えろ。変貌した螺旋の樹の調査に、協力しろってな」

『わかった。すぐに伝える』

レンカの声が洩れ聞こえると、フェルドマンは驚きの表情でリンドウを見る。

「・・・リンドウ君」

「あんたの為じゃないぜ。極東と、世界の為だ。独立支援部隊クレイドル隊長代理として、当然の判断をしたまでだ」

そう言って煙草を咥えてから、リンドウも出入り口へと歩き出す。だが、途中で思い出したように振り返って、フェルドマンに笑いながら忠告をする。

「あ、そうそう。ソーマとの約束、ちゃんと守って下さいよ~。うちの隊長は、怒らせるとソーマより怖ぇっすよ?」

「・・・ふっ。だから、本部は彼を煙たがっている」

その答えに満足そうに笑ってから、リンドウは手をひらひらと振ってから、その場を後にする。

 

 

ヒロと共に、フライアの庭園を訪れたリヴィは、ジュリウスの神機の前に立つ。

「本当に・・・大丈夫なの?」

「痛むのは、最初だけだ・・」

そう笑って見せてから、リヴィはジュリウスの神機に手をかける。

そして・・。

グジュウッ! バキバキッ

「くぅ!!」

一気に引き抜くと、リヴィは右手から黒い骨格のようなものを発しながら、強く目を閉じて集中する。

それがゆっくりと治まっていくと、徐々に呼吸を整えてから、ヒロへと顔を向ける。

「完全・・・とまではいかないが、適合した」

「そっ、か・・」

安心した表情を浮かべるヒロを先にと促してから、リヴィは大きく深呼吸をして、ロミオの墓石へと声を掛ける。

「・・・・ロミオ、行ってくる」

それから、変貌した螺旋の樹を見上げて、強い眼差しのまま庭園を後にする。

 

 

螺旋の樹周辺にやってきた、ブラッドとソーマは、変わり果てた螺旋の樹の根元を観察する。

「こいつは・・・、どうなってやがんだ?」

「ギルバート、下手に触れるなよ。サンプルの採取は、俺がやる」

触れようと手を伸ばしていたギルを注意して、ソーマはゴム手袋を装着して、慎重に表面をはがして、ガラス瓶に入れていく。

「・・・2班に分かれるか。俺とギルバートにナナで、周辺の調査をする。ヒロはシエルとリヴィを連れて、この近辺に荒神がいないか警戒してくれ」

「わかりました!」

ヒロがリヴィとシエルを連れて駆けていくと、ソーマは今度はナナへと注意する。

「ナナ・・。こいつは食っても、美味くないぞ?」

「あーーっ!ソーマさんが、意地悪言うー!!」

「ははっ」

ナナが剥れて言い返すと、ギルは思わず声を出して笑う。そんな二人に、ソーマは手荷物と神機を担いでから、声を掛ける。

「行くぞ。もっと奥に踏み込んでみる」

「了解っす!」

「りょーかーい!!」

三人は変色した根を躱しながら、奥へと足を進めた。

 

少しひらけた場所から、ヒロ達は螺旋の樹に向かって歩みを進める。

周りを見渡したが、今のところ荒神は確認できず、簡易のオラクルレーダーにも反応はないので、螺旋の樹を確認しようと思ったのだ。

ただ、移動中もリヴィは時折苦しそうに顔を歪めるので、休み休みに移動をしている。

「・・・一旦、引き返そうか?」

リヴィを見ていられなくなってか、ヒロがそう提案すると、シエルも頷いてリヴィの汗を拭く。

「そうですね。リヴィさんの適合率が不完全という状態で、これ以上進むというのは・・」

「・・・・心配性だな、お前達は」

リヴィは苦しげにも笑顔を見せてくる。しかし、これ以上は本当に危険だと思い、ヒロはリヴィの腕を肩に回す。それに倣って、シエルも反対側の腕を自分の肩に回して支える。

「・・・一人で、歩ける」

「駄目です。私達はもう、仲間なんですよ?」

「うん。支え合っていこうよ」

「・・・ロミオみたいなことを」

少し照れくさそうに俯いてから、リヴィはそのまま足をゆっくりと動かす。

そのまま無線で連絡を取ろうと、ヒロが操作しようとした瞬間・・、

ガァンッ! ガシャン

「な・・・・、嘘でしょ?」

螺旋の樹の張った根の上から、赤く発光した神機兵が、姿を見せたのだ。

「神機兵・・・。何故、こんなところに・・」

「ラケルの無人型か?・・・これは、帰してくれないようだな」

三人はすぐに距離を取って構えて、神機兵へと臨戦態勢に入る。

リヴィは苦しみながらも、ジュリウスの神機を構えて、ヒロとシエルに声を掛ける。

「・・こいつの性能は、どの程度だ?」

「ジュリウスの戦闘データが、移植されてますので、通常の神機兵よりは・・」

「でも、模造品だしね。ジュリウスのように、考えたりは出来ないよ」

「・・了解した。つまり・・・私達より弱い、でいいな」

リヴィの言葉に笑みを浮かべてから、ヒロは二人へと指示を飛ばす。

「シエル!バックアップよろしく!リヴィは右、僕は左!」

《了解!!》

ヒロが駆けだしたのに合わせて、シエルとリヴィも、それぞれの役割の為、走り出した。

 

 

 

 





少しローペースになってますんで、申し訳ないです。

来週もちょっと遅めにアップすると思いますんで、そのように・・。



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