GOD EATER2 ~絆を繋ぐ詩~   作:死姫

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番外編 観測者の憂鬱

 

 

フェンリル極東支部長、ペイラー・榊。

彼は開発局長を兼任した、フェンリル唯一の支部長である。

元々が研究者だけに、支部長の業務より、研究をしたいのが本音である。

そんな彼の、憂鬱な1日が今日も始まる・・。

 

 

書類を積まれたデスクを眺めて、榊博士は朝のコーヒーを片手に、大きく溜息を吐く。

その紙束が、研究資料や実験報告書ならば、喜んで目にするのだが、実際はゴッドイーターの任務報告や、本部及び各支部への必要物資などの見積もり。

彼にとっては、魅力の欠片もない極東運営の為のものばかりだ。

人や荒神、研究対象を観察して喜んでいるだけの頃を懐かしみながら、榊博士はまたも大きな溜息を吐く。そこへ・・。

コンコンッ ガチャッ

「おはようございます、榊博士」

レンカが姿を見せて、一礼する。

「早速ですが、今日の予定を申し上げます」

挨拶もそこそこに、レンカは自分の手元のタブレット型端末を目にしながら、淡々と喋り始める。

「まず9:00より、資材倉庫の方で、届いた物資の確認と、こちらから受け渡す物資の確認をお願いします。普段は担当にお願いしているのですが、今回は第2サテライト拠点への分配品もありますので、今後の為にもそちらも含めてお願いします」

「そうか・・。今回から1度こちらを通すことに、なっていたんだったね。わかったよ」

「次に10:30より、食糧事情の一環として、地下の生産地区で新しく品種改良に成功した食材の試食と、生産区域の確認をお願いします」

「・・・今回は、なにかね?」

「今回は・・・、『ジャイアント茄子』ですね」

とりあえず量を稼ぐためとはいえ、大きくなれば味は落ちる。

それを思って、榊博士はまたも大きく溜息を吐く。

「ま、まぁ、茄子は味付け次第ですので・・。それを昼食の代わりとして、12:30より、午前任務に出ていた者達の報告書を確認し、判をお願いします。その後、13:00には終了してもらい、開発局の第1会議室にて、装甲壁の補修の為に、必要素材を改めて確認し、補修班の代表に指示をお願いします」

「・・レンカ君。休憩は・・?」

「試食の際に休んでいただければと・・。続いて、14:00より居住エリアの視察をお願いします。特に、C地区の住人から、『電気の供給が悪い』と報告もありますので、そちらを中心に回ってもらいます」

「そ、そうかね・・。電気の供給が悪いのは、よろしくは無いね」

頬を伝う汗をそのままに、榊博士は顔を引きつらせる。

「視察が終わりましたら、こちらで事務作業を行っていただきます。今日中にお願いします。以上です・・」

「今日中!?・・・かね・・」

「はい。今日中に、です」

目の前の紙束を見回してから、榊博士はまたも溜息を洩らす。そんな彼に一礼し、レンカは声を掛ける。

「それでは、俺も仕事がありますので・・」

「君は、ついてこないのかね?」

「仕事がありますので。では、失礼します」

そう言って、レンカは部屋を後にする。

一人になった榊博士は、壁にかけられた時計を見て、自分の手の中の飲みかけのカップへと視線を移動させる。

それから、立ち上がって洗い場まで移動するとカップを置き、少しだけ背筋を伸ばしてから、部屋を後にした。

 

 

「それでは支部長、またお願いします」

「いえ、こちらこそ・・」

今回の取引相手、北京支部の者へと挨拶を済ませ、榊博士は運び込まれた荷を見上げる。

軽く撫でてから、荷物番の者達へと顔を向けて、小さく頷いてから声を掛ける。

「それでは、後はお願いするよ」

《はい!ご苦労様です!!》

元気の良い返事に笑顔を浮かべてから、榊博士は移動を始める。

少しだけ肩が凝ったのか、軽く揉みながら・・・。

そのまま神機保管庫に差し掛かったところで、ナナとシエルに出くわす。

「あぁ!榊博士だ!!」

「お疲れ様です、支部長」

何故かゴッドイータを目にすると、ホッとしてまう榊博士。ずっと彼等を相手に、研究を重ねてきたからであろう。

「やぁ。二人は、任務の帰りかい?」

「うん!榊博士は?」

「ナナ!・・申し訳ありません、支部長」

「いや、良いんだよ」

ナナの馴れ馴れしい態度を謝罪してくるシエルに、榊博士は手を前に出して、笑顔を見せる。

「私も色々忙しくてね・・。今度時間を作るから、ブラッドのみんなで遊びに来ると良い。お菓子も用意しておくよ、ナナ君」

「本当に!?やったー!」

「お気を遣わせて、申し訳ありません。隊長に伝えておきますので、その際には隊長に」

「あぁ。ヒロ君にも、よろしく伝えてくれたまへ」

そう言って手を振ってから、榊博士は再び歩き始める。

後ろの方でシエルに注意されてる、ナナのはしゃぎ声を耳にしながら・・。

 

 

地下の生産地区から戻った榊博士は、お腹をさすりながら、口を押えてゲップをする。

(・・・・少人数であの量は・・、多すぎたのでは・・)

大量の茄子の炒め物を、3,4人でたいらげたので、小食の榊博士には少々きつかったようだ。

ようやく辿り着いた支部長室に入って席に着くと、大きく深呼吸して座席に腰を深く預ける。

そこへ、ノックをせずに扉を開けて、ソーマが顔を見せる。

「・・・戻ったのか」

「や、やぁ・・ソーマ君。どうかしたかい?」

「あぁ」

一応苦しそうにしているのだが、ソーマは特に心配をするでもなく、自分の要件を話しだす。

「以前俺が話した件だが、やはり『原初』の野郎の素材が、必要不可欠と判断した。・・おっさんの読み通りだな」

「そうか・・。今だ目撃情報が少ないし、運よく拾った素材で調べた程度だったけど、結果は変わらなかったかね」

「あぁ・・」

手に持っていた報告書を榊博士の目の前に置いて、ソーマは部屋の出入り口へと移動する。

「詳しい事は、そいつに書いてある。リンドウが戻り次第、俺とアリサも、しばらく極東を離れるつもりだ。そのつもりでいてくれ」

「了解したよ。手配はしておくから、出る前に一声かけてくれるかい?」

「あぁ」

そのままソーマが出て行こうとするのを見て、榊博士はもう一声かける。

「ソーマ君。・・・コーヒーでも、一緒にどうだい?」

「・・・・断る」

たった一言を残して、ソーマはあっさりと出て行ってしまう。そんな彼に苦笑しながら、榊博士は小さく溜息を吐いて、レンカが置いて行ったのであろう任務報告書を手に取り、1つずつ目を通し始める。

 

 

開発局での会議を簡単に済ませた榊博士は、神機開発工房を訪れ、作業の音に耳を傾けていた。

研磨機の鉄をする音、溶接の火の粉が飛び散る音・・。

神機の生みの親ともいえる榊博士の、本日唯一の休憩時間となっている。・・予定にはないのだが・・。

「・・・ん?榊博士?なにやってんですか?」

「やぁ、リッカ君」

休憩しようと出てきたリッカに、榊博士は軽く手を上げて応える。そんな彼の疲れた顔を見て、リッカは苦笑いを浮かべて、側へと歩み寄る。

「また、サボりですか?レンカ君に怒られますよ?」

「そう言わないでくれないか。朝から予定が詰め詰めでね・・、少しだけ時間を作って休むぐらいは、勘弁してほしい」

「こんなうるさい作業場を、休憩場所に選ぶなんて・・、博士も変わってるなー。まっ、程々にね~」

「ありがとう、リッカ君」

手をヒラヒラさせながら去って行くリッカを見送って、榊博士は鉄の焼ける匂いを思い切り吸い込み、立ち上がる。

そうして、次の予定を消化すべく、移動をし始める。

 

 

「・・・・つ・・、疲れた・・・」

夕方、支部長室に戻ってきた榊博士は、ソファーの上に倒れ込む。

居住区を視察に行った際に、C地区の代表と話すつもりが、D地区の代表が殴り込んできて、まさかの取っ組み合いが展開されたのだ。

荒事にめっぽう弱い榊博士は、それに巻き込まれもみくちゃにされ、たまたま見回りをしていたタツミとブレンダンに運よく割って入ってもらい、事無き得たのだが・・・。

榊博士は、1日の疲労困憊で、もういっぱいいっぱいなのであった。

しばらく顔を突っ伏していたが、榊博士はゆっくりと顔を上げて、自分のデスクの上を見る。

山と積まれていた書類の束が、何故か1つ増えているように見えた。・・実際、増えているが・・。

「・・・・・はぁ・・」

本日何度目かの溜息を吐いてから、榊博士は立ち上がり、カップに新しいコーヒーを注いでから、口にする。

それから、切なげに窓の外を眺めてから、夜の訪れを見守りながら声を洩らす。

「・・・・・いっそ・・、自分を観察してみるかな・・・」

『自分程興味のないモノはない』と思っていた榊博士。彼の口からこんな言葉が飛び出るなど、旧友であるヨハネス・フォン・シックザールですら、予想しえなかったであろう。

 

『実に・・興味深いな。ペイラー・・』

 

「よしてくれ・・・、ヨハン」

想像の中で笑われた気がした榊博士は、独り言を口にした後、デスクへと移動する。

それから、書類の山から1枚ずつ手に取り、確認し次第、判を押す仕事にとりかかった。

 

 

朝日が顔を照らし出した頃、レンカがノックの後に、部屋へと入って来る。

「おはようございます、榊博士」

「・・・お、おはよう」

寝不足で肩を震わせながら、榊博士は無理に笑って見せる。

研究での徹夜は頼んでまでするが、別の理由での徹夜は、彼には難しいようだ。

処理を終えた書類を確認してから、レンカはフッと笑みを浮かべて小さく頷く。それは、休んでも良いのかと判断しかけた時、部屋に新たな書類を運んできた者を見て、榊博士は落胆の表情となる。

「こっちも運んでくれ。・・ありがとう。それでは、今日の予定ですが・・」

「・・・・勘弁・・、してくれないかい?」

「・・・残念ながら。支部長ですから・・」

そう答えてから、レンカは淡々と予定を読み上げる。

呪いの言葉を耳にするように、榊博士は手にしているカップをカタカタ震わせて、1日の恐怖に身を縮めるのだった。

 

1番偉い人だからこそ、1番大変だったりする・・。

真面目な彼の犠牲のお陰で、極東支部は正常に活動し続ける。

 

 

 





2になっても榊博士が支部長やっているのを見て、不憫に思ったのは、私だけだろうか?w

極東の為に、頑張れ『星の観測者』!


結局3話も引っ張りましたが、次から『レイジバースト編』を開始します!
さぁ、いったれ!ゴッドイーター!!



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