戦いに疲れた戦士達に、一時の休息を・・。
その1
「じゃーん!」
「・・・・・また、俺なんだ。ナナ・・」
突き出した手の上に、水色のカプセルをのせて、ナナが満面の笑みを浮かべる。引きつった顔を見せるコウタに・・・。
『回復錠やデトックス錠も、味がした方が絶対良い!』
そう言いだしたナナが、榊博士やムツミを巻き込んで、『味がする回復錠』を開発して、皆に振舞ったのが始まり。
その時に1番いい反応を見せたコウタが、面白い・・・もとい・・、面白いという理由で、ナナにタゲられてしまったのだ。
「コウタさん!今度はね~・・・」
「待った!頼むから、誰かも巻き込ませてくれ!」
その言葉に、ナナは困った表情を浮かべてから、首を横に傾ける。
「でもー・・・、1つしかないよ?」
「それで、俺1択かよ!?他にも色々、いんだろう!?」
「・・・えへへ」
「褒めてないんだよ!?」
何故か照れるナナに、コウタはツッコミをいれる。しかし、ナナの差し出された手は、引っ込まない。
しばらく黙って見ていたが、コウタは諦めたように大きな溜息を吐いてから、水色の回復錠(?)を手に取る。
「・・・・今度は、まともな味か?」
「はい!食べられるものです!」
「・・・何味かは、教えてくれないのな」
そう言って頬に汗を流してから、コウタはそれを口の中に入れ、目を閉じて嚙み砕く。
「・・ん・・ん・・。・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・どうですか?」
期待の眼差しを向けるナナ。どこか悪戯が成功した、子供のようだ。
そして、極東のツッコミ名人は、期待通りの反応を見せる。
「・・・・何だろう、・・これ。えっと・・・、何ていうか・・・・何だ?」
「あははー。実はー・・・・、ここで売ってた『初恋ジュース』ってやつで・・」
「げぇーーーっ!!!!」
奇声を上げたコウタは、その場でごろごろ転がりだす。
「やっぱりーーーー!!不味い不味い不味い不味い不味いーー!!!」
極東支部で有名な、初恋の味を表現したという、謎の飲料。
あのソーマの顔をありえない程歪ませた、ある意味伝説の飲み物である。・・・不味くて・・。
「えー?おっかしいな?ちゃんとミントの味も足して、すっきりな後味に仕上げたのに・・」
「はっ!?だからこんなに喉が・・・痛い!鼻も無駄にスースーする!余計に、あの忌まわしい味が鼻を通る!とにかく・・・・、不味いよ!?これ・・、不味いよ!!?」
首を傾げるナナに叫びながら、1日中初恋ジュースに取りつかれた、コウタだった。
その2
ブンッ ブンッ
「ふぅ・・」
訓練所で素振りをしていたギルは一息ついて、額から流れる汗を袖で拭う。すると、
「どうぞ!」
カノンがタオルを差し出して、ニコニコ笑って立っていた。
「・・・はぁ・・。悪いな」
「いえ!」
そっけない態度をとるギルであったが、カノンは特に気にすることなく、笑顔のまま彼を見つめ続ける。
「・・・カノン。何がそんなに楽しいんだ?」
「え?・・・それは~・・」
ギルに聞かれてカノンは、指を顎に当てて考える素振りを見せてから、再び笑顔になって答える。
「よくわかりませんけど、ギルさんを見てるの・・好きですよ!」
「なっ!?・・ば、馬鹿!お前・・」
わかりやすく狼狽えてしまったギルを見て、カノンは自分が言った言葉を思い返し、顔を赤くしていく。
「あ、あの!ち・・違う、ですよ!?違わないですけど!・・その、違うんですー!!」
顔を真っ赤に、目の前で両手を振りながら慌てるカノン。帽子を深くかぶって誤魔化すギル。そんな二人の周りで、訓練をしていた者達は、ほんの少しほっこりした気分になったのだった。
《(あ~・・・・、平和や~・・・)》
「・・俺の出番は、なかったか・・ふっ」
「何ジュークBOXの前でぶつぶつ言ってんだ?ハル」
その3
アリサの部屋に来ていたシエルは、シャワー室から顔を出してから、姿を見せる。
「あの・・・・、どうでしょうか?」
普段の服装から着替えて、アリサの持ち合わせの服を着た姿を、アリサとリッカに披露する。
「う~ん・・・・。どう思います?リッカさん」
「・・・・そう、だね~・・。可愛いと、思うよ?ただ・・・」
「ただ!?何ですか!?」
言葉を濁したリッカに、シエルは詰め寄って質問する。その勢いに目を大きくしてから、息を吐いて苦笑する。
「・・・ちょっと、エロい。シエルちゃんのイメージじゃ、ない気がする」
「そうですか?私はそうは思いませんけど・・」
「・・・みんながみんな、アリサちゃんやサクヤさんみたいに、露出の多い服を着る訳じゃ、ないんだよ?」
「リッカさんだって、結構な露出してるじゃないですか」
「私のタンクトップを、一緒にしないでよ!作業着だよ!?」
二人が言い合いになっているのを見かねて、シエルはミニスカートの裾を揺らしながら声を掛ける。
「あの!結局、どうなんですか!?」
少し零れそうな胸を隠しつつ、シエルが顔を赤くしていると、アリサとリッカは交互に答える。
「これならヒロさんを、ドキドキさせれます!急な服装の変化は、男心をくすぐりますから!」
「でもイメージと違う!シエルちゃんは、もっとおとなしめな雰囲気で、優しく包む方が、ヒロ君をドキドキさせれる!」
「・・・・どっちなんですか?」
聞き返しながらも、どこか諦めたように、シエルは肩を落としながら溜息を吐いた。
「わかりました!じゃあ、サクヤさんも交えて、決着をつけましょう!」
「望むところだよ!きっとサクヤさんなら、イメージの方が大事ってわかってくれるから!」
「・・・あの・・、私の為ですよね?」
その4
手の中のグラスを傾けながら、ハルはぼそりと呟く。
「なぁ・・・。本当の魅力ってのは・・・、『胸』で解決しても良いんだろうか?」
「・・・・はぁ?・・」
ヒロは、『また始まった』と思いながら、掴まってしまった自分の運命を呪った。
ある時から、急にハルに個人的に呼び出されるようになったヒロ。深刻な表情に、心配して聞いてみれば、『女性の魅力とは何ぞや?』という、下らない・・こともないが、そんな話であった。
それを探求すると言われ、彼に付き合わされてから・・数回。ようやく『胸だよ!』というのに落ち着いたと思ったら、今回のこれである。
「ヒロは・・・もしかしたら、女性の胸で満足かもしれない。だが俺は、まだ迷っているんだ。それで、良いのか?・・と」
「あの、周りに誤解を招く言い方、やめてもらって良いですか?」
そうヒロが手を前に出したところで、ハルは気持ちを込めた眼を向けて静かに叫ぶ。
「俺はな、今『うなじ』に、惑わされている!」
チャーチャララチャ~♪ジャッジャンッ♪
「・・・・うなじ、ですか」
大きく頷き返してくるハルを見ながら、『何故いつもタイミングよく、音楽が流れ出すんだろう?』ということを、ヒロは気にしていた。
「今まで、女性の下半身に逃げがちだった俺は、お前のお陰で、男の原点たる『胸』に還ってくることが出来た。だが、その時気付いてしまったのさ。女性の美しさを象るしなやかなラインの、存在にな」
「・・・それで?・・・今度は、誰なんですか?」
いつものパターンに、ヒロが呆れ顔で返してくると、ハルは悟ったような表情で、笑顔を見せる。
「ふっ・・・。お前も気になるか?次なる、神秘が・・」
「そういうことに、しときます」
「まぁ、そう焦るなよ。これから・・・、じっくり二人で決めようじゃないか」
ついにはナンパにまで付き合わされるのかと、ヒロは疲れた表情を見せ、息を洩らす。
一人生き生きと立ち上がるハルに引っ張られ、ヒロが立ち上がったところで、レンカがやって来る。
「あぁ・・ここにいたか、ヒロ。探したぞ」
「あ、レンカさん・・」
フッと笑みを浮かべながら、レンカは、ヒロが待ちわびていた要件を口にする。
「例のフライアへの訪問許可、下りたぞ。早急だが、1時間後になる。ブラッドは全員非番だろ?すぐに集めて、行ってくると良い」
「本当ですか!?ありがとうございます!早速、みんなに知らせてきます!」
喜びを顔いっぱいに表してから、ヒロは1礼してから駆け出す。
そんな彼に、ハルは手を上げて見送りながら、声を掛ける。
「俺からも、よろしく言っておいてくれ。・・後は、任せとけ」
とっても良い顔でウィンクするハルを、ヒロは見ないようにしながら去って行った。
「ふっ・・・。確かにお前の気持ち、その背中から受け取った」
「ハルさん・・。程々にしてやってくださいよ?」
フライアへとやってきたブラッドは、目的の場所へと真っ直ぐ向かう。
彼が教えてくれた場所に、ひっそりと咲いていた小さな花を持って・・。
「来たよ。ロミオ先輩・・・」
2階の庭園の真ん中に位置するその場所で、皆は優しく微笑む。
ロミオの、墓前の前で・・・。
ナナが代表して、花を添えると、物言わぬ彼に話し掛ける。
「先輩・・。仇、取ってきたよ・・。みんなで・・、ジュリウスも一緒に。話したいことが、いっぱいある気がするんだけど・・、あははっ。何か、言葉が出ないよ」
そんなナナの肩に、シエルが優しく手を置く。
ギルも、帽子を深くかぶり直してから、表情を悟られぬようにする。
ヒロも、何か言おうと前に進み出たその時、彼は自分達が持ってきたものと、別の花が添えられているのに気付く。
「これって・・・」
ヒロの声に合わせて、皆その花へと注目する。
それにハッとしたように、ナナが声を洩らす。
「これ・・・・、ジュリウス?」
おそらくはそうであろうと思ったのか、皆それを見つめて小さく息を洩らす。
「来てたんだね。ジュリウス・・・」
「えぇ。一人でなんて・・彼らしい、ですね・・」
「まったくだな・・」
「ねぇ!?・・・うふふっ」
ナナがこぼした笑い声に同調して、皆笑顔を作る。それから静かに手を合わせて、彼の眠りが安らかにあるよう、祈るのであった。
その5
極東に戻った四人は、しばし黙って歩いていた。
だが、急に思い出したかのように、ナナが皆に向かって話し掛ける。
「ねぇねぇ?今日はみんな、何してたの?」
そう聞かれてから、三人は少し考えた後、顔を赤くして慌てだす。
「お、俺は!別に・・・・、訓練・・してただけだ」
「私も!その、あの・・。ちょっと、アリサさんとリッカさんに・・・いえ」
「僕も・・・・・・ハルさんと・・、何も!何もしてないよ!まだ!」
「ん~?・・・」
皆の反応に首を傾げるナナ。そんな彼女に、ヒロも同じ質問を返す。
「な、ナナこそ!今日は、何してたの?」
「あたし?」
聞かれることを待っていたかのように、ナナは胸を張って喋りだす。
「あたしはね!コウタさんを実験に使って、初恋の味を確かめてた!」
「「「・・・・えぇ!?」」」
どこか誤解を生みそうな言い回しを、聞いていたのはブラッドだけではなかったのが問題だ。
その後、コウタは有らぬ事実が噂となり、周りから質問攻めにあうのだった。
「それで?ナナさんに、何をしたんですか?『初恋の味』だなんて・・・ドン引きです!!」
「だからー!違うって言ってんだろ!?」
「き、キスとか・・まで、いったのかよ?」
「タツミさん!?目がマジで、怖えぇんっすけど!?」
「面白いから、旦那様に報告しようっと」
「ユウさんに変なこと報告するのだけは、勘弁して下さい!!あの人、絶対信じますし!」
「まぁ・・・・、好きなら・・。良いんじゃないか?」
「そうね~・・ふふっ」
「違うって言ってんだろ!?親友だろ!?信じろよ!!」
「付き合いは、真面目にな・・」
「どーでも、いいぜ!」
「・・・同じく・・」
「じゃあ、口挟まないでもらえます!?」
「隊長!ちゃんと責任とって下さいよ!?」
「貴方なら、出来る!僕は!隊長の清廉な心を、信じている!!」
「あぁぁーーー!!もうーー!!!誰か収集つけてくれよぉーーーー!!!!」
極東支部は、今日も平常運転・・・。
まったりな感じで、早くも40話です!
先は長いな・・・。
まだまだ続く物語に、お付き合いください!w