GOD EATER2 ~絆を繋ぐ詩~   作:死姫

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14話 激戦地、極東へ

 

 

ヒロが解放された次の日。

ブラッドはラケルの研究室に呼ばれていた。

皆の顔を確認してから、ラケルはいつもの涼しい表情のまま、話し始める。

「神機兵の無人運用テストの護衛、御苦労様。あなた達の互いを思う気持ち、そのお陰で、神機兵も、あなた達ブラッドも失わずにすんだわ。これからも、その気持ちを忘れずに、励んで下さい」

《了解!》

六人揃っての返事に、満足気に頷いてから、ラケルは話の本題へと移る。

「今日呼んだのは、他でもありません。シエルが血の力に目覚めたことによって、ヒロ。貴方の血の力が判明しました」

「え?・・僕の・・・」

ヒロが自分を指さし訴えてくる目に、ラケルは静かに頷いて話を続ける。

「ずっと・・・貴方の血の力は、沈黙を続けてきましたが、先日シエルの血の力が覚醒した時に、同時に貴方の血の力が発動しました。それで確信しました。貴方の血の力は、『喚起』」

「『喚起』・・・?」

「そう。心を通わせた者の、真の力を呼び覚ます能力」

「・・・・・えっと・・」

よくわからないといった感じで、ナナとロミオと一緒に頭を横に傾けるヒロ。その仕草に静かに笑って見せてから、ラケルはわかりやすく説明を始める。

「貴方はシエルと関わっていく中で、彼女の心の中に閉ざされていた感情を揺さぶり、解放しました。それに重ねて、対象のシエルの意志の力を増幅し、ブラッドの真の力、血の力の覚醒へと導いたのです」

「感情の・・・解放?」

「あ・・あの、・・あまり見ないで下さい」

自分ではあまり意識のないことだったので、ヒロはとりあえず当人のシエルに聞いてみるが、その彼女は照れているのか、顔を伏せてしまう。

「血の力を覚醒するには、何か自分の中での感情の高ぶりや意志の強い表れが必要です。その為、覚醒するタイミングにも、個人差が生じます。ですが・・・、貴方の喚起の力で増幅し、後押ししてあげれば、より早い段階で、目覚めさせることが可能でしょう」

皆何故か、大きな息を吐いてから、ヒロを見て感心する。当の本人は無自覚だったので、説明された今でも、実感が湧かないでいるが・・・。

そんな中、元気良く手を上げて、ナナがラケルへと質問する。

「はいはーい!ラケル先生!じゃあじゃあ、ヒロと仲良くなって、シエルちゃんの感情が弾けて、血の力に目覚めたってことで良いんですか?」

「べ、別に弾けては・・!?」

「ふふっ。そうね。間違っては、いないわ」

「ラケル先生!」

恥ずかしさからか目だけチラチラ見てくるシエルに、ヒロの方も何だか緊張してしまう。

すると、ナナは勢いよく立ち上がってから、ヒロにびしっと指をさす。

「じゃあ、ヒロ!もっとあたしと、仲良くなろう!ほらほら、感情を逆撫でして!」

「逆撫でしてどうすんだよ・・」

「ずりーー!!そうだ、ヒロ!俺と一緒に、訓練しようぜ!」

「ロミオ先輩こそずるい!私も訓練する!」

急に騒がしくなった状態に、ジュリウスはわざと咳をして見せ、まだラケルの話の途中だとわからせる。そんな彼の気遣いを理解してか、二人は恥ずかしそうに席に戻る。

「ふふっ。ヒロは一人しかいないんだから、みんなで仲良くね」

「はーい!仲良くしまーす!」

「喧嘩なんかしません!」

どこか幼児をあやす様な台詞に、ナナとロミオは素直に返事をする。それに笑顔で応えてから、ラケルは話を戻す。

「ヒロの喚起の力の説明は以上よ。それと、今日のお昼頃に極東支部に着く予定だから、正装に着替えて準備してね。極東支部で、学べることも多いでしょう。皆、これまで通りに、精進する様に」

《了解!》

 

ブラッドを解散させてから、ラケルは一人、自分のPCの画面を眺める。そこに映っているヒロの映像をゆっくりなぞりながら、妖しく微笑む。

「血の導き手・・・やはり、貴方なのね・・・。最後のコマで、良い拾い物をしたわ・・・」

 

 

装甲壁の内側に設置されてる、貨物トレーラーなどが利用する広い道を通り、フライアは中心に位置する建物の横へとつける。

その様子を、部屋の窓から眺めるグレムは、忌々し気に舌打ちをする。

「何だってこんな、最も危険な支部なんかに来なきゃならんのだ」

「・・・そう言わないで。極東での功績は、本部に認められる一番の近道。あなたが左遷ではないと、本部上層部で踏ん反り返ってる人達に、思い知らせるチャンスでもあるのよ?」

グレムの愚痴に、さっきまで行為に及んでいたレアが、衣服を整えながら答える。食べるところだけじゃなく、性行為にがっつくところまでも、豚とよく似たものだ。

「ふん・・。それに、わしはここの支部長は好かん!挨拶なら、君達姉妹で行ってくれ。わしはここに残る」

「ご自由に。・・・シャワーを浴びてから、挨拶に向かうわ」

「あぁ・・」

鼻息荒く見向きもしないグレムを置いて、レアは部屋を後にする。それから歩き出して、口から本音を洩らす。

「元々こういったことには、期待してないわよ。盛りのついた豚が・・」

 

 

滅多に開かないフライアの大扉。そこから降り立ち、ヒロは辺りを見回す。目の前の建物を中心に、広がる居住区。それを護るように円形に囲う、巨大な装甲壁。

その壮観な景色に緊張しながら、大きく深呼吸をする。

「ここが・・・・・・、極東支部・・」

対荒神殲滅組織フェンリルで最も過酷といわれる最前線の戦闘区域。そこを守護する極東支部。通称『アナグラ』。

憧れの人が戦う地に、ヒロはようやく来ることが出来たのだ。

「ヒロ。そろそろ行くぞ」

「うん」

ジュリウスに声を掛けられてから、ヒロは先を行くブラッドへと、駆け寄った。

 

来客用の入り口から中に入ったところで、一人の青年が丁寧に頭を下げる。それに合わせて、ブラッドも一礼し、代表でジュリウスが挨拶をする。

「初めまして。フェンリル極致化技術開発局所属ブラッド部隊、隊長のジュリウス・ヴィスコンティ、以下五名。本日より、お世話になります」

その丁寧な挨拶に、改めて礼をしてから、青年も自己紹介の挨拶をする。

「長旅、御苦労様です。本日案内役をさせていただきます、フェンリル極東支部指導教官兼独立支援部隊クレイドル所属の、空木レンカと申します。ようこそ、極東支部へ」

握手の為に手を差し出され、ジュリウスはその手を握って挨拶として返す。

「皆さんお疲れだと思いますので、本日は支部長への挨拶と、今後皆さんの神機を管理する開発主任への挨拶のみとさせていただきます。歓迎会の方は明日に予定しておりますので、本日は終了次第、ゆっくりとお休みください」

レンカは1度時計を確認してから、「どうぞ」と促し、自分を先頭に案内を始める。

長く続く廊下を歩く中、黙っていられなかったのか、気になったのか、ロミオがレンカに話しかける。

「あ、あのー。空木さんって、ゴッドイーターですよね?腕輪してますし」

「ロミオ・・」

「あぁ、構いませんよ」

注意しようとするジュリウスを制してから、レンカは自分の腕輪を見えるように少し上げて見せてから、質問の返答をする。

「私は特殊な例ですが、肩書きは退役兵となります。以前色々と無茶をしすぎた影響で、長時間の戦闘が不可能となった為、今は後進の育成に努めています」

「あ・・その、すいません」

「良いんですよ。気に病まれることはありません」

優しい笑顔に胸を突かれて、ロミオはシュンとしてしまう。が、もう話が出来ると判断したナナが、更にレンカに話しかける。

「あのー、因みにですけどー・・・、空木さんって、どんなゴッドイーターだったんですか?」

「どんな、ですか?」

その質問には少し思うところあってか、レンカは少し恥ずかし気に苦笑してから、答える。

「お恥ずかしい話、私はかなり無鉄砲なところがありまして・・。よく先輩や、上官指導員に怒られていまして・・」

「えー!何か落ち着いてるし、全然見えなーい!」

「ナナさん・・」

ナナの反応に、困るレンカ。それを見かねて、シエルが袖を引っ張り注意をする。しかし、別に聞かれて困るようなことではないという感じで、レンカは話を続ける。

「どんなゴッドイーターかという話に、私の戦闘の実績や経験も含むのでしたら、さして自慢できることはありません。ただ・・・、私が誇れることがあるとしたら、旧第1部隊・・今は独立支援部隊クレイドルになるのですが・・。そのメンバーと共に、戦えたこと位ですね」

「旧・・第1部隊・・ですか?」

その言葉が妙に引っかかって、ヒロが聞き返す。それに答えようとレンカがヒロへと振り返る。そこで、レンカは驚きに眼を大きく開く。

「・・・え?えっと・・」

「・・・・あ、すいません。・・ちょっと」

視線を前に戻して、レンカは少し考えているのか、神妙な表情を作る。が、それもすぐに、廊下の先に到達するというところで、元の優しい顔に戻る。

「続きはまたにしましょう。ここから騒がしくなりますので、皆さん離れないようにお願いします。まぁ、さして広くはありませんが・・」

レンカがそう言い終わってすぐに廊下を抜けると、

そこは、別世界だった。

 

「おい!早くしろ!間に合わなくなるぞ!」

「救護班!すぐにヘリを飛ばせるようにして!」

「第3部隊!今日はヴァジュラ2体の討伐だ!」

『第6,7部隊は、防衛班の援護に向かって下さい』

「道を開けろ!俺達が先だ!」

「黙りな!あんた達、任務申請したんだろうね!?」

 

その喧騒に、ブラッドは飲まれそうになる。

フライアには、自分達以外部隊は存在しない。だが、他支部、取り分け極東支部ともなれば、このように忙しく動き回るのは、当たり前のことだ。

しかし、中には意味なく殴り合いになったりしているところもあり、前に進むのも一苦労だと、ブラッドは顔を見合わす。

すると、先頭に立っていたレンカが、一人1歩前に出たと思ったら、今までの優しい顔が嘘のような鋭い眼光に代わり、大声で怒鳴りつけたのだ。

「うるさいぞ、貴様等!!客人の前で恥ずかしい醜態を、いつまで晒すつもりだ!!」

《っ!!?》

その声に全員がびくっと跳ね上がり、その場で直立する。その様子を見回してから、自分達が向かう先のエレベーターに向かって、再び怒号を浴びせる。

「道をあけろ!客人が通る!・・どうした?任務に向かうんじゃないのか!?道ぐらいあけて、行動しろ!無駄に喋る暇があったら、やるべき事をやれ!いいな!?」

《はい!!》

それから、また忙しく動き始めるが、誰も通るのに邪魔な動きはしないし、怒鳴り合いもやみ、話し声は最低限に静まった。

それを良しと確認してから、また元の優しい顔に戻ったレンカが、ブラッドへと振り返る。

「お待たせしました。では、こちらに・・」

誰も何も言えないまま、極東の人間同様に緊張した面持ちでついていく。

その途中、受付らしきところで1度足を止めて、「少々お待ちを」とその場から離れたレンカを目で追ってから、ロミオが一言洩らす。

「・・・・あの人、怒らせないようにしよう」

「うん・・うん」

必死に頷くナナにつられて、ジュリウスまでも1度頷いてしまう。

 

「ヒバリさん、ブラッドの皆さんが到着しました。榊博士は、部屋に?」

「あ、はい。さっきは助かりました、空木さん」

「いえ。何かありましたら、連絡ください。今日は彼等に付きっきりになると思いますので。フライアの代表が来られた際にも、一報ください」

「わかりました」

 

話を終えたのか、レンカが戻ってきてからブラッドを促す。

「すいません、何度も・・。では、支部長室にご案内します」

ブラッドと共にエレベーターに乗り込み、レンカの姿が見えなくなった頃に、まだそこにいた人間達は、大きく息を吐いて緊張を解いたのだった。

 

 

極東から、遠く西に位置する場所。

そこで荒神の討伐が終わったのか、一人の青年が神機を担いで歩き出す。が、自分の携帯端末が震えるのに反応して、足を止めてポケットからそれを取り出す。

画面に映るメール有りの文字を確認し、メール画面を呼び出し文章を読む。

朗報だったのであろう。青年は笑顔で、それを何度も読み返す。

そこに、凛とした女性がやってきて、青年に声を掛ける。

「どうした?極東から連絡でもあったか?」

「えぇ、リッカから・・」

「何だ、惚気か?もう聞き飽きたぞ」

「そんなんじゃ、ありませんよ。・・・今、着いたみたいです。ブラッドが」

その言葉に、女性は肩眉を上げて見せてから、息をつく。

「そうか・・・。私達も、1度戻らねばな・・・。お前も、久方ぶりに会いたいのだろう?」

「そうですね。彼が、どんなゴッドイーターになってるか、楽しみです」

そんなことをいう歳になったかと、女性はフッと笑みを浮かべてから、青年を呼ぶ。

「ならば、さっさと片付けるとしよう。行くぞ、ユウ」

「はい、ツバキさん」

そう声を掛け合って、神薙ユウと、雨宮ツバキは目的の場所へと向かった。

 

 

 





ブラッド、極東支部に入りました!

はい!こっからは、完全に私のワールドに突入!
前作引継ぎなので・・w

レンカをどう登場させるか悩みましたが、この方が面白そうなのでw


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