「君達が・・・・、ブラッドかい?」
神機の調整を終え、保管庫から戻るヒロとギル。急に話しかけられて、二人はゆっくりとその人物に振り返る。
「僕はエミール。栄えある極東支部第1部隊所属、・・エミール・フォン・シュトラスブルグだ!」
何故かビシッという音が出る程の構えを決めて、自己紹介してくる彼に、ギルが呆れ顔で返事を返す。
「・・・そうか。よろしくな」
それを合図に立ち去ろうとすると、エミールは手を前に突き出し、それを止める。そして、何やら思いつめたような表情で、思いの丈を語り始める。
「このフライアは、良い船だね。・・・・実に、趣味が良い。しかし!この美しい船の、祝福すべき航海を妨げるかのように・・・、怒涛のような荒神の大群が待ち受けているという。きっと・・・君達は不安に怯えているだろう。そう思うと・・・僕は、いてもたっても、いられなくなったんだ!」
「・・・・・はぁ」
何やら大袈裟に喋っているエミールに、ヒロは空返事を返してしまう。
怒涛のような荒神の大群を倒すのに力を貸すのは、ブラッドの方だからだ。
「そう言う訳で、この僕が君達の力となるべく、参上したのだ。大船に乗ったつもりでいてくれたまえ!」
「・・・・結構です」
「バカ!」
何か怖くなってきたヒロが、つい言ってしまった言葉にギルが小突くが、それも遅かった。エミールは更に派手な振る舞いで、語り始める。
「君は、非力を恥じているのか?いや、恥ずべきことはない!強大な敵との戦いには、この正義の助太刀こそあるべきだ!頼りたまえ!弱きを助けるのが僕の義務!『騎士道精神』だからだ!!」
「いえ、いいむぐぅっ!」
「わかった。そうさせてもらう」
余計なことを言いそうなヒロの口を塞いでから、ギルが代わりに答える。それに満足したのか、優雅と言った感じの足運びで、エミールはゆっくりと歩み始める。
「共に戦おう。人類の、輝かしい未来のために!!我々の勝利は、約束されている!!」
嵐が過ぎ去ったような静けさに、ギルはヒロの口を塞いでいた手を放してから、溜息を吐く。
「ややこしいヤツが・・・、来たな」
「・・・・うん」
二人は肩を竦めてから、再び歩き始めた。
任務の説明を受けるために、ブラッドは神機保管庫に集まっていた。
それぞれが神機を移動用のケースに入れてから待つと、ジュリウスがエミールを連れて入ってくる。
「誰?あの人?」
「ヒロとギルが会ったっていう、極東の奴じゃね?」
ロミオとナナが小声で話しているうちに、二人は皆の前へと到着する。
「本日は初の外からの要請任務だ。ここ極東地域も、最前線とはいえ、決して万能ではない。任務に割ける人員にも、限界がある」
「それで、俺達にか?」
ギルの質問に、ジュリウスは頷いて見せてから、話を続ける。
「今後、こういった任務がメインとなるだろう。俺達ブラッドは、要請のあった地域に赴き、力を貸す。必要なら独自に戦闘へ介入する」
「そうか・・・。君達は俗に言う、遊撃部隊というやつだね」
「そういうことになります」
口を挟んできたエミールに丁寧に受け答えしてから、ジュリウスは改めて任務の内容を口にする。
「今回は極東に向かっている荒神の集団を、二つに分断し、排除する。その為、2班に分かれて行動する」
そのジュリウスの言葉に、ヒロとギルは嫌な予感に、目を合わせる。そして、その予想は的中する。
「第1班は俺とナナとロミオ、第2班はヒロとギルに、彼にも加わってもらう。極東第1部隊の、エミールさんだ」
「君達への自己紹介は済んでいるが、彼等にはまだだったね。僕はエミール・・・栄えある極東支部第1部隊所属、エミール・フォン・シュトラスブルグだ!!」
ヒロとギルの時とは違ったポーズを決めるエミールに、二人は溜息を吐き、ナナとロミオは少し固まってから立ち上がる。それから自分の神機ケースを手に持ち、ナナはヒロを、ロミオはギルの肩に手を置いてから、エールを送った。
「えっと~・・・・がんばってね」
「自棄になって、殴るなよ」
先に歩き始める二人の優しさに、尚嫌気がさしてきたヒロとギルは、逃げ出したくなる前にと、移動の為にヘリポートへと移動していった。
そんな彼等の様子を、前髪のカールを指で遊びながら、エミールは余裕の笑みで目を閉じる。
「ふふっ。何も緊張することはないのだが・・・。僕の溢れんばかりの強さと輝きに・・・酔ってしまったかもしれないねぇ」
その台詞に1点の曇りがないのを理解できてか、ジュリウスも絶句していた自分を悟られぬように、移動を始めた。
荒野を駆ける荒神の大群の上空から、ブラッドとエミールは銃型にして構える。
そして、それぞれの無線に、フランからの連絡が入る。
『メテオライト、発射してください!』
ドゥオォーーーーンッ!!!!
一斉に発射されたバレットは、上空で交わり、拡散して荒神へと降り注ぐ。
ドドドドドドドーーーンッ!!!!!
その威力に大半の荒神は沈黙し、残った荒神は中心から左右へと別れる。
『分断確認。降下してください』
『いくぞ』
フランとジュリウスの声を確認してから、ヒロは神機を剣型に変形しながら飛び降りる。
片腕を押さえて飛び退くシユウを目で追いながら、ギルはヒロの名前を叫ぶ。
「ヒロ!いったぞ!」
それを合図に、シユウが背中にする壁の後ろから、ヒロが飛び越えて銃口を向ける。
ドドドドッ!!
ギャギャアッ!!
頭を押さえられて屈み込むシユウ。そこへ、ギルの容赦ない1撃が、その胸を穿つ。
「くたばれ!!」
ズゥンッ!!
大きな穴を確認することも出来ず、シユウはその場に倒れ込む。そこへ、二つの大きな口が、喰い荒らそうと構えていた。
ガビュウッ!!!!
フランとの連絡で確認を終えたのか、ギルは顔を上げてヒロを呼ぶ。
「おい、やはり後1体だけだ」
「そう。じゃあ・・・・、あれってことだよね」
二人の視線の先に映るのは、大口で笑うような素振りを見せるウコンバサラと、傷だらけの騎士(?)のエミールだった。
手を貸そうとはしたのだが、「助太刀無用!!」と止められたので、ヒロもギルも周りに警戒をしつつ、見守っているのだ。
「はぁ・・はぁ・・、闇の眷属め・・」
グアアァウッ!!!
「ここは・・・僕の、騎士道精神にかけて!貴様を土に、還してやぶぅあっ!!」
長口上はお気に召さないのか、エミールが喋り終わる前に、ウコンバサラは相手を吹っ飛ばす。
「おのれ・・・、なかなかやる!だが!今度は、こちらの番がぁぁっ!!」
やはり喋らせてもらえず、エミールは壁に激突し、倒れる。
もう無理だろうと歩き始めたところで、立ち上がるエミールに気付いたヒロが、ギルを止める。
「おい。もう良いだろう。子供の遊びじゃないんだぞ」
「でも・・・、あの人はやる気みたいだし・・」
その言葉が聞こえていたのか、エミールは口の端を浮かせてから、神機を構えなおす。
「待っていてくれ。今・・・、僕の騎士道精神を示してみせる!!」
グアァウッ!
「ふっ・・・いいだろう。そろそろ、僕の本気を見せぎゃふっ!!」
何度宙に浮いたのか、エミールはふらつく頭を抱えながら、ゆっくりと立ち上がる。
流石に見ていられないとヒロも同調してか、ギルと走り出すが、エミールの口から洩れる声に、その足を止めてしまう。
「ゴッドイーターの・・戦いは・・・、ただの戦いではない・・。この絶望の世に於いて、神機使いは・・・、人々の希望の依り代だ!!」
「・・・・へぇ」
長々喋るめんどくさい人としか思ってなかったヒロは、少しだけエミールに関心の目を向ける。
「正義が勝つから、民は明日を信じ!正義が負けぬから、皆前を向いて生きる!!故に僕は・・・騎士は!絶対に、倒れるわけにはいかないのだ!!」
「だから・・・長いんだよ。話が」
ギルのツッコミに同意してか、ウコンバサラが再びエミールへと突っ込む。しかし、そこには目標はなく、空から降ってきた強烈な痛みに、叫ぶ暇もなくその場で倒れた。
その1撃をもって沈黙した荒神を目にしてから、歓喜の笑みを浮かべたエミールは、曇りがかった空に向かって、勝利の雄叫びを上げる。
「うおぉぉぉぉっ!!騎士道精神の、勝利だぁ!!」
ガビュウッ!!
「は?」
それを遮るような音がして、エミールは背後へと振り返る。そこには、捕食をしているヒロとギルが、白い目で見つめていた。
「・・・・そういうことは・・」
「コアの回収を済ませてからにして下さい」
「あ・・・・・・・・・・・・、すまない」
本気で忘れていたらしい表情に、ヒロとギルは溜息を吐いてから、回収を終えたのを確認してから、歩き始める。
それにハッと我に返ってか、エミールも早足で後を追う。
「ま、待ってくれ!普段は、決して忘れたりはしないんだ!」
そんな彼の声を無視しながら、ヒロはジュリウスへと報告する。
「隊長・・・帰投します」
『・・・・ご苦労だった』
その苦労を理解できるといった感じで、ジュリウスはそれ以上何も聞かなかった。
もうすぐ合流地点というところで、ヒロとギルが足を止める。そして、
オオォォォォォンッ!!
狼の遠吠えのような声が木霊する。
その雄叫びが聞こえた方向を探るように見回しながら、ギルは舌打ちをしてから口を開く。
「くそっ・・・。新手かよ」
「そうみたいだね。僕はジュリウスと連絡とるから、ギルはフランさんに確認取って」
「わかった」
「エミールさん・・・・あれ?」
振り返って指示を出そうと思った時には、エミールの姿はそこにはなかった。そこに、ジュリウスからヒロへ無線が入る。
『ヒロ。荒神らしき声を確認した。お前達の状況を、教えてくれ』
「それが・・・・、エミールさんが単独でいなくなりました」
『なんだと?』
つい呆けてしまった頭を振ってから、ヒロはギルと目で示し合わせる。それから別方向に移動を始めてから、改めてジュリウスに返事を返す。
「今からギルと別々に探します!隊長達も、手を貸して下さい!」
『わかった。こちらも捜索に移る。未知の荒神の可能性が高い。できるだけ、単独での戦闘は避けろ』
「了解!!」
無線を切ってから、建物の中に入り、影になったところから水の中まで、ヒロは視線を走らせた。
独断先行してしまったことを、今更ながら後悔しているエミールは、荒神に警戒しつつ足を進める。
「闇の眷属よ・・・。姿を見せろ」
言っていることに反して、彼の声は普段より響かない。
周りに仲間が確認できないことに、正直怖気づいているからだ。
その時、近くの瓦礫の隙間が赤く光ったように見え、エミールはそちらを向いて神機を構える。その瞬間、
ズシッ
「な・・・んだと!?」
今まで重いと感じなかった自分の相棒が、急に手の中にのしかかってくる。焦ったエミールは、必死に神機を振ってみる。
「どういうことだ!ポラーシュターン!いったい・・」
ガアァァーーーンッ!!
そのタイミングを待っていたとばかりに、瓦礫の裂け目は崩れ、赤く光る二つの瞳が、ゆらゆらとエミールを見つめる。
「な・・・なな・・」
神機のことでパニックになっているエミールは1歩、また1歩と後ずさる。
それを嘲笑うかのように、赤黒いオーラを纏った荒神は、その顔を天に向けて、絶望を謳う様に叫ぶ。
オオォォォォンッ!!!
それを耳にしたブラッドの誰もが、目を見開いて鳥肌を立てる。
新たな力を持った、神の降臨に・・・。
エミール、台詞なげぇよ!!
でも、好きなキャラだ!w