GOD EATER2 ~絆を繋ぐ詩~   作:死姫

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32話 思いはすぐそこに・・

 

 

ロミオは走りながら、ブラッドへと無線の信号を送る。

「出てくれよ・・・・。・・あっ」

『ロミオ先輩?』

耳に聞こえるヒロの声に、ロミオはパッと表情を明るくし、話し掛ける。

「繋がった!ヒロか!?俺だけどさ、連絡早々頼みたいことが・・・じゃない!とにかく昨日は、ごめん!!」

「別に、良いですよ」

「え?」

急に近くなった声に顔を上げると、彼の目の前に仲間が立っていた。

「みんな・・・」

「レンカさんから教えてもらったんです。この近辺にいるって」

「レンカさんが、何で・・・。あっ・・・、サクヤさん」

助言をくれたサクヤの顔を思い浮かべて納得し、ロミオは顔を綻ばせる。

それからすぐ、真剣な顔になり、皆へと頭を深々と下げる。

「ごめん!!俺、一人で拗ねて・・逃げ出して、本当にごめん!でも今は、力を貸して欲しい!虫のいい話だってわかってるけど・・・俺、ここに守りたい人がいるんだ!」

喋りきってから、1,2発殴られる覚悟を決めて目を閉じてると、

ドサッ

「・・・・え?」

目の前に自分の神機ケースを置かれ、顔を上げる。

それを置いたギルが、呆れ顔で鼻を鳴らす。

「ギル・・」

「貸し1、だ」

「え?」

そう言って前に歩き出すギルに続いて、皆口々に言いたいことを言って通り過ぎる。

「僕は、代わりにエミールを相手するってことで」

「私は、説教します」

「あたし、チキン10ピース」

先を行く彼等に、ロミオは目頭が熱くなるのを感じながら、目の前の自分の神機ケースを空ける。

それを握って前を向くと、皆笑顔で待っていた。

「行くぞ。急いでんだろ?」

「早く片付けちゃって、一緒に帰ろう?先輩!」

「守りたい人が、いるのでしょう?」

「行こう、ロミオ先輩」

そんな彼等の言葉に応える為に、ロミオは顔を拭ってから、元気よく返事をする。

「おう!!今行くよ!!」

 

車を走らせているサクヤの隣で、老人は大きく溜息を吐く。

「はぁー。サクヤちゃんが余計なアドバイスをするから、わしらは息子をもらいそこなったわい」

「あら?それは、ごめんなさい」

本気で言ってないのをわかっていてか、サクヤは軽く舌を出して見せてから、笑って答える。

そんな中、後部座席でレンをあやしている老婆が、後方を気にしながら声を洩らす。

「ロミオちゃん・・・、大丈夫かねぇ?」

そんな彼女に、サクヤは優しく微笑んでから、安心させるように声を掛ける。

「大丈夫よ、お婆ちゃん。確かな覚悟を持ったゴッドイーターは、荒神なんかには負けないわ」

そう言ってから、在りし日の自分を思い出し、サクヤは車の運転に集中した。

 

 

荒神を殲滅してから、ブラッドは極東へと戻る。

その足で、ロミオは真っ直ぐ作戦指令室へと向かい、レンカの前へと行く。

「勝手に飛び出して、連絡もせずに、すみませんでした!」

頭を下げてくる彼に、レンカは素知らぬ態度で口を開く。

「何のことだ?」

「あ・・いえ、その・・。昨日の事で・・」

「あぁ、そうだったな・・」

そう言ってから、レンカはロミオへと歩み寄り、軽く頭を小突く。

「あてっ!・・って、あの」

「休暇届けは、先に出せ。以後気を付けろ。以上だ」

そう言って、元の作業へと戻るレンカ。何が起こってるのかわからないまま、ロミオはおそるおそる、疑問を口にする。

「あの・・休暇届けって?」

「ギルに頼んだのだろう?電話でな。だから、今後は先に出せと言った」

「・・・ギルが・・。でも!?」

納得出来ないといった感じに詰め寄ると、レンカは溜息を吐いてから、肩に手を置く。

「いいか。昨日はお前は、休暇を取った。・・わかったな」

「・・・・・あ・・、はい!ありがとうございます!」

やっと皆の真意が見えたのか、ロミオは改めて頭を深々と下げる。それに微笑んでから、一変顔を引き締めてから、レンカは声を張る。

「わかったら、さっさと行け!そんなところに突っ立っていられても、邪魔なだけだ!」

「はい!」

ロミオが走り去ったのを見送ってから、作戦指令室中にクスクスと笑いが起きる。それが恥ずかしくなったのか、レンカは頭を掻いてから、大きく咳払いをした。

 

 

久方ぶりにフライアへと呼ばれたのを機に、ヒロは庭園へと足を運び、寝っ転がっていた。

ラケルも何かと立て込んでいるのか、時間を持て余してフラフラするよりも、そこへ来たいと思ったのだ。

「・・・どうだ。久しぶりのフライアは?」

「・・・極東に慣れたと言っても、ここが落ち着くのは間違いないね」

突然声を掛けられても驚くことなく、ヒロは声の主と会話する。それから、隣に腰を下ろす気配に、上半身を起こして、ヒロは笑顔を向ける。

「久しぶり、隊長」

「あぁ。久しぶりだな、副隊長」

そう言い合ってから、軽く拳を合わせて、二人は笑い合う。

ここから始まった。そう振り返りながら、ヒロは時間が許す限り、ジュリウスとの会話を楽しんだ。

 

 

ようやくお呼びがかかったラケルの研究室の前で、ヒロは身形におかしなところがないか確認してから、中へと入り敬礼する。

「神威ヒロ、招集に応じ、参上しました」

「えぇ、久しぶり。それとも、『お帰りなさい』の方が、しっくりくるのかしら?」

相変わらずの妖美な笑顔に、ヒロは恐縮しながら頭を下げ、ラケルの側へと近寄る。

そんな彼の様子を観察してから、ラケルは本題へと入る。

「貴方を呼んだのは、他でもないわ。神機兵の研究も、極東支部の協力のお陰で随分と前身出来たの。そこで、最終調整を行うために、貴方にはそれに必要な素材を集めて欲しいの」

「僕・・一人でですか?」

「あら?寂しい?」

「いえ!?そう言う訳では!?」

焦るヒロを面白がるように笑ってから、ラケルは話を続ける。

「大丈夫。貴方の実力を見込んで、お願いするんだから。それに、無理な任務を宛がうつもりは無いわ」

「・・わかりました!僕で、お役に立てるのであれば!」

「そう。ありがとう」

そう言ってから、ラケルはPCのキーボードを打ってから、データをヒロの携帯端末へと送る。

「詳しいことは、今送ったことを参照して、九条博士の指示に従ってね。わからないことがあれば、聞きに来てくれて構わないわ」

話は終わりといつものように、ラケルが自身の作業に戻ったところで、ヒロはふと疑問に思ったことを聞いてみる。

「あの・・・、九条博士ですか?レア博士ではなく・・」

「そうよ。もしかして、仲がよろしくない?」

「いえ!そんなことは!?了解です!」

聞き違えてなかったと、ヒロは退室しようとする。そこで、ラケルが声を洩らしたのが気になり、振り返ると、ラケルが手に何かを持ってこちらへと近付いてくる。

そして、目の前まで来ると、手の中のそれを彼に渡す。

「これ・・手紙、ですか?」

「えぇ。それを、九条博士に渡してくれる?」

「あ、はい。わかりました」

「よろしくね・・」

そう言ってラケルは元の位置に戻ったので、ヒロは退室して、1度極東へと戻った。

ヒロの去った研究室に一人になってから、ラケルは何が楽しいのか、口の端を吊り上げて笑った。

 

 

「えぇーーー!?ヒロ、行っちゃうの!?」

ブラッドへ自分の事を報告に行くと、ナナが声を上げて抗議してくる。それを落ち着けるように、シエルが背中をさすりながら、口を開く。

「確かに、急ですね。何故ラケル先生は、ヒロ一人を?」

「極東から、部隊全員を割く訳にはいかないからな。それで副隊長で実績もある、ヒロに白羽の矢が立ったわけだ」

「そうだったの?」

「何でお前が、知らねぇんだよ」

ギルにツッコまれてから、ヒロは頭を掻いて恥ずかしがる。その様子に笑みを浮かべてから、ジュリウスは皆へと話し掛ける。

「ヒロが抜けた穴はデカい。だが、俺達も経験を積み、着実に強くなっている。その自信をもって、ヒロを安心して向かわせてやろう」

「当然だな」

「あったぼうよ!」

「う~ん。わかったよ」

「問題ありません」

皆の言葉に微笑んでから、ヒロは軽く頭を下げてから口を開く。

「少しの間だけど、行ってくるね」

彼の言葉に皆も微笑んでから、応える。

そんな仲間との1時の別れを、ヒロは惜しみながらもフライアへと向かうのだった。

 

「忘れ物はありませんか?ハンカチは?あ、襟が乱れてます」

「シエルが、お母んみたいになってる」

「シエルちゃんは、心配性だな~」

「ヒロの世話が焼きたいんだろ?」

「あ、あはは・・」

「全く・・・。そうだ。ヒロ、回復錠などを補充する、お金は足りてるか?」

「「「こっちはお父んか!?」」」

 

 

フライアのロビーで待っていると、5分程遅れて、待ち人が現れる。

「いや、申し訳ない。色々と立て込んでいて・・はぅっ!!き、君は!?」

「あの・・・、どうも」

やって来て早々に、九条博士が後退るのを見てから、ヒロは自分が勝手に神機兵に乗ったことを思い出す。

「その節は、すいませんでした」

「え、あ・・いや。反省していてくれるのなら、もう良いです。それに今回は、君に頼みごとをするのだから・・」

そう言ってから、九条博士は手元の資料を確認しながら、説明を始める。

「今回、以前神機兵の試験運用の時に起こった異常を踏まえて、新しく改良した自律制御装置の研究を進める為に、君に指定の荒神の素材を集めてきて欲しいのです」

「一応は、ラケル博士から伺ってます」

「そうですか。なら、話は早い。早速、明日からお願いします」

軽く会釈する九条に礼を返してから、ヒロは疑問に思ったことを口にする。

「博士は、どうして無人神機兵にこだわるんですか?」

以前見た光景を思い出し、ヒロは、”あれ”が本当に必要なのかと、気にかかっていたのだ。

質問された九条は得意気に笑みを浮かべて、ヒロへと熱弁を振るう。

「よくぞ聞いてくれました!無人制御にかける、私の哲学を披露しましょう!」

「は、はぁ・・」

「いいですか?無人型の神機兵は、パイロットが不要です!この意味がわかりますか?破壊されても、誰も傷つかない!もう誰も、荒神に殺されることは無いということです!」

「・・・・」

それは当たり前の話。

誰も乗っていないし、誰も戦場に出なければ、命を落とす人はいない。わかってはいるのだが、ヒロはやはり何かが引っ掛かってしまう。

「有人型ときたら、どうです?あれでは、ゴッドイーターとなんら変わりは無い!それでは、意味がないのです!無人型こそ、最先端の兵器!『人にやさしい』兵器なんですよ!」

「・・そうですか」

彼にそのつもりが有ろうが無かろうが、自分達を否定された気がして、ヒロは少しだけ心の奥で怒りを覚える。

「レア博士も、どうして有人型にこだわるのか・・。いえ!決して、嫌っているわけでは無いのですよ?ただ、わざわざ非効率的な研究を続けるのか・・・、私には理解が出来ないというだけです」

「わかりました。・・ありがとうございます」

これ以上この人と、この話をしたくないと思ってか、ヒロは話を切り上げるように頭を下げ、その場から離れようとする。

と、そこであることを思い出し、九条の所へ戻り、ポケットにしまっていた”それ”を、彼に渡す。

「ん?・・・これは?」

「すみません、忘れるところでした。ラケル博士から渡してくれと・・」

「ラケル博士から!?この、私に!!?」

過剰に反応され、ヒロはびっくりして後退る。何を興奮しているのか、九条は鼻息荒く、それを見つめ続ける。

「おぉ・・おぉっ!・・・・なんということだ・・。彼女が・・、この私に・・」

「あ、あの・・」

もうこちらが言っていることが耳に入っていないのか、九条は何も答えてくれない。

それどころか、彼は気持ちが高ぶったのか、それを抱きしめだす始末だ。

ならもう良いかと思い、ヒロは背筋に嫌な汗を流しながら、その場を去って行った。

 

 

静かな研究所に、扉が開く音が響く。

「・・あら。わざわざ御呼び立てして、申し訳ございません。九条博士」

ラケルの口から名を呼ばれて、九条は落ち着けたはずの気持ちが昂り、動機が激しくなる。

「手紙・・・、ありがたく読ませていただきました。それで?私などに、用事というのは?」

「『私など』とは、ご謙遜を・・。貴方の研究への情熱には、目を見張るものがあります」

「情熱だなんて・・・、そんな・・」

どこか勘違いしてそうな反応を見せる九条を無視して、ラケルはPCを手早く操作してから、顔を上げる。

「こちらを・・ご覧になっていただけます?」

「え・・えぇ」

そう言って緊張しながら、九条はラケルの側へと近寄る。そして、PCの画面を覗き込んでから、目が覚めたかのように驚く。

「こ・・これは!神機兵の生体制御装置!?」

「流石は九条博士。・・貴方が進めている、自律制御装置の研究の、お役に立てればと思って・・、これを」

ラケルの言葉に嬉しさを感じつつも、九条は必死になって画面を見返す。

「ブラッド偏食因子の応用・・・、そうか!これこそ、私が追い求めていた、答えそのもの!」

「感応現象による教導効果と、極東で得られた研究の成果。その2つを組み合わせて、辿り着いたモノです」

「す、すごい・・・・。やはり、あなたは・・はぁわ!?」

自分の研究に置き換えているところで、九条は妙な声を出す。

ラケルに、手を握られていたのだ。

震える彼の手を持ち上げ、彼女は両の手でそれを包み、妖艶な笑みを浮かべて話し掛ける。

「ねぇ、クジョウさん。この研究を、引き継いでいただけません?・・私の、為に・・・・・ふふっ」

元々魅了されていた九条は、目に涙を浮かべて、感動に声が出ない代わりに、何度も頷いて見せる。

そうして俯いて手を握り返してくる彼に、ラケルは口の端を浮かせて、微笑む。

「そう・・・・・・。良い子ね・・・・、クジョウさん」

フライアは極東を離れ、しばしの旅に出る。

それが、最後の旅となるのも知らず・・・。

 

 

 





ロミオ、完結です!

次は漫画を参考にしつつ、ちょっとしたオリジナルです!


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