GOD EATER2 ~絆を繋ぐ詩~   作:死姫

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54話 人類の聖域

 

 

極東支部、大会議室。

集められた各部隊の隊長、副隊長は、巨大モニターの前に立つ榊博士とフェルドマンの前に並ぶ。

同席するレンカとソーマに頷いて見せてから、榊博士は口を開く。

「皆、集まったようだね。それでは、フェルドマン局長」

「はい・・」

榊博士に代わって前に進み出たフェルドマンは、軽く咳払いをして話し始める。

「フェンリル本部、情報管理局局長、アイザック・フェルドマンだ。極東に所属する部隊の隊長、副隊長の君達に集まってもらったのは、他でもない。この度、本部の正式な決定により、螺旋の樹を情報管理局の管轄に置き、人類の共有財産の『聖域』として認定された。以後、調査の一切は、我々情報管理局の管理のもとに行う」

突然の発表に、皆は戸惑いの表情を浮かべる。

そんな中、目を閉じて黙っていたソーマが、ゆっくりと背を預けた壁から身を起こし、フェルドマンへと意見する。

「そいつは・・・、本部が極東から螺旋の樹を搾取し、自分達のモノにしようってことか?」

「・・・そう思いたいのなら、それで構わない」

そう返されたソーマは、フェルドマンに対して厳しい目つきをする。

「これまで、極東では大きな問題が起きすぎている。本部の預かり知れないところでな・・・。危険を危惧して、しかるべき対処を取るのは、ごく自然なことだと思うがね?」

「・・・何だと?」

気に食わない言い分があったのか、ソーマは殺気を洩らしながら、歩み寄ろうとする。しかしそれを、榊博士が割って入り、ソーマに向かって首を横に振る。

「ソーマ君、押さえて。実際、螺旋の樹の研究は、我々だけでは進められない。本部の力を借りれるんだ。それに、越したことはないだろう?」

「・・・ちっ」

舌打ちをしながら、ソーマが元の位置に戻ったのを確認してから、榊博士は再びフェルドマンへと話の続きを促す。

「・・人類への一斉配信にともない、ここ極東で式典を執り行う。近隣や極東の一般人も参加できるようにする為、君達には近辺の警護を、万全にしてもらいたい。螺旋の樹も、状態の確認を含めて、我々が開発した偏食場パルス制御装置を設置する。設置に際しての護衛には、ブラッド隊にお願いしよう。隊長の・・・神威ヒロ。よろしく頼む」

「了解!」

「以上だが、質問はあるか?」

全員を見渡してから、フェルドマンは小さく1度頷いてから、話の終わりを告げる。

「式典は3日後だ。皆、ご苦労だった。解散しろ」

《了解!》

 

大会議室を出てから、リンドウは大きく背伸びをしてから、首を鳴らす。

「や~れやれ。出張から解放されたと思ったら、また面倒なことが始まるのかよ」

「リンドウさん、聞こえるっすよ?」

リンドウの発言に、タツミが苦笑いをしながら言うと、ハルが溜息交じりに口を開く。

「聞かせりゃ良いじゃねぇかよ。固い頭には、リンドウさんの意見は良い薬になるだろうさ」

「その前に俺等全員の、首が飛ぶっすよ」

コウタが疲れたように肩を落として喋ると、皆は笑いながら歩き出す。

そんな中、ヒロは気になることがあってか、足を止めて大会議室の方へと振り返る。彼の行動を気にして、シエルは側によって声を掛ける。

「どうかしたんですか、ヒロ?」

「え?・・うん。何か、リヴィに聞いた感じと、違うなって・・」

リヴィの話の中では、優し気なイメージだったので、ヒロはそのギャップにポロリと声を洩らす。

「・・・・螺旋の樹を調べるって・・・、ジュリウスは大丈夫なんだよね?」

心配そうに俯くヒロに、シエルは優しく手を取って、先へと誘導する。

「きっと大丈夫ですよ。私は、リヴィさんのおっしゃるフェルドマン局長も、間違いではないと思いますから」

「うん・・・。ありがとう、シエル」

そう言って笑って見せるヒロに、シエルは笑顔で応える。

二人が歩いてほどなくして、廊下の先でリンドウ達が待っているのが見える。それを確認したヒロとシエルは、早足で向かった。

 

 

「その反応が正常だ。フェルドマン局長は、そういう方だからな」

リヴィと一緒に、螺旋の樹の周辺に、偏食場パルス制御装置を設置に来ていたヒロは、会議室での出来事を、リヴィに聞いてみたのだ。

「じゃあ、普段から・・・あんな風に?」

「あぁ。若くして情報管理局を任される地位まで、上り詰めた方だ。隙を見せない・・・と言ったら、庇っていることになるだろうか?良くも悪くも、本部に忠実なんだ」

「そっか・・・。大人って、難しいね」

働いてる分、ヒロも大人の仲間だろうと思いつつも、リヴィはあえてそこには触れず、話を続ける。

「フェルドマン局長は、この樹の研究に、人類の未来を見ているとおっしゃっていた。式典後に戻ってきた時には、私はその手伝いの為、ジュリウスの神機に適合を試みる事になってる」

「ジュリウスの?それは・・・、どうして?」

「この樹は、いわばジュリウスそのもの。ジュリウスが荒神化したものと取ってもらっていい。それを切り開くのに、ジュリウスの神機を使うのが、もっとも効率が良いという事だ」

「・・・あ・・、『処刑人』の最後の仕事って・・」

ヒロが顔色を変えると、リヴィは苦笑しながら首を横に振って見せる。

「安心しろ。なにもジュリウスを殺すという訳ではない。それに、螺旋の樹内部で、ジュリウスが均衡を保っている以上、彼との接触自体、禁止となっているしな」

「そ・・そっか。良かった・・」

大きく息を吐いて、胸を撫で下ろすヒロに、リヴィは優しく頭を撫でてから、笑顔を見せる。

「素直な奴だな・・、お前は。そういうところを、ロミオは好意に思っていたのかもしれない」

「・・う・・、単純って事かな?」

「それは、悪い事ではない」

そうこう話しているうちに、管理局の者達が、設置を終わらせ、ヒロ達へと合図してくる。

任務終了に、ヒロは軽く息を洩らしてから、リヴィへと顔を向けて、ニッと笑って見せる。

「ねぇ、リヴィ。この後、暇でしょ?ちょっと付き合ってくれない?」

「ん?構わないが、浮気は駄目だぞヒロ」

「へ?浮気?・・・誰が?」

「・・・鈍感なんだな。覚えておこう」

そう言って先に歩き出したリヴィを追って、ヒロは迎えの合流地点へと足を進めた。

 

 

フライアへとリヴィを連れてきたヒロは、庭園へと足を運び、先に来ていた者達へと声を掛ける。

「ごめん!待った?」

「おっそーい!!早く終わるって、言ったのにー!」

両手にチキンを持って異議を唱えるナナ。その周りには、シエルにギル、そしてユノとサツキが手を振って待っていた。

駈け寄ってから謝るヒロの横で、リヴィはナナの口の周りを拭いて微笑む。

全員揃ったところで、ヒロが螺旋の樹とロミオの墓石の間に立ち、渡されたコップを掲げる。

「ジュリウス、ロミオ先輩。みんなで、会いに来たよ。新しい仲間の・・リヴィも一緒に・・」

それを合図に、みんなそれぞれにコップを軽く上げてから、中身を飲み干す。

それから、何でもない昼食会が始まる。そんな光景を目にしながら、リヴィは目を閉じて、ロミオとジュリウスを思い浮かべてみる。

その場にいなくても、ずっと仲間・・・家族。

その中に自分がいることに、喜びを感じていた。

 

そろそろお開きにというところで、ユノはゆっくりと立ち上がって、ジュリウスの神機の隣へと移動する。

それから、静かにハミングをした後に、優しく歌い始める。

「~~♪~~~♪・・・」

突然の歌姫の気まぐれに驚いたものの、皆黙って、その歌に聴き耳を立てる。

歌が終わって静かになったところで、ユノは螺旋の樹を見上げて、声を洩らす。

「・・ジュリウス・・・。聞こえた?」

その言葉を待っていたかのように、サツキが飛びついてユノの頬を突っつく。

「や~っと白状したか~。このこの♪」

「べ、別に白状とか!?もう!知ってるくせに、意地悪よ?サツキ」

楽し気に笑うサツキに揶揄われて、ユノは顔を赤くして剥れる。そこへ、ヒロ達も立ち上がり歩み寄る。

それから、一緒に螺旋の樹を見上げて、思いを巡らせた。

 

「そうか。葦原ユノは、ジュリウスが好きなんだな」

「そ、そんな・・・。言葉にしなくても」

「そうそう。この子、完全に惚の字なんですよ~」

「サツキ!」

「僕は・・・・知ってます」

「ヒロ君まで!?」

「素敵じゃないですか。ユノさん」

「まっ、見てればわかるけどな」

「ジュリウス、早く帰って来ると良いよね~」

「もう!みんな、絶対に面白がってる!」

 

 

夜、寝静まった頃に・・。

団欒室のカウンターで、フェルドマンはグラスの中のウィスキーを眺めながら、小さく溜息を吐く。

「・・・一人酒は、寂しいですかな?」

「っ!?榊支部長・・」

声の先に振り返ると、榊博士が一升瓶を片手に、隣へと座る。それから、小さなグラス2つに酒を注いで、1つをフェルドマンに差し出す。

「極東のお酒でも、いかがですかな?」

「・・・いただきます」

グラスを手に持ち、一気に煽ってから、フェルドマンは軽く息を洩らす。

「・・旨いですね」

「それは良かった」

満足気に笑って見せてから、榊博士もグラスの中身を飲み干し、再び2つを酒で満たす。

「・・・私の今日の発言に、何もおっしゃられないんですね?」

手に収めたグラスを見つめながら、フェルドマンは声を掛ける。そんな彼に、榊博士は、今度は味わう様に一口飲み、それから優しく答える。

「あなたにも、守らなければいけない立場というモノがある。それは・・、私にも当てはまることですから」

「ですが・・・、今日ソーマ博士が怒りを覚えたことは、我ながら白々しい意見だと思います」

榊博士を真似て、フェルドマンも舌で味わう様に一口含んでから、話を続ける。

「『本部の預かり知らぬ』なんて・・。報告書が提出されているのに、これ程バカバカしい話はないでしょう。ましてや・・・前回も今回も、本部の人間が関与して起こった事件だ。それを・・・極東が諸悪のように語るなど・・」

そこまで口にしてから、フェルドマンは酔いを冷ますように、首を横に振ってから苦笑する。

「すみません。どうか、してますね・・」

「いやいや。必要悪を演じ続けるのは、疲れますからね・・」

そう言って笑顔を返す榊博士に、フェルドマンは救われたような表情を見せてから、手の中のグラスを傾けて、中身を飲み干す。

「・・ふぅ。もう少し・・・付き合って、いただけますか?」

「上司の命令は、断れないですね」

「いえ。一研究者の後輩として、先輩に付き合っていただきたい」

「・・・喜んで」

それから二人は、もうしばらくの間、酒を酌み交わしたのだった。

 

 

式典当日。

極東のヘリポートを開け放って、会場が作られると、極東の近隣からも多くの人が集まり、全員が入ることが出来ない程、ごったがえしていた。

そんな様子を遠目に見ながら、リンドウは一緒に会場入りしたサクヤと話していた。

「はぁ~。よくもまぁ、・・・・感心するなぁ・・おい」

「そこなの?他に思う事、あるんじゃない?」

サクヤの指摘に、リンドウは笑いながら軽く頷いて、口を開く。

「わかってるって。・・・・本部の連中もいるな。全世界放送だからな・・、この式典は」

「カメラやマイクなんかも・・。そこまで手柄が欲しいのかと思うと、呆れて何も言えないわ」

そう言ったサクヤは、フェルドマンと話している本部の人間を見て、溜息を洩らす。そんな彼女の肩を抱いて、リンドウは優しく撫でる。

「お偉いさんは、明日の飯の心配をしなくて良いからな。自分の権力を誇示するのに、忙しんだよ」

「それで現場のゴッドイーターが馬鹿見るのが、納得できないのよ」

少しご立腹なサクヤを宥めながら、リンドウは式典の主役の螺旋の樹を眺めた。

螺旋の樹は、今日も静かに極東を見守っている・・・。

 

ブラッド隊は特別に、会場の警護という名目で、式典に参加していた。

慣れない制服に着られたような状態で、気恥ずかしさにヒロは頭を掻く。

「これで・・いいの、かな?」

「襟が曲がっています。動かないで・・」

シエルに直してもらっているヒロの隣では、ナナがリヴィに上着を着せてもらっている。それを見て、ギルは可笑しそうに笑いながら、声を洩らす。

「これじゃあ、児童会だな」

「そう言わないでよ、ギル」

ヒロが照れながら頬を掻いていると、ソーマがいつものラフな服装ではなく、ビシッとスーツを着込んでからやって来る。

「・・・仲良いな、お前等」

「ははっ・・どうも」

ヒロが軽く会釈すると、皆揃って頭を下げる。それにフッと笑顔で応えてから、ソーマはマイクの準備されたステージへと目を向ける。

「そろそろ・・、始まるか」

ステージ袖で話していたフェルドマンが、ステージ中央へと移動を始める。それに合わせて、準備された神機兵が後ろへと整列し、手の中の神機を右に抱えて直立する。

それを始まりの合図とし、フェルドマンはマイクに近付いて話し始める。

 

 

 





フェリドマン局長、嫌いではないです。
厳しいけど、部下思いの良い上司だと思っています!


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