「どう?調子の方は・・」
「はい・・・。最近また、頭が痛くなることがあります」
「そう。・・・・記憶が戻ろうと、しているのかしら・・」
「記憶・・・・。はい。お母さんの事を・・少し」
「・・もしかしたら、覚醒の兆しかもしれないわね」
「覚醒・・・」
「貴女の、意志の覚醒・・・・、血の力の覚醒よ・・」
久方ぶりにラケルに会ったヒロは、御付きとして、極東支部長室に足を運んでいた。
正直、自分は必要だろうかという疑問が拭えないが、ラケルに頼まれたのであれば、ブラッドとしては断れない。そんな使命感のみで、榊博士とラケルの話している側に、黙って立っているのである。
「お陰様で、随分と研究の助けとなっております。ブラッド隊も面倒を見ていただき・・・。姉共々に、感謝の言葉しかありません」
「いやいや。こちらもブラッドの皆に、助けられている身です。そちらへの協力なんてものも、微々たるものです。他に要望などございましたら、何なりと・・」
社交辞令を交わす二人に、ヒロは動けないことに、ムズムズしていた。基本的に、体を動かしている方が、性に合うのだろう。
「まぁ、堅苦しい挨拶なんてものはこのぐらいにして・・。ヒロ君も限界のようですしね」
「あら。それでは、仕方ありませんね」
「あ、いえ!僕は・・」
突然自分に話を振られたものだから、ヒロは焦って手を前に振って、誤魔化す。そんな彼に、二人は笑顔で応えてから、お互いに1礼する。
「それでは、今後とも・・。昼過ぎには、私は本部の方へ向かわなければなりませんので」
「いや、それは長くお引止めしました。私からも、今後とも良きお付き合いを望みます」
それを話の終わりにと、ラケルはヒロを促して、支部長室を後にする。
支部長室を出て少し歩いたところで、正面から歩いてくる顔に驚き、頭を下げる。
「お疲れ様です、ソーマさん」
「ん?お前か・・。榊のおっさんは、中にいるのか?」
「あ、はい」
それだけ聞いて、ソーマはその場から去ろうとしてから、ふとその足を止める。それから、ヒロの隣に位置する、ラケルを凝視してしまう。
「ソーマ・・・。もしかして、シックザール前支部長の、息子さんの?」
「・・・・そうだ」
紹介を買って出ようとしたヒロだったが、何故か異様な空気になったことに立ち止まり、その場から動けなくなる。
「ご挨拶が遅れました。昔、貴方のお父様にお世話になった、ラケル・クラウディウスと申します。是非1度お会いして、お礼を申し上げたく思っていたのですが・・」
「・・・・・」
丁寧に挨拶をするラケルに対し、ソーマは黙って見返すだけ。それを疑問に思ってか、ラケルは小さく首を傾げる。
「あの・・、何か?」
口を閉ざすソーマに、ラケルが疑問を口にすると、ソーマは少し目を細めてから、逆にラケルに問い返す。
「あんた・・・・、何者だ?」
「何者・・とは、どういった意味でしょう?」
その返しがとぼけていると判断したのか、ソーマは思ったことをそのまま口にする。
「あんたからは、俺と同じ匂いがする。・・・・混ざって、壊れた匂いがな・・」
その言葉の真意はわからずとも、ヒロはソーマがとんでもないことを言っている事だけは理解する。
しかし、言われた当人であるラケルの方は、声を殺してクスクス笑いながら、ソーマへと喋りかける。
「ふふっ。随分と物騒なことを、はっきりおっしゃるのね。・・・・だから、お相手に月へ逃げられたのかしら?」
「・・・っ!」
何の比喩だろうとヒロが思った瞬間、ソーマは少しだけ”あの時”の殺気を、表に出す。
ヒロが緊張して固まってしまう中、ラケルは笑みを崩さぬまま、首を横に傾けて一言、
「冗談です」
と口にする。
流石に大人げないと思ってか、ソーマは殺気を引っ込めてから、フッと笑う。
「・・・そうか」
そう言ってから、支部長室へと歩みを再開する。
それに合わせてか、ラケルも自動車椅子を前へと進めだす。
慌ててラケルに付いて行こうとするヒロ。だがその肩をソーマが掴んでから、自分へと引き寄せ、耳元でラケルに聞こえないように小声で何かを伝えてから、支部長室へと入って行った。
ヒロはその言葉が何を意味しているのかよくわからないまま、先を行くラケルを追って、駆けだす。
『あの女には、気を付けろ』
次の日から、ラケルの御付きでジュリウスが不在となった代わりをする為、ヒロはシエルに隊長の責務である情報共有や、部隊報告などのノウハウを教わっていた。
淡々と説明しながら話を進めるシエルに、ヒロは手元の資料を、「あれでもない、これでもない」と、四苦八苦しながら聞いている。
それを後ろから見ていたロミオが、苦笑いを浮かべて、ギルに話し掛ける。
「あれじゃあ、どっちが隊長代理かわかったもんじゃないな?」
「何事も慣れだ。あいつにも、いい勉強になる」
そう言ってから、ギルは横へと顔を向けたところで、ふと表情を曇らせる。それに気付いたロミオも、同じように自分の隣へと目を向ける。
「・・・ナナ?」
「どうした。気分でも悪いのか?」
二人が気にするのも無理はない。ナナは青ざめた顔で肩を揺らしながら、瞼が落ちそうなのを必死に堪えていたからだ。
「・・・え?・・・・だ、大丈夫・・・だ、よ?」
強がりを言いながら、笑顔を作ろうとするナナに、ロミオは肩を貸しながら声を掛ける。
「大丈夫なもんかよ!お前、さっきからふらついてんだぞ!?」
その声に反応して、ヒロとシエルも振り返る。
四人が心配そうに見つめてくるのを、ナナは見回してから、そのまま膝から倒れ落ちる。
「あ・・・・・・あれ?・・やば・・・」
その言葉を最後に、ナナは気絶してしまった。
『ナナ!はい、おでんパン!』
『わーい!ありがとう、お母さん!』
『じゃあお母さん、ちょっと出てくるから。良い子に待っててね?』
『うん!泣かない、怒らない、寂しくなったらおでんパン!』
『うん!偉いね、ナナ!』
『ナナ・・・・・・、逃げて』
『お母さん・・・・・、おか・・お母さん!!』
「っ!!?お母さん!?」
夢にうなされたのか、ナナは勢いよく起き上がる。
焦った様子で周りを見回してから、ヒロとシエルの顔を認識すると、ホッとしたように倒れ込む。
「・・・はぁー・・。夢、かぁ」
「ナナさん?無理をしないで。あなたは、倒れたんですよ?」
シエルが何が起こったか確認させようと、状況を説明すると、ナナは小さく頷いてから、顔を覆っていた腕をずらす。
「うん。薬、飲むの忘れちゃってたから・・」
「薬?」
ヒロが聞き返してきたのに合わせて、ナナは体を起こし、自分の事を話し始める。
「私ね、昔の記憶が曖昧で・・・。小さい時に、ラケル先生に引き取られた時から、定期的に薬を飲んで、精神を落ち着けてるんだ」
「・・何かの・・、病気ですか?」
「ううん。昔の記憶がね・・・たまに、ぶわーってやって来る時に、苦しくなっちゃうの。それで、ラケル先生が『これを飲みなさい』って。気分が高揚するのを、押さえる薬らしいんだけど・・・、よくわかんない」
少し寂し気に笑うナナの肩を、シエルは優しく撫でる。
それをくすぐったく思ったのか、ナナは少し笑ってから、立ち上がる。
「でも、大丈夫!もう大分よくなったし、部屋に戻ったら薬飲むし!ね!?」
空元気なのかと思っても、ヒロとシエルはそれを口にせず、笑顔で応えてから、自分達も立ち上がる。
「ナナがそれでいいなら、僕等は何も言わないよ。でも、無理はしない事。いいね?」
「はーい!隊長代理殿!!あ、ヒロ~。お腹減ったー」
「それでは、ナナさんが薬を飲み終わったら、一緒に食事しに行きましょう」
「わーい!!」
元気にベッドから飛び降りてから、ナナは我先にと、医務室の扉まで駆けていく。
そんな様子を眺めながら、二人は今後の事を考えていた。万が一ナナが今回のような状態になった時、どう対処するかを・・。
ナナの1件を報告しに、ヒロはレンカの元へと訪れていた。
彼から話を聞いてから、レンカは少し考えてから口を開く。
「そうか。・・・わかった。俺の方でも、気を付けておく。榊博士にも、俺から伝えておこう。・・ゴッドイーターになった者には、そういった精神に何かしらを抱えた者は多いしな」
「そう・・なんですか?」
ヒロの疑問に、レンカは目を伏せてから答える。
「あぁ。家族、友人、共に暮らした仲間が、目の前で殺されたなどが切っ掛けで、ゴッドイーターに志願する者は、今でも幾人か存在する。そう言った場合、心が不安定になることも、よくあることだ」
「・・・・知りませんでした」
肩を落として縮こまってしまったヒロに、レンカは優しく笑みを浮かべ、肩に手を置く。
「気にするなとは言わないが、そんな顔、ナナの前ではしてやるなよ?いつも通りのお前が、一番の特効薬になるはずだ」
「あ・・・、はい」
ヒロの返事に頷いてから、レンカは本来の目的の為に移動を始める。そんな背中に、ヒロは気になったことを、つい口を滑らせてしまう。
「あの!もしかして、レンカさんも・・・あ、いえ。何でも・・ないです」
再び黙ってしまうヒロに、レンカは懐かしむような表情で、質問に答える。
「俺は・・・・、育ててくれた家族を・・失った。意地になって、ゴッドイーターになって、荒神を殺しつくす・・機械みたいになろうとしていた」
「あ、の・・その、僕は・・」
言葉が見つからず、またもヒロが肩を落としていると、レンカは笑顔で言った。
「だが、そんな俺を、叱ってくれた人がいた。支えてくれる仲間がいた。共に生きようと、手を握ってくれた人がいた。・・・だから俺は、こうして生きている」
彼の実体験の言葉に、ヒロは目を大きく開いてから、希望を見出す。
「お前達も、そうであればと願う」
「・・・はい!」
そう強く返事をしてから一礼し、ヒロは駆けて行った。
そんな彼の様子を見届けてから、レンカもその場を後にした。
数日たって、ジュリウスが戻っての任務に行く途中、ヒロは隣に座るジュリウスに、ナナの事情を説明する。
静かに聞いていた彼は、ヒロが話し終えると、ゆっくりと頷いてから口を開く。
「そうか・・・。留守中に大変だったな。ナナにも、色々あるらしいな。恥ずかしい話、隊長なのに何も把握してなかった」
「それは・・、ジュリウスが謝ることじゃないよ」
ヒロは苦笑しながら、フォローをする。
何も知らないことに、仲間である以上、隊長も隊員も無いと思ったからだ。
そんな彼の気遣いに、ジュリウスの方も苦笑して、ヒロの肩を軽く叩く。
「お前には苦労させっぱなしだな。こんな隊長のフォローまでさせて・・」
「副隊長だし、当然でしょ?」
「そうか。ありがたいな」
現場まであと少しというところで、ジュリウスは立ち上がり、自分の神機を手に取ってから、ヒロへと声を掛ける。
「一緒に、守ろう。仲間を・・」
「・・当然でしょ!」
そう答えてから、ヒロも立ち上がって神機を手にする。
「どぉうりゃっと!!」
ドスッ!
ロミオが勢いよく神機を振り下ろし、シユウの頭を潰すと、シエルが捕食してコアを抜き取る。
任された区域の殲滅を確認してから、シエルはロミオへと微笑んで見せる。
「ロミオ。今の動きは、良かったです。訓練の成果、出てるんじゃないですか?」
「あったぼーよ!伊達にほぼ毎日、空木教官に転がらされてねぇっての!」
元気よく答えるロミオに頷いてから、シエルはジュリウスへと連絡を取る。
「隊長。こちらシエル。対象の荒神の殲滅確認。本部とも連絡を取って確認しましたので、間違いないかと・・」
『御苦労、シエル。ロミオと共に、ギルの方へ、応援に向かってくれ。数が少ないとはいえ、あいつ一人ではきついだろう』
「了解。すぐに向かいます」
無線を切ってから、シエルはロミオの方へと目を向ける。
「ロミオ。ギルの応援に向かいます。準備を」
「えぇー!?あいつにはいらないだろう!?どうせ、『何しに来た。シエルにばかり仕事させたのか?』とか言うんだぜ!絶対!!」
そう嘆く彼を、「いつものこと」といった感じで、シエルは先に立って走り出す。それを慌てて、ロミオは後を追う。
「嘘、嘘!さっきの、無しな!ギルには絶対言うなよ!?」
「はぁ・・・、わかってます」
二人がギルの元へと走り出したその時から、事態は変化を始めていた。
ソーマとラケルのぶつかり合いを前倒ししてます。
自分で書いててなんですが、私はソーマが好きなんだな~と思います。
原作とは段違いに出番作ってますし・・・。
だがしかし!本当に好きなのは、神薙ユウ君一択なのです!
早くだした~い!!w