GOD EATER2 ~絆を繋ぐ詩~   作:死姫

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44話 逆転の可能性

 

 

極東の診療所の外で、ブラッドとアリサ、ソーマにサツキは、黙って時を待った。感染したユノの診察を行う、榊博士の言葉を・・。

待っている時間に耐えられなくなってか、ヒロが口を開く。

「あ・・あの、サツキさん。僕達がいながら・・・、こんな事に・・」

「・・え?・・あ、あぁ。良いのよ・・。あの子の無鉄砲な行動が、招いた事なんだし・・」

サツキが笑みが痛々しくて、ヒロは切なげに顔を歪めて、目を反らしてしまう。

皆も、下手なことは言えないと、口を噤んでしまい、再び静寂が訪れる。

と、そこへ・・。

「・・・ふぅ」

防護服のマスクを取りながら、榊博士が外へと姿を現す。

それに真っ先に反応して、サツキは椅子から立ち上がり、榊博士へと詰め寄る。

「博士!どう、なんですか?ユノは!?」

必死に聞いてくるサツキに、榊博士はすまなそうに顔をしかめて、首を横に振って答える。

「・・・残念だが、彼女が感染しているのは・・間違いない。進行は、通常の人よりは、遅いがね・・・」

「・・・・・・そ、んな・・・」

サツキの掴みかかった手が力を無くし、その場にへたり込むと、それを支えるようにアリサが駈け寄る。

しばらくそんな彼女を見守ってから、榊博士はソーマへと視線を移動させる。

「ソーマ君・・・。少し、相談したいことがある。いいかな?」

「・・・・・あぁ」

ソーマの返事を受け取ってから、榊博士は全員を見回して、声を掛ける。

「みんな、今日は疲れたと思うから、もう休んでくれたまえ。くれぐれも、ユノ君との接触だけは避けてほしい」

そう言い残して、榊博士はソーマを連れ立って、その場から去って行く。

残された者達は、自分達の無力さに苦い思いをしながら、しばらく立ち尽くした。

 

 

「・・・・本気か?」

「・・それしか、ないと思うんだ」

榊博士は目を閉じて深く頷きながら、自分を落ち着けるように息を長めに吐く。

それから、手を前に組んでから、苦笑いを浮かべて口を開く。

「今度ばっかりは、ユウ君に怒られてしまうかな?」

その言葉に、ソーマは「ふん」と鼻を鳴らしてから、窓の外の青い月を見つめて返事をする。

「あいつ自身が納得してるなら、ユウは何も言わねぇだろ。・・・準備は、いつ終わる?」

ソーマが聞き返してきたことに笑って見せてから、榊博士は細い目を片方広げて見せる。

「・・・・明日には。今度は、こっちの番だよ」

 

療養室の窓から外を眺めながら、ユノは自分の右腕を撫で、フライアにいる想い人のことを考える。

「ジュリウス・・・。待っててね・・・・私が、あなたを救ってみせる」

呟くように発した言葉は、夜の静けさへと吸い込まれていく。

青い月が、見守る中で・・・。

 

 

翌朝、極東支部の全ゴッドイーターは、作戦指令室へと集められる。

しかし、そこにユノがいることに、皆違和感を感じているようだ。

全員揃ったと判断したところで、レンカは榊博士に頷いて見せ、榊博士は壇上へと上がる。

「皆、忙しい中集まってくれて、ありがとう。今日は君達に、色々なことの決着をつけてもらおうと思ってね・・」

いつもの雰囲気とは違う榊博士の真剣な表情と言動に、皆は少しざわつく。それを諫めるように、レンカが咳払いをして黙らせると、榊博士は話の本題へと移る。

「知っての通り、極東のすぐ隣で、独立を宣言したフライアは、黒蛛病患者を利用した非人道的な実験により、神機兵を大量に生産し、その武力を救出に向かったブラッド、ソーマ君にアリサ君・・・そして、ユノ君に向けてきた。これは、立派な反逆罪だ。当然、向こうもそれだけで終わるつもりは無いだろうし、何時攻め込んでくるとも知れない。なので・・・・、今度はこっちから、攻め込んで、武力制圧を試みようと思う」

珍しく過激な言葉を口にする榊博士。その彼の言葉に呼応したかのように、今度は誰も意を唱えず、黙って話を聞き入る。

「作戦の説明をする前に、今回の首謀者と、その意図を話しておかなければならない。・・・首謀者は、ラケル・クラウディウス。目的はおそらく、世界の終焉・・・『終末捕食』の完遂だ。ソーマ君とも話し合ったが、もう間違いないと思われる」

「・・・・『終末捕食』・・」

ヒロの呟きに反応してか、榊博士は小さく頷いてから話を続ける。

「そもそもに・・・、赤い雨による被害、黒蛛病はいったい何なのか?私はそれを、独自に調べていた。そして、昨日のフライアでの出来事と、ユノ君の発症した状態を調べて、ある答えに辿り着いた。・・・あれは、『終末捕食』を起こす特異点を失った世界が、『新たな特異点』を創り出す為にまいた、種のようなものだったんだよ」

そこまで説明されても、よくわからないといった反応を見せる者ばかり。中には、神妙な顔を見せる者もいるが・・。

「ゴッドイーターになったみんなは、荒神が世界にもたらす『終末捕食』の話は聞いていると思う。3年前、ここ極東でも・・・『特異点』を発見した前支部長が、それを強行したのが、記憶に新しいと思う。そして今回、ラケル博士は赤い雨のシステムにいち早く気付き、感染したジュリウス君を特異点として、『終末捕食』を遂行しようとしている」

「・・・はっきり、言い切ってますけど・・。根拠はあるんっすか?」

それにはタツミが手を上げて、質問してくる。それに対して、ソーマが代わりに答える。

「ラケルはこう言った。『ジュリウスを目覚めさせる』とな。おそらく、あいつを完全な荒神へと目覚めさせるという意味で、間違いないだろう。神機兵は、その護衛ってことだ」

「はぁ~ん。・・・今回も、壮大だな」

タツミが頭を掻きながら座ると、それに合わせて榊博士は、話の続きを口にする。

「『終末捕食』を起こされてしまったら、いくら君達でも、太刀打ちできない。だから・・・、今回は私達も、『終末捕食』で対抗しようと思う」

《・・・・・・・え?》

まさかの言葉に、全員が同じ台詞を口にして固まってしまう。

 

 

大きな虫の繭のようなものが、脈打つのを眺め、ラケルはその目ざめを今かと待ちわびていた。

「・・・・あぁ、ジュリウス。早く目覚めて頂戴。全てを・・・終わらせるために・・」

それに応えるように、繭は一筋のヒビを入れる。

 

 

皆が唖然としている中、榊博士はいたって真面目な表情のまま、話を続ける。

「前回は、特異点が私達の意志を尊重してくれたが、今回はそうはいかない。荒神として目覚めたジュリウス君は、ラケル博士の言いなりだ。『終末捕食』は必ず起こる。ならば、『終末捕食』には『終末捕食』を。2つをぶつけて、相殺してしまおうという訳だよ」

「それって・・・、出来るんですか?」

ヒロが思わず手を上げて立ち上がると、榊博士はユノへと顔を向けてから、頷いて見せて続きを話す。

「ユノ君は感染したが、状態は安定している。彼女ならば、特異点として『終末捕食』を起こせると、私もソーマ君も確信している」

「ユノさんが・・・。でも、どうやって・・」

「・・・『歌』だよ」

榊博士の言葉に、またも皆は首を傾げる。だが、榊博士は怯むことなく話し続ける。

「感染した彼女の偏食因子を、ブラッドの血の力・・・特にヒロ君の『喚起』の力で増幅し、彼女の歌によって力を開放する。偏食因子が存在するなら、君達ブラッドの感応現象で後押しすくらい、訳ないだろう?」

「な・・成る程」

わかってはいないが、自分達が力を貸すということで、ヒロは無理矢理自分を納得させ、座り直す。

「もちろんブラッドだけじゃなく、君達にも手伝ってもらうよ。リッカ君が開発した、リンクサポート装置というのが間に合ってね。これを全て、ユノ君に影響がいくように設定してある。君達から発する偏食因子も収束させ、彼女の力とするんだ。極東のゴッドイーター全ての力を、ユノ君に集めれば、『終末捕食』は起こせると、私は確信しているんだ」

そこまで説明した榊博士に代わって、今度はレンカが作戦内容を説明しだす。

「今回、フライアとは全面戦争になる。だから、そのつもりで配置も決めてある。まず極東全域を、防衛班タツミさんの指揮のもと、第5から第10部隊までで徹底的に固める。極東支部周辺を第4部隊のハルさんの指揮で第2第3部隊で守ってもらう。第1部隊はサツキさんのフライアでの護衛。彼女に音響の設備を扱ってもらうからな。頼めるか、コウタ?」

「問題ないって。任せとけよ、親友」

「俺も、問題ないぜ」

「任されたぜ。教官殿!」

コウタに続いて、ハルとタツミも返事をする。それに頷いてから、レンカはブラッドへと目を向ける。

「そして、ブラッド。ソーマとアリサが、道を開いてくれる。ユノさんを守りつつ、ジュリウスを助けに行ってこい」

《え?・・・》

レンカの言葉に驚いて、ブラッドは戸惑いながら声を洩らす。そんな彼等に、レンカはフッと笑みを浮かべる。

「なんだ?もしかして、諦めてるのか?博士は、『終末捕食』を相殺するとは言ったが、ジュリウスを殺して来いなんてことは、言ってないぞ?」

「で、ですが!・・・ジュリウスは、荒神に・・」

シエルが語尾を小さくしながら俯くと、レンカに代わって、ソーマが笑みを見せて声を掛ける。

「かつて・・・完全に荒神となった人間を、救った奴がいた。・・・お前等は、そいつに憧れてるんじゃないのか?なぁ、ヒロ」

「え?・・・・あ・・・、まさか!?」

自分が憧れる背中を思い浮かべ、ヒロは息を飲み込む。

「あいつなら、仲間を諦めねぇぞ。お前等は、どうするんだ?」

「・・・・・・・僕達も、諦めたく・・ないです!」

代表してヒロが叫ぶと、その場にいる全員が、極東の英雄を思い浮かべて笑顔になる。

それを満足気に見つめてから、榊博士は大きく頷いてから、声を上げる。

「私達は、何時だって諦めずに戦ってきた!今回も、取られたものを取り返すだけだ!今ここを離れてる英雄の言葉を借りて言うなら、『諦めるな!前を向け!生きることから、逃げるな!』だ!私達の誇りにかけて、悪を討て!ゴッドイーター達よ!!」

《了解!!》

それを合図に、皆それぞれの戦場に向かう為、指令室を後にした。

 

 

作戦指令室で、全員の配置を確認し終えてから、レンカは無線で連絡を取っていく。

「各配置完了、確認した。向こうからも、オラクル反応の動きを確認。重ねて、フライアを中心に、偏食場パルスが発生した。各方面から、荒神が迫ってきている。標的を確認次第、戦闘を開始する。第1部隊とブラッドは、戦闘の混乱に乗じて、フライアへ突入。いいか?」

『防衛班α、了解だ!』

『防衛班β、了解よ」

『防衛班γ、了解した!』

『防衛班Δ、了解・・』

『極東支部防衛班、了解だぜ』

『第1部隊、了解!!』

『ブラッド、了解です!!』

全員の返事を確認し、レンカは大きく息を吐いてから、タイミングを計り声を上げる。

「全部隊!敵を、討てー!!」

《『了解!!!』》

フライアと極東支部。

生き残りをかけた戦いが、始まった。

 

 

フライアへ突入したブラッド。それに付いて走るソーマが、コウタへと連絡を取る。

「コウタ。お前に渡したルートなら、神機兵に接触しても、向こうは身動きとり辛いはずだ。戦闘はなるべく避けて、サツキをさっさと安全圏に入れてやれ」

『わかってるよ!てか、俺の心配はしてくんねぇの?」

「・・・気持ち悪い事いうな」

『はぁ!?どこ・・』

無線を切ってから、ソーマは閉じている扉を薙ぎ払い、中へと突入する。

そこには、神機兵が5体、待っていたかのように構えて見せる。

咄嗟に構えたブラッドに、手を伸ばして制してから、ソーマはアリサと並んで声を掛ける。

「お前等も、無駄な戦闘は避けろ。さっさと地図に記された場所に行け。おそらくジュリウスはそこにいる。・・・・ラケルもな」

「あ・・・・はい!ここ、お願いします!」

ヒロの声に合わせて、皆一礼し、目的地に向かって走り去る。

残されたソーマとアリサを標的としたのか、神機兵はじりじりと二人に迫って来る。

そんな様子に、ソーマもアリサも、声を押し殺して笑いながら、神機を振って見せる。

「たった・・5体ですか・・。私達も、舐められたものですね」

「まったくだ・・。ジュリウスの模造品の分際で・・、笑わせてくれる」

そう言って構えた二人は、その手の中の神機に力を籠める。

「行くぞ、ガラクタ」

「格の違いを、教えて上げます」

その瞬間、二人は同時に先頭の2体の首を、跳ね飛ばした。

 

 

 

 

 





最終決戦です!!

頑張れ、ブラッド!!!



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