GOD EATER2 ~絆を繋ぐ詩~   作:死姫

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19話 英雄に憧れて

 

 

極東支部の開発局。そこの3階奥にある、榊博士の研究室で、ソーマは一人PCのキーボードを打ち、作業している。

そこへ、

ガチャッ

「いよっ!」

「ん?・・お前か」

コウタが缶コーヒーを2本持って、入って来る。

その内の1本をソーマに投げると、彼は特にそちらを見ずに、それを手の中に収める。

「少しは、休憩しろよ」

「・・・あぁ」

コウタの笑顔に観念してか、ソーマはデスクから立ち上がり、ソファーのところまで移動して腰を下ろす。

それから、手の中の缶を確認してから、それが缶コーヒーとわかってから、顔をしかめて舌打ちし、再び立ち上がる。

「ちっ・・・。コーヒーなら、自分で入れる。ついでに、お前のもな」

「あんだよ~。これ、美味いと思うんだけどな~?」

「俺は、お前ほど甘党じゃない・・」

そういって自動ドリッパーのスイッチを入れて、数分もしないうちにガラスポットの中にコーヒーが出来上がる。手慣れた手つきでカップに注ぎ、一つをコウタに渡してから、改めて腰を落ち着ける。

暫く黙って飲んでいたコウタが、ソーマに視線を向けてから口を開く。

「なぁ・・・。何で・・・このタイミングで、ブラッドの奴らに指導したんだ?」

「指導はしてねぇ。売られたから、買ってやっただけだ」

「喧嘩のつもりでアレかよ!?怖いんだよ!!」

思わずいつものノリで突っ込んでしまった自分に咳払いしてから、コウタは話を続ける。

「そうじゃなくって。・・・ブラッドは駆け出しだろ?正式に認定されて間もない新人の、自信を挫くことなかったんじゃないかって、言ってんだよ」

そんなコウタの言葉に、ソーマは手の中のカップをテーブルに置いてから、天井に顔を向けてから答える。

「・・・感応種が増え続ける今、遅かれ早かれ、あいつ等はゴッドイーターの中心となる。その時になって、遅かったじゃあ話にならねぇ。それは、あいつ等自身もわかってたはずだ」

「ソーマ・・・」

「お前だって、ピターの時に思ったんじゃないのか?・・俺も、その時痛感した」

「・・・・・あぁ」

今思い返しても、悪夢のような時間だったと、コウタは手の中のカップに力を籠める。

「荒神の成長は止まることを知らない。いずれ俺やユウも、殺されるかもしれない」

「お・・おいおい・・、よせよ・・」

「無いという保証が、どこにある?事実、俺達が経験した驚異の前で、ユウはいつでもギリギリだった。逆に言えば、あいつが限界を超えた力で踏ん張ってなかったら、極東どころか・・・下手をすれば、世界なんざ当に滅んでる」

「・・わかってるよ」

少し切ない気持ちで、自分の前でいつもボロボロの姿で戦う神薙ユウの背中を思い出し、コウタは目を閉じる。

「あいつ等は世界の希望になる。だから・・・今でいい。挫けるのも・・・、這い上がるのもな」

夜は静かに、時を刻む。

 

 

宿舎の近くの廊下で、ジュリウスは窓に手を置いて、外を眺めていた。

 

『今日は・・・、解散する。皆、明日からの任務に備えろ』

 

今日最後にブラッドに言った言葉を振り返り、本当はもっと言うべきことがあったのではと、ジュリウスは目を閉じて後悔する。

ブラッドの始まり。最初の第3世代のゴッドイーターにして、最初に血の力に覚醒したジュリウス。そのことに、自信を持っていた。早くに実戦を経験し、自分はやれると思っていた。

しかし今日、それは思い上がりだと知らされた。

(いや・・・違う。そうじゃないだろう!・・・)

そう。自分は最強と謳われる一人、ソーマ・シックザールとも渡り合える隊長なのだと、ブラッドの更なる躍進につなげようと・・・、正直舐めていたのだ。

(ソーマさんが言った時点で、気付くべきだったんだ。・・・『舐めるな』という言葉に・・)

結果、自分に巻き込まれる形で、ブラッドは自信を喪失している。それが歯痒くて、ジュリウスは顔を歪ませ、ガラスに顔を打ち付ける。

「・・・・意外ですね。貴方のような綺麗な顔の人は、そんな顔しないものだと思ってました」

突然声を掛けられてからハッとなり、ジュリウスは声の主へと顔を向ける。

「あ・・・あなたは・・」

「でも、その方が好感持てますよ?ジュリウスさん」

いつの間にそこにいたのか・・。優しく笑う、歌姫ユノが立っていた。

軽い足取りで隣まで来ると、ユノは大きく背伸びをしてから、ジュリウスに話し掛ける。

「聞きましたよ。ソーマさんに、ぼこぼこにされちゃったって」

「・・・私の・・、思い上がりのせいです」

もう知れ渡ってるのかと、ジュリウスは更に気落ちした表情になる。しかし、そんな彼の前に人差し指を突きつけてから、ユノは少し厳しい顔をする。

「わかりません?挑んだことが思い上がりじゃなく、今落ち込んでることが、思い上がりなんです!」

「え・・・・いえ、それは・・・」

「ここでうじうじして、自棄になってて、いいんですか?」

突然責め立てられ、ジュリウスは戸惑ってしまいながらも、ユノの言葉が、胸に刺さるのを感じる。

「ソーマさん、言ってましたよ?『極東の後輩達に見習わせたい、良い部隊だ』って。そんなソーマさんの気持ち、踏みにじるんですか?」

「・・・ソーマさんが・・・、そんなことを・・」

少しだけ生気が戻ってきた顔に満足してか、ユノは再び笑って見せる。そして、遠くの空に輝く、青い月を指さす。

「あの月・・・・。何故、青くなったか・・・知ってます?」

「あ・・・、いえ」

何故そんな話をと、困惑するジュリウスに、ユノは昔話を語る。

「荒ぶる神が蔓延る世界。その最前線である極東に、一人の白い少女が産まれました。彼女は・・・、人の形を模した、荒神でした」

「なっ!?・・それは、本当・・」

「最後まで・・・、ね?」

人差し指を前に、「静かに」という仕草を見せ、ジュリウスが黙ったのを合図に、彼女は話を続ける。

 

彼女は自分が産まれた意味がわからず、仲間も見つけられず、一人寂しく暮らしていました。

そんな時、一人の傷付いたゴッドイーターに出会い、『あ、これは仲間だ』と、優しく介護します。しかし、彼は突然いなくなってしまい、彼女は前以上に寂しさに襲われます。

それから数日が立ったある日、ご飯を食べに外へと散歩に出かけた彼女の前に、六人のゴッドイーターと一人の博士が現れます。

ずっと独りぼっちだった彼女に、彼等はご飯だけでなく、服や、知識や、言葉や、感情を与えてくれました。

そんな彼等の中の一人の少年に、少女は他の人達とは違った感情を覚えます。彼は、彼女に『シオ』という、名前をくれました。

シオは彼や仲間達が大好きになり、彼等もまた、シオを大好きになりました。

もう独りぼっちじゃない。寂しくないと思って暮らしていたある日、シオは彼等の目の前で攫われてしまいます。

彼女を攫われた怒りに奮起し、彼等・・・ゴッドイーター達は、攫って行った悪者と必死になって戦い、最後には勝利を収めます。

ですが、あと1歩間に合わず、シオは空っぽの身体を残して死んでしまいました。

悲しみに明け暮れる彼等に、そんな時間を与えまいと、悪者はシオを使った大きな実験によって作った、巨大な荒神を解き放ちます。

『終末捕食』。彼は世界を滅亡させようと、していたのです。

しかし、奇跡は起こりました。

巨大な荒神に取り込まれたはずのシオが、生きていたのです。

シオは、自分が巨大な荒神ごと宇宙に行くと言い出しました。勿論、ゴッドイーター達は、必死に説得します。

でも、シオは、『大好きなみんなを、殺したくない。食べたくないよ』と泣いて、自分の選んだ道を、許してほしいと頼みました。

そして最後に、一番大好きだった少年に、別れを告げ、彼の神機に、自分だった体を与え、空へと飛び立ちました。

少年の想いと、シオの想いが重なってか、彼の神機は、彼女の身体のように真っ白に変わり、皆それを見つめながら、泣き続けました。

止まらない『終末捕食』を月で起こし、世界を救った彼女は、今もそこで待っています。

また、みんなに・・・・彼に、会える日を・・。

 

話し終えたユノの横顔を見つめながら、ジュリウスは途中で止められた質問を、彼女へと改めて口にする。

「何故その話を・・・、いえ。今の話、創作ですか?それとも・・現実に、あったことですか?」

「貴方は、どっちがいいです?」

「え?・・・」

「貴方なら、どっちを望みますか?」

逆に聞き返されて、ジュリウスは少し考える。それから、何かを思い出したかのように、フッと笑みを浮かべて、ユノへと答える。

「私は・・・、事実であってほしいと、願います」

「そう。なら、明日から、また頑張れますね」

そう言ってユノは、自分の部屋に戻る為に、踵を返して歩き始める。そんな彼女を見送りながら、ジュリウスは自分の質問の答えを求めて呼び止める。

「あ・・・待って下さい、ユノさん!私の質問の答えを・・」

その呼びかけに足を止め、ユノは顔だけ振り向いてから、優しく微笑んで答えた。

「貴方達が大好きな、英雄の話ですよ」

 

 

誰もいない神機保管庫で、ヒロは自分の神機の前に立っていた。

そんな彼の耳に、ジュリウスが最後に言った言葉が、ついて離れない。

 

『今日は・・・、解散する。皆、明日からの任務に備えろ』

 

落胆していた。悲しんでいた。苦しんでいた。

それをわかっていたのに、自分の事でいっぱいいっぱいで、何も声を掛けれなかった。

そんな自分が嫌で、ヒロは手すりに置いた腕の中に、顔を埋める。

「・・あの・・」

「あ・・・・」

声を掛けられて驚き、ヒロは涙ぐんでいた顔を拭いてから、振り返る。

「シエル。・・どうしたの?」

仲間とわかってか、副隊長として情けない顔を見せまいとしてか、ヒロは必死に笑顔をシエルに作って見せる。

そんな彼に、シエルは黙って近寄り、その傷付いた背中に、体を預ける。

「副た・・・、ヒロ。・・無理に、笑わなくても、良いんです。貴方だって、辛いんですから・・」

「あ・・・その・・・、え・・・・・・・くぅっ!」

その優しさと温もりに、ヒロはシエルに見えないように、顔を歪ませ、涙を零す・・・が、

「はい、ストップ!!」

「「へ?・・・・・・ひゃぁっ!!」」

それを許さぬといった渋い表情で、リッカが手の平を前に出して、二人に声を掛けてきた。

そんな彼女の存在に跳びあがってから離れ、二人は思わず正座する。

「あ・・・の、その・・」

「ど、どうも・・。リッカさん」

何故か反省しなければという意思を込めて縮こまっている二人。それを見降ろしながら、リッカは盛大に溜息を吐いて見せる。

「あのねー、隠れてラブラブしたい気持ちは理解するけど、私と旦那様の思い出の場所でするのは、やめてくれる?なーんか、少しだけ似た状況だし・・」

「ら・・ラブラブなんて!?」

「ぼぼ、僕達は、そんな!?」

その初々しい反応に、またも溜息を洩らしてから、リッカは右手の親指を立ててクイッと捻り、自分について来いと合図する。

少し固まってから顔を見合わせ、ヒロとシエルはゆっくりと立ち上がり、リッカについて歩き出した。

 

自分の作業場に二人を連れてきてから、リッカは小さな冷蔵庫からビールを取り出す。それを喉に一口流し込んでから、移動した先の台に置かれた電話のワンプッシュダイヤルを押して、その隣へとすがる。

いったい何なのだろうと、二人が首を傾げていると、数回のコール音後に、スピーカーから声が響く。

『もしもし』

「もしもし。今、大丈夫?」

『うん、大丈夫だよ。時間通りだね』

「私があなたとの約束を、破ったことあったっけ?」

『うーん・・・、どうだったかな?』

「また、そうやって意地悪ばっかり言うんだから。そんなとこも、好きだけど」

何のこともない世間話を聞かされていると、シエルは疑問に疑問を重ねた顔をしていたが、隣のヒロの反応に、目を大きくして驚く。

彼は口を半開きにし、目にいっぱいの涙を浮かべて、震えていたのだ。

そんなヒロが、何か言おうと必死に口を動かしてるのに気付き、リッカはフッと微笑んでから電話の主に用件を伝える。

「先に話しすぎたね。すぐそこにいるから、彼。話したかったんでしょ?」

『うん。ありがとう、リッカ』

「いいえ、旦那様」

その言葉でハッとし、シエルもヒロ同様、緊張をその顔に見せる。

『聞こえる?ヒロ。僕の事、わかる?』

「・・・・・わす・・、忘れたことなんて、1日も・・・ありません、でした」

もう流れ出した涙で、ぐちゃぐちゃになった顔を隠すのも忘れて、ヒロはゆっくりとその場に膝をつく。そんな彼を、何故か自分までも感動に涙しながら、シエルが優しく肩を抱く。

『そう?嬉しいな。・・・ちゃんと、ゴッドイーターになったんだね。おめでとう』

「あ・・・あの・・、ありが、とう・・・ご・・・・うあっ・・」

もう抑えられない感情に、言葉が上手く話せないと判断してか、ヒロは大声で彼の名を叫んだ。

「ユウざーーーーーん!!!」

『うん。元気そうで、良かった』

ヒロにとって、彼の言葉こそが救いだった。

ユウの名を叫びながら泣くヒロ、それを支えながら貰い泣きするシエルを見守りながら、リッカは静かに笑みを浮かべてビールを飲み干した。

 

 

二人が去ってから、リッカは2本目のビールを取り出して一口飲み込む。それから、まだ繋がっている電話に向かって声を掛ける。

「あなたらしい、素敵なアドバイスだったよ。ユウ君」

『そうかな。上手く・・、伝われば良いんだけど』

心配そうな声を出すユウに、リッカは微笑みながら頬杖を突き、答える。

「大丈夫。ヒロ君も、ブラッドも・・・、ちゃんとあなた達の気持ちを理解できてるから。もっとも・・・、ソーマ君は遠慮ないと思うけど・・・・ね?」

「ふん・・・。優しくするとは、言ってねぇ」

そこにいたのを気付いていたのか、わざと嫌味を言ったリッカの言葉に、返事をしながらソーマが部屋に入って来る。

そして、それに続いて、リンドウ、コウタ、アリサ、レンカと、クレイドルのメンバーが入って来る。

「ぞろぞろとまぁ、夫婦の愛の語らいの邪魔をしに・・もう!!」

「ま、まぁ、良いじゃないですか。俺達は、滅多にユウさんとは話せませんし」

「ちわっす!ユウさん!マジ元気っすかー!?」

「ちょっと、コウタ!?押さないで下さい!ユウ、お久しぶりです」

「よう、ユウ。1ヶ月ぶりか?・・・そこに姉上はいないよな?」

『はは。いたりして・・』

『私がいたらどうだというんだ?リンドウ』

「ふん・・・。相変わらず、揃えば騒がしい」

ほんの一時ではあるが、クレイドルも久方ぶりの会話に、花を咲かせた。

 

 

 





こんな先輩、欲しいわ~。
書いてて、羨ましくなる。

本当の意味で、ブラッド始動です!



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