GOD EATER2 ~絆を繋ぐ詩~   作:死姫

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26話 心の傷

 

 

 

「どう?調子の方は・・」

「はい・・・。最近また、頭が痛くなることがあります」

「そう。・・・・記憶が戻ろうと、しているのかしら・・」

「記憶・・・・。はい。お母さんの事を・・少し」

「・・もしかしたら、覚醒の兆しかもしれないわね」

「覚醒・・・」

「貴女の、意志の覚醒・・・・、血の力の覚醒よ・・」

 

 

久方ぶりにラケルに会ったヒロは、御付きとして、極東支部長室に足を運んでいた。

正直、自分は必要だろうかという疑問が拭えないが、ラケルに頼まれたのであれば、ブラッドとしては断れない。そんな使命感のみで、榊博士とラケルの話している側に、黙って立っているのである。

「お陰様で、随分と研究の助けとなっております。ブラッド隊も面倒を見ていただき・・・。姉共々に、感謝の言葉しかありません」

「いやいや。こちらもブラッドの皆に、助けられている身です。そちらへの協力なんてものも、微々たるものです。他に要望などございましたら、何なりと・・」

社交辞令を交わす二人に、ヒロは動けないことに、ムズムズしていた。基本的に、体を動かしている方が、性に合うのだろう。

「まぁ、堅苦しい挨拶なんてものはこのぐらいにして・・。ヒロ君も限界のようですしね」

「あら。それでは、仕方ありませんね」

「あ、いえ!僕は・・」

突然自分に話を振られたものだから、ヒロは焦って手を前に振って、誤魔化す。そんな彼に、二人は笑顔で応えてから、お互いに1礼する。

「それでは、今後とも・・。昼過ぎには、私は本部の方へ向かわなければなりませんので」

「いや、それは長くお引止めしました。私からも、今後とも良きお付き合いを望みます」

それを話の終わりにと、ラケルはヒロを促して、支部長室を後にする。

 

支部長室を出て少し歩いたところで、正面から歩いてくる顔に驚き、頭を下げる。

「お疲れ様です、ソーマさん」

「ん?お前か・・。榊のおっさんは、中にいるのか?」

「あ、はい」

それだけ聞いて、ソーマはその場から去ろうとしてから、ふとその足を止める。それから、ヒロの隣に位置する、ラケルを凝視してしまう。

「ソーマ・・・。もしかして、シックザール前支部長の、息子さんの?」

「・・・・そうだ」

紹介を買って出ようとしたヒロだったが、何故か異様な空気になったことに立ち止まり、その場から動けなくなる。

「ご挨拶が遅れました。昔、貴方のお父様にお世話になった、ラケル・クラウディウスと申します。是非1度お会いして、お礼を申し上げたく思っていたのですが・・」

「・・・・・」

丁寧に挨拶をするラケルに対し、ソーマは黙って見返すだけ。それを疑問に思ってか、ラケルは小さく首を傾げる。

「あの・・、何か?」

口を閉ざすソーマに、ラケルが疑問を口にすると、ソーマは少し目を細めてから、逆にラケルに問い返す。

「あんた・・・・、何者だ?」

「何者・・とは、どういった意味でしょう?」

その返しがとぼけていると判断したのか、ソーマは思ったことをそのまま口にする。

「あんたからは、俺と同じ匂いがする。・・・・混ざって、壊れた匂いがな・・」

その言葉の真意はわからずとも、ヒロはソーマがとんでもないことを言っている事だけは理解する。

しかし、言われた当人であるラケルの方は、声を殺してクスクス笑いながら、ソーマへと喋りかける。

「ふふっ。随分と物騒なことを、はっきりおっしゃるのね。・・・・だから、お相手に月へ逃げられたのかしら?」

「・・・っ!」

何の比喩だろうとヒロが思った瞬間、ソーマは少しだけ”あの時”の殺気を、表に出す。

ヒロが緊張して固まってしまう中、ラケルは笑みを崩さぬまま、首を横に傾けて一言、

「冗談です」

と口にする。

流石に大人げないと思ってか、ソーマは殺気を引っ込めてから、フッと笑う。

「・・・そうか」

そう言ってから、支部長室へと歩みを再開する。

それに合わせてか、ラケルも自動車椅子を前へと進めだす。

慌ててラケルに付いて行こうとするヒロ。だがその肩をソーマが掴んでから、自分へと引き寄せ、耳元でラケルに聞こえないように小声で何かを伝えてから、支部長室へと入って行った。

ヒロはその言葉が何を意味しているのかよくわからないまま、先を行くラケルを追って、駆けだす。

 

『あの女には、気を付けろ』

 

 

次の日から、ラケルの御付きでジュリウスが不在となった代わりをする為、ヒロはシエルに隊長の責務である情報共有や、部隊報告などのノウハウを教わっていた。

淡々と説明しながら話を進めるシエルに、ヒロは手元の資料を、「あれでもない、これでもない」と、四苦八苦しながら聞いている。

それを後ろから見ていたロミオが、苦笑いを浮かべて、ギルに話し掛ける。

「あれじゃあ、どっちが隊長代理かわかったもんじゃないな?」

「何事も慣れだ。あいつにも、いい勉強になる」

そう言ってから、ギルは横へと顔を向けたところで、ふと表情を曇らせる。それに気付いたロミオも、同じように自分の隣へと目を向ける。

「・・・ナナ?」

「どうした。気分でも悪いのか?」

二人が気にするのも無理はない。ナナは青ざめた顔で肩を揺らしながら、瞼が落ちそうなのを必死に堪えていたからだ。

「・・・え?・・・・だ、大丈夫・・・だ、よ?」

強がりを言いながら、笑顔を作ろうとするナナに、ロミオは肩を貸しながら声を掛ける。

「大丈夫なもんかよ!お前、さっきからふらついてんだぞ!?」

その声に反応して、ヒロとシエルも振り返る。

四人が心配そうに見つめてくるのを、ナナは見回してから、そのまま膝から倒れ落ちる。

「あ・・・・・・あれ?・・やば・・・」

その言葉を最後に、ナナは気絶してしまった。

 

 

『ナナ!はい、おでんパン!』

『わーい!ありがとう、お母さん!』

 

『じゃあお母さん、ちょっと出てくるから。良い子に待っててね?』

『うん!泣かない、怒らない、寂しくなったらおでんパン!』

『うん!偉いね、ナナ!』

 

『ナナ・・・・・・、逃げて』

『お母さん・・・・・、おか・・お母さん!!』

 

「っ!!?お母さん!?」

夢にうなされたのか、ナナは勢いよく起き上がる。

焦った様子で周りを見回してから、ヒロとシエルの顔を認識すると、ホッとしたように倒れ込む。

「・・・はぁー・・。夢、かぁ」

「ナナさん?無理をしないで。あなたは、倒れたんですよ?」

シエルが何が起こったか確認させようと、状況を説明すると、ナナは小さく頷いてから、顔を覆っていた腕をずらす。

「うん。薬、飲むの忘れちゃってたから・・」

「薬?」

ヒロが聞き返してきたのに合わせて、ナナは体を起こし、自分の事を話し始める。

「私ね、昔の記憶が曖昧で・・・。小さい時に、ラケル先生に引き取られた時から、定期的に薬を飲んで、精神を落ち着けてるんだ」

「・・何かの・・、病気ですか?」

「ううん。昔の記憶がね・・・たまに、ぶわーってやって来る時に、苦しくなっちゃうの。それで、ラケル先生が『これを飲みなさい』って。気分が高揚するのを、押さえる薬らしいんだけど・・・、よくわかんない」

少し寂し気に笑うナナの肩を、シエルは優しく撫でる。

それをくすぐったく思ったのか、ナナは少し笑ってから、立ち上がる。

「でも、大丈夫!もう大分よくなったし、部屋に戻ったら薬飲むし!ね!?」

空元気なのかと思っても、ヒロとシエルはそれを口にせず、笑顔で応えてから、自分達も立ち上がる。

「ナナがそれでいいなら、僕等は何も言わないよ。でも、無理はしない事。いいね?」

「はーい!隊長代理殿!!あ、ヒロ~。お腹減ったー」

「それでは、ナナさんが薬を飲み終わったら、一緒に食事しに行きましょう」

「わーい!!」

元気にベッドから飛び降りてから、ナナは我先にと、医務室の扉まで駆けていく。

そんな様子を眺めながら、二人は今後の事を考えていた。万が一ナナが今回のような状態になった時、どう対処するかを・・。

 

 

ナナの1件を報告しに、ヒロはレンカの元へと訪れていた。

彼から話を聞いてから、レンカは少し考えてから口を開く。

「そうか。・・・わかった。俺の方でも、気を付けておく。榊博士にも、俺から伝えておこう。・・ゴッドイーターになった者には、そういった精神に何かしらを抱えた者は多いしな」

「そう・・なんですか?」

ヒロの疑問に、レンカは目を伏せてから答える。

「あぁ。家族、友人、共に暮らした仲間が、目の前で殺されたなどが切っ掛けで、ゴッドイーターに志願する者は、今でも幾人か存在する。そう言った場合、心が不安定になることも、よくあることだ」

「・・・・知りませんでした」

肩を落として縮こまってしまったヒロに、レンカは優しく笑みを浮かべ、肩に手を置く。

「気にするなとは言わないが、そんな顔、ナナの前ではしてやるなよ?いつも通りのお前が、一番の特効薬になるはずだ」

「あ・・・、はい」

ヒロの返事に頷いてから、レンカは本来の目的の為に移動を始める。そんな背中に、ヒロは気になったことを、つい口を滑らせてしまう。

「あの!もしかして、レンカさんも・・・あ、いえ。何でも・・ないです」

再び黙ってしまうヒロに、レンカは懐かしむような表情で、質問に答える。

「俺は・・・・、育ててくれた家族を・・失った。意地になって、ゴッドイーターになって、荒神を殺しつくす・・機械みたいになろうとしていた」

「あ、の・・その、僕は・・」

言葉が見つからず、またもヒロが肩を落としていると、レンカは笑顔で言った。

「だが、そんな俺を、叱ってくれた人がいた。支えてくれる仲間がいた。共に生きようと、手を握ってくれた人がいた。・・・だから俺は、こうして生きている」

彼の実体験の言葉に、ヒロは目を大きく開いてから、希望を見出す。

「お前達も、そうであればと願う」

「・・・はい!」

そう強く返事をしてから一礼し、ヒロは駆けて行った。

そんな彼の様子を見届けてから、レンカもその場を後にした。

 

 

数日たって、ジュリウスが戻っての任務に行く途中、ヒロは隣に座るジュリウスに、ナナの事情を説明する。

静かに聞いていた彼は、ヒロが話し終えると、ゆっくりと頷いてから口を開く。

「そうか・・・。留守中に大変だったな。ナナにも、色々あるらしいな。恥ずかしい話、隊長なのに何も把握してなかった」

「それは・・、ジュリウスが謝ることじゃないよ」

ヒロは苦笑しながら、フォローをする。

何も知らないことに、仲間である以上、隊長も隊員も無いと思ったからだ。

そんな彼の気遣いに、ジュリウスの方も苦笑して、ヒロの肩を軽く叩く。

「お前には苦労させっぱなしだな。こんな隊長のフォローまでさせて・・」

「副隊長だし、当然でしょ?」

「そうか。ありがたいな」

現場まであと少しというところで、ジュリウスは立ち上がり、自分の神機を手に取ってから、ヒロへと声を掛ける。

「一緒に、守ろう。仲間を・・」

「・・当然でしょ!」

そう答えてから、ヒロも立ち上がって神機を手にする。

 

 

「どぉうりゃっと!!」

ドスッ!

ロミオが勢いよく神機を振り下ろし、シユウの頭を潰すと、シエルが捕食してコアを抜き取る。

任された区域の殲滅を確認してから、シエルはロミオへと微笑んで見せる。

「ロミオ。今の動きは、良かったです。訓練の成果、出てるんじゃないですか?」

「あったぼーよ!伊達にほぼ毎日、空木教官に転がらされてねぇっての!」

元気よく答えるロミオに頷いてから、シエルはジュリウスへと連絡を取る。

「隊長。こちらシエル。対象の荒神の殲滅確認。本部とも連絡を取って確認しましたので、間違いないかと・・」

『御苦労、シエル。ロミオと共に、ギルの方へ、応援に向かってくれ。数が少ないとはいえ、あいつ一人ではきついだろう』

「了解。すぐに向かいます」

無線を切ってから、シエルはロミオの方へと目を向ける。

「ロミオ。ギルの応援に向かいます。準備を」

「えぇー!?あいつにはいらないだろう!?どうせ、『何しに来た。シエルにばかり仕事させたのか?』とか言うんだぜ!絶対!!」

そう嘆く彼を、「いつものこと」といった感じで、シエルは先に立って走り出す。それを慌てて、ロミオは後を追う。

「嘘、嘘!さっきの、無しな!ギルには絶対言うなよ!?」

「はぁ・・・、わかってます」

二人がギルの元へと走り出したその時から、事態は変化を始めていた。

 

 

 

 





ソーマとラケルのぶつかり合いを前倒ししてます。

自分で書いててなんですが、私はソーマが好きなんだな~と思います。
原作とは段違いに出番作ってますし・・・。

だがしかし!本当に好きなのは、神薙ユウ君一択なのです!

早くだした~い!!w


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