GOD EATER2 ~絆を繋ぐ詩~   作:死姫

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31話 逃げることも、進むことも・・

 

 

「周辺の地図を洗い直せ!ロミオは腕輪のビーコンを切ってるんだ!予想できる範囲で、あいつが行きそうな場所を割り出せ!」

《はい!!》

指令室で指示を出し終えてから、レンカは椅子へと腰を下ろす。

大きく深呼吸をしてると、軽く肩を叩いて、コウタが顔を出す。

「よっ、親友。手、貸そうか?」

「あぁ。空いてるなら、頼みたいな」

そう言って苦笑してから、レンカは目を手で覆う。

そんな彼の代わりに地図を確認しながら、コウタは切なげに喋りかける。

「俺さ・・・。ロミオの気持ち、わからないでもないんだ。俺も、お前等に・・・置いてかれないように、必死にもがいてた時期、あったからさ・・」

「・・エリナか。あんまり後輩を虐めてやるなよ?また、ヒロに謝る破目に・・」

「お前の訓練の方が、よっぽど虐めですけど!?」

相変わらずのツッコミに、レンカは懐かしくなり、少し声を洩らして笑う。

それから、休憩を終わりとしてか、立ち上がって、自分の目の前の小型スクリーンに、地図を呼び出し、目を走らせる。

「時間はかけられない。あいつは、今日すでに・・・偏食因子を投与してないからな・・」

「レンカ・・・」

オラクル細胞の浸食の恐ろしさと、苦しさを身をもって知っているレンカは、何度も見返すように、地図を上下左右と見回した。

 

 

 

もうすぐ日が暮れるという頃に、ロミオは小さな建物に手を当てて息を整える。

極東から随分と離れてしまい、少し帰り辛くなっていたのだ。

そんな時、彼の目に嫌なものが目に入る。災厄の雨を降らす、赤い積乱雲が・・。

「おぉおぉ、出たかのぉ。遠目で見たら、綺麗に見えるんじゃがのぉ」

「は?・・へ?」

誰もいないと思っていた建物から、一人の老人がひょっこり顔を出したのに驚いて、ロミオは後退りすると、更にもう一人老婆が顔を出す。

「あや。お前さん、お客さんですか?」

その言葉に、老人はジッとロミオを見つめてから、ニッと笑って見せる。

「丁度今、知り合ってな。なぁ?少年」

「え・・っと・・、その」

ロミオが戸惑っていると、いつの間にか側に来ていた老人が、肩を抱いてから案内する。

「汚い所じゃが、雨露はしのげる。これも、何かの縁じゃ。入っていきなさい」

「まぁまぁ、一人分食事を増やさないと・・」

二人の優しさに引っ張られるように、ロミオは家の中へと足を運ぶ。

扉を開けて中に入ると、とても良い匂いに、自分が空腹だったのを思い出させるように、腹の虫が鳴く。

それを笑いながら、老人は奥へと声を掛ける。

「おーい!少年は空腹じゃ!早めに飯を頼むぞい!」

『はいはい』

『えー!?さっきはゆっくりでいいって、言ってたじゃない?もう・・』

老婆とは別に声が聞こえてきて、ロミオはゆっくりと顔を上げる。すると奥との仕切りに垂れ下がっている布を揺らして、老婆ともう一人顔を出す。

「お客さんがいっぱいで、嬉しいねぇ」

「まったく・・。来客があるなら、事前に・・・・・あら」

黒髪を後ろで束ねた女性は、ロミオを見て少し驚いて見せてから、フッと微笑んでから話し掛ける。

「ゴッドイーターが、迷子にでもなったのかしら?」

「え?そ・・・それ、は・・」

「少年はの、さっきわしの友達になったんじゃよ」

「へぇ。やるじゃない、お爺ちゃん」

そう言った彼女の右腕を見て、ロミオは目を見開く。そんな彼に、老人は思い出したように、彼女の紹介をする。

「そうそう。少年よ。彼女は、雨宮サクヤちゃん。たまにこうして、寂しいわしらの、話し相手になりに来てくれとるんじゃ」

「初めましてね、ブラッド隊の隊員さん。雨宮サクヤよ。旦那から、話は聞いてるわよ?凄いんだってね♪」

そうウィンクをしてくる彼女の名字に、ロミオはやっと自分の疑問の靄を晴らす。

「雨宮って・・・、旦那って・・。まさか!?」

「話は後にして、ご飯にしましょ。お腹すいてるんでしょ?」

そう言ってサクヤは、手早く料理をテーブルに並べだす。

 

 

訓練所で、何度目かの戦闘プログラムが終了して、ヒロは肩を揺らしながら膝をつく。

どれだけ汗を流しても、ちっとも落ち着かず、ヒロは立ち上がってもう1度プログラムを打ち込みにコンソールへと足を向ける。

しかし、そこに行かせぬといった感じで、シエルがナナと一緒に立ち塞がる。

「あ・・の・・、シエル・・」

少し落ち込んでいるナナと違い、シエルは少し怒った表情をしていたので、ヒロは目を背けてしまう。

そんな彼に近付いていき、シエルは思い切り頬を叩く。

パァンッ!

「あ・・・・・」

「今、あなたに倒れられたら、私達はどうしたらいいんですか?」

肩を震わせながら唇を噛むシエルに、ヒロは小さく「ごめん」と呟く。そんな彼の手を取って、シエルが歩き出すと、ナナもヒロの反対側の手を取って歩き始める。

落ち込んで前を見ていなかったヒロの肩を、入口付近で待っていたギルが軽く叩く。

「ギル・・・」

「あいつは、すぐに見つかる。だから・・・迎えに行くために、飯食って力を蓄えとこうぜ?」

「・・・・・うっ、ん!」

眼から零れた涙を拭い、ヒロは皆に支えられながら、団欒室へと歩き出した。

 

 

三人が興味深げに聞いてくれるものだから、ロミオは徐々にヒートアップして話し続ける。

「だからさ!俺がそこで、ギュワっと神機を振るって助けた訳なんだよ!そしたらさ!」

『ふえーーーんっ!!』

「あら・・・。もうそんな時間?」

突然の泣き声に、サクヤは立ち上がり奥へと移動する。そんな様子を見送ってから、老人はロミオへ話の続きを促す。

まだ話せると思うと嬉しくなり、ロミオは派手に身振り手振りを付けだす。

「そんでさ!俺等ブラッドてのが、凄い部隊な訳なんだよ!こう血の力っていう必殺技を使えて!隊長のジュリウスなんて、すぐにそれを使いこなしてさ!?副隊長のヒロってやつもすげぇんだよ!?シエルも、ギルも、ナナも・・・・・さ」

話の途中で、声のトーンが下がっていくのに気付くと、聞き入っていた二人は心配そうな表情を見せる。

「・・ロミオちゃん?」

「俺は・・・・、そんな凄い部隊の、落ちこぼれなんだ。力に目覚めてないし、弱いし、すぐ感情的になって・・・・あいつを、殴っちまうし・・」

そう言って、下を向くロミオ。そんな彼の手を、老婆はそっと手を重ねる。

「その・・・力っていうのを使えないと、ロミオちゃんは仲間外れにされちゃうのかい?」

「え?・・そ、そんな!?あいつ等は、そんな事、絶対にしないし!」

「じゃあ、簡単じゃな。殴った彼に、謝る。それで解決じゃ!」

老人の言葉にハッとして、ロミオは顔を上げるが、またすぐに肩と一緒に下げてしまう。

「でも・・・俺、逃げ出しちゃったし・・」

「駄目なら、またここに来ればいい」

「え?・・」

今度こそ顔をしっかりと上げたロミオに、老人は肩に手を置いて、力強くも優しく揺する。

「わしらも伊達に歳を食っとらん。ロミオちゃんの相談の1つや2つ、なんぼでも聞いてやれる」

「それとも、どうしても無理なら・・・、ここで暮らすかい?私らは早くに子供を亡くしたから、寂しくてね・・。ロミオちゃんさえ良ければ、家の子になってくれるかい?」

「・・・ふっ・・くぅ・・・うっ・・うぅ・・うぅっ」

優しい二人の言葉に、ロミオは涙を零してテーブルに顔を伏せた。

 

 

皆が寝静まっても、眠れずにいると、奥からサクヤが姿を見せる。

「眠れないの?」

「すいません。何か・・・色々と・・」

頭を下げてくるロミオの前に座り、サクヤは静かに頬杖をついて口を開く。

「明るい所は、コウタに似てる」

「え?」

知っている名前に、ロミオは思わず顔を上げると、サクヤは優しく微笑んでいる。

「仲間を自慢に思うところは、レンカに。真面目なところは、アリサに。調子が良いところは、リンドウかしら?」

「あ・・の、何を・・」

ロミオが戸惑っているのを理解しながらも、サクヤは更に続ける。

「思いつめるところは、私かしら?強くあろうとするところは、ソーマに。そして、自分に謙虚なところは、ユウに」

「サクヤさんって・・・、まさか・・」

出てきた名前を線で結ぶと、ロミオの中には答えは1つしかない。旧第1部隊。

「私は・・・まぁ置いといたとしても・・。あなたには、私の知る限りで最高のゴッドイーターと似ているところが、こんなにも存在する」

「・・・・あ・・」

「わかる?あなたには、その分だけ、可能性があるのよ。ロミオ」

その言葉に、ロミオは目を大きく開いて、内から溢れる喜びに、その身を震わせる。

「お、俺が・・ソーマさんや・・、ユウさんと・・似ている」

「えぇ」

優しく答えてから、サクヤは一変して真面目な表情を作る。

「どうするの?ロミオ。このまま、お爺ちゃん達を理由に、逃げ続ける?それとも、可能性を信じて、前に進む?・・・あなたが、決めるのよ」

「俺は・・・。でも、弱いし・・」

そう口籠る彼に、サクヤは自分を救ってくれた言葉を口にする。

「『仲間を頼れ』」

「え?」

「私はね、リンドウから引き継いで第1部隊の隊長になったの。そんななりたての頃に、仲間を危険に晒したことがあるの」

「マジ・・っすか?」

深く頷いてから、サクヤは話を続ける。

「その時は、リンドウ達のお陰で事無き得たけど・・・・嫌になっちゃってね。それで自棄になってる時に、リンドウが言ってくれたの。『全部一人でやらなくていい。仲間を守るだけじゃなく、頼れ』ってね」

「仲間を・・・頼る・・」

少しずつ目に希望が戻ってきたのを確認してから、サクヤはゆっくり立ち上がってから、奥へと移動する。

「そろそろ、寝るわね。後は、あなた次第よ、ロミオ。ただ言えることは、仲間は・・・きっと、あなたの帰りを待ってるわよ」

一人になってからロミオは、雨が上がったのを確認してから、外へと飛び出す。それから大きく息を吸ってから、腹の底から叫ぶ。

「うおぉぉーーーーーっ!!やるぞーーーーーーっ!!」

 

奥から裏戸を抜けて外に出てから、サクヤは表へと出てくる。

『うおぉぉーーーーーっ!俺も!ソーマさんやユウさんみたいになって、あいつらを頼るぞーーーーーぉぉお?今のはおかしいな・・』

「ふふっ。面白い子ね」

そう口にしてから、携帯端末を操作してから、電話をかける。

「・・・あぁ、レンカ?・・えぇ、久しぶり。・・・えぇ。レンは元気すぎるぐらいよ。ふふっ。また今度、会いに来て上げてちょうだい。・・えぇ。それより、あなた探し物があるんじゃない?・・・・うん。私の腕輪のビーコンを拾ってちょうだい。そこにいるわ。えぇ・・・それじゃあ」

 

 

昼前になって、ロミオは身支度を済ませ、外へと出る。それを見送ろうと、老夫婦とサクヤも追って外へと足を運ぶ。

「いっぱい・・いっぱい!お世話になりました!」

頭を下げるロミオに微笑みながら、老夫婦は彼の肩に手を置く。

「また、遊びにおいで。ロミオちゃんの話は、動きがあって楽しいからの」

「疲れた時には、休みに来ていいからね?」

「爺ちゃん・・・婆ちゃん・・」

そう言ってから顔を拭って、元気よく答える。

「うん!近いうちに、また来るよ!今度は、俺の自慢話を持ってさ!!」

ロミオの言葉に満足そうに頷いてから、老夫婦は少し後ろへと下がる。それに合わせて、ロミオはサクヤへと視線を向ける。

「サクヤさんも、お世話になりました!」

「私は何もしてないわよ。・・頑張りなさい、後輩君」

「はい!!」

それを別れにと思って、彼が顔を上げた瞬間、

ピィーーー

『北地区に、多数のオラクル反応を確認。近隣の住民は、極東へと非難して下さい』

老夫婦の家に設置されたスピーカーから、避難警報が鳴りだす。

それを耳にしたロミオは、驚きに慌てだす。

「北地区って・・ここじゃんか!?どうしよう・・。俺、神機持ってきてないし!?」

「落ち着きなさい!ロミオ!」

慌てふためくロミオを落ち着かせる為、サクヤは大きな声を出す。それに反応してか、ロミオは反射的に直立する。それを確認してから、サクヤは笑って見せてから、彼に昨晩話したことを、改めて言う。

「ロミオ、『仲間を頼れ』よ。ここは大丈夫だから、行きなさい」

「でも!?」

「そんなに気掛かりなら、守って見せなさい。あなたは、ゴッドイーターでしょ?」

サクヤの言葉に目を覚ましたのか、ロミオは力強く返事をする。

「はい!行ってきます!」

そして走り出した彼の背中に、サクヤは微笑んでから二人を自分の車へと誘導した。

 

 

 





ちょっと早くも、出しちゃった感じです^^;

でも、ロミオの話の聞き手には、持って来いかと・・w



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