GOD EATER2 ~絆を繋ぐ詩~   作:死姫

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52話 大鎌の少女

 

 

「・・・うん。安定してるね。オッケーだよ、ヒロ君」

「はぁ・・。特に何もしてないですけど・・」

リッカに呼ばれて、開発局まで足を運んだヒロは、持たされた手のひらサイズの機器に目を落としながら、彼女に質問する。

手元の操作盤を終了させてから、リッカはヒロへと振り返り、説明を始める。

「ごめんごめん。これはね、感応現象を自分の神機に試みるための機械・・・って、言うのかな?細かい説明をはぶくと、そんな感じ」

「自分の神機に・・感応現象を・・?」

小さく頷いてから、リッカは更に説明を続ける。

「リンクサポートシステムの応用でね。元々は旦那様の無茶を軽減できればって、あの人の出鱈目な適合率に、感応現象・・。それを使って、一時的にも力を大幅に増幅できたらって思ってね。う~ん、何て説明すればいいんだろ?・・要は、神機って生体兵器でしょ?だから、ある程度のリミッターがかけられてる状態なの。それを、取っ払っちゃえっていう、システム?」

「それ、取っ払っちゃって良いんですか?」

「だから、これなの!これ・・・『感応制御システム』を使うことによって、神機に語り掛け、そのリミッター・・拘束を解いちゃうの。本来なら、神機は暴走して、侵食が始まっちゃうんだけど、それを感応現象での対話によって、押さえつけられないかってね。結局、使えるのはヒロ君ぐらいかなって感じだけど・・」

「そうなんですか?・・・ユウさんは」

ユウの名前を出したところで、リッカは珍しく眉間に皺を寄せて、妙な笑い方をする。

「あー、旦那様ね・・。ははは・・・。もう、最悪だったよ。色々と!」

「ひっ!な、なんか、すいません!」

その威圧感に縮こまるヒロを見て、リッカは溜息を吐いてから、彼の手の中の感応制御システムを奪い、簡単に調整しだす。

「とにかく!今は、ヒロ君の方の話。ヒロ君の血の力『喚起』の能力を使えば、旦那様とは違って、”きちんと”神機と対話できるかもってふんだの。結果は、大当たり」

「は、はぁ・・」

まだ今一理解できてない様子のヒロの表情に、リッカはフッと笑みを浮かべてから、感応制御システムを投げ渡す。

「あ、・・っと・・」

「今は、『切り札が出来た』程度に思ってくれたら、それで良いよ」

「僕の・・・・、切り札・・」

首を傾げながら、手の中のモノをじっと見つめるヒロに、リッカは最後に釘をさす。

「ただ、覚えておいて。切り札は、あくまで切り札・・。条件が揃わなければ発動しないし、使えばそれ相応に身体や精神を痛めつける。ブラッドアーツを連続使用するのとは、訳が違うからね。わかった?」

「・・・は、はい・・」

手の中の切り札を大事にポケットにしまってから、ヒロは大きく頷いた。

 

 

極東支部のヘリポートに来ていた榊博士とレンカは、到着したヘリの中から出てきた人へと礼をしてから、話し掛ける。

「ようこそいらっしゃいました。長旅、お疲れ様です」

「いえ・・。堅苦しいのは、無しにしましょう。榊支部長」

そう答えてから、厳しい目つきの紳士は、軽く礼を返してから歩き出す。その後ろに、赤いフードをかぶった少女を連れて・・。

極東の建物に入ってから、彼は改めて自己紹介をする。

「改めまして、榊支部長。空木レンカ君。フェンリル情報管理局局長の、アイザック・フェルドマンです。それとこちらは、今回の研究の為に同行した・・」

「リヴィ・コレットです。初めまして・・」

フェルドマンに紹介されて、リヴィはフードを取ってから敬礼をして、またフードを深々とかぶる。

レンカが先へと促すと、三人は廊下を先に進みだす。

「急な来訪だったため、歓迎の準備が出来ませんで・・」

「いえ、それは結構。私達は、仕事の為に来ましたので。それよりも、さっそくで申し訳ないのですが、螺旋の樹について、改めて榊支部長にお話を伺いたい」

「それは、構いませんが・・・。彼女は?」

そう言って榊博士は、リヴィの表情を伺う様に目を向ける。

それに答えるために、フェルドマンは小さく頷いて見せる。

「それについてですが・・・、彼女から希望がありまして。出来れば支部長に承諾いただければと・・」

「それは・・・、いったい?」

榊博士が疑問の目を向けると、リヴィは小さく息を吐いてから、口を開く。

 

 

作戦指令室に呼ばれたブラッド隊は、リヴィの顔を見て驚いていた。

ロミオの墓前で泣いていたその顔を、忘れるはずなかったからだ。

「本日より、お前達ブラッド隊に一時的に配属という形になった、リヴィ・コレットだ。皆、上手くやるようにな」

「リヴィ・・さん?・・」

「よろしく頼む」

ヒロが呟くように名を呼んだことを気にせず、リヴィは静かに頭を下げる。

対面を済ませたの見届けてから、レンカは1つの任務を、ブラッドに与える。

「とにかく、お互いを知るにも、任務が手っ取り早いだろう。簡単な仕事だが、行ってくると良い。ヒロ、後を頼むぞ?」

「あ・・、はい!」

話が終わると、レンカは自分の仕事の為に、その場を後にする。

残されて中々動けずにいたヒロとブラッド。そんなヒロに、リヴィは改めて手を差し出し、握手を求める。

「現隊長は、お前だったな。神威ヒロ・・。これからしばらくだが、よろしく頼む」

「はい・・・。リヴィ、さん」

「リヴィで、構わない」

ヒロは、リヴィの独特な雰囲気に汗をかいてしまった手を上着で拭ってから、彼女の手を取った。

 

 

「ギル!回り込んで!」

「わかってる!」

追い込んだヴァジュラを誘導しながら、ギルはヒロとは反対の側面へと回り込む。

その場を何とか逃げ切ろうとするヴァジュラに、正面から、シエルがバレッドを放ち足止めする。それに驚いて、後ろへと撥ねたところで、リヴィが大鎌を振り下ろし、綺麗に右前脚を斬り落とす。

ザンッ!!

ギャウゥッ!

「ナナ!今だ!」

「いっけぇー!!」

リヴィの合図に飛び込んできたナナは、ヴァジュラの頭へと、神機を振り下ろす。

ゴシャッ!!

頭を減り込ませたヴァジュラに、全員同時に捕食形態を展開させる。そして・・。

ガビュゥッ!!

5つの大口に喰い千切られ、ヴァジュラは完全に沈黙した。

 

任務を終えて、車に戻る途中、リヴィはある場所で足を止める。

「ここは・・・・」

彼女の洩らした声に、皆は足を止めると・・。そこは、ロミオがブラッド隊に教えてくれた、小さな泉だった。

それに惹かれるように見つめるリヴィの隣に、ヒロはゆっくりと足を運ぶ。

「ここ・・・、ロミオ先輩が好きだった場所です」

「・・・そうか。どことなく、フライアの庭園に・・・似ているな」

そう言ってから、静かに立ち去ろうと踵を返したところで、リヴィは急に膝をガクッと折ってから、倒れそうになる。それを、ヒロが咄嗟に手を掴んで、支える。

「だ、大丈夫ですか!?」

「・・あぁ、すまない。少し・・立眩みがしてな」

そう言って、そのままヒロの腕に体重をかけて立ち上がろうとした瞬間・・。

キイィィィィィンッ!

「・・なっ!」

感応現象が、彼女の中に映像を見せる。

 

『・・・俺さ、みんなに感謝してんだ。俺なんかを・・・あー、やっぱ今の無し!とにかくさ、俺・・・極東に来て、本当に良かったって思う』

(・・あ・・あぁ・・、ロミオ・・)

『ヒロ・・・。マジでありがとな!これからも、よろしくな!』

(・・・そうか・・。幸せ・・だったんだな)

 

映像が途切れたところで、リヴィはゆっくりとヒロから手を離す。

自分にも少しだけ見えたモノがあったのか、ヒロも自分の手を見つめながら、黙っている。

すると・・・。

「・・・うっ・・・・ふっ・・うぅ・・・くぅ・・」

漏れ出した声に、皆が視線を向けると、リヴィが右手を胸に抱いて、涙を流していた。

「あ・・あの・・・」

シエルが心配そうに手を伸ばすと、リヴィは首を横に振って、ゆっくりと喋り始める。

「私は・・・・、マグノリア・コンパスで・・、ラケルの実験体だった」

《っ!!?》

皆が驚いている中、リヴィは話を続ける。

「今思えば、特異点・・・ジュリウスを作る為の、実験だったんだろう。私はその影響で、どんな神機にも適合できる身体となった。だが・・・、ジュリウスが現れてからは、もうお払い箱で・・・。マグノリアの下位のクラスに回されて、独りぼっちになった。自分の意味は?何をすれば?孤児の私に、確かな自信としてあったモノを奪われて、私はどうしていいかわからぬまま、毎日を過ごしていた。そんな私に、声を掛けてくれたのが・・・ロミオだった」

「・・・マグノリア・コンパスで・・・」

「ロミオ先輩と・・」

同じ出身のシエルとナナは、少し感慨深い気持ちで、リヴィを見つめる。

「自棄になって、遠ざけようとしていた私に、ロミオは何度も話し掛けてくれた。時には、見下して罵声を浴びせた・・こんな私にだ。そんなあいつがいたから、私は生きる意味を、もう1度見つける事が出来たんだ。・・・約束・・してくれたんだ。『ずっと一緒だ』って・・。『独りにしない』って!」

徐々に感情が抑えられなくなってきたのか、リヴィは顔を歪ませて、膝をつく。それを、シエルとナナがそっと抱き寄せると、彼女はしがみついて顔を埋めて声を上げる。

「大切だったんだ・・。好きだった・・・・、大好きだったんだ!あいつがいたから、生きてこれたんだ!!なのに・・・・・どうして・・」

「リヴィさん・・」

「どうしてあいつが、死ななければならなかったんだ!?どうして・・・、あいつの最後に・・・、私は側にいてやれなかったんだ!!」

想いを全て吐き出してから、リヴィは声を出して泣き続けた。

そんな彼女を、ブラッド隊は優しく見守りながら、ロミオの笑顔を思い出していた。

 

リヴィが落ち着いた頃に、皆は車へと再び移動を始めた。

その途中で、リヴィはヒロに目線を向けてから、口を開く。

「お前の中の記憶・・。感応現象で見た映像の中で、ロミオはお前達に感謝していた。あいつは・・・・、幸せだったんだな」

「リヴィさん・・」

ヒロが何か言おうとすると、リヴィがそれを遮って、話を続ける。

「マグノリアから、フェルドマン局長に引き取ってもらって、私は偏食因子に侵されたゴッドイーターを排除する、『処刑人』をしていた。あらゆる神機に適合するんだ・・。『天職だ』と・・・、そう思っていた。だが、ロミオに先立たれ、また生きる意味を見失いかけている私を見て、フェルドマン局長が、今回の極東訪問に連れ出してくれた。そして・・・、こう言ったんだ。『お前の行きたい場所は、お前が決めて良いんだ』と」

「・・・・それって~、どういう事なの?」

ナナが首を傾げるのを見て、リヴィはフッと笑みを見せてから、彼女の乱れた服を直す。

「・・・お前達、ブラッドに会って・・・決めることにしていたんだ」

「あたし達に?」

「そうだ・・」

直し終わると、ナナの頭を軽く撫でてから、リヴィは強い眼差しで思いを口にした。

「今回のここでの用事を済ませた後に、もう1度訪問することになる。ある作戦の為にな・・。それを最後に、私は『処刑人』を辞め、ブラッド隊配属を、願い出ようと思う」

その言葉に、ギルが苦笑しながら声を掛ける。

「突然・・・でもないのか。だが、最初にあった時、あんたは俺達を恨んでいるように見えたが?」

「あの時は・・・な。突然のロミオの死に、関わった人間全部を、恨めしく思った」

そう困った表情を見せてから、リヴィは顔を引き締めて背筋を伸ばす。

「だが、今は違う。ロミオが・・・あいつが、命懸けで守った部隊を、今度は私が守りたいと思ったからだ。あいつの大切なモノは・・、私の大切なモノだ」

「リヴィさん」

ヒロが優しい笑みを見せると、リヴィはその笑顔に応えるように、笑顔を返す。

「ロミオ程じゃなくても、面倒を見なければいけない奴もいることだしな。P-66因子を打ち込んで、晴れてブラッドになった時には、改めてよろしく頼む」

「あぁ、よろしくな」

「別にもう、ブラッドでも良いのに~」

「そうですね。ロミオの大切な人は、私達の家族同然ですから」

「これからも、よろしくね。リヴィさ・・・・リヴィ」

ブラッドと笑い合ってから、リヴィは目を閉じて、今は亡き想い人に、心の中で訊ねてみるのだった。

(・・・別に構わないだろう?・・・・ロミオ・・)

 

 

 





ちょっと予定よりも早く、リヴィちゃんと完全に打ち解けさせました。
リヴィちゃん、良いですよね・・。

卵祭り・・・・書くのが楽しみです!


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