GOD EATER2 ~絆を繋ぐ詩~   作:死姫

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47話 一人は皆の為に・・・

 

 

薄靄が掛かった世界。

眩い光を抜けた先で、ブラッドとユノは、辺りを見回す。

鉄の壁に囲まれたフライアの中とは違う、どこか『迷いの森』という名称が似合いそうな場所で、ヒロは霧の向こうに立つ、ジュリウスを目に留める。

「・・ジュリウス・・」

《・・っ!?》

ヒロの洩らした声に、皆はその名の者の姿を確認し、その場所へと駈け寄る。

しかし・・。

ブゥンッ

「え?・・・なに、これ?」

真っ先に辿り着こうと先を走っていたナナが、見えない壁に阻まれて、前に進めず困惑している。

他の者も、そこまで行きつくと、必死に押したり叩いたりして、壁を越えようとする。

それにようやく気付いてか、ジュリウスの方も、フッと笑顔を見せてから、見えない壁の近くまで歩いてくる。

「・・・みんな。久し振り・・だな。何故かそう言って差し支えない程、懐かしく感じる・・」

「ジュリウス・・・」

ユノが切なげに声を洩らすのに、ジュリウスは静かに目を閉じて、下を向く。

「・・知らなかったとはいえ、俺がしたことは・・・赦される事ではない。ラケルの甘言に乗せられ、命の限りを尽くして・・・ただ、みんなを守りたかった。しかし、結果は・・・このザマだ。・・・・すまない」

深く頭を下げるジュリウスに、皆かける言葉を見失ってしまう。

今回起こったことは、彼自身が最も嫌う、悪の所業だからだ。

「償いは・・・しなくては、ならない」

そう言ったジュリウスは頭を上げて、後ろへと振り返る。

そこには、影の様に黒く染まった荒神が、群れを成して、こちらへと向かってきている。

「・・・こいつは・・」

「『終末捕食』だ・・。俺とユノという特異点を中心に、世界を喰らいつくす下準備といったところだ」

冷静に解説するジュリウスに、皆違和感を覚える。

その顔が、余りにも穏やかであった為に・・・。

「・・ジュリウス、まさか・・・!?」

「・・特異点は、1つで十分。俺が・・・・あれらを、食い止める。『終末捕食』の完遂を阻止するために」

《っ!?》

先に声を出したヒロ以外の者達は、驚いて必死にやめさようと、見えない壁に張り付く。

「ふざけんな!どこまで、一人で勝手に決めれば気が済むんだ!?」

「そうだよ!あたし達も、今度は一緒に!!」

「あなたの罪は、私達も背負いますから!」

「一人で行かないで・・。ジュリウス!!」

そんな皆に、ジュリウスは感謝の涙を零して、優しく微笑む。

「ありがとう・・。だが、俺はそちら側には行けない。『終末捕食』に、決着をつけるまでは・・」

「そんな・・・」

ナナが俯く頭を、ヒロは優しく撫でながら、ジュリウスの前へと立つ。

「ジュリウス・・・」

「ヒロ・・。また、頼めるか?」

「・・・・ずるいな。僕が断れないのを、知ってるからって・・」

「・・すまない」

切なげに笑い合う二人。

そんな彼等を引き裂くように、軽く地響きが起こる。

「くっ!・・・・もう、時間がない!みんな、行ってくれ!!」

彼の叫びに、ブラッドは涙を流しながら、別れの言葉を、惜しみながら口にする。

「・・・・くそっ。・・・・ジュリウス。待ってるぞ・・」

「あぁ、ギル。今度は、ちゃんと戻る」

「・・・うぅ・・・・。ばいばい、ジュリウス・・・!」

「元気にな・・・、ナナ」

「早く・・・・帰ってきてくださいね・・。ジュリウス・・」

「シエル・・。みんなと、仲良くな・・・」

言い終えた者達は、壁から遠ざかるように、霧の中へと歩き出す。

その場から中々動けずにいたヒロも、沢山の言いたいことを必死に飲み込んでから、壁に拳を当てて、涙ながらも笑顔で一言伝える。

「・・・・・またね。・・・・・親友」

「・・・・あぁ。・・・またな、親友」

それに応えるように拳を重ねて、ジュリウスも笑顔で返事を返す。

 

ヒロが下がった後、ユノは手を胸の前に組んで・・抱いて、呼吸を落ち着けてから、彼に声を掛ける。

 

「・・・・行っちゃうんだ」

「・・はい。俺が行けば、あなたは助かる。『終末捕食』には、特異点が1つあれば・・・」

「そんな事、聞きたいんじゃない!」

「・・っ!?」

「・・ずっと会えなかったのに・・・やっと会えたのに、また・・遠くに行っちゃうなんて・・。どうして、自分ばかりを犠牲にするの!?」

「・・・・・英雄・・」

「え?・・・」

「あなたが話してくれた、青い月となった英雄の話・・。彼女が何故、その道を選んだのか、わかる気がします」

「・・・・どうして?」

「俺にも、自分よりも守りたい・・・大切な人達が、出来たからです」

「・・・ジュリウス・・」

「俺は、ロミオを守れず、黒蛛病になった時に、英雄にはなれないと思っていたんです。だが、今なら・・・・」

「・・・・・帰って来るの?」

「・・・約束は、出来ません」

「ブラッドのみんなには、ちゃんと言ったくせに・・・、ずるい」

「・・・・・しかし、これだけは約束します」

「なに?・・」

「・・・あなたを、守って見せます」

「っ!?・・・・・本当に、ずるい・・」

 

地響きが強くなってきたところで、ユノを待っていたヒロが手を伸ばしてくる。

「ユノさん!もう限界だ!早く!!」

「待って!・・・・あと、少しだけ・・」

そう言ってから、ユノは目を閉じて壁にゆっくりと手を当てる。すると、世界が不安定になったのか、壁はゆっくりと消えていき、ユノの手がジュリウスへと届いた瞬間・・、

「・・ん・・・・」

「んっ・・・・・・・」

彼を引き寄せて、彼女は唇を重ねた。

ほんの数秒の出来事の末、ユノはヒロに手を引かれて、ジュリウスとの間の地面は崩れ落ちていく。

彼の名を叫んだ二人の目に映ったジュリウスは、背中越しに手を上げて見せ、顔だけを少し振り向かせて、口を動かした。

それを最後に、再び強い光の中へと、吸い込まれていく。

 

 

一人残ったジュリウスは、己の中に感じる、特異点の力と、血の力を開放し、天高く声を張り上げた。

「おおぉぉぉぉぉぉーーーーーーーっ!!!」

キイィィィィィンッ

 

 

光の中から目を覚ましたブラッドとユノは、すぐそこまで迫って来ていた触手が、ジュリウスがいたであろう場所を中心に集まるのを目にする。

パキッ パキパキパキッ ゴゴゴゴォッ!!!

それは絡み合い、太く伸び、大きく・・・更に大きく、渦を巻くように伸び続け、フライアの天井や壁を吹き飛ばす。

ガァァーーーーンッ!!!

・・・静けさが訪れた頃に、目を向けると、それは巨大な木となりそびえ立っていた。

極東を見守るように姿を見せた大木は、その巨体から花の胞子のような、光る粒子を散りばめる。

その一部が、ユノに触れた瞬間・・、

「・・・あ・・・・痣が・・」

黒蛛病の、忌まわしき黒い痣は、その光に包まれるように、消えて無くなった。

 

それは、極東全域に広がり、黒蛛病で苦しむ人達を解放していく。

彼の想いが・・、世界を救ったのだ・・・。

 

 

極東の支部長室。

今回の事件の顛末を報告書にまとめていた榊博士は、ふとその手を止めて、大きく溜息を洩らす。

ラケルの謀略、ジュリウスが『終末捕食』を閉じ込めた『螺旋の樹』、黒蛛病からの解放・・・。

どこまでをフェンリルが公表するのか・・。

以前の事件を思い出し、榊博士は少しだけ憂鬱な気持ちになる。

(・・・・こんな事が、続いて良いのだろうか?・・・)

湛えられるべき者達を差し置いて、上層部は自分達を神のように謳うだろう。だがそれは、今回の首謀者であるラケルと、何が違うのであろう?

「人と神・・・。正しいのは・・、どっちなのだろうね・・」

そう言葉を洩らしてから、榊博士は窓に近付き、螺旋の樹を見つめる。

そこで、目線を落とした先で見たモノに、榊博士は優しく微笑んで、眼鏡をクイッと上げる。

「・・・・だが君達なら、良い答えを・・・見つけてくれるのかもしれないね」

 

 

ザスッ!

フライアの残骸の中で生き残った、ロミオが眠る庭園。

そこにやってきたブラッドは、ジュリウスの神機を、ロミオの墓石の隣に突き立てる。

偏食因子の暴走を抑える手袋を外して、ヒロは螺旋の樹に笑顔を向ける。

「・・・ジュリウス、任せたよ。・・・こっちは、僕等が守るよ」

その言葉に微笑みながら、シエル、ナナ、ギルも小さく頷く。

螺旋の樹は、光の粒子を纏いながら、静かに見守っていた・・。

 

 

荒ぶる神との戦いが続く世界で、少年達は、今日も武器を手に取り立ち上がる。

GOD EATER達の物語に、まだ終わりはない・・。

 

 

 

 

 





何とか、第1部『ブラッド編』を、無事に終わらせることが出来ました!
ここまで読んで下さり、ありがとうございます!

ここから2,3話番外編を掲載後に、『レイジ・バースト編』をスタートさせます!
・・・・少し休憩しつつw

ある一定まで書き終えましたが、ここからが本番だと思っています。
これから、ヒロとブラッド、ユウにクレイドル。多くの人を巻き込んで、物語を加速させていこうと思います。

いつも読んで下さり、時にメッセージを下さる皆さんの応援に励まされてます。
これからも、暖かく見守って下さればと思います!

GOD EATER2 ~絆を繋ぐ詩~を、これからもよろしくお願いします!


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