目の前から逃げようと走るコンゴウの後を追いながら、ジュリウスは前に待ち構えるヒロへと叫ぶ。
「ヒロ!頼む!」
「はっ!!」
ザシュッ!!
ヒロが飛び上がって回転しながら、コンゴウの背中を斬り抜けると、すかさず横から、ナナが神機を横に振り抜いてくる。
「てやっ!!」
ガンッ!!
もろに食らって顔面が割れると、コンゴウは頭を抱えて転げまわる。そこへ、とどめと言わんばかりに、ジュリウスが捕食形態で飛び込み、胸へと抉り込ませる。
ガリュウ!!
コアを抜き取って、ジュリウスが着地すると、ヒロとナナは周りへと警戒する。少しの間の沈黙の後、ヒロが息を吐いたことにより、三人は緊張を解く。
「どうやら、目的は達成したようだな」
「みたいだね。お疲れ様」
「お疲れ~!!」
三人は笑顔を交わしながら、ジュリウスを中心に集まる。
極東へと連絡を取る為に、ジュリウスは無線を繋ぎ、喋りかける。
「こちらブラッド隊、ジュリウス。フラン。俺達の区画は、目的を達した。ギル達の様子を教えてくれ」
『はい。少々お待ちを・・・』
待っている間に、ナナの様子を伺うジュリウス。今日聞いたばかりとは言え、少し気にしすぎかと、そんな自分に苦笑してしまう。
しばらく待っていると、フランから返事が返って来る。だがそれは、彼の望んだ答えとは違うものだった。
『ジュリウスさん!そこから離れて下さい!』
「どうした!?フラン!?」
『多数のオラクル反応が、突然に・・!!』
「ジュリウス!」
「っ!?」
ヒロに呼びかけられ、フランの連絡から耳を背け、顔を上げる。すると、倒した数の倍の荒神が、自分達を囲みに現れたのだ。
「フラン!一旦切る!」
『あ!ジュリウスさん!?』
無線を切ってから神機を構えて、ジュリウスは頬を伝う嫌な汗に、思わず苦笑してしまう。
「囲まれたね、ジュリウス。どうする?」
「応援を頼むしかないな。ギル!聞こえるか!?こっちに来られるか!?」
無線をギルに繋ぎなおしてから叫ぶと、ギルから即座に返事が返って来る。
『援護に行ってやりたいのは山々だが、こっちもそうはいかなくてな』
「どういうことだ?」
『そっちもかもしれないが、こっちも追加のお客さんが大量に到着だ!』
「くそっ!・・大丈夫なのか!?」
じりじりと距離をつめてくる荒神に目を向けながら、ジュリウスは声を掛け続ける。
『まだ何とかなるが・・・おらぁ!!・・そうは、もちそうにねぇな!』
「ジュリウス!どうするの!?」
前で食い止めるヒロにせっつかれて、ジュリウスは眉間に皺を寄せて考えた末、全員に指示を出す。
「ブラッド!ここから直ちに、撤退する!シエル!そっちの退路をひらけ!ナナ!ここは俺とヒロで食い止める!お前は先に逃げろ!」
『了解!』
「え・・・・・、逃げる?」
彼の指示に、何かを感じたのか、ナナはその場で固まる。それに気付いたヒロが、すかさず声を掛ける。
「ナナ!早く!」
しかし、彼の思いを断るように、ナナは急に首を横に振りだす。
「やだ・・・・やだよ、やだ。みんなが・・・だって、・・・・・死んじゃう・・」
「え?・・・ナナ?」
その場にへたり込んでしまったナナの異変を察知してか、ヒロは背筋に寒気を感じる。
そして・・・。
『ナナ・・・・、逃げて』
「いやぁーーーーーーーーーーーっ!!!!」
キイィィィィィンッ!!
「なんだと!?」
『・・まさか!?』
『この感じ・・・、ナナ!?』
『そんな・・・、こんなタイミングで!?』
辺りに響き渡るナナの叫び。
それと同時に、彼女の血の力が覚醒した。
「あぁぁぁーーーーんっ!!」
ナナの叫びに呼応してか、荒神の動きに変化が見えだす。
『お、おい!どうなってんだよ!?』
『俺が知るか!』
「どうした!?」
無線の向こうで言い争うロミオとギルに、ジュリウスは状況の説明を要求する。すると、代わりにシエルが報告する。
『荒神が、一気に引いていきます。・・・いえ!おそらく、そちらに向かってます!』
「はは・・。噓でしょ?」
無線を聞いていたヒロが、自嘲気味に笑ってしまう。しかし、変化は目の前でも起こり始める。
荒神が、ゆっくりではあるが、ナナへと目標を定めて動き出したのだ。
「これは・・・覚醒に伴う、血の力の暴走・・・なのか?」
ジュリウスが声を洩らしたのを聞きつけたのか、無線の向こうの三人が声を上げる。
『すぐに向かいます!』
『5分だ!それまで、踏ん張ってろよ!?』
『すぐにそっちに行くよ!!』
そう言って無線を切った三人に苦笑してから、ヒロはジュリウスに話し掛ける。
「どうする?みんな隊長命令を、無視しちゃったけど?」
「こういう違反は、お前で慣れてるさ。ヒロ」
そう言って笑うジュリウスに、ヒロは肩を上げて見せてから、ナナの前に移動する。
「ヒロ。お前のブラッドアーツで、どのぐらい倒せる?」
「そうだね・・。今目の前にいるだけなら、3分の1ってとこかな?ジュリウスは?」
「・・・同じぐらいだな。今の俺個人の技能でどうにかなる領域は、当に越してる。こういう時、ブラッドアーツ頼りの自分が、情けなくなるな」
「同感だね・・」
目の前の数、推定40以上。ギル達の方から流れてくる数がわからない以上、三人を待つ余裕がないかもと嫌な汗を感じる二人。
しかし諦めぬと、神機を構えて見せる。
そして、ナナに向かってくる荒神が数匹、飛びかかってきたのを迎撃しようとした時、
「なら、三人なら余裕だな」
ズガァーーーーーンッ!!!
「「っ!!?」」
思わぬ声に驚く間に、目の前をバスター特有のオーラが走り抜け、飛び込んできた荒神を一掃する。
その発生源の先に立っていたのは、極東の最強の一角だった。
「ソーマさん!」
「まさか、貴方がここにいらっしゃるなんて・・」
二人とナナに視線を巡らせてから、ソーマは「ふん」と鼻を鳴らして、声を掛ける。
「たまたまだ。・・話は後にしろ。先にこいつらを、片付けるぞ」
「「了解!!」」
ソーマの登場に、戦況は一気に反転する。それから、三人が合流したところで、ナナを抱えて全員極東へと撤退した。
連絡を終えた榊博士は、溜息を吐いてから椅子に背を預ける。
そこで、ノックの音に反応して、
「どうぞ」
と声を掛けてから、座り直す。
入ってきたナナを除くブラッドに、榊博士はいつもの笑顔で迎える。
「やぁ、待ってたよ。・・・・ナナ君の、事だね?」
「はい。榊支部長の、見解をお伺いに参りました」
『支部長』というワードに苦笑してから、榊博士は説明を始める。
「先程、ラケル博士と連絡を済ませたところだよ。まず、ナナ君の血の力なんだが・・・、『誘引』ということだよ。要するに、特定の偏食場パルスを発生させ、荒神を引き寄せる、一種の疑似フェロモンを纏うといった能力だ」
「荒神を・・・引き寄せる、ですか?」
「そう。ジュリウス君の『統制』、シエル君の『直覚』、ギルバート君の『鼓吹』。そして、ヒロ君の『喚起』。どれも、味方のゴッドイーターに影響を及ぼす力だが、彼女の場合は違う。ラケル博士によれば、意志の力の具現化が『血の力』となるそうだね?おそらくナナ君の意志は、皆を守りたいが故に、荒神を一身に受け止める・・と、言うことなのかもしれないね」
榊博士の説明に、納得しつつもやるせない表情を浮かべるブラッド。そんな中、ギルが榊博士へと、質問する。
「俺も、いいっすか?どうして、ナナの血の力は・・暴走したんすか?」
その質問に、榊博士は大きく息を洩らしてから、いつになく真剣な表情で答える。
「君達は、ゴッドイーター・チルドレンというのを、知ってるかい?文字通りの意味なんだが、ゴッドイーターから生まれた子供の事を、フェンリルではそう呼称している。彼女は、そのゴッドイーター・チルドレンなんだよ」
そう言われても、今一納得がいかないのか、ギルは続けて疑問を返す。
「それに、なんか問題でもあるんっすか!?」
「ギル・・」
苛立ちも交じって少し声を荒げたのを、ジュリウスが落ち着くよう名を呼ぶ。しかし、榊博士はそれを構わないといったそぶりを見せ、説明に戻る。
「ゴッドイーター・チルドレンは、その身に微量ながらも、偏食因子を持って生まれる。ゴッドイーター自体、言うなれば新たな人種だ。そこから更に子孫が生まれたとなると、未知な部分が多くてね」
「未知な部分ですか?それは、どんな?」
ヒロが聞き返すと、榊博士は軽く首を横に振ってから、話が脱線したことに反省し、大筋を戻して話し出す。
「その説明は、今はやめておこう。ギル君が聞きたいことから、話が横道に反れるしね。・・・簡単に判明していることは、ゴッドイーター・チルドレンの大半は、精神が不安定になりやすい。ましてや、ゴッドイーターになろうものなら、体内の偏食因子の濃度に精神が耐えられなくなり、ある種の発作を起こしてしまうんだ。その為、従来のゴッドイーター以上にメディカルチェックを行ったり、精神安定剤などを服用しなければならなくなる」
その言葉にハッとして、ブラッドは顔を見合わせる。その反応に再び息を吐いてから、榊博士は目を閉じる。
「心当たりは、あるみたいだね。彼女は自分が昔の記憶の不安定さと認識しているようだけど、実際は・・・起こるべくして起こっている事象に対して、ラケル博士が対処されてるだけなんだよ。暴走は・・・タイミングが悪かったと、いうことになるね」
研究室の奥の部屋で、ナナは天井を見ながら溜息を吐く。
榊博士に、血の力の暴走が治まるまで、そこにいるようにと連れてこられてから、もう3日が過ぎていた。
しかし、何もない部屋で、寝食だけを行っていると、覚醒した日の事を思い出して、心が潰されそうになる。
胸をぎゅっと抱くように寝返りをうって、目を閉じて寝てしまおうと思い悩んでいると、
コンコンッ
ノックの音に反応して起き上がる。
「・・・暇、してるか?」
「ソーマさん。・・・遊びに来てくれたんですか?」
そんなナナの言葉に、フッと笑みを浮かべて、ソーマは自分の後ろへと指さす。
「俺は、そこまで暇じゃない。・・・俺はな」
「え?・・・」
そう疑問に思っていると、
「いよっ!ナナ!」
ロミオが元気よく顔を出す。
それに続いて、ヒロ、シエル、ギルと顔を出し、最後にジュリウスが入って来る。
「みんな・・・」
ナナが感動に涙を浮かべると、皆笑顔で応える。それを確認してから、ソーマがその場から去ろうとすると、ジュリウスが頭を下げて感謝を口にする。
「ソーマさん。無理を言って、申し訳ありません」
「俺がいつ、無理を聞いた?」
そう言って軽く手を振ってから、ソーマは出て行った。
そんなソーマの背中を見送ってから、ヒロは思い出したように喋りかける。
「そうそう。ナナに、お土産があるんだ」
「おみやげ?」
「じゃ・・・、じゃん!・・・・・・チキン、です」
突然シエルが柄にもないことを口にする。
誰が渡すのか、ジャンケンで決めた結果だ。
しかし、そんな事然したる問題ではないのか、ナナは嬉しさに涙を拭いだす。
「おいおい。泣くやつがあるかよ」
「やっぱりー、シエルの『じゃんっ!』が、寒かったんじゃね?」
「なっ!?ろ、ロミオがやれって言いだしたんじゃないですか!ジャンケンに負けた、罰ゲームなどと言い出して!!」
「まぁまぁ、シエル。怒らないでよ。可愛かったよ?」
「か、かわ・・・・えぇ!?」
「シエル、落ち着け。ナナが困っているぞ?」
皆に囲まれて過ごすことが、こんなにも嬉しいことなのだと痛感し、ナナは早く戻りたいと、強く願うのだった。
実はゴッドイーター・チルドレンの細かい設定、今回調べて知りました!w
勉強不足だな・・・。