先頭に突っ込んだヒロが斬り付けてくるのを躱して、マルドゥークは反撃にと腕を振り上げる。
ドゥオンッ!!
ギャウッ!!
シエルの撃ち込んだブラッドバレッドに、顔をしかめて飛び退く。
それを待っていたと言わんばかりに、ギルが横っ腹に神機を突き刺す。
ドシュッ!
「動くな。・・・すぐ終わるからよ」
マルドゥークを逃がさぬよう、足に踏ん張りを利かせるギル。それを面白くなさ気に、マルドゥークが睨みつけていると・・。
「ブラッドアーツ、『ガイアプレッシャー』!」
ガコォンッ!!
ギャンッ!
ナナが空中から強力な1撃をお見舞いし、そのまま地面へとめり込ませる。
「全員!距離をとれ!ブラッドバレッド、一斉発射!!」
《了解!!》
ドドドドドドドゥォンッ!!!
弾幕で煙が上がる中、ブラッドはバレッドを撃ちこみ続ける。
そして折を見て、ヒロが撃つ手を止めたところで、全員引き金から手を離す。
煙の中に飛び込むか・・・否かを、ヒロが迷っていると・・。
ゴォォォンッ!!
オオォォォォォーーーーーーン!!!
赤いオーラを天へ柱にし、マルドゥークはゆっくりとブラッドを睨みつけてくる。
「こいつ・・・!」
「全然、元気みたい・・」
「偏食場パルス、発生。おそらく、仲間を呼んだのかと・・」
三人が背中に寒気を感じている中、ただ一人ヒロは、そんなヤツへと歩き始める。
「・・・・なら、合流される前に、決着を付ければいい・・」
そう言って飛び込んだヒロは、マルドゥークの右前足を斬り払う。が、その刃は固い皮に阻まれて、食いこんだまま抜けなくなる。
「なっ!?くっ、そ!!」
それを見越していたように、マルドゥークは前足を地面へと沈めだす。そこから溶岩を発生させながら・・。
「熱っ!・・くそ!しまっ・・!?」
グァーンッ!!ゴォォオォッ!!
火山が弾けたように、球状の溶岩を弾けさせ、マルドゥークは自分の周囲を火の海へと変えた。
それに巻き込まれたであろう、ヒロの姿を隠すように・・。
「うそ・・・」
「くそっ!ヒロ!?」
「・・・・ヒローーーッ!!」
彼の名を叫ぶブラッドを嘲笑うかのように、マルドゥークの周りに、近隣に潜んでいたヴァジュラが集まりだした。
火柱のようなものが上がったのを目にし、コウタは舌打ちをしてからレンカへと無線を繋ぐ。
「レンカ!ブラッドの応援に向かっちゃ、駄目なのかよ!?後1体でこっちは・・」
「っ!!?隊長!ヴァジュラが!!」
「なっ!?くそっ!」
エリナの叫びに顔を向けると、2体のヴァジュラが姿を現していた。
『・・今は、目の前の事に集中しろ!コウタ!今加勢に行っても、余計な敵与えるだけだ!』
「・・・く・・、わかった。とにかく、片付ける!」
『・・死ぬなよ、コウタ』
「わかってるよ、親友・・」
そう言ってから無線を切り、コウタは部隊へと指示を出す。
「俺とエリナで回り込む!エミール!外すなよ!?」
「「了解!!」」
苛立ちを押さえながら、コウタはガルムへとバレッドを連射する。
何か指示でも出したのか、ヴァジュラは一斉にブラッドへと飛び掛かって来る。
「くっ!・・・・ギル!左、1体!任せます!ナナ!私のバレッドに合わせて!」
「「了解!!」」
咄嗟に指示を出してから、シエルはバレッドをヴァジュラへと的確に貫通させる。それをタイミングとし、ナナが顔面へとハンマーを叩き込む。
「こっ、のぉー!!」
ゴシャッ!!
1体を沈めてから、ナナが顔を上げた時・・。
「え・・・」
ドゴッ!
「あぐっ・・・・」
突っ込んできたマルドゥークによって、彼女の小さな体は吹っ飛ばされる。
「かはっ・・あ・・・・うぅあ・・」
意識は失ってないにしても、すぐには立ち上がれないナナ。
「ナナ!・・はっ!?」
ガキィッ!!
「あぁっ!!・・・・く・・・」
今度はナナに気を取られていたシエルを、ヴァジュラがその爪の餌食にと攻撃してきたのだ。
咄嗟に銃身で受けてしまったせいか、衝撃に耐えられずシエルは大きく後ろへと投げ出される。
「くっそ!・・・シエル!ナナ!」
叫ぶギルに返事をしようとする二人だが、回復しきらないのか、口を動かせずにいる。
「ちぃっ!!」
二人に追撃させまいと、ギルがもう1体ヴァジュラを斬り払う。しかし、それを盾に飛び込んできていたマルドゥークに、爪で引き裂かれる。
ザシュッ!
「ぐあぁっ!!」
ギリギリで体を捻ったおかげで、致命傷にはならなかったが、左肩に傷を負って、血が滴り落ちる。
「く・・・そが・・!」
憎らし気に目を向けた時に、ギルは初めて気付く。マルドゥークの足に刺さったヒロの神機と、それを手放さずに気絶して引きずられる、ヒロの姿に。
「こ・・・の野郎がぁー!!」
右手1本で神機を振りかざすギルを笑う様に、マルドゥークは口を大きく開いて見せる。
『・・・ヒロ』
「・・・・う・・」
『ヒロ・・・』
「う・・あっ・・、ユウ・・さん」
『君は、その手で何を望む?』
「・・僕、は・・」
『ゴッドイーターになったからといって、全てが思い通りに何て、いかない。でも、望むことはできる』
「僕は・・望む・・」
『望みは、力となる。後1歩を踏み出す、勇気となる。君が何かを成しえる為に望むなら・・・』
「僕は・・・」
『君のその手は・・・希望を掴む為の、力を得る!』
ドクンッ!
「え?・・」
「な、なに?これ・・」
「血が止まりやがった・・。まさか!?」
ザンッ!!!
ギャオンッ!
急に転がって暴れまわるマルドゥークの足元で、ヒロが神機を振り抜いた姿勢のまま、声を上げる。
「僕は・・・望みます。この手に、みんなを守れるだけの力を!!!」
キイィィィィンッ!!
彼が『喚起』の力を発生させたのか、ブラッドの三人は、自分の内側から力が溢れるのを感じる。
「これは・・・ヒロの『喚起』の・・力・・」
「じゃあ・・、力の底上げってこと?・・」
「はっ!・・・・最高のタイミングで、やってくれるな。ヒロ!」
三人が驚いているのも束の間、ヒロは神機を斬り上げ、その勢いでマルドゥークを吹き飛ばす。
それに驚いたのか、残り2体となったヴァジュラはじりじりと後退りだす。そこへ、
ドドンッドドンッドドンッ!
突然撃ち込まれたバレッドに、ヴァジュラは頭や腹を吹き飛ばされて、沈黙する。
「・・・・神機兵・・、ジュリウス!?」
数体の神機兵は、標的をマルドゥークへと切り替え、再びバレッドを連射し始める。そして、ブラッドへと声を掛ける。
『今だ!止めをさせ!ブラッド!!』
《っ!!?》
ジュリウスの声に目が覚めたように顔を上げて、全員、マルドゥークへと走り出す。
《ああぁぁぁぁぁーーーーっ!!!!》
タイミングを見計らったように弾幕は止み、マルドゥークが顔を上げたところで、四人の神機が目に入る。
《はあぁぁーーっ!!!!》
ザシュッザシュッグシャッドスッ!!!
同時に放たれた内の1本が、コアに到達し・・・破壊する。
パリィィッ!!
勢い任せで飛び込んだ為、着地できずに、四人は地面に転がり落ちる。そして、ゆっくりと倒れるマルドゥークを目にしてから、ヒロが口の端を浮かせて、拳を上げる。
「・・・勝った・・・・」
そして仰向けになったまま、四人は声を上げて笑い出した。
戦いの最期を見届けてから、ソーマはフッと笑みを浮かべる。
しかし、彼等から神機兵へと目を向けると、途端に真面目な表情となる。
カメラを回し続けながら、去って行く神機兵を見つめ続けるソーマ。その顔は、この勝利を素直に喜べないといった感じであった。
医務室のベッドの上で、ギルが治療に顔を歪ませる中、ヒロはぽつりと呟く。
「榊博士の言ってた『応援』って、ジュリウスだったんだね・・」
「・・・そうですね。神機兵ではありましたが、アレは間違いなく、ジュリウスでした」
シエルが優しく笑みを浮かべると、ナナは疲れた体を彼女に預けながら、頬を膨らませる。
「ぶーっ!でもぉ、すぐ帰っちゃうしさ?もうー・・・。今度、チキンをたっぷり買ってもらう!」
「ははっ。良いと、思うよ」
ヒロが笑いながら答えると、肩の傷を縫い終わったギルが、包帯を巻いてベッドから起きてくる。
「挨拶無しに帰ったんだ。もう少し、良いモノ食わせてもらおうぜ?」
それを聞いて、ヒロが少し考えてから、思いついたように人差し指を立てる。
「前に・・・ラケル博士に御馳走になった、子羊?・・の肉とか、高そうだった!」
「ほう?何で高そうなんだ?」
ギルが聞き返してくると、ヒロは真面目な顔をして答えた。
「だって・・・、味がわからなかった!」
その言葉に、一瞬呆けてから、シエルとギルは笑い出し、ナナはまたも膨れっ面になる。
「ふふっ。ヒロの口には、合わなかったようですね」
「まぁ、俺も合わねぇだろうさ。貧乏舌なんでな。ははっ」
「味がわかんないなら、いらないよー!やっぱり、チキンがいい!」
「・・・・・はははっ」
和やかな雰囲気のブラッドに、治療にあたっていた医者や看護師等は、クスクスとばれないように笑った。
「お前か?神威ヒロってのは?俺様は小川シュン先輩だ!さぁ、ブラッド何とかを教えろよ!?」
「ブラッドアーツだろ、馬鹿。カレル・シュナイダーだ。金は出せないが、ブラッドバレッドを寄越せ」
「・・・あ、あのー・・・」
極東の団欒室で、簡単ながらも祝勝会を開いてもらっているブラッド。
そんな最中に、ヒロはカツアゲをされているかのように、出張から戻ったシュンとカレルに絡まれていた。
止めに入ってやりたいと思ってはいるが、古参の二人に、周りは物申せないでいるのだ。
それを呆れた顔で間に入ってから、ジーナが二人へとデコピンを食らわす。
「あたっ!何すんだよ!?」
「・・いてぇよ」
文句を言ってくる二人に、ジーナは溜息を吐いてから口を開く。
「わかってないのね。言ったでしょ?ブラッドアーツも、ブラッドバレッドも、ヒロ君と”仲良く”ならなきゃ、使えないのよ?」
「はぁ!?んなの、知らねぇし!てか、いてぇし!」
「・・冗談かと、思った」
そんな二人にわからせようとしてか、ジーナはその細い体を艶めかしくよじってから、ヒロへと抱き着いて見せる。
「こんな風に・・・ね?ヒロ君」
「は・・・はの・・・あわわ・・」
「そんな事、できっかよ!」
「・・困ってないか?」
急に絡みつかれて、ヒロが緊張してると、烈火の如く怒りに身を震わせながら、シエルとエリナが、ジーナからヒロを奪い取る。
「ジーナさん!ヒロが困ってます!」
「先輩を誘惑するの、やめて下さい!」
「あら・・・、残念。ふふっ」
絶対に面白がってるとヒロがジト目で見ていると、ジーナは苦笑しながらも、投げキッスを飛ばしてくる。
その瞬間、
「いっ!いたたたっ!なに!二人!?痛いよ!痛い!」
「ヒロが悪いんです!」
「先輩が悪い!!」
二人に抓られ、尚且つ怒られる始末。ヒロは理不尽だと、溜息を吐いた。
そろそろお開きと言うところで、タツミが巨大スクリーンの前に椅子を置いて、その上に立つ。
その下で、コウタがグラスを箸で鳴らすと、全員の注目がタツミに集まる。
「ブラッド。今日は、お疲れさんだったな。みんなもな・・・。明日もあることだし、最後に乾杯して終わろうと思う」
そう言ってからグラスを上げると、全員グラスを持ち上げる。
それを確認してから、タツミは目を閉じて少し口の端を歪ませてから、声を張る。
「・・今日の勝利を、ロミオに・・・」
《・・・・》
皆黙って掲げたグラスの中身を飲み干す。
短期間で色々なことが、一気に駆け巡ったが、この言葉を最後に、一応の決着はついたのだった。
ごほっ ごほっごほっ
静かな部屋の中で、ジュリウスの咳込む音が響く。
黒蛛病の痣もどんどんと広がり、今では上半身を覆う程になっていた。
苦しみを紛らわすように、窓の外の月を見る。
青い月は、優しく彼を照らして、痛みを労わるように撫でてくれているようだ。
『貴方達が大好きな、英雄の話ですよ』
ユノがしてくれた、人類を救った白い少女の話を思い浮かべながら、ジュリウスは頬を伝う涙をそのままに、小さく呟く。
「俺は・・・・・英雄には、なれないよ。・・・ユノ・・」
黒蛛病は、彼を刻一刻と蝕んでいく・・。
決着です!!
これを書いたら、少しだけホッとしました・・。