GOD EATER2 ~絆を繋ぐ詩~   作:死姫

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37話 離別

 

 

朝方、ユウは再びイタリア支部へと戻って行った。

それを一人見送ってから、ヒロは極東の中へ戻る。

ヘリポートから続く廊下を歩きながら、ヒロはユウが別れ際に言った言葉を思い返す。

 

『近々、大きな事が起こるかもしれない。だからヒロ、気を付けて』

 

ロミオの死も、十分大きな事件だと思っていたヒロ。それよりも大きな事なのだろうかと、ヒロは真剣な表情で足を進める。

「・・・・ヒロ」

「ん?あぁ、ジュリウス」

廊下の先から声を掛けられ、ヒロは手を軽く上げて応える。

そんな彼の姿を見つめ、ジュリウスはどこか切なげな笑顔を見せる。

「事後処理は、終わったの?」

「あぁ・・・。なぁ、ヒロ。・・・・俺と、任務に出ないか?」

突然の申し出にヒロは首を傾げたが、断る理由は無いと思い、笑顔で頷いて見せる。

「良いよ。実は話したいことがあるんだ!」

「そうか・・・。楽しみだな」

二人は並んで廊下を進み、受付へと向かった。

 

 

ザシュッ!!

「ジュリウス!」

「任せろ!」

ヒロに斬られて距離を取ろうとしたボルグカムラン。しかし、先回りしていたジュリウスのバレッドで、尻尾の先の針を撃ち落とされる。

ドドゥオンッ!!

キィアァァーー!!!

驚いて盾を出して身を固めるボルグカムランに、ヒロとジュリウスは、同時に捕食形態で咬み千切る。

ギャリ!リィィー!!

「このまま、行くぞ!!」

「了解!!」

示し合わせたように二人は同じ構えをし、その刃に込めたオーラを一気に開放する。

「「ブラッドアーツ、『疾風の太刀・鉄』」」

ザシュザシュザシュザシュザシュザシュッ!!!

左右を駆け抜けた二人の斬撃によって、ボルグカムランはその場に倒れ伏す。それからヒロがコアを抜き取ると、オラクル細胞は霧散していく。

「・・・見事だ、ヒロ」

「始めてジュリウスがこの技を見せてくれた時、かっこいいと思ったから・・。様になってるでしょ?」

「あぁ・・・」

ヒロが笑ってくるのに頷いてから、ジュリウスは遠くの空を見つめる。

ヒロも隣へと移動して、何か珍しいものがあるのかと、目を凝らして見てみる。すると、ジュリウスは静かに話し始める。

「ヒロ・・。お前は、本当に強くなった。・・お前だけじゃない。シエルも、ナナも、ギルも・・・」

「ジュリウスも・・・でしょ?」

「・・・・」

何故か答えてくれないジュリウスに、ヒロは少し不思議な雰囲気を感じる。それは、徐々に心の中で膨らんでいき、彼の表情を濁す不安となっていく。

「・・・・お前がいれば、ブラッドは大丈夫だ。極東の人達と一緒に、上手くやっていける」

「ちょ・・ちょっと、ジュリウス。何で・・」

「ギルは、お前が上手く導いてやれ。まだ感情的になりやすいところがあるしな。ナナは・・・、食べ過ぎに注意だ。シエルは、お前を慕ってる。これからも、お前の支えとなってくれるだろう・・」

「だから、待ってよ!さっきから何で、他人事みたいに・・!?」

彼の言葉を遮るように、ヒロは叫ぶ。だがジュリウスの澄んだ瞳を見た瞬間、声を出せなくなる。

そして、ジュリウスは・・・・ヒロの1番望まない言葉を、口にする。

「俺は・・・、ブラッドを抜ける。後任の隊長は、お前だ。ヒロ・・・」

カランッ

ショックのあまり神機が手から零れ、ヒロはその場で凍り付いてしまった。

 

ヒロを極東に送り届けてから、ジュリウスはフライアへと帰還する。

携帯端末は、さっきから鳴りっぱなしだ。

これ以上バイブレーションの音を聴きたくないと思い、ジュリウスがそれを取り出したタイミングで、1件のメールが届く。

その宛名を見てから目を大きく開き、彼は少し迷いながらも、内容を開示する。

 

『ジュリウス。フライアにいるの?あなたが心配です・・。会いたい・・。連絡待ってます』

『ユノ』

 

目を通し終えてから、ジュリウスは目をきつく閉じて、歯を食い縛る。

それから、全てを諦めたように目を開け、携帯端末の電源を落とした。

「・・・・・もう、会えないんだ・・・ユノ。俺は・・・・」

そう言って彼は、左腕の袖を捲くり、絶望を再確認する。

そこには、蜘蛛を模った様な、黒い痣が浮かび上がっていた。

 

極東の自室で、ユノは携帯端末を見つめる。

「・・・・返事、待ってるのに・・」

待ち人からの、連絡を待って・・・。

 

 

翌日、納得のいかぬまま、ブラッドはフライアのグレムの部屋に呼ばれ、隊の引継ぎを行われる。

「まったく・・・・九条の奴。あいつが失敗しなければ、俺は本部に返り咲けたものを・・!」

文句を洩らしながら、書類へと判をついていくグレム。

今回の事件で、「無人型神機兵の実戦投入は早すぎた」と、開発担当の九条は責任を取らされ、本部に拘留されることになったのだ。

そしてグレムも、責任者として・・・本部栄転の道は途絶えたのだ。

「くそっ・・・・・・、ふん!これで、いいだろう?これを持って、さっさと極東へ行け!後任の隊長は・・・、お前だったな?」

「はい。・・書類、確かにお預かりしました」

「ふん!愛想のないガキめ!」

まだ少し落ち込んでいるヒロを、腫物を見る目で悪態をついてから、グレムはブラッドの顔を見回す。

そこで、ナナがおずおずと手を上げて、グレムへと質問する。

「あのー・・・・、ジュリウス・・・元隊長は・・・?」

「知らんのか?嫌われたもんだな、お前等も。彼は今後、ラケル博士の研究の補佐をするそうだ。・・・これでいいか?」

「あ・・・・・、はい・・」

怒られたわけでは無いが、ナナは子供の様にシュンと縮こまってしまう。

「極東に行ったからと言って、お前等はあくまでフライア所属の部隊だ。くれぐれも、面倒は起こしてくれるなよ?あの・・・ロミオとかいうガキのようにな」

その名を口にされて、ギルは完全に頭に血が上ったのか、目を鋭く睨みつけ、グレムへと飛び掛かろうとする。

「てめぇが・・・あいつの名を、軽々しく・・!!」

そこまで声を荒げたところで、ギルを行かせまいと、シエルが腕を前に伸ばし、彼を止める。

「シエル!」

「わきまえて下さい、ギル」

そう言われて、ギルは舌打ちしながら後ろへと下がる。

「ふん!・・・・・・・おい。何だ・・その眼は?」

グレムの言葉にギルはシエルを見て、初めて気付く。止めに入ったシエルも、相当に怒りを覚えていることを・・。

「いえ・・・・、何でもありません。お言葉、確かに拝聴しました」

「可愛くないガキ共め。さっさと、行け!」

「失礼します」

ヒロの言葉に合わせ、ブラッドは一礼すると、その場を後にした。

一人になったグレムは、むしゃくしゃしてか、近くにあったゴミ箱を蹴飛ばした。

 

部屋を出てからすぐに、ギルはシエルへと謝罪する。

「悪かった。軽率だった・・」

「いえ・・。あなたが怒ってくれて、良かったと思ってます」

「二人共・・・、大丈夫?」

心配してくるナナに、軽く笑みを見せてから、シエルは前を歩くヒロへと視線を向ける。

背中を見ているだけでは、感情が読み取れず、シエルは切なげに顔を歪める。

そこへ、配備された長椅子に座っていたレアが、こちらの姿に気付いて立ち上がる。

「レア博士・・・」

「みんな・・・・・・、行くのね」

そう言って俯くレアに、先頭に立つヒロが、困った顔で笑顔を作り、頭を下げる。

「短い間でしたけど、お世話になりました」

その行動に合わせて、全員が頭を下げる。

何かを言いたげに口を動かしていたが、レアは小さく息を吐いてから、いつもの優しい笑みを浮かべる。

「元気でね。あなた達の活躍、フライアから応援してるわ」

そう言って去って行くレアの背中に、もう1度礼をしてから、ヒロは皆へと声を掛ける。

「ねぇ・・。しばらくは、フライアに来れないらしいんだ。だから・・・、ロミオ先輩の所に・・・行かない?」

彼の言葉に賛同して、皆は2階の庭園へと足を運んだ。

 

 

庭園の入り口から中に入ると、アクリル天井から、眩しい光が視界を遮る。

それを手で躱してから、ロミオの墓石へと目を向けるヒロ。

視界が慣れてから、彼等は気付く。墓石の前に、先約がいることに・・。

「・・・誰?」

ナナの声に誰も反応できない。誰も、その褐色の少女を知らないからだ・・。

とにかくそこへと足を進めて、彼等はまたも驚いてしまう。彼女が静かに、泣いているのを見て・・。

「・・・・・あの」

どうしようか迷ってから、ヒロが声を掛けると、彼女はハッと我に返ったのか、涙を拭ってから振り返る。

「・・・・・お前達、ブラッドか?」

腕輪を見てから判断したのであろう。従来の赤い腕輪とは違い、ブラッドは黒い腕輪だからだ。

「そうですけど・・・・。あなたは、ロミオ先輩の知り合いですか?」

「・・・・関係ないだろう・・、お前達には・・」

そう吐き捨てて、彼女はそこから去って行こうとする。が、少し歩いてから足を止め、彼女は振り向かずに声を掛けてくる。

「・・・なぁ。ロミオは・・・・、どうだった?」

「え?・・・どうって・・」

「元気に・・・・馬鹿みたいに明るく、やっていたのか?」

そこまで言われて、皆顔を曇らせる。彼女が、ロミオと深い繋がりがあったのだと理解したからだ。

少し戸惑いながらも、ヒロは言葉を選んで、無理矢理笑顔を作って答えを返す。

「とても・・・・明るくて・・。僕等の、大切な先輩でした」

「そうか・・・・・。邪魔したな・・」

今の答えで納得したのか・・。わからないまま背中を見送ってから、ブラッドは暫く会いに来れないことを、ロミオに報告した。

 

フライアのヘリポートへ続く廊下に、待ち合わせ時間より早く辿り着いてから、褐色の少女は、静かに壁に手を付いて涙を零す。

「・・くっ・・・う・・、馬鹿者。・・・約束、しただろう・・・ロミオ。私を・・・・一人に、しないと・・」

痛々しく巻かれた右腕の包帯を振り乱しながら、彼女は壁を軽く叩きながら、泣き続けた。

 

 

極東の団欒室のスクリーンを借りて、ブラッドはずっと切望していた、ジュリウスとの会話をこぎつけた。

予定の時間になってしばらくして、スクリーンにジュリウスが映し出される。

「ジュリウスだー!こっち見えてるー!?」

ナナが手を振るのに、彼はそっけない態度で話し出す。

「俺も忙しんだ。用があるなら、手短に頼む」

「え・・・・・あ、ごめん」

そんなことを言われると思ってなかったナナは、一気に気持ちが下がり、落ち込んでしまう。

ならばと前に出たギルが、ジュリウスへと声を掛ける。

「なら単刀直入に聞く。何で、ブラッドを抜けた?」

その言葉に溜息を吐いてから、ジュリウスは答える。

「人はあまりにも脆い。それは・・・、ゴッドイーターも同様だ。それよりも、大量生産でき、壊れてもパーツ交換が可能な、神機兵の開発を進めることの方が、合理的だと考えたからだ」

「てめぇ・・・、本気で言ってんのか?」

「あぁ。俺は、真面目に答えている」

その言葉に頭に来たのか、ギルは座っていた椅子を倒しながら、彼へと叫ぶ。

「ポンコツ共の王様になりたくて、お前はブラッドから逃げたってのか!?」

「それに、何の問題がある?異論があるなら、実戦で示すんだな」

そう言ってから連絡を絶とうとするするジュリウスの前に、ヒロがゆっくり歩み寄る。それを目にして踏みとどまったのか、ジュリウスは席に座り直す。

「・・・・・ジュリウスが、選んだならそれで良いよ。・・・でも・・・」

「”でも”・・・・、なんだ?」

「ユノさんに・・・・連絡してあげなよ。・・・ずっと、待ってるよ?」

「っ!?」

ほんの一瞬だけ、彼の表情が変わった気がしたヒロは、更に踏み込もうと1歩前へと踏み出す。

だが、彼は目を閉じてから、話の終りを告げる。

「・・・彼女には・・・、『すまない』と伝えてくれ」

それを最後に、スクリーンは真っ暗になる。

後に残されたのは、切なさと静寂のみだった。

 

連絡を切ったジュリウスは、大きく深呼吸をして、背もたれに背中を預ける。

「いいの?・・・お友達に冷たくして・・」

目の前の操作盤をいじりながら、ラケルが声を掛けてくる。しかし、落ち着きを取り戻したジュリウスは、そちらに目を向けず、小さく言葉を返す。

「縁を切ることが・・・、彼等の為だ。俺にはもう、時間は残されていない」

そう言って、ジュリウスは自分の身体に刻みつけられている黒蛛病の痣を見つめ、軽く咳込む。

「安心して。『エメス装置』は、着実に貴方の戦闘データを学習しています。もう、一般のゴッドイーターは凌駕しているでしょう」

「早く・・・ブラッドを越えてもらわなければ困る」

そう必死な形相で、訴えてくるジュリウスに、ラケルは操作盤の手を止めて、嫌らしく口の端を浮かす。

「そうね・・。これ以上、ブラッドを戦場に立たせないために・・。貴方が、死に追いつかれる前に・・・・ね」

 

 

 





ジュリウスと別々の道へ・・・。


そういえば、OPのカッコよさに負けて、ゴッドイーター・オンラインの事前登録をしてしまいました。

だって曲が、かっこよかったし・・。

今回はtouch my secretというバンドさんが担当されてます!
出されてるアルバムを一通り聞きましたが、私個人的には、結構お勧めです!
(in this mormentの邦楽版みたいな、エモーショナル・メロディック・ハードコアな音楽です!)

ゲームの方も、期待してみよう!


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