フライアを守護するように、横一列でバレッドを撃ってくる神機兵。
それを装甲壁の影から様子を伺いながら、タツミは溜息を洩らす。
「あぁー、くっそ!なんて弾、撃ってくんだよ!?当たったら、人間なんてバラバラだぞ!?」
苛立ちからか、苦笑いしか出ない状態で、タツミはバレッドの弾を補充している隊員に、声を掛ける。
「おーい!まだかよー!?そろそろ撃ってくんねぇと、俺等前衛は何も出来ねぇぞー!?」
「もう少し・・・待って下さい!」
焦りながらバレッドを装填する後輩隊員を目で確認してから、タツミは自分が新人だった頃を、ふと思い出してしまう。
初任務の時の自分の情けない姿を思い出して、タツミはまたも苦笑してしまい、返事を返してきた隊員に、もう1度声を掛ける。
「なぁ!ゆっくりでいい!落ち着いて、行こうぜ」
「あ・・・・、は、はい!」
今度は明るく返事を返したのに頷いてから、タツミは今だ止まぬ弾幕の音に、手の中の神機に力を籠める。
「・・・・よし!みんな、良いか?装填完了しました!」
「おし!ぶっ放せ!!」
ドドドドドドドドゥオンッ!!!
全員が一斉掃射したことにより、神機兵は怯みだす。それを隙と捉えて、タツミは前衛組を引き連れ、一気に距離を詰める。
「頭じゃねぇぞ!?背中だからな!」
《了解!!》
彼の声に合わせて、隊員は二人一組で神機兵に飛び掛かり、背中の装置を破壊にかかった。
攻め込んできた荒神を相手に、ブレンダンは十分装甲壁に引き付けて、バレッドを構える隊員へと指示を出す。
「よし!撃てー!!」
《了解!!》
ドドドドドドドゥォンッ!!!
先に突っ込んできた荒神を掃討すると、今度はシュンが近接班を連れて、飛び込んでいく。
「おっしゃーー!!1番乗りだぜー!!」
「シュン!油断は禁物だぞ!?」
「うっせーよ!ガチガチ頭!!」
「な・・なに!?」
シュンの捨て台詞を真剣に考えてから、ブレンダンは隣にいる隊員に声を掛ける。
「・・・なぁ。俺は、頭が固いのか?」
「え!?・・・そう言われましても・・」
急に話を振られて、困ってしまう隊員を見て、「やはり、そうなのか?」と、更に悩むブレンダン。
そんな彼の無線に、答える声・・。
『そんなことありませんよ、ブレンダンさん。私は、あなたの判断は間違っていないと思います』
「はっ!?・・フラン・・さん」
フランの声を耳にした瞬間、ブレンダンは急に一筋の涙を零し、肩を震わせ天を仰いだ。その姿に、その場に残った隊員は、何事かと一歩後退る。
「フランさん・・・、ありがとうございます。見ていて下さい!あなたの言葉を、俺が正論にして見せます!」
『え?・・・あ、はい・・。頑張って下さい・・?』
そう言ってから、ブレンダンは自分の役目を忘れ、装甲壁の下へと飛び込んでいく。
「あ!?あの!ブレンダンさん!?」
「そこは、任せたぞ!うおぉぉぉぉっ!!」
戦場をいつになく元気に駆け回るブレンダンを見て、残された隊員達は、皆同じことを思い浮かべる。
《(・・・・・なんて、単純な・・)》
ドゥオンッ! ドゥオンッ!
「ふぅ・・・。カレル?そっちは、どう?」
粗方の荒神を殲滅し終えたジーナは、無線で反対の位置を守るカレルに声を掛ける。
『・・別に、問題ない。神機兵じゃないから・・・つまらないな』
「あら、以外。楽なお仕事で、お金が良いのがもっとうでしょ?あなた・・」
『まぁな・・・。だが、ブラッドバレッドの試し撃ちにもならねぇ雑魚ばっかりじゃ、金も良くないだろう』
そんな文句を洩らすカレルに、ジーナは少し考えてから、フッと笑みを浮かべる。
「だったら隊を分断して、タツミの応援にでも行ったら?苦労してるみたいだし、相手は神機兵よ?」
その言葉を待っていたかのように、無線越しにカレルは低く笑いだす。
『なら、そうする。お前等は来るの、遅くていいぞ。全部俺の獲物だ・・』
無線が切れると、ジーナは肩を竦めて、口元に手を当てて笑い出す。
「本当・・・、わかりやすい子・・」
それから、現場を見降ろして状況を確認し、その視線をフライアへと移動させる。
(頑張ってね・・・。ヒロ君)
極東に入り込んできた神機兵を、ハルは器用に攻撃を躱して、背中をとる。
「それじゃあ、当たんねぇよ!っと」
ガァンッ!
背中を強打され、膝をついたところで、ハルは大袈裟に後ろへと距離をとる。そこへ・・・。
「あーはっはっはっ!!機械仕掛けのおもちゃが!!これでも、食らってろー!!」
ドガーンッ!!!
神機兵の背中どころか上半身を吹き飛ばし、カノンは笑いながら着地して、ハルの側へと駈け寄る。
「ハルさん!これで、一通り倒したと思うんですけど?」
「あ・・おぉ。相変わらず、変わり身が早いな」
頬を掻きながら、ハルは背中に汗を感じながら、返事をする。
(ギルよー。お前は一体・・、何を教えたんだ?前よりパワーアップしてないか?)
そう心の中で嘆きながら、第2部隊と連絡をとるハル。
「どうだー、そっちは?」
『はい!問題ありません!ハルさん達は、そのまま神機兵の対応、お願いします!』
「・・・・なんか、妙に畏まってないか?」
『いえ!そんなことは、ありません!どうーぞ!!そちらで、頑張って下さい!!』
無線を切ってから、ハルは溜息を吐き、おそらくの原因であるデンジャラス・ビューティーに目を向ける。
彼女の方は、首を傾げて不思議そうに見てくるだけである。
そこへ、もう1体神機兵が、支部へ向かって走って来る。
「ちぃ!また、お客さんか!?」
「ハルさん!」
神機を構えたカノンに、ハルは大きく息を吐いてから、ウィンクして見せる。
「おし!やっちまえ!」
「はっはーー!!くたばれ、ポンコツ人形ーー!!!」
ドガァーーーンッ!!!!
その威力を目にしながら、ハルは神機兵の前に、カノンに殺されるのではなかろうかと、自分を心配した。
フライアの奥へ進みながら、ヒロは思ったよりも広いフライアに、今更ながら感心していた。
自分がいた時には、研究施設の方に顔を出すことがなかったので、今走っている通路も、まったく別の場所のような感覚を覚えているのだ。
暗がりを真っ直ぐ進んだところで、大きな扉へとつき当たる。
全員で開ける方法を調べていると・・、
ギィィッ
扉は自動的に開き、中へと誘ってくる。
「・・・・当然、罠だな」
「でも、行くんでしょ?ヒロ」
ギルとナナに頷いてから、ヒロは躊躇わず真っ直ぐと中へと足を踏み入れる。
妖艶に微笑む、ラケルの元へ・・・。
最後の神機兵の背中から、神機を引き抜いて、アリサは軽く息を吐く。
「・・・ふぅ。ソーマ、片付きましたよ?」
「・・・・いや、まだだ」
アリサの声に答えながら、ソーマは神機保管庫の方角に目を向けている。それに倣って、アリサも視線を移動させた瞬間、
ガッシャーーンッ!!!
グゥゥゥーーンッ
巨大なゴーレムのような物体が、受付や壁を吹き飛ばして現れる。
「・・・・これは・・」
「まだ、こんなおもちゃを隠してやがったか・・」
その巨体を眺めながら、アリサとソーマはゆっくりと位置を決めるように歩きながら、意見交換する。
「大きいですね・・。ウロヴォロスぐらいは、あります?」
「あぁ・・。資料で見た、神機兵のプロトタイプに、似てるな。大分見た目が変わってやがるが・・」
「神機は、持ってないみたいですね。何か、情報はあります?」
「さぁな・・。データはあてにならないだろう。こいつは、どう見ても荒神だ」
話しながら、お互い足を止めると、神機を構えて体勢を低くする。
「何か・・、アドバイスはありますか?」
「ふん・・・。俺達のもっとうは、決まっているだろう?」
「それも、そうですね」
諦めたように息を吐くアリサに、ソーマはフッと笑みを浮かべる。そして、二人揃って同じ言葉を口にする。
「「『死ぬな、死にそうになったら逃げろ、そして隠れろ、隙を見つけてぶっ殺せ。そして・・・・』」」
吠える神機兵プロトタイプに向かって走り出し、声を上げる。
「「『生きることから、逃げるな!!』」」
ザァンッ!!!
フライアの放送室に潜り込んだサツキは、必死に作業を進める。そんな彼女に、コウタは攻め込んできた神機兵を1体沈めてから、声を掛ける。
「サツキさん!まだっすか!?こういうの、専門なんでしょ!?」
その言葉に、サツキは作業の手を休めずに、苛立ち半分に答える。
「専門って言っても、他所様の機械は、把握するのにも時間が掛かるんですよ!?えっとー・・・、マイクの配線はここで・・・、スピーカーは・・・。もう、いい!フライア全体に流すんだから、全部上げて!!」
「・・・・なんか、すんません」
声に出しながら作業をする彼女に、コウタは謝りながら、目の前の出入り口へと集中する。
そこへ、通路の方に出ているエミールから、無線が入って来る。
『隊長!神機兵が2体ほどやってきました!彼等も、壊してよいのですか!?』
「一々伺いたてなくていい、つってんだろ!?神機兵は、もう俺等の敵なの!荒神なの!わかったか!?」
『なんと!?闇の眷属め!ついに正体を現したか!!食らえ!エミール・スペシャル・クラッシュ・・・!!』
「うるさいよ!無線切ってから、戦え!!」
そう言って自分から無線を切断すると、サツキがチェックを終えたのか、顔を上げて叫ぶ。
「オッケーよ!!これで、いつでも行けるわ!!」
「よしっ!!エリナ!中を固める!通路からこっちに入ってくれ!」
『了解です!!』
エリナに連絡を取ってから、コウタはブラッドからの連絡を待った。
微笑むラケルに、ヒロより先に、シエルが前へと踏み出し話し掛ける。
「お久しぶりです、ラケル先生。・・・このような形での再会、とても残念です」
あくまで礼を尽くすシエルに、ラケルは楽しそうに笑いながら、彼女へと口を開く。
「シエル・・、良いのよ?取り繕わなくても・・・。聞きたいことが、あるのでしょう?」
その言葉に過剰反応してか、シエルはあからさまに殺気を剝き出しにして、ラケルへと声を掛ける。
「・・・では、単刀直入に聞きます。何故、こんな事をしたんですか!?」
その殺気を心地良いという風に受け止めながら、ラケルは答える。
「この世界を、あるべき姿に還すためよ・・。人も、荒神も、全て一つの無に帰して、新たな秩序の元に再構築する。当たり前の事を、当たり前に行うことが・・そんなに、おかしい?」
自分が絶対の真理であるかのように、彼女は語って見せる。その振舞いは、あたかも自分が、神であると言わんばかりだ。
そんな彼女に、今度はヒロが1歩前へと歩み出て、冷たい瞳で口を開く。
「これ以上話し合っても、無駄なんですよね?だったら、僕等は抗わせてもらいます。ラケル・クラウディウス!」
「ふふっ。無駄な足搔きは、体を傷付けるだけよ?ヒロ」
ラケルは表情をそのままに、ゆっくりと手を伸ばす。抵抗せずに、こちらへ来いというように・・。
しかし、ヒロは1度目を閉じてから深呼吸をし、彼女へとある者からの伝言を口にする。
「『例えあなたが、神になろうとも・・。僕達”人”は・・・、生きることから逃げない。僕を遠ざけたところで、結果は変わらない。あなたの言い回しで言うならば、神になった時から、あなたは勝てない”運命”だ』」
「・・・・・・何を、言ってるのかしら?」
今までの笑みが嘘だったかのように、ラケルは表情を険しくする。そんな彼女に追い打ちをかけるように、ヒロは伝言を最後まで言い切る。
「『僕達は、ゴッドイーター。神を喰らう者だ・・。本当に抗うのは、あなたの方だ』」
「だから・・・、何を言っているのよ・・」
言い終えたヒロを、睨みつけるラケル。そんな彼女に、ヒロは彼女がもっとも嫌う名前を、口にする。
「極東の英雄、神薙ユウさんからの伝言です。そして、それが僕等の・・・”人”の答えだ!ラケル・クラウディウス!!」
「っ!!?・・・・神薙、ユウ・・・!どこまでも・・・神を冒涜した、偽りの英雄が・・・!!」
怒りに震えるラケルの足元に、ゆっくりと木の根のようなものが這い出して来る。彼女の後ろにある、もう1つの扉の向こうから・・。
「・・・良いでしょう。新たな王が目覚めた今、私の計画は成功したも同然。抗うことが、如何に無益なことか、身を以って知るがいい!」
その言葉を最後に、ラケルは木の根の様に伸びてきた触手の中へと消えていく。
ブラッドはそれを斬り払って、中へと突入する。
そこには、優雅に宙を舞う、白い王が待ち構えていた。
それを目に留めながら、ヒロは無線をコウタへと繋ぐ。
「コウタさん。目的地に到達。ユノさんも・・・スタンバイ終わりました」
『了解!じゃあ、後は頼むぜ!ブラッド!!・・サツキさん!』
『先輩!!・・・・負けないで!』
途中割り込んできたエリナの声に、ヒロはフッと笑んでから答える。
「うん。負けないよ・・」
無線を切ったところで、ヒロはブラッドの先頭に立つ。
「世界は、終わらせません・・」
「ジュリウス!今度は、あたしが助けてあげる!」
「俺達が・・だ。死ぬなよ、お前等・・」
皆の顔を見回してから、ヒロはゆっくりと神機を構える。
《隊長!命令を!!》
三人の求めに応じて、ヒロは腹から声を上げる。
「ブラッド隊!荒神を、喰い荒らせー!!」
《了解!!!》
ブラッドが飛び込んでいく様子を見つめながら、ユノはセットしたマイクの前に立ち、自分の中の”何か”に呼びかけるように、歌い始める。
(ジュリウス・・・・。届いて!!)
最近・・・肩が重いなぁ・・。
きっと・・・、猫をかまいすぎてるせいだ・・w