GOD EATER2 ~絆を繋ぐ詩~   作:死姫

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38話 血の因縁

 

 

榊博士の研究室。

もうすっかり私物化しているソーマが、PCのキーボードを打って、研究の報告書をまとめている。

しばらく作業を続けたところで、ソーマは大きく溜息を吐いてから、口を開く。

「・・・・・おい、妹。いつまで、ここに居るつもりだ?」

「別に良いでしょ?・・・どうせソーマさん、一人で黙々と作業してるんだから。私の事なんて、気にならないでしょ?」

少しご立腹な様子のユノに、ソーマは再び溜息を吐く。それから、立ち上がってコーヒーを2つ準備し、1つをユノへと渡す。

「・・・ありがとう、ございます」

「それを飲んだら、出ていけ」

「冷たい!兄さんが、優しいって言ってたのに!」

「あいつの勘違いだ・・」

そう言ってソファーに腰を落ち着けてから、ソーマは一口飲んでから、ユノへと話し掛ける。

「・・・・・それで?」

「え?・・」

「聞いて欲しいことでも、あるのか?」

「・・・・やっぱり、優しい」

そう微笑んだユノに、ソーマは「ふん」と鼻を鳴らす。

「コーヒー、飲み終わるまでだ」

ぶっきら棒に答えるソーマの前に座り直し、ユノは大きく息を吐いてから、話し始める。

「ジュリウスがね・・・・、連絡くれないの」

「色恋の話なら、リッカかアリサにしろ」

「もう!聞いてくれるんでしょ!?」

「・・・・それで?」

話の腰を折ったことを悪かったと手を上げて見せ、ソーマは再び聞く態勢をとる。

「・・・ブラッドに・・、ヒロ君に伝言だけ伝えてさ・・・。ずるいよ。『すまない』って、何?私・・・・わかんない」

いつもの丁寧口調を忘れて、ユノは抱えた膝に、顔を半分埋める。それを面倒と思ってか・・・不憫に思ってか・・。ソーマはジュリウスの現状で、知っている限りを伝える。

「ヒロかシエル辺りに聞いてるかもしれないが、ジュリウスは今、無人型神機兵の研究に協力してるらしい。ラケルが作った、無人運用を行う生体制御装置『エメス装置』ってのに、あいつの戦闘情報を学習させるためにな」

「・・・そんなに詳しくは・・多分、ブラッドのみんなも知らないと思うけど・・」

「俺は知ってる。それだけだ」

本部回線を介してハッキングしたのだが、ソーマはそのことは黙っている。

「エメス装置から神機兵のAIに展開させることで、ジュリウスの戦闘スキルを神機兵に学習させる。そうすれば、実力は底上げされるって事らしい。コウタが喜びそうなネタだな・・・」

ソーマが苦笑しているのを見つめながら、ユノは再び膨れっ面になり、ぷりぷりと怒り出す。

「とにかく忙しいのは、わかったもん!それで!?なんで、『すまない』なの!?博識なソーマ博士!?」

その質問に対して、ソーマは表情を一変させて真面目になり、ユノへと答える。

「まだ色々と情報不足だが・・・・いいか?妹」

「え?・・あ、はい」

ソーマの言葉に、ユノは正座をしてから聞く態勢をとる。

「あくまで推測だが、ジュリウスは『連絡とらない』じゃなく、『連絡をとれない』じゃないかと、俺は思う」

「・・・それって・・」

「理由は色々ありそうで特定できないが、あいつがお前の事を憎からず思ってたんなら、真面目な性格のあいつは・・」

「連絡を・・・とれない・・・」

最後の言葉をユノが口にし、ソーマは頷く代わりに目を閉じる。

そこまで聞ければと、ユノは立ち上がり、冷めたコーヒーを一気に飲み干す。それから研究室の出入り口まで駈け寄ると、ソーマへと振り返ってお礼を言う。

「ソーマさん、ありがとう。元気出ました!」

いつもの笑顔に、ソーマはフッと笑みを浮かべてから応える。

しかし、彼女が出て行こうとしたところで、少し神妙な表情を見せ、ユノを呼び止める。

「・・・おい、妹」

「はい?何ですか?」

再び振り返って来るユノを見てから、ソーマはその笑顔を濁すのを躊躇ってか、苦笑して別の言葉を言う。

「・・・さっきの話、他言するなよ?」

「はーい!また、来ますね!」

そう言って出て行ったユノを見送ってから、ソーマは改めて自分のPC(榊博士のPC)の前に座る。

そして、報告書とは別にウィンドウを呼び出し、その中の写真を見て声を洩らす。

「何を企んでやがる、ラケル。ジュリウスを巻き込んで・・・」

写真には、幼いころのジュリウスを抱く、ラケルが写っている。しかしその顔は、新しいおもちゃを手に入れたという様な、無邪気かつ嫌らしい笑みを浮かべたものだった。

 

 

任務に出ていたブラッドは、標的の殲滅を確認し終えて、極東に戻る途中だった。

ナナがシエルに褒めて欲しそうに言い寄ってるのを後ろから眺めながら、ギルは隣を歩くヒロへ話し掛ける。

「あいつは・・・、あいつなりに考えてるのかもな・・」

ユノが早速他言してきたことに考えさせられたのか、ギルは自分がジュリウスに取った態度を思い出し、苦笑いを浮かべる。

「あいつは、俺達ブラッドの為に、神機兵を完成させようとしてるのかもしれねぇ。ロミオみたいに・・・ならないようにな・・」

「そう、かもね・・。先輩の最期を看取ったのも、ジュリウスだもんね」

そう答えてから、ヒロは苦しげな表情を浮かべる。が、突然ギルへと視線を向けると、彼は鼻息を荒くして声を上げる。

「でもね!ギル!僕は、あれが嫌いだよ!」

「は?・・・あー、まぁ・・・そうか」

そう答えるしかといった感じのギルを他所に、ヒロはいつになく興奮して、喋り続ける。

「ジュリウスの気持ちは、嬉しいよ?でもね!僕は、あれが大っ嫌いなんだよ!無機質だし、すぐ動かなくなるし、うー・・・・・とにかく!嫌いなんだよ!!」

「わ・・わかった、わかった!珍しく、うるせぇな」

そう言ってギルは、ヒロの頭を少し力を込めて、撫でまわす。

そんな事にも怯まず、ヒロはジュリウスに対しての、決意を口にする。

「次にジュリウスに会ったら、1発ぶん殴ってやる!決めたから!?」

「あぁ、そうしろ。俺も、付き合ってやるよ。隊長」

そんな二人に遅いと叫ぶナナと一緒に、シエルが笑顔で待っていた。

 

 

任務前に榊博士に呼び出され、ブラッドは支部長室へと足を運ぶ。

そこで、彼等は表情に怒りを表すようになる。

「見つかったよ・・。ロミオ君の仇・・・、感応種『マルドゥーク』がね」

彼等の感情を露わにした態度に怯むことなく、榊博士は話を続ける。

「第3サテライト拠点の建設状況を視察に行った、アリサ君から連絡があったよ。かなり離れた場所だったが、衛星カメラに捉えた姿に、間違いないとね。マルドゥークは、ガルムの群れを連れて、東へと去って行ったそうだ。今は、レンカ君が全力で足取りを追っている」

言い切ったといった感じで、息を吐く榊博士に、ヒロは冷静に努めて聞き返す。

「博士。場所を特定したら、僕等に行かせて下さい」

「勿論君達にもとは思っているが、ブラッドだけで行く気かい?ガルムの群れも相手する事になるんだよ?」

そう返されても引かぬといった感じで、シエルが前に出る。

「必要ならば、全て倒します。支部長、お願いします」

「俺も、異論はない」

「あたしも」

それに続けとばかりに、ギルとナナも前へと進み出る。それに溜息を吐いてから、榊博士は苦笑いを浮かべる。

「君達ゴッドイーターは、いつも私を驚かせてくれる。いつかの極東での事を、思い出すよ」

そう前置きしてから、榊博士は真剣な眼差しで応える。

「わかった。君達ブラッドに、任せよう。ただし、マルドゥークにこだわるなら、分断はさせてもらう。それと、応援も要請させてもらう。君達を、失う訳にはいかないんだ。これだけは呑み込んでくれ。いいね?」

《了解!!》

彼等の返事に頷いてから、榊博士は時計を確認する。

「今からだと・・・・・3・・いや、2時間だ。レンカ君なら、確実に特定する。今日の任務はキャンセルして、準備に入ってくれたまえ」

《はい!!》

彼等が出て行った後、榊博士は連絡回線を、ある場所へと繋ぐ。

『はい、何でしょう?』

「応援を、要請したいのですが。大丈夫ですか?」

 

「何なりと・・・、榊支部長」

微笑むラケルは、後ろに控える、ジュリウスへと目を向ける。

 

 

作戦指令室の周辺地図で、目的のオラクル反応を目で追いながら、レンカは無線で指示を出していく。

「ハルさん!標的が南に反れそうです!牽制を!」

『了解!カノン!』

『逃がすか!犬っころ!はっはー!!』

「タツミさん!1部群れと分断しました!囲んで逃がさないで下さい!」

『おうよ!シュン!突っ込みすぎんなよ!?お前は、ブラッドアーツ持ってねぇんだからな!』

『うっせぇな!どうせ出張明けだよ!』

『ブラッドバレッド・・・・いいな、それ』

『ふふっ。カレルもヒロ君と、仲良くならなきゃね』

『お前達!遊びじゃないんだぞ!』

「コウタ!第1部隊で側面から、集中砲火!ガルムの群れを引き離してくれ!」

『了解!エリナ!エミール!弾数気にせず、ぶっ放せ!!』

『はい!!』

『元より、承知!!』

マルドゥークからガルムを引き離したのを確認し、レンカはその先で待つ部隊へと、連絡する。

 

『ヒロ!そっちに誘導した!周辺の荒神を呼ばれる前に、ケリをつけろ!頼むぞ、ブラッド!!』

「・・・了解」

落ち着いた声で返事をしてから、ヒロはブラッドの1歩前へと出る。

そこへ、レンカの予告通りに、マルドゥークが単身で飛び込んでくる。その片目は、ヒロのブラッドアーツで付けられた傷跡がある。

グルルルルルルッ!

傷が疼くのか、マルドゥークはヒロを睨みつけ低く吠える。

「マルドゥーク・・・・・、会いたかったよ」

そう言って神機を構えるヒロに倣って、後ろに控える三人も神機を構える。

「僕等の大切な人を奪った代償、受けてもらうよ・・」

「先輩の・・・仇!」

「全員、生きて帰りましょう・・」

「・・・当たり前だ。こいつを倒して、ロミオに報告するまでは、死ねるか」

大きく息を吸ってから少し止め、それから吐き出す。

そして、ヒロはブラッド隊、隊長として、皆へと叫ぶ。

「ブラッド隊!荒神を喰い荒らせーーー!!!」

《了解!!》

グゥオォォォーーーン!!!

マルドゥーク対ブラッド・・。戦いの火蓋が切って落とされる。

 

 

神機保管庫に神機を取りに来たソーマが、悠々歩いているのを見て、リッカは怒りを露わに近付いてくる。

「ちょっと!!ユウ君に『任せろ』みたいな事、言っといて!余裕で遅れてくるって、どういうつもりなの!?ソーマ君!!」

「・・うるせぇ。俺はハナッから手を出す気はねぇんだよ」

「はぁ!!?」

更に憤慨するリッカに溜息を吐いてから、ソーマはブラッドが戦闘をしているであろう方向に目を向けて、喋りだす。

「マルドゥークは、あいつ等のもんだ。手出しするのは、無粋ってもんだろう」

「だからってねー!」

「現場には行く。ヤバそうなら、手は貸す」

「・・・そうなの?」

やっと落ち着きを取り戻してきたリッカに、「ふん」と鼻を鳴らしてから、ソーマは車に神機を積み込む。

そして、リッカへと頼みごとを口にする。

「リッカ。現場に着いたら、映像データをお前のPCに送る。それをそのまま、お前の旦那に転送してくれ」

「え?ま、まぁ・・良いけど。何かあるの?」

『旦那』と呼ばれると機嫌が良くなることを熟知してか、ソーマはわざとそう口にしてから、車のバックドアを閉める。

「俺の目的は、別にある。気になることは、全部調べるたちでな。あいつとツバキの意見も欲しい。頼んだぞ」

「ふ~ん。まぁ、わかったよ。・・・ねぇ。もしかして、例の事?」

リッカが真剣な表情で聞いてくると、ソーマは苦笑しながら首を横に振る。

「この程度で尻尾は出さねぇだろ。だが今回は、後に苦労しない為の保険みたいなものだ」

そう言ってからソーマは、車の運転席へと乗り込んだ。

 

 

 





さぁ、対決の時間です!!

レディー・・・ゴー!!!


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