GOD EATER2 ~絆を繋ぐ詩~   作:死姫

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35話 冷たい雨

 

 

極東支部に設けられた、九条専用の1室で、九条は歓喜の声を上げる。

衛星カメラから映し出されている、神機兵の活躍を、その目に映しながら・・。

「凄い・・・凄いぞー!前回とは違って、立ち回りもより人間に近い。なにより、ゴッドイーターより強い!ははははっ!」

各班に1体ずつ、戦闘に参加させた神機兵は、その巨体に見合った巨大な刃を振るって、目の前の荒神を駆逐していった。

 

 

「はぁっ!!」

ザシュッ!!

「いっくよー!!」

ガビュウッ!

サリエルの首を跳ね飛ばしたヒロの後ろから、ナナが飛び上がって捕食する。沈黙したのを確認してから、避難経路を確保したアリサへ、シエルが声を掛ける。

「アリサさん!大丈夫です!ここは任せて、住民をシェルターに!」

「ありがとうございます!皆さん!私から離れないように、お願いします!」

アリサについて移動を開始する住民を横目に、シエルはヒロへと話し掛ける。

「副隊長。アリサさんは、極東支部近くまで住民を避難させると、おっしゃってます。時間にして約10分で、ここから下がった方がよろしいかと・・」

「そうだね。ナナにも伝えて、シエルは先に下がって。僕は5分遅れで、追いつくから」

「了解です」

シエルが離れたのをきっかけに、ヒロは目の前に降り立つシユウ3体を睨みつける。

そして、神機の刃に力を込めて、一気に距離を詰める。

「ブラッドアーツ、『朧月』」

ザンッザンッザンッ!!

振るう刃から飛び出した光は、線となってシユウを斬り裂く。そこから捕食を手早く済ませ、ヒロは再び構えて警戒する。だが・・。

「・・あ・・、くぅ!」

頭がぐらついて、膝をついてしまう。

ブラッドアーツの反動。強力な技だが、連発しすぎると、体力、精神力が擦り減り、体がついて行かなくなる。

当然使える者は、そこに気を付けて使用しているが、今回住民の避難が遅れがちだった為、ヒロは多少無理をして連続で使ったのだ。

膝が震える自分に苦笑いしてから、ヒロは回復錠を齧って立ち上がる。

自分の周辺は今のところ大丈夫と判断して、無人型神機兵を下がらせるため、目の前に行って自分を認識させる。

すると、神機兵はヒロについて走り始める。

前回の様に、同じ定位置の行き来では不便だと、九条も考えての処置だ。

まだ好きになれない神機兵を連れて、ヒロは先に下がったシエル達と合流すべく、その足を速めた。

 

 

深く攻め込んできたヴァジュラを倒してから、ロミオは周りを見渡す。

「・・・ひでぇ」

昨日まで人の暮らしていた家屋は、荒神との戦闘の為、火に包まれていたからだ。そんな彼の隣に立って、住民の避難の助勢に加わっていたユノが、強い眼差しで声を洩らす。

「大丈夫。・・・人は、生きている限り、何度だって・・・やり直せる」

その言葉にロミオは歯を食い縛りながら頷き、顔を上げる。

そこへ、更に追い打ちと言わんばかりに、災厄が顔を出す。

 

「・・・やがて、雨が降る・・」

 

それを目にした者は、焦りの表情を浮かべる。

「あれって・・・まさか!?」

「赤い積乱雲!?このタイミングで・・」

ロミオとユノの言葉に「くそっ」と声を洩らしながら、ジュリウスは司令部のレンカへと無線を繋ぐ。

「空木さん!こちらブラッドα、ジュリウス!北西の空に、赤い積乱雲を発見!」

『確認している!司令部より、全ゴッドイーターに告ぐ!住民を避難させ、シェルターの入り口を固めろ!赤い雨に触れるなよ!?』

《『了解!!』》

ジュリウスもロミオとユノを促し、近くのシェルターへと撤退した。

 

「雨は降りやまず・・・」

 

シェルター入り口付近を固めていたヒロ達は、残りの住民を連れてきた第4部隊を目にし、ホッとする。

それで力が抜けたのか、ヒロは膝から力が抜けて倒れそうになる。しかし、地面に着く前に、ハルが腕を取って、ウィンクしてくる。

「寝るには早いぜ、ヒロ。まぁ、後はうちのデンジャラス・ビューティーに任せて、少し休め」

「デンジャラスって・・・はい?」

疑問に思ったのも束の間、ヒロは目の前で変貌をとげたカノンを見て、別の意味で青ざめる。

「あーはっはっはっはっ!!何?痛い?・・ねぇ、痛いのー!?」

ガァンッガァンッ!!

全員が引いてしまう程の迫力で笑うデンジャラス・ビューティーを他所に、ハルは名簿を見ながら、住民の確認をしていた。

 

『ハルだ。第4部隊、ブラッドβ共に、シェルターへと引っ込んだ。入口を固めて待機する。おっと・・、担当区域の住民も確認済み。オーバー?』

「了解です、ハルさん!アリサ!?お前の方は、どうだ?」

『こっちも住民の照合、終了しました。入口を固めて待機します』

「了解!ブラッドα!そっちはまだか!?」

『もう少々、お待ちを!』

 

「時計仕掛けの傀儡は、来たるべき時まで・・・眠り続ける」

 

ブゥゥーンッ

「え?どういうことですか!?」

 

ブゥゥーンッ

「ちっ・・・。マジかよ!?」

 

ブゥゥーンッ

「な!?コウタ隊長!神機兵が!?」

 

『何だ・・・どうして・・、あわ・・・・そんな・・。そんな馬鹿なーーー!?』

「九条博士!?どうしたんだ!?」

急に騒ぎ出した九条に、レンカが声を掛けていると、無線から一気に声が雪崩れ込む。

『レンカ!神機兵が動かなくなったんですけど!?』

『ハルだ!神機兵が鉄屑になっちまったんだが、こいつも雨に濡らさない方がいいのか?』

『こちら第1部隊!レンカ、動かなくなった神機兵より、住民を優先していいよな!?』

「レンカさん!配置した全神機兵、停止しました!」

不測の事態に、レンカはデスクを殴りつけ、歯をギリッと鳴らしてから指示を出す。

「神機兵は捨て置け!住民の命と、自分の命を優先しろ!!」

《『了解!!』》

 

「人もまた自然の循環の1部なら・・・、人の作為も、またその1部。そして・・・」

 

ジュリウスが自分の見ていた名簿から顔を上げ、他の二人に声を掛ける。

「名簿の確認、急げ!」

「ちょっと待って!」

「こっちは・・・・OKだ!」

ギルは顔を上げたが、ロミオはまだ紙を捲っている。

そこで、ある部分を見て止まり、急に震えだす。

「ロミオ?・・どうした!?」

ロミオの元へ駆けつけようと走り出すジュリウス。だが彼がそこへ着くより先に、無線から声が上がる。

『こちら、北の集落。突然白い荒神が現れて、逃げ遅れて・・・は?はぁぁーー!!』

「・・爺ちゃん・・・婆ちゃん・・」

そう声を洩らした瞬間、ロミオは防護服を着こんでから、外へと走り出す。

「ジュリウス!ギル!ごめん!!」

「ロミオ?待て!?どこ行くんだ!!」

後を追おうと駆け出そうとするギルの足を、降り出した赤い雨が立ち塞がる。

「くそっ!降ってきやがった!・・あの馬鹿!」

悔しげな表情を浮かべるギルの肩に手を置いて、ジュリウスが防護服を手に声を掛けてくる。

「俺が行く。ギルはここで、住民を荒神から守ってくれ」

「・・・わかった。生きて戻れよ?」

「わかっている!」

そう言ってジュリウスは、防護服を着こんで、フードをかぶる。

 

「あぁ・・・やはり、あなたが『王のための贄』だったのね・・。ロミオ」

 

ジュリウスからの連絡に、ヒロは勢いよく立ち上がり、入口へと駆け出す。

ガァンッ

だが、それを行かせまいと、ハルが神機を振り下ろして、立ち塞がる。

「行かせねぇよ、ヒロ。どうしてもっていうなら、俺を力ずくで倒してから行け」

「ハルさん・・、でも!?」

「冷静になれ!今から行って、どうにかなるのか!?」

ハルに叫ばれると、ヒロは悔しそうに下を向く。そんな彼の肩に手を置いてから、ハルは唇を嚙みしめながら、声を掛ける。

「・・・信じろ。今は黙って、仲間の無事を・・」

赤い雨は、勢いを増していく・・。

 

 

北の集落付近にロミオが辿り着くと、そこは荒らされた後だった。

焦りながら周りを見回していると、数匹のガルムを従えて、”あの時”の白い荒神が姿を見せる。

「このっ!!」

構えたロミオへ、ガルムの1体が飛び込んでくる。それを、

ズァァンッ!!!

「ブラッドアーツ、『ドライブツイスター』」

ジュリウスが斬り上げて、隣へと着地する。

「ジュリウス・・」

「こうなっては、逃げられないな。ロミオ、二人でやるぞ」

「おうっ!!」

ロミオの返事に合わせて、二人は同時に駆け出す。

 

「ロミオ・・・貴方はこの世界に新しい秩序をもたらすための礎。貴方のお陰で、もう1つの歯車が回り始める」

 

ガルムが下がったのを合図に、白い荒神が前へと出る。そして・・・。

オォォーーーンッ!!!

赤いオーラを発しながら、赤い空へと雄叫びを上げる。

飛び掛かって来る白い荒神を、ジュリウスが斬り付ける。しかし、素早い動きでそれを躱し、鋭い爪で攻撃し返してくる。

ガキィッ バリッ

「くそ!?」

盾で受け流した勢いで、ジュリウスの防護服の袖が破られる。それを気にしたのを見逃さず、白い荒神は勢いよく体当たりを食らわせ、彼を吹き飛ばす。

「うっ・・・かはっ」

当たりどころが悪かったのか、ジュリウスは俯せに動かなくなる。

 

「あぁ、ロミオ・・・。貴方の犠牲は、世界を統べる王の名の下に、未来永劫・・・語り継がれていくことでしょう」

 

「ジュリウス!」

ロミオの呼びかけに反応しないジュリウス。それを守るためにと、ロミオは刃にオーラを溜めて、白い荒神へと放つ。

「おっらぁ!!」

ギャァンッ!!

しかし、その攻撃は白い荒神には届かず、躱された先にいたガルムへと当たる。

技の為に大振りしたロミオが体勢を整える前に、白い荒神はロミオの懐に入り、彼を空中へと吹き飛ばす。

「がぁっ!!」

朦朧とした意識の中、ロミオはブラッドの皆の姿を見る・・。

 

目の前の機械を操作しながら、嫌らしく涎を垂らし、ラケルは目を大きく開いて笑い続ける。

「偽りの英雄の刃は、届かない・・・ふふふっ。おやすみ、ロミオ・・・。『新しい秩序』の中で、また会いましょう・・・」

 

落下してくるタイミングに合わせて、白い荒神は、ロミオの腹を、その黒い爪で抉り飛ばす。

ブジャァッ!!!

腹から流れる血を撒き散らし、ロミオは10m先まで転がされる。

倒れたロミオから、血が溢れるのを確認してから、白い荒神は興味を無くしたように、その場から去ろうとする。

しかし、その目に映った事実に、足を止めてしまう。

「・・・・・・」

ロミオは腹から内臓のようなものをぶら下げながら、立ち上がっていたのだ。

 

半分意識を失った状態で、ロミオは大切な人の顔を思い出す・・・。

『ギル・・』

『ナナ・・』

『シエル・・』

『ユノさん・・』

『極東のみんな・・』

『爺ちゃん・・婆ちゃん・・』

『ジュリウス・・』

『ヒロ・・』

『・・・・・リヴィ』

 

キイィィィィンッ!

 

「・・こいつは!?」

「ロミオ・・先輩?」

「・・・まさか、そんな!?」

「あ・・・あぁ・・、ロミオ先輩!!」

 

「うおぉぉぉぉぉーーーーっ!!!」

 

血の力を発動して、ロミオは天高く叫んだ。

 

 

サァーーー

「うっ・・・」

雨の中目覚めたジュリウスは、意識の回復に合わせて、ゆっくりと立ち上がる。

荒神の攻撃を受けた影響か、左足を引きずりながら、目的の場所へと向かう。そして、腹から赤黒いものが飛び出して倒れるロミオを、ゆっくりと抱き起す。

「・・ロミオ。・・ロミオ!しっかりしろ!?」

「・・・・うっ・・・あ・・、ジュリ・・ウス・・?」

彼の呼びかけに、弱々しく目を開けたロミオは、必死に口を動かす。

「あ・・・ご、め・・ん。あいつ・・・・倒せ、なかった・・・・よ。ごほっ!」

「良いんだ。そんなこと、気にしなくて良いんだ!とにかく、今は喋るな!」

「い・・・や・・・、喋ら・・・せて、くれよ・・」

そう言って、ロミオはゆっくりと手を伸ばして、ジュリウスの手を握る。その力は、まるで赤ん坊のようで、ジュリウスは顔を歪ませる。

「ジュリウス・・・。ごめん・・な。俺、・・・弱く・・て・・」

「何を・・言ってる。お前は、俺を守ってくれたじゃないか!?」

「守れ、たのか・・。そっ・・か・・・。じゃ、あ、・・北の・・集落・・の・・。爺ちゃんや・・・・婆ちゃん・・は?」

「あぁ、大丈夫だ!お前のお陰で、みんな助かったんだよ!ロミオ!」

その言葉に救われたかのように、ロミオは優しく笑みを浮かべる。そして、握っていた手を、地面へと落とす。

「っ!!?ロミオ?・・・」

「良かっ・・・・た・・・・・・」

それを最後に、ゆっくりと目を閉じる。

 

「ロミオ・・、逝くな。目を開けてくれ・・」

「・・・・」

「一人でも欠けたら・・・・、意味ないんだ!・・ロミオ・・」

「・・・・」

「頼む・・・逝かないでくれ・・!ロミオ!」

「・・・・」

「逝くなぁーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」

 

赤い雨は、勇敢な少年を・・・連れ去って行った。

 

 

 

赤い雨を抜けたところで、白い荒神は、ガルムの群れと、高らかに笑う様に声を上げる。

突然の血の力に押し負けたのに驚いていたが、命があるのを・・・自分達の勝利を喜ぶかのように・・。

ガァンッ!!

「なに・・・・笑ってやがる・・」

そんな荒神の声を許さぬといった殺気を放ち、鋭い目を向ける男が立っていた。

極東の危険を知らされて、赤い雨の外まで戻って来ていた、ソーマ・シックザールだ。

「このまま逃げられるなんて、思ってないよな?」

その殺気の禍々しさに、白い荒神は背中を向けて走り去る。しかし、地上最強はそれを逃すまいと一足飛びで襲い掛かる。

「・・なっ!?くそっ!!」

しかしそれを阻むように、ガルムが2,3体残って、彼の行く手を阻む。

すでに追いつけそうもない距離を取られたが、諦めぬとガルムの1体を叩き潰してから、ソーマは叫ぶ。

グシャッ!!

「くそがっ!!・・待ちやがれーーー!!!」

その叫びも虚しく、白い荒神は手の届かぬ所へと去って行った。

 

 

「ロミオ・・・。頼む・・・・・、ロミオー・・・逝かないでくれ・・」

赤い雨に体温を奪われ、冷たくなってしまったロミオを抱いて、ジュリウスは泣き続けた。

雨が去って、ソーマが迎えに来るまで・・・。

 

 

 





私、自分の文章ながら・・・これ書きながら泣いてしまいました。

次回から、次に向かう前のブラッドを書きます。


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