GOD EATER2 ~絆を繋ぐ詩~   作:死姫

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42話 歪んだ心

 

 

極東で治療を終えてから、レア博士は支部長室へと呼ばれる。

榊博士の他に、ブラッド、居合わせたタツミとジーナ、レンカ。そして、フライアから呼び出したソーマに囲まれる状態で・・。

今一話が呑み込めない他の人間を置いて、ソーマが閉じていた目を開けて、口火を切る。

「おそらく時間がないんでな。早速聞かせて欲しい。・・・フライアで、ラケルは何をしてやがる?」

その言葉に、より一層理解できないという表情を見せる中で、榊博士とヒロだけは、何か思い当たる節があるような顔を見せる。

レアは大きく深呼吸をしてから、自分が見たモノと照らし合わせ、研究者として・・そして、ラケルをよく知る姉として、答えを返す。

「・・・ラケルは、無人型神機兵の研究を、九条博士から引き継ぐ形で進めていました。・・ジュリウスと、共に・・。ただ、その研究に・・・・・、黒蛛病患者を利用していると・・思われます」

《っ!!?》

その答えにはヒロも驚愕な表情を見せ、榊博士も考え込むように口元に手を当てる。

唯一驚いていないソーマは、話を続けさせる為に、口を開く。

「何故、あんたはそう思った?・・・フライアで、何を見た?」

ソーマの切り込みに、レアは涙を浮かべながら、自分の見解を話す。

「今日、まで・・、治療の為に黒蛛病患者を受け入れてたという・・話を、聞いてました。しかし、事実は・・・・違いました。彼女・・・・ラケルは・・、黒蛛病患者を・・おそらくですが、患者の偏食因子と感応できるようカプセルに収容し、神機兵の教導に利用しているからと、判断したからです」

「・・・教導か・・。だがそれは、神機兵のAIに、ジュリウスの血の力『統制』を利用して行うモノじゃなかったのか?」

聞き返してくるソーマに、レアは苦笑しながら答える。

「・・何でも、ご存じなんですね。・・そうです。私も、そう聞いていました。ですが、神機兵はあくまで機械です。AIを搭載していてるとはいえ、今の技術でも限界はあります。第2世代以降のゴッドイーターが持つ感応現象は、偏食因子との呼応。全てをジュリウスの神機の様に調整しても、所詮は兵器と人。人と人との感応には遠く及ばないと、私も思っていたからです。それは、荒神にしてもそう。感応種が、偏食場パルスで神機を破壊や暴走まで持ち込めないのも、その為と考えます」

彼女の説明に2,3度頷いてから、ソーマは納得したように、ある答えを口にする。

「つまり・・・。ラケルは、機械の限界を・・・人間で補おうとしたってことだな。・・赤い雨の影響で、黒蛛病に侵された患者に微量ながらも検出される、偏食因子を使って・・・な」

「・・・・間違い・・ないと、思います」

全員が息を飲む。

それは、とても人が行う所業ではないと・・・。

「それって・・・、ジュリウスも・・関与、しているんですか?」

ヒロがやっと絞り出した声で、レアへと尋ねると、彼女は首を横に振る。

「わからないわ・・。ただ、彼の意志がどうであろうと、ジュリウスがこの実験の鍵なことには、代わりはない」

その言葉に後退ってしまったヒロを、ギルが肩に手を置いて、支えてやる。

誰もが、何が起こっているのかわからずにいる中で、ソーマは更に踏み込んでレアへと質問する。

「大体は、わかった。・・・他の奴も色々聞きたいだろうから、俺からは最後にする。・・・・ラケルは、最終的に何を企んでいる?」

「・・・・・・わからない、です・・・」

レアが顔を手で覆って俯くと、シエルがそれを気遣う様に肩を抱いて、聞いたソーマは、大きく息を吐いてから、榊博士に目配せして、自分の考えを口にする。

「・・俺の考えは、こうだ。・・・あいつは、神機兵の軍隊を使って、荒神と人類、両方を滅ぼす・・・。『終末捕食』の真似事をしようとしているんじゃないかってな」

その言葉に、ただでさえ驚きに声を失っていた者達は、更に驚愕に顔を歪める事となったのだ。

 

 

話疲れた様子のレアを、医務室へと連れて行ってから、ヒロとシエルはその場を後にする。

出たところで、ギルとナナ以外にも、ソーマがその場で待っており、ヒロ達を促して、近くの休憩所へと足を運ぶ。

人数分飲み物を買ってから手渡し、ソーマは小さく息を吐いてから話し始める。

「ラケルの事・・・少し、俺なりに調べた。俺の『親父に世話になった』という部分が、引っ掛かってな。・・・勿論、それだけじゃないが」

「・・・はい」

代表する形でヒロが返事をすると、ソーマは話を続ける。

「あいつは、1度死にかけた時に・・・P-73因子・・、俺と同じ偏食因子を打ち込んでいる」

《えっ!?》

全員が揃って驚くと、ソーマ目を閉じて頷いてから、続きを話す。

「些細な姉妹喧嘩だったそうだ・・。誤って階段から落ちたラケルは、脊椎に大きなダメージを負った。そこで、フェンリルの研究者だったラケルの父親が、当時偏食因子との結合に成功した、俺の親父に頼んで、損傷した肉体の回復の為に、P-73因子の投与を行った。結果は・・・まぁ、成功だ」

それで一息ついてから、ソーマは目を開けて空いた缶をゴミ箱へと入れ、更に話を続ける。

「ただ、回復したラケルの事を、当時父親はおかしいと思っていたらしい。埋もれていた記録を掘り出してみたら、父親はラケルの事を、こう記していた。『私はあの子が、恐ろしい』とな・・」

《・・・・》

手の中の空き缶を持つ手が震えるブラッドに目を向けながら、ソーマは腕を組んで壁に背を預ける。

「それから間もなくのことだ。父親、ジェフサ・クラウディウスが亡くなったのは・・。自宅を襲った、荒神によってな・・」

「どうして、ソーマさんは・・・、ラケル博士の事を・・?」

ヒロが質問をすると、ソーマは目を細めて、初めてラケルと会った時の事を、思い浮かべながら答える。

「あいつから・・・、人間の匂いがしなかったからだ。ユウから言わせれば、人を道具の様に見る目が、人間じゃなかったそうだがな・・」

聞いてはいけないことを聞いたように、ブラッドの四人は肩を落とす。

そして、自分達を導き、作り上げた人の事を、四人は初めて恐ろしいと思ったのだ。

 

 

ごほっ ごほごほっ

顔まで痣が広がってきたジュリウスは、頻繁に咳込むようになっていた。時折、口から黒ずんだ血を吐きながら・・。

そんな彼の側で、操作盤をいじっていたラケルが、その手を止めて、口の端を浮かして彼に喋りかける。

「・・・ジュリウス、お疲れ様。神機兵は、ほぼ完成したわ」

「・・・・ごほっ・・そ、そうか。間に合ってくれたか・・」

「えぇ。全て、予定通りにね・・」

ラケルの言葉に安心したのか、ジュリウスは口から零れる血をそのままに、座っていた座席に深く持たれて、笑顔を見せる。

「これで・・・。誰も、死なずに済むん・・ですね?」

そう問いかけると、ラケルは目を大きく開いてから、嫌らしく笑って見せてから答える。

「そうよ・・。誰も、死なないわ・・。『新しい秩序』の中で、1つになるのだから・・ふふっ」

「・・『新しい秩序』・・?何を・・、仰ってるのですか?」

疑問に思い、視線をラケルに移そうとしたところで、ジュリウスは自分の目の前に映し出された、カプセルの中の黒蛛病患者を見せられる。

「・・こ、これは!?黒蛛病に感染した!?どうして、カプセルの中に!?」

「神機兵を動かす、道具だからよ。これらは・・」

「な・・んだと!?」

自分が耳にした言葉が、嘘であって欲しいと、ラケルへと目を向けるジュリウス。だが、彼女の笑みを見た瞬間、それが事実だと認識し、力が抜けたように座席からずり下がってしまう。

「ど・・・どうして・・」

「ふふっ。全ては、貴方という『世界の王』を創り、新しい世界を創り上げるためよ・・」

そう言った彼女の後ろから、巨大な物体が現れる。その姿は、物語の世界に出てくる、ゴーレムの様だと、ジュリウスは認識する。

「私専用の・・・、神機兵のプロトタイプ。少し元気が良すぎて・・・、お父様を壊してしまったり・・ふふっ。困った子なの」

「くっ!・・・俺も、殺すのか?必要、なくなったから!?」

必死に立ち上がろうとするジュリウスに対し、ラケルは涎を垂らしながら笑い続ける。

「貴方は殺さないわ、ジュリウス。眠ってもらうだけ・・。次に目覚めた時には、貴方は『世界の王』となっているでしょう。・・『終末捕食』を導く・・ね」

「・・くっ・・、誰が・・簡単に!!」

そんな彼の威勢も虚しく、ラケルのおもちゃに掴まってしまい、地面へと叩きつけられる。

ダァンッ!

「くっ、はぁ!!・・・」

意識が遠のく中で、ラケルは自動車椅子からゆっくりと立ち上がり、彼の元へとやってきて顔を持ち上げる。

「・・・く、そ・・・。全部・・・嘘、だった・・のか?」

「嘘ではないわ。みんな1つになるのだから、『死』なんて概念、存在しないでしょ?・・・さぁ、お休み。ジュリウス・・。ママの胸で、安らかに・・・ふふふっ」

胸に抱きよせてから優しく撫でると、ラケルはジュリウスを神機兵に掴ませ、部屋の奥に設置された広めのカプセルの中へ、ジュリウスを寝かせる。

そこでジュリウスは、大切な者達を思いながら、静かに意識を失った。

(・・・・ギル・・ナナ・・シエル、ヒロ・・・・・・・ユノ)

 

研究室に戻ってから、ラケルはフェンリル本部へと、連絡を繋ぐ。

上層部のお偉方が一同に会する場所に繋がると、妖艶に微笑んでから、ラケルは喋りかける。

「フェンリル本部の皆さん。この声明を、全世界へと発表しなさい。新たな『世界の王』ジュリウス・ヴィスコンティの名において、フライアは、フェンリルから離脱すると・・」

全員が驚きに声を上げる中、ラケルは一方的に連絡を切ってから、声を上げて笑い出す。

「うふふふふふっ!準備は、整ったわ!!・・でも、宣戦布告はしない・・。あなたに出てこられると、厄介ですしね・・。神薙ユウ」

 

 

『繰り返します。昨日未明、フェンリル極致化開発局フライアは、フェンリルからの独立を宣言しました。よって、フライアに残った職員及び、収容された黒蛛病患者の安否が心配されています。これについて、本部に戻っていた局長のグレム氏は・・』

団欒室でニュースを見ていた極東支部の面々は、すぐそこにある脅威に、身震いをしてしまう。

「くそっ!ジュリウスは・・・あいつは、無事なのかよ!?」

「落ち着け、ギル。何もわからねぇんだ。誰もな・・」

拳を握り締めて苛立つギルを、ハルが肩に手を置いて落ち着ける。

そんな中、ヒロが呟くように声を洩らす。

「ソーマさんとレア博士の話だと・・・、ラケル博士はジュリウスを必要としてる。だから、殺しはしないと思う。・・・だけど」

「だけど・・・、何?」

それに真っ先に反応してきた声に、ヒロは不味いといった顔で振り返る。

肩を震わせながら立っているユノは、目に涙を浮かべて、拳を握り締めている。

「『連絡とれない』って・・・そういうこと?黒蛛病患者の安否って・・・、ジュリウスはどうなったの!?」

「ユノ!?落ち着きなさい!」

隣に立ってたサツキが、ユノの肩を抱いて声を掛ける。

しかし、彼女の憤りは収まらず、駆けだしてヒロへと掴みかかる。

「何か知ってるなら、教えてよ!ヒロ君!?ジュリウスは?黒蛛病の患者達は?ねぇ!どうなってるのよ!?」

「・・それは・・・」

話すべきかと考えているヒロの目の前で、ユノはその頬を思い切り叩かれる。

パァンッ

「・・・え・・」

驚いた眼を向けた先で、叩いたサツキが彼女を抱きしめて声を掛ける。

「落ち着きなさい!取り乱さないで!!あんたは私の希望で、神薙ユウの妹でしょ!?しっかり、しなさい・・」

「サツキ・・・。くぅ・・うっ・・」

ユノが泣き出したのを切っ掛けに、ヒロは何かを決意したように、大きく息を吐いてから、宣言する。

「・・・フライアに、行こう。シエル、ナナ、ギル」

《・・・・》

その言葉に驚きながらも、三人は黙って頷く。

それから四人は団欒室を飛び出し、神機保管庫へと足を運んだ。

 

 





ちょっと、原作と変えました。
何か、嫌だったんで・・。

ジュリウスは、あくまで正義マン!


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