少し曇ったある日・・。
別々の場所で、それぞれに面倒を抱えた二人の話。
「僕を・・・・・、殴ってくれ!!」
「・・・・・・わかりました」
「この子の、面倒を見てやってくれ!」
「・・・・・・は?」
ヒロの面倒 1
その日、突然の嵐に巻き込まれる。
「やぁ!待っていたよ、我が友よ!!」
「・・・・・・・・」
相変わらずのやかましいポージングに、ヒロは来て早々、帰りたいと不満の表情を浮かべる。
そんな彼に、苦笑しながらヒバリが申し訳なさそうに、事情を説明する。
「えっと・・・・・実はですね、極東の西側に位置する河川近くで、多数のオラクル反応を確認しまして。皆さん出払っていて、手が空いていたのが・・・」
「何!案ずることは無い!僕と彼ならば、問題なく解決して見せよう!!」
「・・・・・・・偵察ですよね?じゃあ、僕一人で・・」
そう言って、さっさと任務申請を済ませようとしたヒロを制し、エミールは悟ったように頷いて見せる。
「わかるよ。前回の僕は、あまりに不甲斐無く、君の足枷となってしまった事実を・・。だがしかし!僕は生まれ変わった!!以前の情けないエミールの皮を脱ぎ捨てて、『NEWエミール』としてね!!」
「・・・・・・・そですか」
だんだんどうでもよくなってきたヒロは、エミールに任務申請を任せて、ヒバリへと恨めしそうな無表情を向ける。
「あの・・・・えっとー・・・、すいません」
申し訳なさそうに頭を下げるヒバリに、ゆっくり頭を下げ、ヒロは神機保管庫へと一人で向かった。
それを気の毒そうに見送るヒバリとは対称に、エミールは静かに笑みを浮かべて声を洩らす。
「ふふっ。流石はヒロ君。その寡黙な姿勢も、愛しいというモノだ!」
言葉のチョイスを間違っているんじゃないかと、ヒバリは背中に走る悪寒に、より一層申し訳なさを感じた。
ギルの面倒 1
その日、ギルは非番で空いた時間を、訓練で消化しようと歩いていた。
そんな折、エントランスに降りてきてすぐに、ハルの姿が目に入る。何やら女性と口論になっていると思い、余計なお世話と思いつつも、ギルは溜息交じりにハルへと声を掛ける。
しかし、それが不味かった・・・。
「ハルさん。何かあったんすか?」
「お?・・おぉ!ギルー!お前は何て良いタイミングで現れる、出来た後輩なんだ!」
わざとらしく声を上げるハルに、ギルはやっぱりかと目を伏せて、ついでに彼の方も注意しようと、彼等の傍へと歩み寄る。
「ハルさん・・・。今回みたいな・・・・・、ん?何すか?」
喋り始めに手を前に制されてから、ギルは面食らって黙ってしまう。そんな彼の様子に不敵な笑みを浮かべてから、ハルは口論していた女性を、自分とギルの間へと滑り込ませる。
「・・・えっと・・・」
「あのぉ、ハルさん?」
突然向かい合わせにされ、ギルと女性は戸惑いを隠せずにいる。ハルの方は、一人納得しているように頷いている。
「ギル、こちら台場カノンちゃん。俺が隊長をしてる、第4部隊の紅一点だ。カノン、こいつはギルバート・マクレイン。ブラッドの隊員にして、グラスゴーの時の俺の後輩だ」
「あ、はぁ。ブラッドさんの・・」
「・・・どう、も・・」
まだ今一状況が吞み込めない二人に、ハルは今しがた思いつき、勝手に決めたことを、高らかに宣言する。
「実はな、カノン。彼が!今日からお前の、教官だ!!」
「そ・・・、そうなんですかぁ!?」
「・・・・・・はい!?」
何がどうなってこんな話になったのか、理解できずにいるギルを他所に、ハルはカノンへと喋りだす。
「いいか、カノン。お前は・・・・・・本当に、よくやってる。俺は、そう思う。だが、まだだ!きっとお前には、まだ欠けているところがある!」
「は、はい!で・・でもですよ、私の教官はハルさんじゃあ・・?」
カノンの返しに、ハルは遠い目をしながら、フッと微笑む。
「俺が教えられることは・・・・、もうない。これからは、彼に!ブラッド流戦闘術を学ぶといい!」
「ブラッド流戦闘術・・・・、はい!学ばせていただきますぅ!!」
そんなものは無いと否定しようとしたギルの口を、ハルは素早い動作で塞ぐ。それから、カノンに聞こえないように、ギルへと耳打ちする。
「・・頼む、ギル。俺を助けると思って、引き受けてくれ。この埋め合わせは、いつか必ず・・・・・な」
「・・・・ぷはぁ!ちょっ!?」
口を解放されて、抗議しようと詰め寄ったところを、ハルは華麗にスルーし、カノンと抱き合わせる。
「んなっ!す、すいません!」
「わわ!ご、ごめんなさい!」
二人が赤くなって離れたところを見て、ハルは2,3度頷いてからウィンクして見せる。
「何だなんだ~?お前等案外、お似合いじゃないか?そういや二人共・・・、ゴッドイーターになってから5年だったか?同期ってのも、ポイントが高い!」
「な、なな、何のポイントっすか!?」
ギルの叫びを笑いながら誤魔化し、ハルはゆっくりと歩き出す。その方向がエレベーターだと気付いた時にはもう遅く、ハルはエレベーターに滑り込む。
「・・・じゃあな。後は任せた」
そう言い残して、ハルは去って行き、思わぬ事情を抱えたギルは、その場で固まってしまう。
そんな彼を、ジッと見つめながら、カノンはおずおずと声を掛ける。
「あ、の~・・・・教官先生?もしかして、迷惑でしたか?」
「あ・・・・・いや、その・・。教官先生は、やめて下さい」
「じゃあじゃあ、ギルバートさんも、敬語はよして下さいね?」
「・・・・・ギルでいい」
カノンの期待の眼差しに、引けない状況を理解してか、もう諦めてか・・・。
ギルは、カノンへと右手を差し出す。
「まぁ、引き受けちまったからな。よろしくな、カノン」
「はい!よろしくお願いします、ギルさん!!」
そういって握り返してきたその手を、ギルは小さいなと思って息を吐いて、静かに笑みを見せた。
ヒロの面倒 2
「はぁっ!!」
ザンッ!!
最後の1体を薙ぎ倒し、ヒロは捕食をしてコアを抜き取る。
それから、事の発端である、エミールの様子を伺う。彼は、何かを憂いているように、立ち尽くしている。
情報通りに、偵察の任務に来ていた二人。
だが、荒神を確認したエミールは、ろくに数の確認もせず、「闇の眷属よ!」といつもの調子で突っ込んでいった。
その結果、大量の荒神に追われる破目になり、何とか切り抜けて今に至る。
エミールに声を掛けようかと考えていると、彼は目に涙を浮かべ、両手を広げ懇願してくる。
「僕を・・・・殴ってくれ!ヒロ君!!」
「・・・・・・わかりました」
何の迷いもなく、ヒロは拳を振り上げる。
「そうだね・・。突然こんなこぐぅはっ!!」
ガスッ!
何かまだ喋っていたような気がしたが、ヒロはその拳を、エミールの顔面へと叩き込む。
その場に倒れたエミールを観察していると、彼は何事も無かったように立ち上がる。
「ふっ・・・。やはり君は、言葉よりも行動派なんだね。だが、聞いてくれ!僕の後悔の念を!」
「・・・・はぁ」
前置きから、更に長いんだろうなと、ヒロはジト目を向ける。しかし、エミールは特にお構いなしに、話を続ける。
「僕の軽率な行動によって、君までも危険に晒してしまった。だが僕は!どうしてもあの闇の眷属を目にすると、いても立ってもいられなくなるんだ!」
「・・・・・・はぁ」
「しかし!その為に人の命を危険に巻き込むことは、騎士道精神とは言えない!僕は、そんな僕が!許せそうにない!!」
「・・・・・わかりました」
ドゴッ!
「ぐはぁっ!!」
要するに殴ってくれと言いたいのだろうと、ヒロは左アッパーを顎に炸裂させる。体を浮かせてから倒れ込むエミールの様子を、再び伺っていると、エミールはのそりと起き上がる。
「なんて、早急にことを運ぶ人なんだ、君は。だが、それ程に僕を思っていての行動だろう。気に入った!!」
「は?・・・」
殴りすぎて気がおかしくなったのかと、ヒロは立ち上がったエミールを見る。すると、今度こそはと覚悟を決めてか、両手を広げ、エミールはヒロへと思いを叫ぶ。
「さっきまでは準備が出来ていなかったが、もう大丈夫だ!さぁ!君の拳で、弱く情けない僕を、殴り飛ばしてくれ!!」
「・・・・・・わかりました」
殴り飛ばせと言われたからにはと、ヒロは後ろへと下がる。そして、助走をつけ、思い切り彼の鼻っ柱に、拳を叩き込む。
「どうしたぶぅぅっ!!!」
ゴシャッ!!!!
ヒロの拳に吹っ飛ばされ、エミールは5m程離れた壁に、激突する。
それから、壁に積もっていた瓦礫に埋もれて、エミールは暫く倒れ伏せている。
今回は流石にやりすぎたかと、ヒロは瓦礫へと近付いていく。すると、
「とぉーっ!!!」
瓦礫の中から、エミールが飛び出した。顔面を腫らして・・・。
「ふふっ。何て騎士道の籠った、拳だ。心が、顕れるようだよ・・」
「・・・・・・・良かったですね」
心配は無用だったかと、呆れた顔をして見ていると、エミールは華麗にポージングを取り、ヒロへと指さし叫ぶ。
「君の思い!この胸に刻みつけた!これで僕はまた、生まれ変われる。そう!今度こそ真の騎士道精神を掲げる男!『NEOエミール』としてね!!!」
「・・・・・・帰ります」
もう付き合いきれないといった表情で、ヒロは彼を放って歩き始める。
そんなヒロを呼びながら、エミールは後を追って駆けてくる。
「待ってくれ、ヒロ君!君の行く道は、僕の道でもあるのだから!!」
「・・・・・・・・違います」
そうして、やたら長く感じたエミールとの任務を、ようやく終われるとヒロは胸を撫で下ろした。
ギルの面倒 2
訓練所に来ていたギルは、唖然としていた。
訓練を付けると一緒した、カノンの変貌ぶりを見て・・・・。
「あーはっはっはっはっ!!!ほらほら、どうしたの?プログラム何て、そんなものなの!?」
ガァーンッ!ドォーンッ!チュドドーンッ!!
疑似荒神との戦闘訓練プログラムを行って、彼女の実力を測ろうとしたギル。その結果思ったことは、「こいつと組んだら、どこにいれば安全なんだ?」ということだった。
一応、衛生兵も兼ねてると本人からは聞いていたが、回復させてくれるより、破壊されるんじゃなかろうか。ギルは逃げて行ったハルを思い浮かべ、自分も無理ですと伝えたかった。
訓練プログラムが終了すると、カノンは何事も無かったかのように戻ってきて、無垢な瞳で、ギルに訊ねてくる。
「えっとぉ・・・・、どうでしたか?」
「・・・どうって・・、本気で聞いてるのか?」
「はい!お願いします!!」
今までどんな訓練や経験をすればこうなるのか、逆に疑問に思うギルだが、カノンが目を瞑って覚悟の表情を浮かべたのを見てから、溜息をもらしながら苦笑し、ナナを褒める時の癖で、彼女の頭を撫でる。
「あ・・・・えっと、あれ?」
「良かったんじゃないか?少なくとも、荒神を倒すうちはな。だが、あんたは衛生兵でもあるんだろ?だったら、前衛が入り込める位置取りと、回復弾を使い分けれるようにしといたら、良いんじゃねぇかと思う」
「・・・・・・あ・・・」
男に撫でられるのが初めてで、カノンは少しぽーっとしていたが、ギルが褒めてくれているとわかると、その頭を深々と下げ、お礼の言葉を告げる。
「あ、ありがとうございます!なんか、的確にアドバイスまでもらって・・」
「この程度のアドバイス、誰でも言いそうだがな・・」
ギルにとっては当たり前の台詞のつもりだったが、彼女にとってはそうではなかったらしい。
それも、その筈。デンジャラス・ビューティーの異名を持つ彼女と訓練や任務に出て、まともに喋れる人は、ほとんどいなかったのだから。もしくは、怒られてたか・・・。
『褒められたい』という少し子供っぽいことを求めていたカノンにとって、ギルの行為や言葉は、希望を満たす何かになったのであろう。
「私、頑張ります!これからも、すごく!だから・・・その、また・・褒めてくれますか?」
「あ?・・・あ、あぁ。・・まぁ、な」
「はわぁ~!!」
何だかよくわからない奇声を上げるカノンに、ギルは「早まったか?」と思いつつも、喜ぶ彼女に水を差すまいと、フッと微笑んで見守っていた。
夕食を取る為に、ヒロは部屋を出たところで、ギルと鉢合わせる。目的は一緒だろうと、二人はそのままエントランスへと降りてくる。そこで、
「やぁ!ヒロ君!待っていたよ!君との友情を深める、晩餐の為にね!!」
「あっ!ギルさん!これ、クッキー焼いてみたんですけど!」
エミールとカノンが、それぞれに話し掛けてくる。
そんな二人を目にしてか、ヒロもギルも、今日は疲れたからといった表情を見せ、お互いがその顔に気付き、改めて二人同時に溜息を吐いたのだった。
「お前・・・、本当に大変だな」
「ギルはまだ、役得っぽいよ・・」
途中でこういう話を書くのが、少しの楽しみだったりします!
カノンちゃんとギル。
この組み合わせは、きっと面白い・・・・はず!!