GOD EATER2 ~絆を繋ぐ詩~   作:死姫

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39話 一握りの希望

 

 

先頭に突っ込んだヒロが斬り付けてくるのを躱して、マルドゥークは反撃にと腕を振り上げる。

ドゥオンッ!!

ギャウッ!!

シエルの撃ち込んだブラッドバレッドに、顔をしかめて飛び退く。

それを待っていたと言わんばかりに、ギルが横っ腹に神機を突き刺す。

ドシュッ!

「動くな。・・・すぐ終わるからよ」

マルドゥークを逃がさぬよう、足に踏ん張りを利かせるギル。それを面白くなさ気に、マルドゥークが睨みつけていると・・。

「ブラッドアーツ、『ガイアプレッシャー』!」

ガコォンッ!!

ギャンッ!

ナナが空中から強力な1撃をお見舞いし、そのまま地面へとめり込ませる。

「全員!距離をとれ!ブラッドバレッド、一斉発射!!」

《了解!!》

ドドドドドドドゥォンッ!!!

弾幕で煙が上がる中、ブラッドはバレッドを撃ちこみ続ける。

そして折を見て、ヒロが撃つ手を止めたところで、全員引き金から手を離す。

煙の中に飛び込むか・・・否かを、ヒロが迷っていると・・。

ゴォォォンッ!!

オオォォォォォーーーーーーン!!!

赤いオーラを天へ柱にし、マルドゥークはゆっくりとブラッドを睨みつけてくる。

「こいつ・・・!」

「全然、元気みたい・・」

「偏食場パルス、発生。おそらく、仲間を呼んだのかと・・」

三人が背中に寒気を感じている中、ただ一人ヒロは、そんなヤツへと歩き始める。

「・・・・なら、合流される前に、決着を付ければいい・・」

そう言って飛び込んだヒロは、マルドゥークの右前足を斬り払う。が、その刃は固い皮に阻まれて、食いこんだまま抜けなくなる。

「なっ!?くっ、そ!!」

それを見越していたように、マルドゥークは前足を地面へと沈めだす。そこから溶岩を発生させながら・・。

「熱っ!・・くそ!しまっ・・!?」

グァーンッ!!ゴォォオォッ!!

火山が弾けたように、球状の溶岩を弾けさせ、マルドゥークは自分の周囲を火の海へと変えた。

それに巻き込まれたであろう、ヒロの姿を隠すように・・。

「うそ・・・」

「くそっ!ヒロ!?」

「・・・・ヒローーーッ!!」

彼の名を叫ぶブラッドを嘲笑うかのように、マルドゥークの周りに、近隣に潜んでいたヴァジュラが集まりだした。

 

 

火柱のようなものが上がったのを目にし、コウタは舌打ちをしてからレンカへと無線を繋ぐ。

「レンカ!ブラッドの応援に向かっちゃ、駄目なのかよ!?後1体でこっちは・・」

「っ!!?隊長!ヴァジュラが!!」

「なっ!?くそっ!」

エリナの叫びに顔を向けると、2体のヴァジュラが姿を現していた。

『・・今は、目の前の事に集中しろ!コウタ!今加勢に行っても、余計な敵与えるだけだ!』

「・・・く・・、わかった。とにかく、片付ける!」

『・・死ぬなよ、コウタ』

「わかってるよ、親友・・」

そう言ってから無線を切り、コウタは部隊へと指示を出す。

「俺とエリナで回り込む!エミール!外すなよ!?」

「「了解!!」」

苛立ちを押さえながら、コウタはガルムへとバレッドを連射する。

 

 

何か指示でも出したのか、ヴァジュラは一斉にブラッドへと飛び掛かって来る。

「くっ!・・・・ギル!左、1体!任せます!ナナ!私のバレッドに合わせて!」

「「了解!!」」

咄嗟に指示を出してから、シエルはバレッドをヴァジュラへと的確に貫通させる。それをタイミングとし、ナナが顔面へとハンマーを叩き込む。

「こっ、のぉー!!」

ゴシャッ!!

1体を沈めてから、ナナが顔を上げた時・・。

「え・・・」

ドゴッ!

「あぐっ・・・・」

突っ込んできたマルドゥークによって、彼女の小さな体は吹っ飛ばされる。

「かはっ・・あ・・・・うぅあ・・」

意識は失ってないにしても、すぐには立ち上がれないナナ。

「ナナ!・・はっ!?」

ガキィッ!!

「あぁっ!!・・・・く・・・」

今度はナナに気を取られていたシエルを、ヴァジュラがその爪の餌食にと攻撃してきたのだ。

咄嗟に銃身で受けてしまったせいか、衝撃に耐えられずシエルは大きく後ろへと投げ出される。

「くっそ!・・・シエル!ナナ!」

叫ぶギルに返事をしようとする二人だが、回復しきらないのか、口を動かせずにいる。

「ちぃっ!!」

二人に追撃させまいと、ギルがもう1体ヴァジュラを斬り払う。しかし、それを盾に飛び込んできていたマルドゥークに、爪で引き裂かれる。

ザシュッ!

「ぐあぁっ!!」

ギリギリで体を捻ったおかげで、致命傷にはならなかったが、左肩に傷を負って、血が滴り落ちる。

「く・・・そが・・!」

憎らし気に目を向けた時に、ギルは初めて気付く。マルドゥークの足に刺さったヒロの神機と、それを手放さずに気絶して引きずられる、ヒロの姿に。

「こ・・・の野郎がぁー!!」

右手1本で神機を振りかざすギルを笑う様に、マルドゥークは口を大きく開いて見せる。

 

 

『・・・ヒロ』

「・・・・う・・」

『ヒロ・・・』

「う・・あっ・・、ユウ・・さん」

『君は、その手で何を望む?』

「・・僕、は・・」

『ゴッドイーターになったからといって、全てが思い通りに何て、いかない。でも、望むことはできる』

「僕は・・望む・・」

『望みは、力となる。後1歩を踏み出す、勇気となる。君が何かを成しえる為に望むなら・・・』

「僕は・・・」

 

『君のその手は・・・希望を掴む為の、力を得る!』

 

ドクンッ!

「え?・・」

「な、なに?これ・・」

「血が止まりやがった・・。まさか!?」

 

ザンッ!!!

ギャオンッ!

急に転がって暴れまわるマルドゥークの足元で、ヒロが神機を振り抜いた姿勢のまま、声を上げる。

「僕は・・・望みます。この手に、みんなを守れるだけの力を!!!」

キイィィィィンッ!!

彼が『喚起』の力を発生させたのか、ブラッドの三人は、自分の内側から力が溢れるのを感じる。

「これは・・・ヒロの『喚起』の・・力・・」

「じゃあ・・、力の底上げってこと?・・」

「はっ!・・・・最高のタイミングで、やってくれるな。ヒロ!」

三人が驚いているのも束の間、ヒロは神機を斬り上げ、その勢いでマルドゥークを吹き飛ばす。

それに驚いたのか、残り2体となったヴァジュラはじりじりと後退りだす。そこへ、

ドドンッドドンッドドンッ!

突然撃ち込まれたバレッドに、ヴァジュラは頭や腹を吹き飛ばされて、沈黙する。

「・・・・神機兵・・、ジュリウス!?」

数体の神機兵は、標的をマルドゥークへと切り替え、再びバレッドを連射し始める。そして、ブラッドへと声を掛ける。

『今だ!止めをさせ!ブラッド!!』

《っ!!?》

ジュリウスの声に目が覚めたように顔を上げて、全員、マルドゥークへと走り出す。

《ああぁぁぁぁぁーーーーっ!!!!》

タイミングを見計らったように弾幕は止み、マルドゥークが顔を上げたところで、四人の神機が目に入る。

《はあぁぁーーっ!!!!》

ザシュッザシュッグシャッドスッ!!!

同時に放たれた内の1本が、コアに到達し・・・破壊する。

パリィィッ!!

勢い任せで飛び込んだ為、着地できずに、四人は地面に転がり落ちる。そして、ゆっくりと倒れるマルドゥークを目にしてから、ヒロが口の端を浮かせて、拳を上げる。

「・・・勝った・・・・」

そして仰向けになったまま、四人は声を上げて笑い出した。

 

戦いの最期を見届けてから、ソーマはフッと笑みを浮かべる。

しかし、彼等から神機兵へと目を向けると、途端に真面目な表情となる。

カメラを回し続けながら、去って行く神機兵を見つめ続けるソーマ。その顔は、この勝利を素直に喜べないといった感じであった。

 

 

医務室のベッドの上で、ギルが治療に顔を歪ませる中、ヒロはぽつりと呟く。

「榊博士の言ってた『応援』って、ジュリウスだったんだね・・」

「・・・そうですね。神機兵ではありましたが、アレは間違いなく、ジュリウスでした」

シエルが優しく笑みを浮かべると、ナナは疲れた体を彼女に預けながら、頬を膨らませる。

「ぶーっ!でもぉ、すぐ帰っちゃうしさ?もうー・・・。今度、チキンをたっぷり買ってもらう!」

「ははっ。良いと、思うよ」

ヒロが笑いながら答えると、肩の傷を縫い終わったギルが、包帯を巻いてベッドから起きてくる。

「挨拶無しに帰ったんだ。もう少し、良いモノ食わせてもらおうぜ?」

それを聞いて、ヒロが少し考えてから、思いついたように人差し指を立てる。

「前に・・・ラケル博士に御馳走になった、子羊?・・の肉とか、高そうだった!」

「ほう?何で高そうなんだ?」

ギルが聞き返してくると、ヒロは真面目な顔をして答えた。

「だって・・・、味がわからなかった!」

その言葉に、一瞬呆けてから、シエルとギルは笑い出し、ナナはまたも膨れっ面になる。

「ふふっ。ヒロの口には、合わなかったようですね」

「まぁ、俺も合わねぇだろうさ。貧乏舌なんでな。ははっ」

「味がわかんないなら、いらないよー!やっぱり、チキンがいい!」

「・・・・・はははっ」

和やかな雰囲気のブラッドに、治療にあたっていた医者や看護師等は、クスクスとばれないように笑った。

 

 

「お前か?神威ヒロってのは?俺様は小川シュン先輩だ!さぁ、ブラッド何とかを教えろよ!?」

「ブラッドアーツだろ、馬鹿。カレル・シュナイダーだ。金は出せないが、ブラッドバレッドを寄越せ」

「・・・あ、あのー・・・」

極東の団欒室で、簡単ながらも祝勝会を開いてもらっているブラッド。

そんな最中に、ヒロはカツアゲをされているかのように、出張から戻ったシュンとカレルに絡まれていた。

止めに入ってやりたいと思ってはいるが、古参の二人に、周りは物申せないでいるのだ。

それを呆れた顔で間に入ってから、ジーナが二人へとデコピンを食らわす。

「あたっ!何すんだよ!?」

「・・いてぇよ」

文句を言ってくる二人に、ジーナは溜息を吐いてから口を開く。

「わかってないのね。言ったでしょ?ブラッドアーツも、ブラッドバレッドも、ヒロ君と”仲良く”ならなきゃ、使えないのよ?」

「はぁ!?んなの、知らねぇし!てか、いてぇし!」

「・・冗談かと、思った」

そんな二人にわからせようとしてか、ジーナはその細い体を艶めかしくよじってから、ヒロへと抱き着いて見せる。

「こんな風に・・・ね?ヒロ君」

「は・・・はの・・・あわわ・・」

「そんな事、できっかよ!」

「・・困ってないか?」

急に絡みつかれて、ヒロが緊張してると、烈火の如く怒りに身を震わせながら、シエルとエリナが、ジーナからヒロを奪い取る。

「ジーナさん!ヒロが困ってます!」

「先輩を誘惑するの、やめて下さい!」

「あら・・・、残念。ふふっ」

絶対に面白がってるとヒロがジト目で見ていると、ジーナは苦笑しながらも、投げキッスを飛ばしてくる。

その瞬間、

「いっ!いたたたっ!なに!二人!?痛いよ!痛い!」

「ヒロが悪いんです!」

「先輩が悪い!!」

二人に抓られ、尚且つ怒られる始末。ヒロは理不尽だと、溜息を吐いた。

 

そろそろお開きと言うところで、タツミが巨大スクリーンの前に椅子を置いて、その上に立つ。

その下で、コウタがグラスを箸で鳴らすと、全員の注目がタツミに集まる。

「ブラッド。今日は、お疲れさんだったな。みんなもな・・・。明日もあることだし、最後に乾杯して終わろうと思う」

そう言ってからグラスを上げると、全員グラスを持ち上げる。

それを確認してから、タツミは目を閉じて少し口の端を歪ませてから、声を張る。

「・・今日の勝利を、ロミオに・・・」

《・・・・》

皆黙って掲げたグラスの中身を飲み干す。

短期間で色々なことが、一気に駆け巡ったが、この言葉を最後に、一応の決着はついたのだった。

 

 

ごほっ ごほっごほっ

静かな部屋の中で、ジュリウスの咳込む音が響く。

黒蛛病の痣もどんどんと広がり、今では上半身を覆う程になっていた。

苦しみを紛らわすように、窓の外の月を見る。

青い月は、優しく彼を照らして、痛みを労わるように撫でてくれているようだ。

 

『貴方達が大好きな、英雄の話ですよ』

 

ユノがしてくれた、人類を救った白い少女の話を思い浮かべながら、ジュリウスは頬を伝う涙をそのままに、小さく呟く。

「俺は・・・・・英雄には、なれないよ。・・・ユノ・・」

黒蛛病は、彼を刻一刻と蝕んでいく・・。

 

 

 

 

 

 





決着です!!

これを書いたら、少しだけホッとしました・・。



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