GOD EATER2 ~絆を繋ぐ詩~   作:死姫

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4話 グラスゴーの問題児

 

 

まだ日が昇らぬうちに目覚めたレアは、隣で大きくいびきをかくグレムを見る。その醜い裸を眺めてから、「ふんっ」と鼻を鳴らしてから起き上がる。

自分の研究を有利に進めるためにと、体を1度許したら、盛った猿のように求めてくる。調子の良いことをよく言うが、果たしてどこまで本音で言ってるのかと、レアは最近嫌気がさしてきていた。

着替え終わってから扉の前まで行き、幸せそうに眠り続けるグレムに向かって、ピアスのついた舌を長く伸ばしてから、

「役に立ってね。下手糞な、狸さん」

と言って出て行った。

 

シンッと静まり返った研究室で、ラケルはPCの画面に映し出された資料を眺めている。

そこへ、レアが軽くノックをしてから、隣へと歩み寄る。

ラケルの見ているモノを覗き込んでから、少し考えて口を開く。

「また・・・、ブラッドを増やすの?」

「えぇ、お姉さま。これで、5人目のブラッド」

資料に視線を置きつつ、ラケルは静かに笑みを浮かべて答える。

「・・・・ギルバート・マクレイン。どこかで聞いた名前だけど・・」

「おそらく、フェンリル本部の査問議事録で見たのじゃないかしら?」

「・・あぁ・・、『フラッキング・ギル』。上官殺しのギルね」

疑問が解けて納得したように、レアは顎に手を当ててから頷く。しかしすぐに表情を一変して曇らせてから、ラケルへと抗議の目を向ける。

「でも、ラケル。これ以上ブラッドを増やす意味なんてあるの?神機兵が完成すれば、もう必要なくなるんじゃ・・」

『神機兵』。

亡くなったクラウディウス姉妹の父、ジェフ・クラウディウス博士の考案した、神機のオラクル細胞制御機構で応用した、人型機動兵器。

第2世代ゴッドイーターの平均を上回る強さを有すこれが完成すれば、ゴッドイーターでなくとも、大型種の荒神を駆逐することが出来る。その研究を、現在はレアが引き継いで進めているのだ。

しかし、それにも色々と問題は尽きないが・・・。

「いいえ、お姉さま。まだまだ全然足りないわ」

「ラケル・・」

やっとこちらを向いた妹に、レアはどこか気圧された気持ちになる。

「『血の力』は、研ぎ澄まされた意志の力・・・。強い意志は、新たな意志の呼び水となる・・。それは、新たな世界には必ず必要だわ」

「・・・・」

「ねぇ、お姉さま。これからも二人で、全てを乗り越えていきましょう?人という種に与えられた試練を・・、人類の新しい未来の・・為に・・」

「・・・えぇ、わかてるわ。ラケル・・」

その目に意識を吸い込まれたように、レアは自然と手を取り、大きく頷く。その返事を満足気に笑顔で応えるラケルの瞳の奥には、もっと大きな未来が見え隠れしていた。

 

 

エレベーター前で待ち合わせていたヒロは、先に来ていたジュリウスに手を上げてから、エレベーターへと乗り込む。

今日は新しい仲間を迎えるということで、ヒロは少し緊張している。

「・・・不安か?」

「うぅん。なんか、こう・・・・、緊張してる」

「そうか。お前でも緊張するんだな」

鼻を撫でながら笑うジュリウスに、少しだけムッとしてから、ヒロは反撃する。

「ジュリウスは慣れてるかもしれないけど、僕は初めてなんだから良いでしょ?」

「それは、すまなかったな。だが、俺もなかなか慣れない」

「それは・・・・・、そうなのかも・・」

「ふっ・・・。努力はするさ。惜しみなくな」

いかにも真面目なジュリウスらしい返答に、ヒロはつい笑ってしまう。そうこうしているうちに、エレベーターが目的地に到着する。

 

ガッ!

「いっ・・・てぇ。何すんだよ!?」

二人が到着した頃を見計らったように、問題は勃発していた。

頬を押さえて叫ぶロミオ、オロオロするナナ。それに、新しい仲間であろう人物が、ロミオを睨みつけて立っている。

いつもながら問題が尽きないと溜息を吐いてから、ジュリウスはその場へと足を運ぶ。

「・・・状況を、説明してくれるか?」

「こいつが・・・いきなり殴ってきたんだよ!」

即座に答えてきたロミオに頷いてから、ジュリウスは視線を問題の人物へと移す。

「あんたが、隊長か?・・・俺はギルバート・マクレイン。ギルでいい」

「そうか。よろしくな、ギル。それで・・?」

「こいつがムカついたから、殴った。それだけだ」

完結に自分のしたことを述べてから、ギルは踵を返して歩き出す。

「懲罰なり、クビにするなり・・・、好きにしてくれ」

それだけ言い残して去ってしまったギルに、再び溜息を吐いてからロミオとナナに目を向ける。

「ロミオ・・・、どうしたんだ?」

「あいつの・・、元いた支部とか、色々聞いただけだし・・」

「・・・ナナ?」

「喧嘩は良くないけど・・・、今回は先輩がしつこすぎ」

それで理解したように、ジュリウスは眉間に出来た皺を撫でる。

「早く仲良くなるのにお互いのこと聞いて、何が悪いんだよ!?」

「それが良くないことだってあるよ。ちゃんと謝ったら?」

「嫌だよ!なんで殴られた俺が・・」

ナナの指摘にそっぽ向くロミオを見て、ヒロは苦笑してからジュリウスの肩を叩く。それを合図に目を開けてから、ジュリウスは口を開く。

「今回のことは、不問とする。だが・・・、任務に私情を持ち込まれては困る。関係は修復するように」

「えぇー!?やだよ!!無理無理、絶対無理!!」

「ぷぷっ。先輩、子供っぽい」

「ナナ。これ以上、問題を起こすな」

「は~い」

流石に顔をしかめるジュリウスに、ヒロが笑って声を掛ける。

「僕が彼のところに行ってくるよ。彼も謝れば、ロミオ先輩も謝れるでしょ?」

「そりゃあ・・・まぁ」

「決まりだな。頼めるか、ヒロ」

「了解」

まだ思うところがあるような表情のロミオをナナとジュリウスに任せて、ヒロはギルを探しに、エレベーターへと向かった。

 

 

2階の庭園に来ていたギルは、屋根付きの休憩所の椅子に寝転がって、思いにふけっていた。

元々第1世代のゴッドイーターであった彼も、P-66因子に適合し、晴れてブラッドの一員になりフライアへと転属となった。

(まぁ・・・・、もういられなかったしな・・)

上官殺しの異名がついてからは、誰も彼とは任務に行こうとはせず、完全に居場所を無くしていたところを、ラケルに拾ってもらったようなもの。

さっそく問題を起こしてしまったことを、少しだけ後悔していたのだ。

「ここにいたんだ」

「・・・ん?」

声を掛けられ起き上がると、ヒロが覗き込むように立っていた。

「何だ。もう処分が決まったのか?」

「そう。今回は不問だよ。条件付きでね」

笑って言ってくるヒロを見上げてから、キャップをかぶり直してから聞き返す。

「何だ?1週間ぐらいの拘留か?」

「ロミオ先輩と、仲直り」

「なんだと?」

少し驚いてから溜息を吐き、ギルは立ち上がってから、自分より低い身長のヒロを見下ろす。

「あの隊長も、甘いな。それとも、お人好しそうなお前の提案か?」

キッと睨みつけてくるギルに対して、特に怖気ずくこともなく、ヒロは表情を崩さず返事を返す。

「『任務に私情を挟まないように』。割と普通の答えだと思うけど?」

「・・・・・なるほど。ごもっともだ」

拍子抜けしてしまったのか、それともヒロの人柄に負けたのか・・・。ギルは笑みを浮かべてから、改めて挨拶をする。

「ギルバート・マクレインだ。ギルで構わない」

「神威ヒロ。ギルより、ちょっとだけ先輩だよ」

「はっ!言うじゃねぇかよ!」

握手を求められその手を握ったギルは、今度はバツが悪そうに鼻の頭を掻く。

「さっきは悪かったな。俺もやりすぎたと、反省してる。あいつにも、謝っておいてくれ」

「それは、ギルが直接言わなきゃダメ。隊長からのお達しなんだからね」

顔に似合わぬはっきりとした物言いに、ギルは苦笑してしまう。

「わかった。ちゃんと、謝る」

「そうこなくっちゃ」

二人は笑い合ってから、歩き出す。

その後、素直に謝罪してきたギルに驚いてから、ロミオも素直に非を認めて、問題は事なき終えた。

 

 

雪に覆われた旧高速道路跡。

任務の為に移動してきたブラッドの面々は、高台から見下ろしながら戦闘準備に入る。

そこでギルの取り出した新しい型の神機、チャージスピアに注目が集まる。

「すっごーい!!これがギルの神機!?」

「あぁ。ブラッドに転属してから、持ち替えた」

「マジかよ!いきなり持ち替えて、使えんのかよ?」

「お前よりは、マシだろう」

「知らないだろ!?俺のこと!」

皆引っ切り無しにギルに喋りかけてる中、ジュリウスとヒロは現場の確認をしながら笑顔で話している。

「大分、馴染んでいるじゃないか。お前のお陰だな、ヒロ」

「元々そんなに人と関わるのが、嫌って訳じゃないと思うよ。ギルは」

人と人とを繋ぐきっかけになっているのを、無自覚なんだろうヒロを見てから、ジュリウスは羨ましく思いつつ、頼もしく感じていた。

 

ギャウッギャギャッ!

 

遠くから声が響き、小型がこちらの方へとやって来る。その数を数え、目的の敵が見当たらないことを、ジュリウスとヒロは頷き合い、他の三人に声を掛ける。

「さぁ、任務に向かうぞ。視認できるのはザイゴートが5体。討伐対象のウコンバサラは、おそらくもっと奥にいるだろう。先に確実に手前の5体を殺る。一人1体。問題ないだろう?」

《了解!!》

皆の返事に頷いてから、ジュリウスは先頭に立って下を見下ろす。

「先に片付けた二人で先行偵察。無理はするな。・・・行くぞ」

それを合図に、一気に荒神の群れに向かって飛び降りた。

 

「はぁっ!」

ザンッ!

胴体からコアごと斬り捨ててから、ヒロは周りへと目を配る。すると、

「はぁぁぁっ!!」

ズンッ!!

ギルがザイゴートの身体に、スピアを捩じ込んで大穴を開けていた。それから向こうも、こちらを見てくる。

「早いな」

「ギルもね」

そんなやり取りに笑みを浮かべてから、ジュリウスはナナとロミオの方を向いて指示を出す。

「ヒロ、ギル。お前達で偵察に向かえ。戦闘に入るのは、出来るだけこっちに引っ張ってきてからにしてくれ」

「いや・・・。向こうさんも、やる気満々みたいだ」

ギルの返事に後ろを見ると、ウコンバサラが電気を走らせながらこちらへと向かってきていた。それならばと、ジュリウスは指示を変更する。

「ならば戦闘に入れ。俺達も、すぐに応援に来る」

「「了解!!」」

そう言ってヒロとギルは、標的へと駆け出す。

こちらへ気付いたのか、ウコンバサラは自慢の尻尾を振り上げ、振り抜いてくる。それを想定内と、ギルは盾を展開して受け、ヒロは真上へと飛び、そのまま重力に乗せてウコンバサラに神機を突き立てる。

ガシュッ!

グゥウアァァグルルッ!!

それを引き抜いてから後ろに跳び、ヒロはギルへと声を掛ける。

「ギル!」

「任せろ!!」

怯んだ隙に力を溜めていた神機を一気に開放し、ギルは切っ先を突き出す。

ザリィィッ!

ギャグゥゥッ!!

「ちっ!浅いか・・」

まだ少し不慣れなのか、反動でブレてしまった神機は、ウコンバサラの背中を抉るが、決め手にはならなかった。

それをチャンスと反撃に転じたウコンバサラだったが、

「てぇーい!!!」

ゴシャッ!!バキィッ!

飛び込んできたナナのブーストハンマーを頭にくらって、地面にめり込む。それに合わせて、ロミオの振り抜いた神機は、尻尾の先を砕く。

「おっしゃぁ!見たかよ、ギル!俺の実力!」

「・・・まぁまぁだな」

頭をやられてフラフラするウコンバサラに、ジュリウスが神機を振り抜いてから、顔だけを向けてから背中越しに勝利宣言をする。

「これが、俺達の力だ」

ザシュザシュザシュザシュッ!!

無数の斬撃が走り抜け、ウコンバサラはその場に倒れ伏せた。

 

コアを回収後、帰り支度を始めるギルに、ロミオが話しかける。

「どうよ、俺の実力!お前に負けてなんかないだろ!?」

「最後の一撃を言うんなら、ナナのおこぼれだろ。良い一撃だった」

「本当に~!?ギルに褒められちゃった!」

「あれは俺の方が先だろ!?」

気に入らないのか騒ぎ立てるロミオに、耳を塞ぐギル。そんなギルの周りを飛び回るナナ。その姿を見守るヒロの肩に手を置いてから、ジュリウスは口を開く。

「良いチームになってきたな。ブラッドも・・」

「そうだね。やっぱり、隊長がいいんじゃない?」

「そうでありたいな」

そう言って微笑むジュリウスとブラッドの頭上に、迎えのヘリが到着する。そのヘリを見上げてから、ジュリウスはプロペラの駆動音にかき消されるような声で呟く。

「あと・・・一人か」

皆が乗り込んでから、ヘリはフライアへと針路を取り、その場を飛び去った。

 

 

 

 





新年となりました!
これからも、よろしくお願いします!


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