GOD EATER2 ~絆を繋ぐ詩~   作:死姫

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番外編 彼の知らない1日

 

 

ジュリウスの力で、『終末捕食』が螺旋の樹に閉じ込められてから、1週間経った。

ヒロは起床してからしばらく、窓の外に見える螺旋の樹を眺めていた。

(君は・・・・今も、戦っているんだね・・。ジュリウス・・)

螺旋の樹の中、戦い続ける友を思うヒロ。

そんな彼の、特別な1日・・・。

 

 

少し遅めの朝食に降りてくると、団欒室で珍しい人に会う。

「ん?よぉ~、新米隊長~」

「リンドウさん」

珍しく団欒室で食事をとっている、リンドウと鉢合わせて、ヒロは隣の席に着いて、ムツミに声を掛ける。

「おはよう、ムツミさん。リンドウさんと、同じのを」

「は~い。少々お待ちくださいね~」

手早く準備をして、ムツミはお膳をヒロの前に置く。

「・・・・これだけ?」

「あ、はい。リンドウさん、お茶漬けだけですから」

そう言って下がって行ったムツミと、目の前のお膳を交互に見てから、ヒロは渋々箸をつける。

「ははっ。俺も歳かな~。朝は小食でよ。まぁ、食ってみろって」

「・・は、はぁ・・」

そう言って、ダシに漬かったご飯をほぐして、口の中へ掻き込む。

「・・・・あ、美味しい」

「だろ?」

しばらく黙って口の中へ流し込んでみると、空になる頃には、以外にも腹は満たされていた。

軽く息を吐いて手を合わせていると、リンドウが煙草を咥えて話しかけてくる。

「今回・・・大変だったな。俺は・・・ギリギリ駆け込んだだけで、たいして役に立たなかったからな・・」

「あ・・・・いえ。僕より・・・きっと、今も螺旋の樹の中で戦ってる、ジュリウスの方が、大変ですから」

「そうか・・・」

そう言ってから、リンドウは立ち上がって、軽くヒロの頭を撫でまわしてから、喫煙所へと移動する。

「なら・・・、あんまりシケた面、するなよ?笑顔だぞ~」

「え?・・・・」

そう言われて、ヒロは自分の顔を気にしだす。しかし鏡はないし、人に聞くのも気が引けたので、そのままトイレへと足を向けた。

 

「ん~・・・・・」

トイレの鏡の前で自分を見てみたヒロは、自分の表情が確かに硬くなっているのに気付く。

気付いてしまえば気になり、ヒロは頬の筋肉をほぐすように、伸ばしたり揉んだりしてみる。

そこへ、大便の所から出てきたコウタに、白い目で見られる。

「え?・・何?それ、新しい遊びか?」

「へ?あ!?こ、コウタさん!?い・・いや、これは・・」

慌てるヒロを見てから、そのまま鏡にも目を向けたコウタは、軽く溜息を吐いてから、手を洗い出す。

「誰かに、『シケた面、すんな』とか、言われたか?」

「え!?わかっちゃいます!?」

「図星かよ・・・」

洗い終わった手をハンカチで拭いてから、コウタは優しく笑みを浮かべてから、軽くデコピンを食らわせる。

ビシッ

「あたっ!?・・え?」

「顔の筋肉ほぐす前に、色々考えすぎてる、頭の中でも整理してみろよ?少しは、良くなるんじゃね?」

「は・・はぁ」

手を振りながら出ていくコウタを見送りながら、ヒロは自分が何か悩んでいるのかと、更に険しい表情になった。

 

 

「あ?表情だと?・・・それを、俺に聞くのか?」

「あ・・あはは~」

あんまりにも気にしすぎて、ヒロはついソーマに相談に来ていた。

しかし、彼に指摘された通りである。いくら棘が無くなってきたとはいえ、ソーマはそんなに表情が豊かな方ではない。

言われて今更気付いたように、ヒロは頭を掻きながら笑うしかない。

そんな苦笑いにも、ぎこちなさを感じ取ったのか、ソーマは溜息を吐いて立ち上がり、コーヒーを2つ用意してから、1つを手渡す。

「あ・・・ありがとう、ございます」

「取り合えず、無理に笑おうとしなくて・・良いんじゃないか?」

「・・・えっ?」

ソファーに腰を下ろしてから、ソーマはコーヒーに口をつけ、喋りかける。

「お前の今の悩みは、正直わからん。この際、どうでもいい」

「ひ・・酷い・」

「だが・・・・・、作り笑いは・・・見てる方が辛い・・・・らしいぞ」

「・・・・・・」

黙ってしまい、ヒロはコーヒーを飲み続ける。

自分は上手く笑えていないのかと認識すると、ヒロはコーヒーを一気に飲み干してからカップを置いて、ソーマに1礼して出て行った。

ほんの少しだけ・・・、恥ずかしくなってしまったのだ。

 

 

「・・・・それで、ここに来たんですか?」

「はい・・。このままじゃ、良くないと思いまして・・」

書庫にやってきたヒロは、「『上手く笑う方法』という本はあるか?」と、その場にいたアリサに聞いたのだ。

聞かされたアリサは、盛大に溜息を吐いて、眉間を指で撫でる。

「ヒロさん・・。はっきり言わせていただきますけど、そんな本は在りません。少なくとも、”ここ”には・・」

「そ、そうですよね・・。・・・あ、でも何で断言できるんですか?」

「へ?い、あ!?それは・・・・。いいじゃないですか!?」

「す、すいません!」

ヒロの指摘に過剰に反応を示すアリサ。以前探した経験が、あるからだが・・。

軽く咳払いをして、アリサは足を組みなおして、口を開く。

「あなたの悩みを解決する方法は、この書庫にはありません。・・・ですが、旧友に相談するのも、良いかもしれませんね?黙って聞いてくれる・・そんな、人に」

「黙って・・・・あっ!」

思い当たったのか、ヒロはアリサへと深々、頭を下げる。

「ありがとうございます!」

「・・・いいえ」

ヒロが去って行くと、アリサは暫く頬杖をついて、彼の出て行った扉を眺めた。

 

 

「・・・急だな。どうした?」

「あ、あの・・・・。ちょっと・・」

突然フライアへの訪問許可を求めてきたヒロに、レンカは肩眉を上げて、少し驚いて見せる。

しかし、断る理由も浮かばなかったので、レンカは手早く申請書を作成する。

「あの・・・急で、すいません」

「いや、構わない。お前は真面目だからな、たまには困らせられるのも、悪くはない。何か・・・思うこと、あるんだろう?」

「はい・・」

「なら、今日の休暇中に済ませて来い。・・・ほら。これを守衛に持っていけ」

そう言って渡された紙を受け取り、ヒロは笑顔を作って、1礼する。

「ありがとうございます!」

「あぁ・・。良い、休暇をな・・」

ヒロを見送ってから、レンカは少し考える様な表情をする。それに気付いたヒバリが、声を掛けてくる。

「あの・・・、どうされました?」

「ん?・・いえ。何でも・・」

そう言いながらも、難しい表情のままのレンカを気にしていると、ヒバリは無線を受けてから、驚きの表情を浮かべる。

「・・レンカさん!?この信号って!?」

「ん?どうしました・・?」

 

 

フライアの中へ入ったヒロは、すっかりボロボロになった壁をなぞりながら、庭園へと足を運ぶ。

ロミオと、ジュリウスに会う為に・・。

しかし、そこに先客がいるのを目にして、二人に話そうと思ったことが、頭から零れ落ちる。

「あ・・・あの・・」

「え?・・あら・・」

ロミオの墓前に花束を持ってきていたサクヤが、笑顔で立ち上がる。

「確か・・ヒロ君、だったわね?久し振り・・。ロミオの、葬儀以来かしら?」

「あ・・はい。サクヤさん。お久しぶりです」

丁寧に頭を下げるヒロに、笑顔のまま隣へと促すサクヤ。そして二人並んで座り、ロミオへと手を合わせる。

しばらく黙ってそのまま過ごしていたが、サクヤはゆっくりと立ち上がり、軽くヒロの肩を叩く。

「それじゃあ、私は行くわね?」

「あ・・もう、ですか?僕の事なら・・」

「話したいこと、あったんでしょ?ロミオに・・」

「それは・・・・」

口籠ったヒロを、目を細めて見つめてから、サクヤは頬を軽く抓ってぐりぐりと動かす。

「へ?・・ふぁ、はの・・・」

「こら!いい男が、台無しよ?・・・次に会う時には、いい顔見せて頂戴ね?」

そう言って手を離し、サクヤはウィンクしてからその場から去って行った。

残されたヒロは、軽く深呼吸をしてから、ロミオと・・・ジュリウスに話しかける。

「・・・ロミオ先輩、ジュリウス・・・また、来たよ」

そう口にすると、先程頭から零れ落ちたのとは違った、彼等に話したいことが思い浮かんでくる。

 

 

僕は・・・・、言われるまで気付かなかったよ。多分、事件が解決して、張り詰めてた気が緩んで・・・・、寂しくなったんだと、思う。

ずっと六人だったから・・・。

記憶を失くして、外の世界を駆けずり回っていた僕が・・・たった独りだった僕が、手に入れた大切なモノが、欠けてしまったことを、再認識させられたことに、落ち込んでいたんだと、思う。

 

やっぱり、寂しいよ・・・。ロミオ先輩・・・ジュリウス・・・。

 

でも、隊長の僕が、何時までもこんなんじゃ、駄目だよね?

だから、今日愚痴って・・・、明日から元気に、また頑張ろうと思う。

もしまた・・・、辛くなったら・・・。寂しくなったら、会いに来ても・・良いよね?

 

ロミオ先輩と、ジュリウスが守った世界を、今度は僕が・・守るよ。

それから・・・、

僕に、出会ってくれて・・・ありがとう。

 

 

極東に戻ってから、誰もいない訓練所に、ヒロは静かに入っていく。

電気をつけずに、ゆっくりと目を閉じると、ジュリウスと打ち合った日々が思い浮かぶ。

何だかんだと、ジュリウスとの訓練が1番多かったなと、今になって気付く。

ブラッドに入ってからの、自分を振り返ると、とても誇らしくなり、ヒロは自然と笑みを零す。

そこへ・・。

ヒュッ パシッ!

「っ!?・・・え?」

木刀が1本飛んできて、ヒロはそれを手にし、驚いてそちらへと顔を向ける。

天井の近くの窓から射す、青い月の光に照らされ、その人の顔を浮かび上がらせる。

「月が・・・綺麗だね。ヒロ・・」

「ゆ・・ユウさん!?」

「うん」

いつ戻ったのか・・・。神薙ユウが木刀を手に、姿を見せたのだ。

そして、笑顔のまま、ヒロへと優しく話しかける。

「・・うん。みんながいう程、ひどい顔はしてないね。でも・・、まだスッキリはしてないかな?」

「あの・・その・・」

戸惑うヒロへゆっくり距離を詰めてから、ユウは静かに木刀を前に構える。

「っ!?・・・・ユウ、さん・・」

「やろうか・・、ヒロ。少し体を動かせば、もやもやの解消になるかもしれないよ?」

「・・・はい!」

ヒロが木刀を構えたのを確認し、優しく微笑んでから、ユウは開始の合図に叫ぶ。

「本気で来なよ!?ヒロ!!」

「お願いします!!ユウさん!!」

そうして二人は同時に、木刀を振り下ろした。

 

 

ドサッ

ヒロが倒れると、ユウは軽く木刀を振ってから、戦闘の終了を示す。

そこへ、クレイドルとサクヤが苦笑しながら入って来る。

「や~れやれ。お前も、容赦ないな?」

「本当に。もう少し、手加減してあげるかと思ってたのに・・」

「ユウさんはレンカやソーマよりも、ある意味厳しいからな~」

「俺は、ちゃんと加減はしているぞ?」

「本気で言ってます?エミールさんが、本気であなたに恐怖してましたけど?」

「ふん・・・。なんでそんな面倒なことを、してやらなければならない」

「いや~・・・。ヒロ、思った以上に強いから、楽しくなっちゃって。ははっ」

クレイドルが揃って話しているその場で、ヒロは寝息を立て始める。

それに気付いて、全員彼へと注目する。

「ははっ。寝る元気があるなら、問題ないな」

「何か、笑ってるみたい・・。ふふっ」

「心配する必要、なかったかな?」

「ふっ・・、そうだな」

「きっと、彼も疲れていたんですね・・」

「まぁな。だが・・・、明日からは大丈夫そうだな」

「そうだね。・・・僕が、運ぶよ」

ユウがヒロを背中におぶると、二人の木刀をソーマが自然と手にする。そんな彼に、ユウは笑顔を浮かべたまま話しかける。

「ソーマ・・・・、この子は・・強くなるよ。きっと、僕やソーマよりも・・」

「ふん・・・・。知ってる・・」

そんな二人のやり取りに、他の者は驚きの表情を浮かべる。

が、すぐに微笑んでから、二人とヒロの周りに駈け寄る。

 

憧れの者達に囲まれて、ヒロの休日は過ぎていく・・・。

それは、彼の知らない、特別な1日。

 

 

 

 





こんな話でした!

疲れたヒロへ、ヤブレ同人作家モドキから、ちょっとしたプレゼント・・。

カッコつけすぎた・・。顔洗ってきますw



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