GOD EATER2 ~絆を繋ぐ詩~   作:死姫

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43話 影の支配者

 

 

フライアの外壁を回っていると、ヒロは集積場への大扉が開いているのが目に入る。

「これ・・・、なんで・・」

レアが出てきた場所かと、疑問に思っていると・・。

《うわぁぁーーっ!!!》

奥の方から叫び声が聞こえ、その異常に反応し、ブラッドは中へと飛び込む。

すると、中から職員や研究員等が、雪崩のように外へと走り抜けていく。

一瞬の出来事だったかのように、静けさが周りを支配すると、ヒロは慎重に奥へと足を進める。残りの三人も、後に続けと歩き始める。

少し開いた扉から中へと体を滑り込ませ、ブラッドは少し暗がりの世界を見渡す。そこには・・・・レアの説明にあった、忌まわしい光景が広がっていた。

「・・・これは・・。全て、黒蛛病の・・・」

シエルの言葉を確認する様に、百と並べられたカプセルの中身を確認していくと、黒蛛病に苦しむ人達が、ヘッドギアのようなものを付けられて、眠らされている。

「・・くそっ!これ、全部そうなのかよ・・」

「ひどいよ・・」

ギルが歯を鳴らし、ナナが落ち込んでいる中、

『そのまま・・・、ここを立ち去れ』

部屋に響き渡る声が、ブラッドへ警告してくる。

『それ以上踏み込んでくるならば、お前達とて・・・容赦はできない』

「・・この声・・・、ジュリウスなの!?」

『・・・・・』

こちらの質問には答えぬが、その声は確かにジュリウスのものだった。

そうとわかった瞬間、ギルとシエルは、怒りを露わに気持ちを叫ぶ。

「どういうことだ!?これが・・・、お前の望んだ正義だとでも言うのかよ!?」

「あなたは・・・何をしてるのか、本当に理解しているのですか!?こんな非人道的な・・。赦される行為ではありません!!」

二人の怒りが木霊すると、集積場の奥の扉がゆっくりと開き、緊急サイレンが鳴り響く。

ウーッウーッ

『警告はした。・・・これより、侵入者を排除する』

《っ!!?》

奥の扉が開き切ると、中から独特の機械音が近付いてくる。

「・・・・本気なんだね。ジュリウス・・・っ!」

ヒロが悔しさに唇を噛むと、神機兵が3体、中へと飛び込んでくる。

以前とは違って、赤いオーラを全身から放ちながら・・。

「これって・・・、血の力・・」

「これが、答えなんですね・・。ジュリウス!!」

「やろうってんなら、容赦はしねぇ!」

三人が神機を構えたのを背中で感じ、ヒロは声を上げて神機を振って空を斬る。

「ブラッド!神機兵を再起不能に!!黒蛛病患者を、極東支部へ!!」

《了解!!》

それを合図に、ブラッドは神機兵へと飛び掛かる。

 

 

逃げ込んできた職員を確認しながら、アリサは事情を聴いていたレンカの元へと駈け寄る。

「レンカ。どうしますか?」

「・・・どうもこうも・・、俺も頭が追い付かない」

眉間に手を当てて目を閉じてから、レンカは軽く舌打ちをしてアリサへと振り返る。

「タツミさんが、他の隊を連れて極東を固めてくれてる。アリサは、中に飛び込んだブラッドのフォローに行ってやってくれ」

「わかりました。ここは、任せます!」

そう言って走り出そうとしたアリサに、

「待て・・」

声を掛ける者が一人。

「・・ソーマ」

ソーマは髪を括っていたゴムを解いてから、アリサとレンカに喋りかける。

「空木、一応黒蛛病患者を受け入れる準備をしといてくれ。何人かは、連れ帰れるかもしれないからな。それとアリサ、俺も行く。相手は十中八九、神機兵だ。対策を伝える」

「わかった。手配しておく」

「わかりました。久し振りですね、あなたと組むのも」

「ふん・・。期待してるぜ、お前等」

そう言って笑うソーマに笑顔で応える二人。そして、それぞれの戦場へと走り出す。

走りながら、神機兵について説明をしようと口を開きかけたソーマ。しかし、それを阻むように、サツキが行く手に入り込んで必死の形相を見せる。

「ソーマ君!アリサさん!」

「ど、どうしました?サツキさん」

アリサがサツキを落ち着かせようと、肩に手を置いて声を掛ける。しかし、ソーマはその状況に違和感を覚えたのか、目を大きく開いて声を洩らす。

「・・・・そういうことか。サツキ!妹がいないのか!?」

「あ・・そうなんです!ユノが!」

「なんてこと・・・。ソーマ!?」

「あぁ・・。ちっ・・・くそが!」

舌打ちをしてから、ソーマは珍しく焦った様子で、フライアへと目を向ける。

「お転婆娘が・・。フライアに行きやがったな」

「っ!!?」

ソーマの言葉に、サツキはビクッと体を跳ねさせ、その場に膝をつく。

そんな彼女の目を覚まさせるように、ソーマは無理矢理立ち上がらせ、サツキへと叫ぶ。

「サツキ!救急用の車で待機してろ!俺達もすぐ行く!」

「は・・・はい!!」

サツキが走り出したのを見送ってから、ソーマはアリサと共に神機保管庫へと向かう。その途中で、アリサはソーマに話しかける。

「良いんですか?彼女まで連れて行って?」

「あのまま暴走されるよりマシだ」

「・・・・変わりましたね。ソーマも・・」

「お前ほど変わってはねぇよ」

神機保管庫に飛び込んだところで、二人は同時に腕輪の認証を行い、自分の神機を呼び出す。

 

 

ガキィンッ!!

ギンッ キィンッ!

神機兵相手に苦戦を強いられるブラッドの様子を伺いながら、ヒロは口の端から流れた血を下で掬い取り、ぺっと吐き出す。

「くそっ!ジュリウスが三人いるみたいだ・・。やり辛い・・」

構えた神機に、自然と力が入る。

黒蛛病の患者に被害が行かぬよう、攻撃は制限され、相手からは守らなければいけない状況。更には、相手はジュリウスに近い強さとなると、ブラッド四人では、3体相手するのは、分が悪くなってきている。

考えを巡らせているヒロの元に、シエルが飛び込んできて、声を掛けてくる。

「ヒロ。このままでは、分が悪すぎます。戦闘を回避しながら、患者を運び出すのも・・。何より接触感染の恐れがある以上、私達にはどうしようも・・」

「くっそ!ごめん!考えてなかったよ、そこまで・・」

「いいえ。あの時冷静でなかったのは、私達も同じですし」

撤退の道しかないかと、後ろへと意識を向けるヒロとシエル。

そこへ・・・、声が響き渡る。

「もう、やめてーーっ!!」

《っ!!?》

『・・・・・』

その声に神機兵も1時止まったのを確認して、ブラッドは大きく後ろへと距離を取る。そして、声の主の側へと陣形を固める。

「ユノさん!どうして!?」

ヒロの声に小さく頷き、謝罪を表してから、ユノは部屋全体に響き渡るよう喋り始める。

「ジュリウス!聞こえてるんでしょ!?私の声が!ジュリウス!!」

『・・・歌姫か・・』

ようやく返してきた返事に、ユノは続けて喋り続ける。

「これが、あなたの望んだ事なの?あなたが『繋いでみせる』と言ってくれたことは、こんな事なの!?あの時、黒蛛病の悲惨さに憂いたあなたが、どうしてこんなことを!?」

四人の知らない、ジュリウスとユノだけの交わした約束。その話を必死に訴えながら、ユノは彼へと声を掛ける。

「あなたは、こんな事をする人じゃない!あなたは、英雄になりたいって!みんなを守れる、英雄になりたいって・・!?」

「・・ジュリウス」

彼女の訴えが、届いたのかと思い、ヒロも自然と神機の構えを解く。

しかし、返ってきた答えは、彼等の望むべき言葉ではなかった。

『・・・戯言に付き合う気はない。歌姫・・、あなたも警告を聞けないのなら、排除する』

「そんな・・・・」

ナナが目を伏せて悔しがりながら、声を洩らす。しかし、その声を向けられたユノの反応は、何故か別の事で驚いているかのように、目を見開いていた。

「・・・・あなたは・・、誰ですか?」

『・・っ!!?』

《えっ?》

ユノ言葉に驚いて、皆彼女に注目する。声だけを響かせるジュリウスも、驚いているようだ。

そこへ・・。

「猿芝居は、もう良いだろう?」

グシャッ!!

飛び込んできたソーマが、神機兵の1体を地面にめり込ませ、アリサへと声を掛ける。

「アリサ!外すなよ!!」

「当然です!!」

ドゥオンッ!! ガァンッ!

アリサのブラッドバレッドが、正確に神機兵の背中を撃ち抜く。すると、神機兵は目の光を失って、動かなくなる。

「ソーマさん!アリサさん!」

ヒロの声に、ソーマとアリサはブラッドの前に移動して、神機を構える。

そして、ソーマが声だけのジュリウスへと話し掛ける。

「いつまで、ジュリウスのふりをしてるつもりだ?・・・ラケル」

その言葉に全員が、驚愕の表情を見せる。

『・・・・・・・・ふふっ。やはり・・、貴方は誤魔化せませんか。ソーマ・シックザールさん・・』

彼の答えを認めるように、ラケルが自分の声で喋り始める。

 

研究室から神機兵を操作していたラケルは、エメス装置に手を置いたまま、話し掛ける。

「何時から・・・疑ってまして?」

『初めからだ・・。もっとも・・、先にお前を危険視したのは、ユウだったがな』

その名を聞きたくないのか、ラケルは急に声を荒げる。

「・・・その名を、私の前で口にするな・・」

『・・どうした?本性が出ているぞ?・・・荒神』

「っ!!?」

そう言われてラケルは、怒りに眉間に皺を寄せたまま、口の端をゆっくりと浮かせていく。涎が滴る程に・・・・。

 

「どういう・・事ですか?ラケル先生が・・・・荒神?」

シエルが驚きに口元に手を当てながら、ソーマへと質問する。すると、ラケルは笑い声を洩らし始める。

それを相手の答えと受け取って、ソーマは簡単に説明する。

「以前に、あいつの事を話したろう?P-73因子を投入し、一命をとりとめたが、人格が変わった・・・なんてことをな。だから、俺とユウは・・・ある仮説を立てていた。そして、そのカマを・・・今かけた。結果は、・・・これで十分だろう?」

「そんな・・・」

今だ笑い続けるラケルの声に、ヒロは下を向いてしまう。そこで、自分がソーマとユウから言われた言葉を、思い出す。

 

『あの女には、気を付けろ』

『ヒロ、気を付けて』

 

ヒロの中で、線が繋がった。

最悪な形で・・。

『そこまでお気づきなら、もう話はよろしいかしら?私もジュリウスを目覚めさせる、準備が必要ですので・・』

そこまで言って、言葉が途切れると、神機兵は再び襲い掛かろうと構えを取る。それにソーマは舌打ちしてから、呆けているブラッドへ声を掛ける。

「ちっ・・。ブラッド!一旦退く!アリサ!シエルとナナを連れて、退路を確保しろ!ヒロとギルバートは、俺と妹を守りつつ後退だ!」

《っ!?了解!!》

アリサが動いたのを確認してから、ソーマは目の前に迫る神機兵の攻撃を半身で躱してから、足を思い切り撥ねる。

ガギャッ!!

勢い余って足を吹き飛ばすと、神機兵は1回転して地面に倒れ伏す。

「ギルバート!背中の装置を、貫け!」

「っ!?り・・了解!!」

ザォンッ!!

スピアで思い切り貫くと、神機兵は沈黙して動かなくなる。それを目にして、ヒロも、刺したギルも驚いてしまう。

「ソーマさん・・、これって?」

ヒロが説明を求めると、ソーマは足元に転がった神機兵を踏みつけてから、喋りだす。

「こいつの戦闘している姿を、映像で解析してな・・。ユウとツバキ・・リンドウの姉だが、その二人と意見を出し合って、榊のおっさんに最終ジャッジしてもらった弱点が、ここだ。神機兵とエメス装置を繋ぐ、心臓部。疑似AIが埋め込まれてるところだ」

「そうか・・・。それで、動かなくなったんすか」

ギルが感心の声を上げると、ソーマは頷いて、ユノの手を取り走り出す。

「詳しいことは、極東に戻ってからにする。色々準備不足なんでな」

「「はい!!」」

二人の返事を背中に受けて、ソーマは来た道を戻りだす。扉の隙間には車が見え、サツキがそこで必死に手を振っている。

しかし、必ず不測の事態は起こるもの・・。

「ま、待って!!ソーマさん!あれ、アスナちゃん!!」

急にユノがソーマの手を振り解いて、カプセルの方へ走り出したのだ。

「なっ!?馬鹿!戻れ!!」

ソーマの声を振り切って、ユノはカプセルを開けるスイッチを探す。そこへ、

ギギギギィ

「あっ!?」

神機兵が巨大な刃を振り上げて、彼女を見降ろす。

それを不味いと思ってか、ソーマは咄嗟に神機を構えてヒロを呼ぶ。

「ヒロ!俺の神機を踏み台に行け!攻撃を防ぐだけでいい!!」

「あ、はい!!」

そう言ってヒロは飛び上がり、ソーマが降り抜く神機に足を掛け、ユノと神機兵の間に飛び込み、盾を展開する。

ガァンッ!!

「きゃあっ!!」

「くっ・・そぉ!!」

パリンッ

何とか攻撃を受け止めたヒロだったが、体が地面に半分捩じ込まれる形になる。その攻撃で、カプセルのガラス窓が割れて、ユノの方はそこから少女を救い出す。

そこまで確認できればといった感じで、ソーマは神機兵の背中に、神機を叩きこむ。

「寝てやがれ!!」

ガキャッ!!

その威力に半分千切れた状態になって、神機兵はその場に倒れ伏せる。

ヒロを引っ張り起こしてから、ソーマはフッと笑みを見せる。

「てめぇは・・・、本当にあいつに似てるな。無茶を要求したのは俺だが、簡単にやってのけやがる」

「極東で、鍛えてもらってますから」

ヒロの返事にソーマは懐かしむように目を閉じてから、ユノへと声を掛ける。

「妹、問題ないか?」

「駄目!触らないで!!」

手を取ろうとしたソーマを、ユノは突然拒絶する。だが、その理由を、彼女の身体を見た二人は、即座に理解する。

蜘蛛のような忌まわしい痣が、ユノの右腕に浮かび上がっていたのだ。

「黒蛛病・・・。ユノさんが、何で!?」

「くそっ!接触感染か・・」

ソーマの言葉に、ヒロはシエルが先刻いった言葉を思い出し、悔し気に唇を噛む。

「大丈夫。自分で走れますから!早く!ソーマさん!?」

ユノが少女を抱えて、力強く立ち上がって見せる。そんな彼女の姿に、ソーマは決心してから、全員に声を掛ける。

「全員、撤退しろ!車には、妹だけを乗せろ!」

その言葉通り全員が動き始めたのを確認してから、ソーマは去り際に、部屋の中央に向かって口を開く。

「借りは・・・必ず返す・・」

 

 

 





ゴッドイーター2編、最終段階です!

残りも気合入ってますが、レイジバースト編を思うと・・・。

無理せず、行こうっとw


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