ズウゥゥゥーーーンッ
「え?・・・・なに?」
急な地響きに、眠っていたナナは体を起こす。壁を探って、電気のスイッチを入れた瞬間、警報が鳴り響く。
『緊急警報!荒神がB地区の装甲壁を突破!防衛班は直ちに急行してください!第4部隊及びブラッド隊は、住民の避難をお願いします!』
ブラッドが呼ばれたことに過剰反応してか、ナナはベッドに立ち上がる。
何かしなければと、部屋を見回していると、スピーカーから榊博士の声が入る。
『ナナ君、聞こえるかい?』
「榊博士!?あの!荒神が・・!!」
『大丈夫。君が心配することは無い。いいかい?とにかく、気持ちを落ち着けて、その場でジッとしてるんだよ。いいね?』
そう言い終えて、榊博士の声は聞こえなくなる。
大丈夫と言われたのだ。とにかく、言われた通りジッとしていようと努めるナナ。
しかし、元々考えるより先に動いてしまう性格があだとなってか、ナナは強い眼差しで立ち上がり、扉を思い切り殴りつけた。
神機保管庫に車を入れて、ユノとサツキはリッカへと声を掛ける。
「どうも、リッカさん。それとも・・・未来の妹とでも、呼んだ方が良いですか?」
「いいよ~。いつでも、そう呼んでくれて!」
そうサツキに返してから、リッカはユノへと目を向ける。
「じゃあ、差し詰めユノちゃんが、私の未来の妹かな?」
「え、えっと~・・・そうなりますか?」
少し照れた様子のユノを撫でながら、リッカは余裕の笑みを浮かべる。それに苦笑しながら、サツキは両手を軽く上げて見せる。
「まったく、揶揄いがいがないですね。あ・・そういえば、さっき緊急警報が流れてましたけど、大丈夫なんです?」
「あぁ、大丈夫だよ。さっき防衛班が出てったし、ハルさんの所とブラッドが住民の避難救援に行ったから」
そう言ってユノの頭から手をどけて、保管されている神機の方へと目を向ける。すると、今ここに居てはいけない人物を見てしまう。
「・・・は?ナナちゃん?」
ナナは神機の認証を行い、自分の神機を手に取ると、目の前に止められたサツキの車に飛び乗って、エンジンをかける。
「え?あ、ちょっと!?」
「ごめんなさい!借ります!!」
それだけ言い残し、ナナは車で走り去ってしまった。
後に残された三人は、唖然として立ち尽くしてしまう。
「あの、行っちゃいましたね?」
「行っちゃったね・・・。神機、持たせちゃ駄目だったんだけど・・」
「わ・・・・私の車がーーーーー!!!」
作戦指令室に入ったレンカは、自分のデスクの上からインカムを殴り取り、極東の各ゲートの衛兵へと繋ぐ。
「こちら空木だ!ブラッド隊、香月ナナを通すな!車で移動のはずだ。強行突破されぬよう、ゲートは・・」
『こちら西口ゲート!すみません!すでに通してしまったと・・』
「くそっ!遅かったか!どこへ向かったかわかるか!?」
「周辺の地図、出します!!」
無線を切ってレンカが叫ぶと、ヒバリが手元のキーボードを操作し、極東近辺の地図をスクリーンに表示する。
ナナの腕輪のビーコンを発見すると、レンカはもう1度無線を繋ごうとする。しかし、ある異変に気付き、その手を止めてしまう。
「空木さん!荒神が、極東から離れていきます!この先は・・・」
「ナナの奴、これが狙いか。・・・ジュリウスに繋いでくれ!」
そう叫びながらも、レンカは昔の自分と重なるモノを感じ、苦笑いを浮かべてしまう。
「ナナが・・・。わかりました」
レンカからの連絡を受け、ジュリウスはブラッドへと声を掛ける。
「ブラッド隊!ナナが、極東から単身外に出た!目的は、極東に入り込んだ荒神の誘導だ!」
《っ!!?》
その言葉に、皆顔色を変えて戸惑う。その様子を見ていたハルが、神機を担いで口を開く。
「行って来いよ、ブラッド隊。ナナちゃんが囮になったなら、俺等だけで十分だろ?」
「でも、ハルさん!」
ギルが声を上げると、カノンも傍で声を掛ける。
「行ってあげて下さい、ギルさん。ナナさん、きっと待ってますよ!」
「カノン・・」
「決まりだね、ギル」
ヒロが軽く背中を叩くと、ギルもようやく二人だけの部隊を置いて、離れる覚悟を決める。
「な、なぁ!?早く行かないと、不味いんじゃないのか!?」
「ヘリに要請、着きました!すぐに移動を!」
「わかった。さぁ、うちの迷子を・・迎えに行くぞ」
皆の言葉に頷いてから、ギルはハルとカノンに、軽く会釈して走り出す。その隣について、ヒロも全力で走り出した。
乗り捨てた車から距離を取って、ナナは荒神を引き付けながら、1体1体確実に倒していく。
しかし、予想に反してその数は多く、苦戦を強いられ、ナナは肩で息をする程に体力を奪われている。
(みんなを・・・守るんだ。・・・大好きな・・、みんなを・・)
気力を振り絞って、神機を握り直すナナ。だが、荒神を一掃するイメージが湧いてこない。
少しでも気を抜けば、泣いてしまいそうな状況で、ナナは歯を食い縛って足を踏ん張る。
そんな時、曖昧な記憶の中で微笑む、母親の姿が目に浮かぶ。
「お母さん・・・」
その笑顔で、ずっと自分を守り続けた母。その姿に祈るように、ナナは声を洩らす。
「お母さん・・・あたし、みんなを守りたいんだ。大切なみんなを・・・。だから、力を貸してね」
「あぁ、力を貸そう」
ドォンッ!
答えが返ってきたのに驚き、ナナはそちらへと目を向けると、ジュリウスを先頭に、ブラッド隊がそこにいた。
バレッドを撃ったヒロが笑って見せるのに合わせて、全員が神機を構える。
「ブラッド隊!仲間を守るために、荒神を倒すぞ!!」
《了解!!》
皆一斉に走り出すと、荒神へと戦闘を開始する。
その行動を理解しつつも、納得のいかないナナは声を上げる。
「なんで!みんな、どうして来ちゃったの!?せっかくあたしが、荒神を・・!」
それに答えるために、皆目の前の荒神を駆逐していく。
ガンッ!
「ナナ!っと・・・このっ!お前は、本当に馬鹿だよ!」
「え?・・」
ザンッ!
「あぁ。珍しくロミオに同意見だ。はっ!・・・なにも、一人で行くことはねぇだろ?」
ドドンッ!!
「私達は、仲間ですよ。・・はぁっ!!ナナさんが私達を思う様に、私達だってあなたを思っているんです」
「だ、だけど・・・」
ザシュッ!!
「ふぅっ!!仲間の為の苦労ぐらい、買わせてよ・・ナナ。僕達は、六人でブラッドなんだよ?」
ジュバッ!!
「一人でも欠けたら、意味がないんだ。ナナ・・。俺達と一緒に、帰ろう」
「うぅ・・・・・くぅっ・・・うっ・・」
ナナが泣きながら動けない代わりに、ブラッドは目の前の荒神を、1体も残さず消滅させていった。
戦闘が終わっても、泣き止まないナナを、シエルが優しく背中をさする。
そんな中、一人リュックを背負っていたヒロが、中身を取り出して、それをナナに渡す。
それを目にした瞬間、ナナはゆっくりと手を伸ばして、それを受け取る。
アルミホイルに包まれた中からでも、匂いで察したのか、その中身を迷わず口へと運ぶ。
「急いで持ってきたから、ちょっと形崩れちゃったけど・・・。こういう時に、食べるんでしょ?それ」
「あ・・・」
そう言われて、ナナは思い出す。
母がいつも言ってくれた言葉を・・。
『ナナがおいしそうに食べてくれるから、お母さん・・とっても嬉しいわ!』
「そうだ・・。嬉しい時は、おでんパンだ。あはは・・」
もう一口噛り付いてから、ナナは笑顔を浮かべて、皆への感謝を口にする。
「冷めてるけど・・・とっても、温かいよ。みんな・・、ありがとう。とっても、嬉しい」
そんなナナの笑顔につられて、皆も優しく微笑んだ。
ガツッガツッガツッ
極東に戻ったナナは、一心不乱に食べまくっていた。
大量に作ってくれとブラッドが要請した、おでんパン。そんな希望に応える為、料理長ムツミの粋なはからいで、夕飯は全員おでんパンとなったのだ。
最初は皆意外と美味しいと食べていたのだが、量がありすぎて、一人また一人とギブアップしていく。
今となっては、ナナしか食べていない程に・・。
「う~ん。ちょっと作り過ぎちゃいましたかね?」
「ほんはほほはいお!ほっへも、おいひい!(そんなことないよ!とっても、おいしい!)」
ご満悦のナナはまだ食べ続けているが、他のブラッドは気持ち悪そうに、口を押えている。
「お・・・お前・・、まだ、食うのかおぷっ!」
「ロミオ・・・・。どうか、その行為はお手洗いで・・・・うっ!」
「・・・・・んっ!ナナ。頼むから、もう見せないでくれ」
「無理・・・・・・。僕、色々・・・無理」
「・・・・・・・・・・・・」
ジュリウスに至っては言葉も出ない程、気持ち悪いらしい。
しかし、ナナの幸せそうな笑顔を目にして、ブラッドは喜びに顔を綻ばせるのだった。・・・・・吐きそうになりながら。
別のテーブルでは、サツキが顔を伏して嘆いていた。
それを榊博士は、頬を掻きつつ慰めようと声を掛ける。
「い、いや~。まさか、ナナ君がサツキ君の車に乗って行くなんてね。流石の私も、予想すらできなかったよ」
「・・・・慰めれないなら、無理しないで下さいー」
弱冠幼児退行してしまってるサツキの背を、ユノが苦笑しながら撫で続ける。
何しろ、一切合切の機材を積んでいた状態で、ナナが飛び掛かってきた荒神を巻き込む形で轢き殺し、更には横から突っ込まれた拍子で、吹っ飛んで横転。
当然、車は大破し、中の機材はすべてお釈迦になったわけだ。正直、嘆くなという方が難しい。
そんな彼女を見かねたのか、リッカが溜息を吐いて、榊博士に話し掛ける。
「博士。今回はこちら側の過失なんだし、何とかしてあげなよ?」
「そうは言うがね、リッカ君。車はともかく、彼女が所持していたような機材は、中々手に入らないんだよ?よしんば手に入るとしてもだ、私のポケットマネーにも限界がある」
「・・・・いくら位です?」
研究費、開発費などで、結構な金額の動きを相手する榊博士がいう値段に興味が湧いてか、リッカは榊博士がタブレット型端末に出した金額を、横から覗く。
そして、それが洒落じゃないと理解してか、優しくサツキの肩に手を置く。
「・・・・・これは、無理」
「あぁぁーーー!!極東支部まで冷たいーーー!!」
「ちょ、ちょっと、サツキ」
更に嘆くサツキに(おそらく半分は嘘)、リッカはあることを思いついてか、手早く携帯端末でメールを送る。
それから数分もしないうちに返信があり、リッカは苦笑しながら、サツキに内容を伝える。
「喜びなよ、サツキさん。『良いよ』ってさ」
「・・・・・うぅ、誰が?」
そう聞き返してくるサツキに、返信されたメールを液晶に映したまま、サツキへと見せる。
「『良いよ。サツキ姉さんの為なら』・・って、ユウ!?これ、本当に!?」
「何となーく、ユウ君ならこう言いそうな気がしてさ。うちの旦那様は、倹約家だから」
その言葉に確信を得たのか、サツキはユノに飛びついて喜びを露わにする。
「やったーーーー!!持つべきものは、出来る弟よねー!!」
「んもう!サツキは調子いいんだから。でも、良いんですか?リッカさん。結婚資金とか・・色々と」
そう聞かれたリッカは、手をヒラヒラさせて笑って見せる。
「心配ないって。ユウ君程じゃなくても、私だって稼いでるんだし。本人が良いっていうのに、私が止めらんないでしょ?」
そんなリッカに笑顔で礼をするユノ。それに対し、サツキは自分の携帯端末をカチカチとせわしく打っていた。
「・・サツキ?何してるの?」
「え?ユウにお礼のメールよ。それと、相当な金額をサラッと出すって言ったユウの貯蓄を、教えてって」
「なっ!?何でそんなこと、聞いちゃうのよ!」
ユノが怒っている間に、サツキの携帯端末にユウから返信が帰ってくる。それに反応して、リッカと榊博士も覗き込むように体勢を変える。
「ちょっと!リッカさんに、博士まで!」
「まぁまぁ。私は将来の妻だし」
「私は直属の上司だしね」
ただ見たいだけなのだろう二人に目配せしてから、サツキは開封ボタンを押す。
「さーって。ユウの貯蓄はいくら・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「?どうしたの?みんなして・・?」
全員の・・・まさか榊博士までも目が点になっているのを不思議に思い、ユノも携帯端末の内容を覗く。
そして・・・。
《ええぇぇぇぇーーーーーーーーー!!!!!》
どれだけ稼いだのか・・・、はたまたどれだけ使わなかったのか・・・・。神薙ユウの明かした貯蓄は、極東支部全体を3年動かせる数字だった。
研究所でPCのキーボードを打ちながら、ソーマは運ばれたおでんパンを一つ手に取る。そしてそれを頬張ろうとしてから、山と積まれたおでんパンを目にし、溜息を吐く。
「どうやって処理しろってんだ。こんなに・・」
そう呟いてから立ち上がり、コーヒーを入れてからソファーに腰を下ろす。と、そこで、携帯端末が鳴っていることに気付き、ソーマは液晶を確認してから、コールボタンを押す。
「俺だ。・・・・あぁ。お前の言ってた、女に会った。・・・・そうだ。・・・・お前の言ってたこと、わかった気がする。・・・あぁ、そうだ。まさかとは思うけどな・・・・・・。わかってる」
電話の内容がよろしくないのか、ソーマは終始険しい顔をしている。そして、最後に溜息をもらしてから、彼の名を口にする。
「あぁ・・・・。もしかしたら、お前に帰ってきてもらうかもしれねぇぞ、ユウ」
ナナの話、完結です!
作家さんってすごいなぁと、思います。
ちょっと書いてみた程度の私は、たまに気が狂いそうに・・w
次は、コメディ色で!休憩、休憩w