GOD EATER2 ~絆を繋ぐ詩~   作:死姫

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30話 孤独な闘い

 

 

建物の影に身を潜めて、ヒロは静かに息を整える。

目を閉じると、シエルの『直覚』によって認識している、荒神の数を感じる。それが1つとなったところで、ジュリウスから無線が入る。

『ヒロ、そっちへ行った。偏食場パルスを起こす前に、決着をつけるぞ』

「・・・了解!」

そう言って飛び出し、逃げ延びてきたガルムの前に立ちはだかる。

グルルルッ

「こっから先は、行かせないよ」

そう言って神機を構え、体の中から湧きだす力を、神機に込める。

そんな暇を与えまいと、ガルムは飛び掛かろうと低く構える。だが・・。

グッ・・ガウッ

突然後ろへと意識を持っていかれる。

そこへ走り込んできたナナが、神機を大きく振り上げ叫ぶ。

「ヒロ!あたしの『誘引』で引き付けてる間に、よろし、く!!」

ガツッ!

振り抜いてきたハンマーを肩で受け、ガルムは足をもつれさせる。それを好機と思ったギルが、血の力を開放する。

「保険だ、ヒロ!1発で決めろよ!?」

『鼓吹』の力の影響で、ヒロの神機に集まったオーラは、更に大きく膨れ上がる。それを振り上げ、ヒロはその場で強く振り下ろす。

「ブラッドアーツ、『落花の太刀・紅』」

ズアァンッ!!

高音が突き抜けたと思った瞬間、ガルムの首はゆっくりと地面に落ちる。そこへ、ジュリウスが捕食形態を喰らいつかせ、コアを摘出する。

そこまで見届けてから、ヒロは大きく息を吐く。

「お疲れ様です。良い太刀筋でした」

後ろに控えていたであろうシエルが、ヒロへと声を掛ける。それに応えるように、ヒロは笑顔を向ける。

「大分様になってきたな。感応種も、確実に相手できるようになってきている。以後もこの調子で行こう」

《了解!》

「・・・了解」

全員の返事を確認してから、ジュリウスは合流地点に向かいながら、連絡を取る。その後ろについて、ブラッドも移動を開始する。

そんな中、珍しく元気な返事をしなかったロミオが、少し遅れているのに、ナナが気付く。

「先輩ー!早く帰ろー!?」

「あ・・・、あぁ!」

少し反応鈍く答えて、ロミオも皆に追いつこうと走り出す。そして、いつもの調子で誰かを捕まえようと伸ばした手を見てから、つい引っ込めてしまう。

それを胸に当てて、誰にも聞こえないように、声を洩らす・・。

「・・・・・俺も、ブラッド・・・だかんな・・」

 

 

エリナに付き合って、訓練をしていたヒロは、彼女を連れて休憩所に移動していた。

「先輩!今日の私の動き、良くなかったです!?」

「うん。エリナは呑み込みが早いから、すぐに追い越されそうで怖いな」

「え・・・・えへへ」

照れ笑いを浮かべながら、もじもじするエリナ。そんな彼女が、ふと立ち止まってから声を洩らす。

「まだ・・・やってる」

「ん?」

その声に反応して、ヒロはエリナの視線の先に目を向ける。訓練所の区画内にある、筋体力を鍛える部屋の奥で、ロミオがロードランナーの上を走っている。

特に変わったことは無いと思っていると、エリナが話し出す。

「ロミオさん・・・・多分、もう3時間以上は走ってます」

「え!?・・・どうして、そんな・・」

「あ・・・いや!?決して先輩を待つのが楽しみとかで、早く来たんじゃないですよ!たまたま!たまたまですから!!」

「え・・あ、うん」

焦って弁解してから、エリナは改まって続きを話す。

「早めに来た私が見た時と変わらないから・・・もしかしてと、思いまして。ただ、ずっと走ってたらですよ?」

「そう・・・。ちょっと・・、気になるね」

そう言って、ヒロは扉を開けて中に入る。それに次いで、エリナも入ってついていく。

突然声を掛けるのもと躊躇って、ヒロは側へと近寄る。だが、その考えを、すぐに捨てて駈け寄る。

「先輩!ロミオ先輩!10時間って、走り過ぎですよ!?」

「えぇ!?嘘でしょ!?」

ヒロの言葉に驚いてから、エリナも駈け寄る。しかし、二人に気付かないのか、ロミオは黙って走り続ける。

彼の足元をよく見てみると、汗と瞑れたマメから噴き出した血で濡れている。見てられないと、ヒロはロミオの身体を無理矢理ロードランナーから引きはがし、名を呼ぶ。

「ロミオ先輩!どうしたんですか!ロミ・・・・え?」

「先輩。ロミオさん・・・気絶してますよ?・・・まさか、気絶したまま走って!?」

エリナの言葉に納得してか、ヒロはエリナへと叫ぶ。

「ごめん!エリナ!訓練できなくなっちゃうけど、ロミオ先輩を運ぶの手伝って!それと、医務室に運んだら・・・・、ジュリウスとレンカさんを呼んできて!」

「あ、はい!そっちの肩、私が!」

「ありがとう!」

二人でロミオを抱えると、そのまま医務室へと駆け出す。と、そこに通りがかったエミールが、口遊む鼻歌を止め、ヒロへといつもの挨拶をする。

「やぁ!我がライバルよ!こんなところで会うのも、運命と・・」

「あんた、邪魔!!」

ガスッ!

「はがぁー!」

前に立ちふさがったところで、エリナが思い切り蹴り飛ばし、二人は部屋を後にする。

残されたエミールは、倒れたまま、どこから取り出したのか薔薇を一輪手に持ち、フッと笑みを浮かべる。

「流石我が親友エリックの妹、エリナ!見事な前蹴りだったよ!その意気や、よし!!ごほっ!」

そんな彼を、その場にいる全員が、見ないふりをしていた。

 

 

念の為に鎮静剤も打たれたロミオを囲んで、ヒロとジュリウス、レンカは厳しい表情を浮かべていた。

彼の足にまかれた包帯に、痛々しさを感じながら・・。

「・・・すまなかった。俺は、教官失格だな」

「空木教官が、謝ることなんてありません。私が、隊長として・・・もっと、早くに異変に気付いていれば・・」

「僕だって、そうだよ。ジュリウスよりは、ロミオ先輩と組んで任務に出てたのに・・何も・・・」

自分を攻め合い、三人は再び黙ってしまう。

そこへ、

コンコンッ

「入るぞー」

そう前置きしてから、リンドウが顔を出す。

「リンドウ。戻ってたのか?」

「あぁ。丁度さっきな。エントランスでエリナがへこんでてな。事情は何となくだが、把握してる」

「そう、ですか。エリナに・・・・ブラッドには、まだ言わないでって・・」

ヒロの言葉を最後まで言わせずに、リンドウは三人に声を掛ける。

「とりあえず、ここから出るぞ。・・・煙草、吸いたいんでな」

そう笑って見せたリンドウに、三人は緊張を解いて、部屋から出て行った。

 

近場の休憩所にエリナも呼んで、五人で長椅子に座る。

リンドウが煙草に火をつけると同時に、エリナが泣きそうな顔で、ヒロへと頭を下げる。

「先輩、ごめんなさい。・・・リンドウさんに・・喋っちゃって・・・」

「いいんだよ。僕こそごめんね。黙っとけって言いながら、カヤの外にしちゃって・・」

逆に謝られて、エリナは首を必死に横に振り、顔を覆う。

それでそっちは話がついたと判断してか、リンドウは煙を一吹きしてから、話し始める。

「ロミオのやつは、多分焦ってんだろ」

「焦って・・・・いるんですか?」

ジュリウスが聞き返してきたのに対し、頷いてから、リンドウは続ける。

「確かロミオは、隊長さんの次に古参のメンバーだったよな?それが、後入りのヒロが早々に血の力・・・だっけか?目覚めて、副隊長に。他の隊員も、どんどん目覚めていって・・・・今じゃ、あいつだけ。取り残されたくなくて、無茶でも何でもする。・・・そんなとこじゃないのか?」

「それが・・・ロミオが無茶する、理由ですか?」

「・・・おそらくな」

頭を掻きながら、ジュリウスへと答えて、溜息と一緒に煙を吐き出す。

「ある1線を越えていくってのは、人それぞれだ。早い奴もいれば、遅い奴もいる。同じ釜の飯食ってようが、同じ教官の訓練を受けようが、同じ任務をこなして経験積もうが・・・な。こればっかりは、最後には個性だと割り切るしかなくなっちまう」

「・・でも、リンドウさん」

ヒロが声を上げたのに頷いてから、リンドウは煙草を吸殻入れに捨てて、答える。

「わかってる。ロミオは割り切れる程、器用じゃない。期間は浅いが、俺もあいつを見てるからな。駄目なら、それを克服するまで努力を重ねるやつだ。体が悲鳴を上げようがな」

まるで見てきたように喋るリンドウに、感心の目を向けるジュリウス。その視線に気付いたのか、苦笑いを浮かべながら、リンドウは肩を軽く上げる。

「俺もな、伊達に隊長をやってたんじゃないからな。な~んとなくだ・・。お前さんも、いずれその位やってのける」

「お心遣い、感謝します」

頭を下げてくるジュリウスに、頭を掻いて息を吐き、2本目の煙草に火をつける。

「リンドウ。今後、どうすればいい?俺は・・」

少し思いつめた表情を見せるレンカに、笑いながらリンドウは手をヒラヒラする。

「特に何もしなくていい。若いやつは、勝手に成長する。・・・無理をしないように、助けてやればいいんだ。な?」

そう言ったリンドウに、その場にいる全員が頷くのを確認してから、リンドウは大きく背伸びをしてから立ち上がる。

「よっし!この話は終わりだ!あぁ、ブラッドの他の奴らをここに呼ばなかったんだ。先入観を与えないように、黙っておくのも良いかもな」

そう言って休憩所の外に出ようとするリンドウを、レンカが呼び止める。

「待て、リンドウ」

「んあ?何だよ。話は終わりって言ったろう?早く帰らないと、嫁さんがうるさいんだよ」

「わかっている。だが、煙草は消していけ」

「・・・・・喫煙者に厳しくなったな~、おい」

口に咥えていた煙草を捨てて、苦笑するリンドウ。それにつられてか、皆もフッと笑んでいた。

 

リンドウの予想は当たっていたが、最後の提案は、後に悪い結果となってしまう。

 

 

あれから1週間が経ったが、ロミオの過剰な訓練は続いていた。

寝る間も惜しんでいる為か、任務中にボーっとすることも増え、事情を知らない他の者にも、心配の色が見えだす。

その状況が不味いとわかっていても、皆体は1つ。リンドウはすぐに次の出張へ、レンカは一人に付きっきりとはいかない。ジュリウスもタイミング悪く、ラケルに付いてフェンリル本部へ。

ヒロも皆の分までと気を張っていたのだが、そんな矢先に、事件が起きてしまう。

 

「いっや~。マジ敵なしって感じ?俺等ブラッドも、すげぇ成長したよな!?」

任務を終えたロミオが、いつも通り軽口を叩く。

だが今回ばっかりは聞き逃せなかったのか、ギルが強めの口調でロミオへと話し掛ける。

「おい、ロミオ。今日という今日は、お前に言っとかねぇといけねぇことがある」

「はいはい、わかってるよ。『無駄に前に出すぎるな』だろ?」

軽い調子のまま答えてきたことが気に障ってか、ギルは眉間に皺を寄せて話を続ける。

「わかってるなら、何で実行しねぇんだ!いったい、どういうつもりだ!?」

「ギル!落ち着いて!」

ヒロが間に手を入れて制すると、ギルは前のめりになった姿勢を戻す。それを笑い飛ばすように、ロミオは口の端を浮かせながら手を前で振る。

「まぁまぁ、落ち着けよギルちゃ~ん。固いことは言いっこなしにしようぜ!?」

そんな彼の発言に、ナナが目を伏せながら声を掛ける。

「駄目だよ、ロミオ先輩。ギルは先輩の事心配して、言ってくれてるんだよ?」

「えー!?なになに?俺は心配ないって!いつも通りだろ?なぁ!?」

「本気で・・・・・言ってるんですか?」

その態度に、遂にはシエルも怒りを顔に出す。

何とも言えない微妙な雰囲気に、ロミオは自分以外のブラッドを見回す。それから頬を掻いて、半笑いで口を開く。

「えぇ?何、この空気?みんな今日も、生きて帰ってこれたんだから、オールオッケーだろ?」

その言葉に腹を立てたシエルの前に手を伸ばして止め、ギルが歯をギリッと鳴らしてから叫ぶ。

「今のお前がいたんじゃ、俺達の誰かが死ぬって言ってんのがわかんねぇのかよ!?やる気を失くしちまったんだったら、とっとと辞めちまえよ!!」

「ギル!!言いすぎだよ!!」

ギルの怒りを収める為か、今度はヒロが声を荒げる。

しばらく睨み合うヒロとギル。そんなヒロの背中で、ロミオが小さく声を洩らす。

「・・・・・・やる気が・・・ない、だと・・」

その反応にハッとしたのも遅く、ロミオに突き飛ばされる。そして、その勢いのまま、ロミオはギルへと拳を叩き込む。

ガッ!

「ぐぅっ!・・・・て、めぇ・・。何しやがる!?」

尻もちをついた状態で、ギルは怒りをロミオへとぶつける。だが、その怒りも一瞬にして冷めてしまう。

ロミオが、今にも泣き出しそうな切なげな表情で、彼を睨みつけていたからだ。

「お前なんかに言われなくても、わかってんだよ!俺がみんなの足を引っ張ってる事ぐらい!!」

「・・・先輩」

壁にぶつけた肩を押さえて、ヒロは声を洩らす。

1度感情が弾けてしまえば歯止めはきかず、ロミオは一気に全員に捲し立てる。

「俺はお前みたいに経験豊富じゃないし、ジュリウスみたいに強くもない!シエルみたいに頭が良いわけじゃないし、ナナみたいに開き直る勇気もない!ましてや!ヒロみたいに入って早々、才能を発揮して、ソーマさんやユウさんに認められるみたいな・・・・そんな、・・・・・くっそぅ!」

《・・・・・・》

皆が何も言えないでいると、ロミオは俯いて肩を震わせる。

「俺は・・・・いつも、どこでも・・足手まといで・・・・必要とされなくて・・」

「っ!!?それは違う!ロミオ先輩は・・!」

その言葉は最後まで言わせまいと、ヒロが叫んだのをきっかけに、ロミオはハッとして顔を上げる。

皆が切なげに見つめてくるのが目に入り、ロミオはゆっくり後ろへと下がり、そのまま走り去ってしまう。

それを追えずに、伸ばした手で拳を作ってから、ヒロは壁を思い切り殴る。

ガァンッ!

「くっ、そぉ・・・・」

皆何も言わず、その場に立ち尽くした。

 

 

「はぁ・・はぁ・・はぁ・・。ちっ、くしょうーーー!!!」

極東の中を走りながら、ロミオは自分のしてしまったことに後悔を叫びながら、そのまま北門から外へと飛び出していった。

 

 

 





努力をしても、成長速度は人それぞれです。

正解のない孤独な葛藤は、凄く苦しいですよね。


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