GOD EATER2 ~絆を繋ぐ詩~   作:死姫

56 / 73
53話 『恋』と『変』は紙一重

 

 

清々しいまでに晴れ渡った、ある日の午後。

極東に新たな『不治の病』を抱えた男、ブレンダン・バーデルは、天気とは裏腹に、心に雷をともなっていた。

「な・・・、どういうことだ?これは・・!?」

 

ここから始めよう。純情な感情を空回りさせる、GOD EATERの物語を・・(笑)

 

 

非番の午前の時間を使って、ブレンダンは軽い訓練で汗を流していた。

『規則正しく』をもっとうに過ごす彼の日常に、色気の欠片もなかった彼。だが、最近はそんな彼にも、心の春が訪れる。

フラン=フランソワ=フランチェスカ・ド・ブルゴーニュ。

ブラッド同様に、フライアから来たオペレーターの彼女に、ブレンダンは心の底から、惚れ込んでしまったのだ。

目立ってアピールする訳でもない彼の日課は、影ながら見守ること・・。

はたから見たら変な行為ではあるが、真面目な彼の最大限の求愛行動なのだ。(ハル曰く)

シャワー室で汗を流して、いつものように受付の見える廊下の影へと移動するブレンダン。

しかし、そこで見たモノに、彼は驚きに体を震わせる。

「こ・・、これは!?」

彼の視線の先には、いつも通りにフランがいて・・・その隣に、任務を終えたヒロがいたのだ。

報告をしながら笑い合う二人。それをあらぬ方向に捉えたブレンダンは、ゆっくりと後退ってしまう。

「まさか・・・・、まさか!?」

頭を抱えながら壁に手を付き、よろける身体を支えるブレンダン。そんな彼に、後ろから通りがかった、タツミが軽く肩を叩いて声を掛ける。

「よっ、ブレンダン。訓練上がりか?」

「っ!!?た・・タツミか・・」

「お、おう・・。何?声かけちゃ、不味かったか?」

勢いよく振り返ってきたブレンダンに、タツミは驚いて手を上げて見せる。それに対して、首を横に振ってから、ブレンダンは自分の胸の辺りをグッと掴んでから顔を歪める。

「なんでも・・・ないんだ。何でも・・・」

「え?・・・気分、悪いのか?」

彼の反応に少し戸惑いながら、タツミは何となしに受付の方へと視線を向ける。

そして、それによって今度は、タツミも同じ状態に陥ってしまう。

「な・・んだ、と・・・」

彼の視線の先には、オペレーターの竹田ヒバリと・・・、任務に向かおうとしているソーマ・シックザールが話している姿が・・。

 

「あ・・、ソーマさん。ネクタイ、曲がってますよ?」

「ちっ・・・、余計なことをするな」

 

ヒバリの世話焼きな性格から、だらしなくしていたソーマへの、ちょっとした気遣い。

それがタツミには、恋人同士の甘いやりとりに見えたのだ。

 

『いってらっしゃい、ソーマさん』

『馬鹿・・・。人前ではよせ』

 

会話も勝手に脳内で変換され、このようになってしまう始末だ。

「は・・はが・・・・、あぁぁぁーー!!」

「ありえない・・ことも、ないのか?確かにヒロは、いい男だ・・。だが、しかし!」

妄想が妄想を呼び込んで、頭を抱えて落ち込む二人。

そこへ・・・、やはり彼が登場する。

「見ていられないな~、お二人さん」

「「はっ!?その声は・・!?」」

いつの間にか彼等の後ろで、壁に背を預けた状態で軽く敬礼をしてくる、色恋問題ではお馴染みの、真壁ハルオミが笑みを浮かべて立っていた。

「な・・・なんの用だよ・・、ハル」

「ハルさん、自分は・・」

「ふっ・・、とぼけちゃあいけないな~。全て、お見通しなんだぜ」

「「っ!!?」」

ハルの言葉に、二人は過剰に反応してしまい、これ以上は誤魔化すまいと、諦めて重い口を開く。

「やっぱり・・・、ヒバリちゃんは・・ソーマと・・」

「フランさんには・・、フライアの時から・・ヒロがお似合いなのかと・・」

認めたくないといった暗い表情で、もごもごと喋るタツミとブレンダン。そんな彼等に、自称『恋愛マスター』のハルは、ありがたい(?)言葉を口にする。

「いいか。真実は残酷かもしれないが、それを確かめずには・・・恋は先には進めない。ならば、確認するしかないだろう?本当の答えを!」

「それは・・、わかるけどよぉ・・」

「どうすれば・・」

「本人に直接聞くのも良いが・・・躊躇ってるなら、周りの女性に聞けばいいだろう?」

そう言ってからハルは、ビシッといった感じで指を差し、声を上げる。

「戦術と同じだ。情報を制する者は、恋を制する!!」

チャーチャララチャ~♪ジャッジャン♪

「情報を・・制する者は・・」

「恋を、制する・・」

動揺していたためか、すんなりと受け入れてしまった二人は、希望をその目に宿しだす。

そんな彼等に、満足気に頷いて見せてから、ハルは軽く背中を押してやる。

「行け、恋の戦士達よ。女性の色恋の情報網から、確かな真実を掴み取り、一途な想いを実らせてくるがいい!」

「「はい!マスター!」」

二人が駆けていく背中を見送りながら、ハルは優しい笑みを浮かべた。

 

 

ジーナ カノン

 

「はぁ?ヒロ君と、フランちゃん?」

「ヒバリさんと・・・、ソーマさんですか~?」

最初に二人が選んだ女性陣。極東で最も任務を共にしている二人に声を掛けたタツミとブレンダンは、真剣な顔で頷き返す。

「どんな些細な情報でも、かまわない!」

「俺等に教えてくれよ!」

そんな二人の様子に、ジーナとカノンは顔を見合わしてから、少し笑いながら答える。

「あんた達、バカなの?まぁ、知ってたけど・・。その2つの組み合わせって、ありえないでしょ?」

「そうですよね~?フランさんがヒロさんと仲が良いのなんて、フライアから一緒だったからですし・・。ヒバリさんとソーマさんなんて、もっと長いんですから」

最もな女性陣の意見・・・なのだが、彼等は納得出来ないのか、更に突っ込んで聞いてくる。

「そんな事は、百も承知してるんだ!」

「些細なことでも良いんだ!何か知らねぇのか!?」

珍しく簡単に食い下がらない二人に、ジーナとカノンは再び顔を見合わせてから、はっきりと答える。

「知らないわ」

「知らないですね~」

彼女達の言葉に嘘はないと判断したのか、タツミとブレンダンは溜息を洩らして、そのまま去って行く。

「・・次だな・・」

「あぁ・・」

彼等の背中を見つめながら、悪戯な笑みを浮かべたジーナ。そのまま後について歩き出す。それを見て、カノンが声を掛ける。

「あの・・ついて行くんですか?ジーナさん」

「だって・・、面白そうじゃない?ふふっ」

そう言い残してから、ジーナも行ってしまい、カノンはタツミとブレンダンの事を、少しだけ心配した。

 

 

シエル ナナ リヴィ

 

ブラッドの任務を終えて集まっていた女性陣を捕まえて、二人は情報収集に励む。後ろでは、ジーナが面白そうに見守っている。

「ヒロと・・・フランさん、ですか?」

「あたし達の、専属オペレーターみたいな感じだよね~?」

「それに、ヒバリさんと・・ソーマさんか?付き合いが長ければ、仲も悪くはないだろう?」

三人の意見に、ジーナは2,3度頷いて納得しているが、タツミとブレンダンは首を横に振って、先にタツミが切り込んでくる。

「だってよう・・・・ヒバリちゃん、ソーマのネクタイを直しながら、何か・・恋人同士みたいな・・」

「そんな会話を、なさってたのですか?」

「それは・・・」

 

『無事に・・・帰って来てくれなきゃ、嫌ですよ?』

『・・お前を残して、死ねるかよ』

 

「ってよーー!?」

「本当なのか?この会話は・・」

「う~ん、想像できないな~」

首を傾げるリヴィに、ナナも同じように首を横に傾け、人差し指を口元に当てる。

タツミが頭を抱えて唸っている横から、今度はブレンダンが自分の話を切り出してくる。

「なら、ヒロとフランさんはどうだ!?・・・あんな優しい彼女の笑顔を、俺は見たことなかったんだ!?」

「あ・・・、おバカ・・」

ジーナが口にしたのも遅く、当然この問題に過敏に反応する女性が一人。

「・・・・そうですか。・・・あの、ブレンダンさん。私、用事を思い出しましたので、失礼します」

「なっ・・・お、おい!?待ってくれ、シエル!」

彼の呼びかけを無視して、シエルは冷たい瞳を見せてから去って行く。そんな彼女の背中を見て、ナナが溜息を洩らす。

「あ~あ、行っちゃった。シエルちゃん、ヒロの事になると、目の~・・色?変わっちゃうから」

「そうか・・・。シエルは、ヒロを愛しているのだな」

リヴィは勉強になったと言わんばかりに、サラッと核心を口にする。それがまた可笑しかったのか、ジーナは声を殺して笑う。

シエルが去ってしまって焦りの表情を浮かべたブレンダンは、勢いよくナナへと掴みかかる。

「なぁ!今のシエルの反応・・。やはり、フランさんと!?」

「あの・・・えっと~」

ナナが驚いて引いていると、リヴィが急に目を鋭く光らせ、華麗に脚を伸ばしてブレンダンの側頭部にハイキックを決める。

バコッ!

「ぐはっ!!」

ナナから手を離し倒れたブレンダンを、ゴミを見るような目で見下ろしながら、リヴィは守るようにナナを抱き寄せる。

「下衆が・・。先輩だからと言って、女性に・・ナナに気安く触れるな。フランが無理なら、次はナナか?見境ない・・。失望したぞ、ブレンダン・バーデル」

「うっわ~。大丈夫ですか?ブレンダンさん・・」

ナナが心配して介抱しようとすると、リヴィはそれを遠ざけて、彼女の背中を押しながら歩き出す。

「話は終わったか?ならば、失礼する。シエルとヒロの事が気掛かりでな・・。それと、ブレンダン。2度とナナに近付くな」

そう言い放って、リヴィはナナを連れて去って行った。

残された男性陣二人を見ながら、ジーナはお腹を抱えてしゃがみ込んで笑った。

 

 

リッカ アリサ

 

「無いね」

「無いですね」

神機保管庫に移動した一行は、神機の調整に来ていたアリサと、調整を請け負っていたリッカに、一言で一蹴された。

「あの・・・、それだけ、なのか?」

「もっとさ~、ないの?ほら!二人は、情報通だしよ!」

そう簡単には納得しないという様に聞いてくる二人に、リッカとアリサは目を細めてから溜息を吐く。

「・・・そんなに気になるなら・・」

「本人に聞けばいいんじゃないですか?」

そう言って興味を失くしたように振り返らず、神機の話をしだした冷たい彼女達に、タツミとブレンダンは肩を落として、部屋から出て行った。

二人を目線で追いながら、ジーナはアリサとリッカに声を掛ける。

「・・お二人さん。この事の顛末の、報告は?」

そう聞いて目を向けると、二人は手を上げてから、

「よろしく~」

「お願いします」

と答えた。

それに満足気に笑ってから、ジーナは再び、哀れな男二人の後を追った。

 

「ジーナさんも、好きですね」

「仕事の邪魔だから追っ払ったけど、アリサちゃんも好きでしょ?」

「リッカさんだって」

「まぁ~ね~」

「「・・・ふふふふふっ」」

 

 

結局、目覚ましい成果を得られぬまま、タツミとブレンダンは、エントランスのソファーへと腰を落ち着ける。

ブレンダンは頭を抱えて、ぶつぶつと口を動かし、タツミに至っては妄想が更に加速して・・。

 

『今夜、部屋に行っても良いですか?』

『ふん・・・。いつもの時間にな・・』

 

どこかのオフィス・ラブな台詞へと、すり替わっていた。

流石にそろそろ不憫に思ってか、ジーナは苦笑いを浮かべながら声を掛けようとする。

しかし、新たな展開を目にして、ジーナはその場から2,3歩後ろに下がる。

「あの・・、ブレンダンさん」

「はっ!?・・フランさん!?」

「タツミさん!」

「は?うぇっ!?ひ、ヒバリちゃん!?」

本人の登場に、焦りの表情を浮かべるタツミとブレンダン。その様子に、ジーナは悪い笑みを浮かべて、成り行きを見守る。

「あの、ブレンダンさん。何か、私に至らないところでもありましたか?」

「は・・いや!どうして、そんな・・・。貴女に間違いなど!?」

フランの不安そうな表情に、ブレンダンは必死になって喋りだす。

「貴女は・・・そう!完璧だ!完璧な女性だ!そんな貴女に、至らぬところなど!!」

「・・ですが、ブレンダンさんが私の事を、皆さんに聞いて回っていると耳にしましたので・・・」

「そ、それは!?」

その言葉に目を大きく開いてから、ブレンダンは自分がしていることが、ストーカーまがいな事だと、今更ながらに気付いたのだ。

「私もオペレーターになって、日が浅い未熟者です。何かあるなら、直接・・。あの・・・、ブレンダンさん?」

「・・・・・・違うんだ」

「はい?」

立ち上がって少しずつ後退りを始めるブレンダンに、フランは手を伸ばして心配の表情を浮かべる。

その無垢な瞳に耐えられなくなってか、ブレンダンは涙を流しながら走り出した。

「違うんだ!俺は・・・・、違うんだーーーー!!!」

「あ・・・・・・、あの・・・」

走り去っていくブレンダンに、フランは伸ばした手を引っ込めてから、首を傾げる。

そんな二人のやり取りを見てから、ヒバリは冷たい眼差しを、タツミに向ける。

「そう・・ですか。タツミさんが、原因ですか・・」

「へ?・・いやいやいや!違うって、ヒバリちゃん!これは~、ほら!ハルがさ!」

事実ではあるのだが、他人の名前を出して言い訳をしだしたタツミに、ヒバリは怒りのボルテージが少しずつ上がっていく。

「”ハルさん”?・・・いないじゃないですか。今、ここに・・」

「いや・・それは、その~。ヒバリちゃんがね・・、ソーマと~」

「今度は”私”に、”ソーマさん”ですか・・。随分と、多いですね」

「ち、違っ!?だから、ね?それは・・・、その・・」

なんといったらいいか迷っているタツミに、ヒバリは自分の怒りの頂点を感じた。その瞬間、

パァンッ!!

「はがっ!!!」

力強く平手打ちを決めると、フランの手を取ってから、出荷される豚を見るような目でタツミを見下ろしてから、口を開く。

「・・・しばらく、話し掛けないで下さい」

そのままフランの手を引いて、ヒバリが行ってしまうと、タツミはソファーからずり下がっていき、床へと軽く尻もちをついた。

全ての事を見届けたジーナは、近くの手すりをバンバン叩きながら、声を出せずに笑い続けた。

 

 

それから3日後・・。

タツミとブレンダンは、それぞれ新たな悩みを抱えて、溜息を吐いていた。

タツミは宣言通り、話し掛けれないオーラをヒバリに向けられ、ブレンダンは後ろめたさから、話し掛けられないでいた。

そんな二人に、軽く息を洩らしながら、ジーナが近寄って来る。

「お二人さん。調子はどう?」

「これが、良く見えるのかよ?」

「俺は・・・、何てことを・・」

二人の負のオーラを心地良さげに、ジーナが笑っていると、タツミがおもむろに声を上げる。

「人様の不幸を、面白がりやがって・・。だいたい、お前にはねぇのかよ!?色恋の1つや2つ!?」

「私?・・・・そうね~」

タツミの言葉に、ジーナは少し考えてから、同じ防衛班である二人に、今まで見せたことのない優しい笑顔で答える。

「二人みたいに、熱を上げる程じゃないけど・・・。お気に入りの男の子は、ちゃんといるわよ。ふふっ」

 

 

「へっくし!!」

「風邪かよ?」

「風邪!?すぐに体温を測りましょう!」

「シエルは、ヒロに過保護だな」

「おでんパン、食べる~?」

 

 

 





何か、無駄に長い話でしたw

ブレンダン、頑張れ!
負けるな、タツミちゃん!!



▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。