GOD EATER2 ~絆を繋ぐ詩~   作:死姫

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21話 偶然の弾丸

 

 

光を失った錆びれたネオンが並ぶ、旧中華街。

その内の廃ビルの上で、シエルは静かに下を見降ろす。

入り組んだビルの隙間に目を凝らしていると、急に砂煙を起こしながら、直立型の荒神、ヤクシャが走り込んでくる。

十分に引き付けたと判断して、シエルはビルから飛び降り、ヤクシャの前に立ちはだかる。

「・・ここから先は、行き止まりです」

グガガガガァッ!!

声を唸らせ、ヤクシャが右手の砲身へと手を掛ける。だが、

キィンッ!!

「させないよ・・」

後ろから追ってきたヒロに、斬り落とされる。

自分の身体の1部が失われた事に、ヤクシャが怯えているところで、今度は視界が反転するのを感じる。

だが、気付いたころにはもう遅く、ヤクシャは自分の首と胴体が離れていた。

「遅いな~、荒神。・・シエル!」

「了解!」

ドドゥンッ!!

首を斬り落としたタツミの合図で、銃型に切り替えて狙いを定めていたシエルは、バレッドを胸の辺りに打ち込む。それによって剝き出しとなったコアを、正面に構えていたブレンダン・バーデルが、捕食形態に喰らいつかせる。

ガビュウッ!!!

 

 

ブラッドが極東に来て、2週間が経った。

始まりこそ激動だった極東での生活も、皆それぞれにいつも通りの習慣に戻っていく。ブラッドも含めて・・・。

最近のブラッドの活動は、隊を分断して、ブラッド隊の任務と、別部隊の応援と別れて行動することが増えてきている。

今日はヒロとシエルが、防衛班の張った特殊な網を抜け出した、ヤクシャの討伐の応援に来ている。

「いや~、悪いな!最近あいつ等の偏食傾向が、また変わったらしくてよ。どうにも・・・・・・・・、はぁ。ソーマ博士様に、相談か・・・。嫌味言われんなぁ~」

タツミがガクリと肩から頭を下げて落ち込むと、隣に控えていたブレンダンが肩に手を置く。

「よし。俺が行こう。いつもタツミにばかり、任せてきたからな」

「じゃあ、もうずっと行ってくれよ。あいつ、たまにマジな顔して怒るし・・」

「・・・・・だ・・・・、やめておくか・・」

そんな二人のやり取りを、ヒロとシエルは苦笑しながら聞いていた。

確かに戦闘以外でも、ソーマを怒らせると・・・怖そうだ。

 

 

タツミ達と極東に戻ると、一同報告の為、受付へと顔を出す。

そこにいつもの人を見つけて、タツミは軽やかな足取りで、その人の前へとやって来る。

そう。彼の永遠の片思いと噂の、竹田ヒバリの前に・・。

「ヒバリちゃん!今、無事に戻ったぜ!」

「はい、お疲れ様です。それでは報告の方を・・」

「それよりさ!今日こそ、晩飯でもどう?実は本部から、天然のマグロってのが・・」

「・・・・ヒロさん、報告をお願いします」

笑顔のまま、視線をタツミから反らして、ヒバリは何事も無かったかのように、ヒロへと報告を求める。

「あ・・その、こほんっ!対象のヤクシャは討伐。回収した素材は・・・あ、これです」

そう言って、自分の携帯端末から、データを転送する。そこに簡単な報告書も入っており、ヒバリは手早くそれに目を通し、笑顔で頷いて見せる。

「はい。確認しました。では、お疲れさまです!あ・・・後、タツミさん邪魔なんで、持って行ってくださいね♪」

「は・・はい」

毎度ながらスルーされて固まったタツミを、笑顔でゴミ扱いするヒバリに、ヒロとシエルは慣れないでいる。

「過去に何かあったんでしょうか?」

「う~ん。女の人って、怖いな~」

ズルズルズルッ

そんな風に話しながらも、忠実にヒバリからの任務をこなす二人に、馬鹿真面目なブレンダンも、苦笑いを浮かべたのだった。

 

 

任務後に、シエルの希望を受けて、ヒロは訓練所へと来ていた。

神機の銃型の調子がおかしいということで、ヒロの神機と比べてみたいということらしい。

だが、バレッドの話を始めたシエルは、珍しく饒舌に喋り続けるものだから、ヒロはそれに戸惑っていた。

「ヒロは、バレッドのカスタマイズは行っていますか?あれは、とても素晴らしいです。確かに、扱いが難しく、多くの神機使いに嫌煙されがちですが、きちんと自分にあったモノを作り上げれば、命中率の向上や、1撃の威力を上げることが可能となり、遠距離からの攻撃に多くの選択肢を与えてくれます」

「・・そ、そうなの?」

「えぇ。今は第2世代のゴッドイーターが増え、遠距離からのバレッド攻撃は、牽制に使われることが多くなりましたが、2,3年前までは第1世代で銃型のみのゴッドイーターの皆さんも多く、皆その研究に勤しんでおられたようです。今でも、ジーナさんなんかは・・」

「あ、あの、シエル!ストップ!」

留まることを知らないシエルの弁論を、ヒロは必死に呼びかけて止める。ハッとしてからシエルが恥ずかしそうに俯くと、ヒロもホッと胸を撫で下ろし、ゆっくりと話し掛ける。

「えっと・・・、それで?シエルの銃型が、どうおかしいの?」

「そ、そうでしたね。失礼しました。・・・壊れたという程の事ではない、違和感といった方がよろしいでしょうか?ほんの些細なことなんですが」

そう言って、シエルは目の前でバレッドを、訓練用の標的に当てる。着弾したそれを見ても、特に違和感を感じれないヒロは首を横に傾ける。

「えっと・・・・。よく、わかんないんだけど・・」

「そうですよね。・・・でも、任務中には、確かに違和感を感じるんです」

シエルの方も首を傾げてしまう始末で、解決には程遠いと思ってか、ヒロはある提案を口にする。

「あのさ、こういうのって、専門家に聞いた方が早くない?」

「え?」

 

 

シエルの神機を、とりあえず目で確認していきながら、リッカは引き金にかけられていた疑似偏食因子サポーターのスイッチを押す。

調整の為に神機に直接触れないリッカ達開発者は、これを使って神機の使い勝手を調べている。

ガァンッ!!

発射されたバレッドが着弾した的を眺めて、リッカは頷きながらヒロとシエルの傍へと戻って来る。

「成る程。違和感って、多分威力が上がってるからじゃない?」

「威力、ですか?」

シエルの疑問に、思案の表情を崩さぬまま、リッカは続ける。

「正確には、『付与されてる』って言った方がいいのかも・・。君達ブラッドが使う、ブラッドアーツのデータで見たものと、近いものだと思うんだけど・・」

「ブラッドアーツに・・似た・・バレッド」

ヒロが何となしに口にした言葉に、思いついた事があるのか、リッカはもう1度シエルの神機の傍へと移動する。それから、的を透明なガラスに切り替えて、その中に何かを落としてから、もう1度発砲する。

ガァンッ!!

着弾した的を取り出し、それを見てから、リッカは納得したように口の端を浮かべる。

「やっぱり・・。凄いなぁ、これ。シエルちゃん、お手柄だよ」

「え?・・あ・・はい」

何のことかわからず答えるシエルの元に、リッカは笑顔のまま近寄り、的を見せる。ガラス面は当然割れており、中に入れられた何かも、焼失したのか見当たらない。

ヒロと顔を見合わせてから、シエルがリッカに目を向けると、彼女は二人の疑問に答えてくれる。

「これの中にはね、サンプルに貰ってた感応種の1部が入ってたの。でも、見事ドカーン!この意味、わかるよね?」

「・・・・あっ!?」

「そう。これは、ブラッドの血の力を付与し、形状変化したバレッドって事。言うなれば、『ブラッドバレッド』ってとこかな」

「ブラッド・・・・、バレッド」

二人は思わず呆けてしまったが、リッカは楽しくなったのか、勝手に一人で別の実験の準備を始めていた。

 

 

リッカの実験を名目に、外に出てきたヒロとシエル。そこに偶々居合わせたジーナも、「面白そう」ということで、付き合ってくれていた。

使う回数を増やすごとに、ブラッドバレッドは色々な傾向が見えだし、『喚起』の能力の影響か、ヒロも撃てるようになってきた。

しかし、

「ん~・・・やっぱり、駄目みたいね」

ジーナの神機からは射出されなかった。

ブラッドバレッドを作るコツを掴んでか、シエルが自分の神機で生成したものを、ジーナに渡していたのだが、変化が起こるどころか、引き金を引いてもバレッドは飛び出さなかった。

やはり、ブラッドバレッドは血の力に反応していると、言わざるを得ないという結果になったのだ。

「すみません、ジーナさん。わざわざ付き合って下さったのに・・」

「あぁ、いいのよ。どうせ暇してたし、撃ちたかったしね・・ふふ」

「撃ちたかった・・ですか・・」

妖美に笑って見せるジーナに、ヒロは背筋が寒くなってか・・・それとも疲れがでたのか、ふらついてジーナに寄りかかってしまう。

「あっと・・、大丈夫?」

「あっ!?す、すいません!」

「ふふっ。初心なのね」

揶揄う様な目つきで見てくるジーナに、ヒロはどぎまぎしながら離れる。それにムッとしてか、シエルが後ろから彼の右手をツネる。

「いたっ!シエル、ちょっと!?」

「・・・知りません」

そっぽを向くシエルと、困惑するヒロを見て、ジーナは可笑しそうに笑う。そんな彼女の目に、二人の向こうで飛んでいる、ザイゴート1体が映る。

「二人共。あれ、貰うわね」

「え?」

返事はいらないと言わんばかりに、ジーナは二人を追い越してから構え、スコープ内に荒神を捉えてから、引き金を引く。

ガァンッ!!

「・・・・あら・・」

「あれ?」

「まさか・・」

見事命中し、沈黙するザイゴートを他所に、三人は今の事象に、同時に疑問符を浮かべる。

そして、撃った当人のジーナが、頬を軽く指で掻いてから、固まってしまった二人へと視線を向ける。

「何か・・・出ちゃったけど?ブラッドバレッド・・」

「「えぇーーーっ!?」」

ブラッド以外で初の、感応種に対抗できる力が生まれた瞬間だった。

 

 

極東に戻った三人は、リッカとブラッドへ報告し、リッカの勧めで、榊博士に相談しに来ていた。

榊博士も驚いていたが、ヒロ達の説明を聞いているうちに、自分なりに答えを推測したのか、1つの答えを提示する。

「おそらくだけど、ヒロ君の『喚起』の力によるものだと、私は考える」

「僕の・・、ですか?」

大きく頷いてから、榊博士は続ける。

「ジーナ君との任務の中で、彼女の中の真の力を目覚めさせたのだろう。上手くいけば、第1,2世代のゴッドイーターもブラッドアーツを使えるようになるだろう。これはラケル博士の言葉を借りてになるが、君の血の力は、ブラッドだけではなく、全てのゴッドイーターの導き手になるのかもしれないね。まぁ、血の力もというのは、無理だろうけど・・」

「は、はぁ・・」

またも無意識だった為、ヒロは首を傾げることしかできない。そんな彼に、榊博士は笑いながら、フォローをする。

「なに。君は、難しく考えなくていい。ただ、ジーナ君のように、みんなと仲良くしてくれれば良いって事さ」

「な・・・成る程・・」

取り合えず納得といった表情になるヒロに安心してか、榊博士は背もたれに体を預ける。

そこで急に、ナナがガバッと立ち上がってから、ヒロへと嘆きだす。

「あーーっ!!よく考えたら、ヒロってば!私達より、ジーナさんを優先したって事!?」

「・・・え?」

そんなことを言い出すものだから、お騒ぎ番長のロミオも、同調して立ち上がる。

「あーーっ!!そうだよ!ヒロ!お前、ジーナさんの色香に、優先順位を代えたな!?」

「えぇ!?そんな・・違っ!」

慌てて否定するヒロを面白がってか、ジーナはいつもの妖美な微笑みのままヒロを捕まえて、頬に手を当て、自分の方へ向かせる。

「へぇ~。ヒロ君は、お姉さんにそんな劣情を抱いていたの。言ってくれれば、いいのに・・」

「い、いいい、いやその・・・」

顔の近さに完全に狼狽えてしまうヒロ。そんな光景を面白くないと思ってか、シエルがヒロの隣に、音を立てて座り、ヒロの右手を力強くツネる。

「いたっ!痛い痛い!シエル、ちょっと!!」

「ヒロ・・・・、不潔です」

世話になってる極東支部長の部屋で騒がしくなったのを、ギルは可笑しそうに声を殺して笑い、ジュリウスは眉間を押さえて険しい表情になる。

そんな皆を眺めながら、榊博士は笑顔で声を洩らすのだった。

「君も・・・興味深いね。ヒロ君」

それから30分後。報告に訪れたレンカによって、全員その場で正座させられたのだった。

 

 

 

 

 





何とか本編に寄せようとして、何かやりすぎたかも・・。

でもシエルを可愛く書くのは、楽しい!


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