「それじゃあ、今日は立食パーティー形式をとってるから、自由に飲み食いして、時間が許す限り、騒げーー!!」
《イエーーーーーーーイ!!》
ユノの歌が終わってから、コウタが食事のGOサインを出すと、皆料理に飛び掛かるように動き出す。ブラッドからも、ナナがその中をすいすい泳ぐが如く割って入っていく。
そんな中、歌い終えたユノを、ヒロは何となく目で追ってると、ある人物の前で足を止め、話し掛けているのが見える。
その姿に、ヒロは思わず身震いし、我を忘れたかのように、そこへと足を運ぶ。
ユノが駆け付けるのを目にし、青年はその長身を預けていた壁から離れ、ユノへと歩み寄る。
「帰ってたんですね」
「あぁ。気を遣わせたか?妹」
「兄さんの親友ですから。ソーマさんは」
「ふん。兄妹揃って・・」
褐色の肌にかかる雪のような白髪をかき上げてから、ソーマ・シックザールはユノに笑いかける。
「あいつは・・・間に合わなかったみたいだな」
「えぇ。兄さんはイタリア支部の方に行っているみたいです」
「そうか。・・・だが、リンドウは戻ってきてるだろう?」
「俺が、なんだって?」
名前を出した矢先に、ソーマの肩に手を回してきた雨宮リンドウ。その後ろから、アリサとレンカが顔を出す。
「リンドウさん。お久しぶりです」
「よう!お前さん、また綺麗になったな」
「そ、そうですか?」
「あんまりお痛が過ぎると、サクヤさんに報告しますよ、リンドウさん」
「おいおい。この程度、別に構わんだろ」
手をヒラヒラ振ってからアリサに反論するリンドウの腕を、ソーマは掴んで肩から外させる。
「いい加減重い。・・・空木、変わりないか?」
「あぁ。今のところ、ソーマの手を借りる程の問題は無いから、研究の方を優先してくれ」
「そうか・・」
「あらあら。クレイドルが揃って、悪巧みですか?」
後輩に掴まってるコウタと、遠征で戻ってない二人を除いて、独立支援部隊クレイドルが揃った場所に、サツキもひょっこり顔を出す。
「おう、サツキちゃんも久しいな。また背が伸びたか?」
「こんな歳で、伸びるわけないじゃないですか。もう酔ってるんですか?リンドウさん」
「まったくです。あ、サツキさん。例のサテライト拠点の第3建設予定地の件、話がまとまりましたよ」
「うっそ!?流石アリサさんは、仕事が早い!」
「おいおい、仕事の話を今するなよな~」
クレイドルと深い縁を持つユノとサツキ。会えばまるで家族のように、話の輪が広がる。とそこに、
「・・・・あの」
「ん?」
ソーマの前まできたヒロが、話し掛けてきたのだ。
「ソーマ・・・・シックザールさん、ですよね?」
「あぁ。・・・お前は・・・・、確かブラッドの・・」
「神威・・ヒロです」
「・・・そうか。お前が、あいつの言ってた・・」
意味深な言葉と共に、ヒロへと体ごと向けて立つソーマ。その威圧感に、ヒロは緊張で背中に汗を流す。
「ほぉ~。あん時の少年か・・。男はすぐデカくなるな」
「リンドウさんも、面識あったんですか?」
「あぁ。ユウと姉上と、回り始めにな」
「あ、あの・・・・その・・・」
ユウとソーマのことが気になり、歓迎会の前の空いた時間を使って、ヒロが調べたこと。
独立支援部隊クレイドル。旧極東第1部隊。
その顔ぶれが揃っていることに、今頃になって気付き、ヒロは背中だけでなく、全身から汗が噴き出る。それと一緒に、ソーマに聞きたかったことも、零れてなくなってしまい、軽くパニックになってしまう。
「なんだ?用でもあるのか?」
「この状況で、その聞き方自体、どうかと思いますけど?」
「ヒロさん。ソーマに質問があるなら、何でもおっしゃってください。彼なら答えてくれますよ?」
「出たよ!姉上仕込みの他所向け敬語!気持ち悪~」
「なっ!リンドウ!」
周りが盛り上がるばっかりで、話が進まないのをよくないと思ってか、ソーマは溜息を吐いてヒロの腕を掴む。
それから振り返り、ユノへと声を掛ける。
「妹。悪いが話は明日以降でもいいか?こいつが、俺に用事らしいしな」
「え?あ、はい」
「それと、ユウの近況なら、リンドウに聞いた方が良いだろう。・・・おい、行くぞ」
「わ・・ちょ、えぇ!?」
言うだけ言って話を終わらせ、ソーマはヒロを引っ張って、団欒室から表へ出た。
「・・・行っちゃった」
「リンドウさん、あの子殺されたりしませんよね?」
「サツキちゃんはソーマを何だと思ってんだよ」
「大丈夫ですよ。ソーマは何だかんだいって、優しいですから」
「本当に。柔らかくなっちゃいましたよね。ソーマ」
騒ぐのが嫌いなわけではないとはいえ、何となく取り残されたギルは、ビリヤード台の近くの椅子に腰かけて、一人ビールを飲み干す。
最初口にした時には、2度と飲むかと思っていたが、ある時から飲むのがやめられなくなっている。
(・・・・やっぱり・・・、まだ不味いです。・・ユウさん)
「フラッキング・ギル」なんて不名誉な呼ばれ方をされ、いつしか腐っていた自分を叱ってくれた尊敬すべき人を思い出しながら、ギルは持ってきていたビールをもう1本手に取り、喉へ一気に流し込む。
「・・・・酒、飲むようになったんだな?ギル」
「え?」
聞き覚えのある声に、ハッと顔を上げると、そこにはかつての上官の顔があった。
「・・ハルさん!?」
「よぉ!ブラッド隊に、転属してたんだな」
そう言って隣に腰を下ろした真壁ハルオミは、ギルの持ってきていたビールの1本を拝借し、勝手にぐいっと流し込んでから、笑顔を見せる。
「ハルさんこそ、極東に転属してたんですね」
「あぁ。グラスゴーから逃げ出して、シカゴ支部に行ってたんだが、肌に合わなくてな。結局古巣の極東に戻ってきちまったよ」
「そう、ですか。・・・そういえばハルさん、極東出身でしたよね?」
突然のハルオミの登場に、少し緊張してしまうギル。かつての上官と部下にしては、妙な空気ではあるが・・・。
そこへ、
「ギルー!」
ナナが両手にチキンを持って、走って来る。
「ん?・・ナナか。どうした?」
「あのね、ヒロがいないんだけど、誰も知らなくて・・。ギル、知ってる?」
「いや・・・。わかった、俺も探す」
そう言って逃げるように立ち上がってから、ギルはハルオミに軽く一礼する。
「ハルさん、すいません。用事が出来たんで・・」
「あぁ、構わないさ。一緒の支部にいるんだ。またゆっくり、話そうぜ」
「はい。ナナ、シエル辺りが知ってるんじゃないのか?」
「そのシエルちゃんが、オロオロして言ってきたんだもん」
二人の去って行く背中を見送ってから、ハルは残りのビールを一気に流し込み、それから切なげに笑ってから言葉を洩らす。
「まだ・・・、気にしてんのかよ。・・・・ギル」
なんだか無性に、昔辞めた煙草を吸いたくなったハルの目の前に、タイミングよく煙草が1本飛んでくる。それをキャッチしてから視線を向けると、リンドウが壁に背を預けて右手を上げて見せる。
「・・リンドウさん」
「ハル。付き合わねぇか?」
そんな気遣いに、軽く肩を上げて見せてから、ハルは立ち上がりリンドウの元へ歩き出す。
「リンドウさんの誘いじゃあ、断れませんな~」
「こらこら~。悩み多き若者への救いの手を、悪の道への誘惑みたいに言うんじゃない」
そうして二人連れ立って、喫煙室へと足を運ぶ。
静まり返ったエントランスの一角。
ソファーに腰を落ち着けてから、ソーマはヒロへと声を掛ける。
「悪かったな。・・・基本極東は騒がしいのが好きな連中が揃っていてな」
「え・・・いえ。僕が緊張して、話せなかっただけで・・」
「そうか・・」
元々物静かな性格のソーマに、少しだけ落ち着きを取り戻してから、ヒロは話し掛けてみる。
「あの・・・、ソーマさんは・・やっぱり、強い・・・ですよね?」
「あ?・・・そんなことが、聞きたかったのか?」
「・・えっと・・・、さっきてんぱっちゃって、聞きたいこと、忘れちゃって・・」
少し恥ずかしそうに頭を掻くヒロの様子を、ソーマは黙ったまま見つめる。それから、何か思うことがあったのか、フッと笑みを浮かべてから、口を開く。
「何を基準に言ってるかわからないが、俺は周りが騒ぎ立てる程、強くはない。「地上最強」ってのも、フェンリル本部に威厳を示すために、親父が言い出したのが切っ掛けだしな」
「そう・・・だったん、ですか」
「あぁ。後は尾ひれがついて、今に至るって訳だ」
以外にも普通の応対をしてくれるソーマ。話に聞いていたより、ずっと友好的な人なのかもと、ヒロは少しだけ笑顔を作る余裕ができる。
そこへ、
「ヒロ、探したぞ」
「あ、ジュリウス」
団欒室から出てきたジュリウスが声を掛けてくる。
その言葉に、ヒロはブラッドの誰にも何も言わず行動してたことを、今更ながら思い出す。
「ごめん。よく考えたら、誰にも言ってなかったね」
「いや、構わない。シエルが一人騒いでいたと、ナナから聞いたからな」
そう言って笑いかけてくるジュリウスに、ヒロも笑顔を返す。そんな光景に、在りし日の自分と親友を重ねて、ソーマは懐かしさに目を閉じてから立ち上がる。
「ヒロ・・だったな。また聞きたいことがあれば、榊のおっさんの研究室に来い。運が良ければ、そこに大抵いる」
そう言って歩き出した彼に、ジュリウスがハッとして声を掛ける。
「ソーマ・シックザールさんと、お見受けします」
「・・・・そうだ」
ジュリウスの呼びかけに、足を止めて振り返るソーマ。彼も最強に話を聞いてみたいのかと、ヒロは楽観的に考えていると、ジュリウスは飛んでもないことを口にした。
「地上最強の異名を持つあなたに、お願いがあります。私と、お手合わせ願えませんか?」
「え?・・・」
「ほぉ・・」
ヒロとは違い、特に驚きもしないで、ソーマはジュリウスへ聞き返す。
「何故俺と、手合わせなんだ?対人格闘も必要ではあるが、俺達が相手するのは、荒神だぞ?」
「理解しています。ですが、その強さを知るのに、直接肌で受けた方が、身になると考えたからです」
そんな彼の目を見てから、本気なんだと思い、ソーマは目を閉じてから「ふん」と鼻を鳴らす。
その瞬間、
ドクンッ!
「「・・っ!!?」」
その殺気を向けられたジュリウスだけではなく、その場にいたヒロも、心臓を鷲掴みにされたような恐ろしさに、身を震わせる。
「・・・最強なんてものに、興味はねぇんだ。俺も、あいつもな・・。だが、実戦に出だしのひよっこに舐められる程、弱いつもりもねぇ」
「・・・・重々・・・、承知しています・・」
「・・・うっ・・」
気圧されないように足を踏ん張らせる二人に、面白いといった感じで冷たく笑いかける。
「良いだろう・・。明日の朝7時に、訓練所に来い。・・・怪我ぐらいで済むなんて甘い考えは、捨てて来いよ」
そう言ってソーマは、神機保管庫の方へと去って行った。姿が見えなくなってから、二人は膝をつき、呼吸を整えるのに、暫くの時間を要するのだった。
ジュリウスとヒロがいるすぐ近くの階段下で、残りのブラッド四名も、ソーマの殺気にあてられてか、その場で呼吸を荒げている。
外を探していたのを戻ってきたところ、ジュリウスの話し声にそこへ向かった瞬間、その恐ろしさに、思わず階段下に隠れたのだ。
防衛本能とでも、言うべきものが働いて・・。
今だ治まらぬ呼吸のまま、ギルが声を洩らす。
「はぁ・・はぁ・・、俺も、・・明日参加する」
「本気・・・はぁ・・はぁ、です、か」
シエルの問いに答えるように、ギルはゆっくりと首を縦に振る。
「あいつ等だけ・・はぁ・・、先に、行かせるかよ・・」
「そう、ですね・・はぁ・・。私も・・参加します」
「はぁ・・はぁ・・はぁ、んっ・・あ、あたしも・・やる」
「はぁはぁはぁ・・く・・ぎぃ、お・・・はぁ・・俺も・・やるよ・・」
それぞれの思うところを胸に、ブラッドは明日対峙する、最強の恐怖に、立ち向かう覚悟を決めた。
「えーっ!?本気なの!?」
「あぁ・・・」
自分の神機の調子を伺いに、リッカのところへやってきたソーマは、ついさっきの出来事を、リッカに世間話感覚で口にしたのだ。その話に、リッカは溜息交じりに、「どうかしてる」と頭を掻く。
「そんなことより、神機はどうなんだ?」
「そんなことって・・・。まぁ、ソーマ君は細目に調整に出してくれるから、良好かな」
「ならいい。明日は、昼に1度出る」
それだけ言ってから、ソーマは立ち去ろうとする。そんな彼の背中に、リッカは何か気にかかってか、声を掛ける。
「それで?・・・ブラッドの方は、どうする?」
「・・・ふん。どうせ、察しはついてるんだろ?」
そう返してくるだろうと予想していたのか、リッカは苦笑してから作業台へと戻る。
「わかったよ。・・・あんまり、苛めないであげなよ?旦那様のお気に入りも、いるんだからさ」
「お前の旦那程、俺は優しくできないな・・」
「あっそー」
手をヒラヒラさせて話を切ったリッカを見てから、ソーマはその場を後にした。
結構一気にアップしました!
その理由は、ソーマがかっこいいからです!
ちょっと色付けすぎてる気がしますけど・・・w