GOD EATER2 ~絆を繋ぐ詩~   作:死姫

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13話 手と涙

 

 

ヘリから外を必死に見ようとするナナ。それを落ち着けるために、ギルは溜息を吐いてから声を掛ける。

「ナナ。あいつらなら、大丈夫だ」

「んーーーー・・。でもさ、咄嗟に乗り方教えちゃったの、あたしだし・・」

「ナナが神機兵の動かし方を知ってる方が、俺的にはびっくり何だけどな!」

「あーー、ロミオ先輩が馬鹿にしてる!私も訓練だけなら、ラケル先生のところで習ったんだから!」

ブーブーと膨れっ面で抗議するナナに、ロミオが手を前に出して謝罪を表していると、珍しくもギルが声を出して笑いだす。その様子に驚いてから、二人は顔を見合わせて首を傾げる。

一頻り笑って落ち着いたのか、ギルは口の端を浮かせたまま、優しく鼻を鳴らしてから、再び口を開く。

「あいつら・・・・帰ってきたら、説教だな」

「・・・うん!そうだー!お説教だ!」

「だな!なんか奢らせようぜ!」

そんなことを言いながら、三人は赤い雨の中の二人の、無事を祈るのだった。

 

 

サァーーーーッ

雨の勢いが増してきた様子を眺めながら、シエルは丁度屋根になりそうな崩れ方をしている瓦礫の下に、神機兵を運び込んで、一人座っていた。

幸いにも、神機兵のテストパイロットの経験があったので、ちょっとした距離ならばと、自分で動かして来たのだ。

(・・・・・・・・・・寂しい・・・)

ふと頭によぎった考えに、シエルはハッと顔を上げる。

(私は・・・・今、寂しいと・・・・)

マグノリア=コンパスに所属してから、同年代と過ごした時間はほんの僅か。ジュリウスの護衛の際に、彼とだけ。

しかし、フライアに来てからは、そこが今までと決定的に違った。

独りに慣れすぎたせいで、知らなかったのだ。人との関わり合いから生まれる、こんなありふれた感情を・・・。

気付いてしまえば、なおのこと辛く、シエルは抱えた膝に顔を埋めてしまう。

そこへ、

パシャッ

「・・っ!?」

雨が落ちるのとは違う別の音を耳にし、シエルは神機を手に構える。

耳を研ぎ澄ませるまでもなく、その正体は目の前に確認できた。

「・・・シユウ」

本来神機兵に相手させる予定だった、標的の荒神シユウ。ほとんど身動きが取れない赤い雨の中動き出すことを、誰が予想しただろう。

1歩踏み出れば、赤い雨の中。しかしその代償として、自分は絶対の死、黒蛛病になってしまう。

(・・・命令は絶対・・。死を・・恐れるな・・・。神機兵を、守る!)

覚悟を決めて飛び出そうと前に体重をかけた時、シエルは違和感に気付かされる。足が地面に張り付いたように、その場から動こうとしないのだ。

(どうして・・・・・、どうしてっ!?・・)

敵はその牙をむこうと、着実に近付いてきてるというのに、自分は戦う為の1歩が踏み出せないでいる。

そして、あの日のヒロの横顔を思い出す。人の死を悲しむ、切なげな眼を・・。

(・・・あ・・あぁ・・・・、私は・・・)

「死にたく、ない・・・」

声に出してしまえば、答えは簡単だ。

理解をしてしまえば、シエルの脳裏に、フライアに来てから関わった人達の顔が駆け巡る。

レア、ラケル両博士に、ブラッド。

ナナ、ロミオ、ギル、ジュリウス、そしてヒロ。

水溜りに映る自分の顔に、今までしたこともない表情の自分に、シエルは逆に1歩退く。

(・・・・駄目・・・、命令を・・でも・・・・、神機兵を・・・やだ・・・)

混乱で目が泳ぎ、神機を持つ手は自然と下がる。

それを好機と見逃さなかったシユウは、嫌らしい笑みを浮かべてこちらへと突進してくる。

「・・・・・いや・・・、死にたく、ない・・・・誰か・・・」

もう声に出すのも抵抗なくなり、咄嗟に盾を展開してから、今まで出したことのない大きな声で、シエルは叫ぶ。

「・・誰かーーーーーーっ!!!!」

 

ザンッ!!!

 

ギャウゥゥゥゥッ!!

盾の隙間から見えた光景に、シエルはゆっくりと顔を上げる。

そこには、神機を振り抜きシユウを斬り裂いた、神機兵が立っていた。そして、その神機を、赤黒いオーラが覆っていた。

「・・・・・・・・・まさか・・」

驚きに足を動かすシエルに、神機兵から声が飛んでくる。

『シエル!動かないで!少し風が出てきたから、雨に濡れないように奥に!僕が風よけになる!』

「・・副隊長・・・」

搭乗者がヒロとわかると、シエルは安心したのか奥の壁に背中をぶつけて、その場に座り込んでしまう。

それに満足したのか、神機兵は隙間を隠す様に、自分の身体を覆いかぶせる。

色んなことが頭を巡って、何が何だかわからなくなって、シエルは躊躇いがちに口を開く。

「・・・・あ・・・・、あの・・」

『ごめん。・・・・・少し・・・・すごく、疲れちゃったから、話は、フライアに戻ってからで・・・いい?』

「・・・はい・・・」

すぐにでも聞きたいことがあったのだが、それ以上は声を出さず、呼吸音だけをさせるヒロを気遣い、静かに雨が止むのを待った。

 

 

ガシャンッ

懲罰房での1週間の拘留。

今回の命令違反、及び神機兵の無断搭乗などで与えられた、ヒロの罰である。

本当は3週間以上を進言されたが、ラケルの計らいと、神機兵の損傷がないことから、そこまで刑を軽くしてもらったのだ。

トイレと寝床、後は床といった狭い空間に、ヒロは半笑いで汗を流す。入る前に渡された毛布と一緒に、ヒロはとりあえず寝床に倒れてみる。床の硬さを感じながら、ヒロは眠ってしまおうと目を閉じた。

 

コンコンッ

「・・・・ん?」

疲れて眠ってしまったのか、小さな窓から日がさしている。目をこすりながら辺りを見回すと、入り口前にシエルが立っていた。

「・・・ごめん。寝てた・・くぁ」

「い、いえ・・・。私も、時間を選ばずに・・」

何故シエルが謝っているんだろうと考えながら、ヒロは立ち上がってから背伸びをして、入口を背にして声を掛ける。

「で、どうしたの?」

「その・・・・・、今回のことで・・、聞きたいことがありまして・・」

少し控えめに話してくるシエルに、ヒロは頷いて見せると、彼女も背中を入口の格子に預けて、話し始める。

 

「・・どうして、助けに来たんですか?」

「どうしてって・・・」

「命令違反だとわかって、何故あのような行動をしたのかと・・・、いうことです」

「あっ、でも神機兵に勝手に乗っちゃいけないってのは、知らなかったよ。でも凄いね、神機兵。結構自由度きくんだね。その分すごく疲れちゃうけど・・」

「茶化さないで下さい!神機兵に事前検査もなく搭乗するということは、最悪死を招くということですよ!?ましてや、赤い雨の中だというのに・・・・どうしてなんですか?私の為に・・こんな・・・理解に苦しみます!」

「・・・・うーん。・・そうしたかった・・・ていうのじゃ、駄目?」

「そうしたかったって・・」

「うん。僕は、大切なものを守るために、ゴッドイーターになったんだ。昔ある人と約束したからっていうのもあるけど、何より僕自身も、そうありたいって願ったから」

「だからと言って、命令違反していい理由にはなりません。私達は、兵士なんですよ?」

「うん。・・・でも僕は、兵士の前に一人の人間だから・・・。大切なモノを守るために、少しぐらいの無茶も・・・したいかな~って」

「そんなこと・・・答えになるはず・・・・・。私を助けたことによって、あなたは処罰を受けることに・・」

「いいよ。そのくらい・・」

「そんなっ!?」

「大切なモノの1つである、君を助けれるなら、この程度の事、どうってことはないよ」

「・・・・・・やっぱり、理解に苦しみます」

「そかな?・・・ごめんね」

「・・・まったくです・・・・。でも・・・来てくれて嬉しかったという気持ちも・・・・」

「うん。無事で、良かった」

「・・・・ここに来て・・あなたに出会ってから、私は心を乱されっぱなしです」

「えー・・・」

「でも・・・・・暖かい・・」

「・・・・シエル?」

 

長い沈黙を気にして、ヒロが振り返って手を置いたその上に、外からもう1つ手が重なる。せいぜい指が触れる程度の行為だが、ヒロは耳まで真っ赤にして俯く。それからそっとシエルに視線を上げてみると、涙ぐみながらも優しい微笑みを浮かべるシエルがそこにいた。

「命令よりも・・・自分よりも・・・、守りたい大切なモノ・・・。それが、あなたなんですね・・・・、ヒロ」

触れた指先から何かが弾けるように、小さな波紋は、やがて大きく広がる。

シエルの心に、新たな光が輝きだした・・。

 

キイィィィィィィンッ!

 

「あ・・・、これって・・」

「あん時の・・・」

「こいつは・・」

「シエル・・。・・・そうか」

 

ブラッドに届いた意志の覚醒は、何故か頬を綻ばせる様な、優しい温もりだった。

 

 

1週間の拘留が明けて、ヒロは少し疲れた面持ちで廊下を歩く。

懲罰房のあるエリアから、見慣れた景色が目に入るようになったところで、待ちくたびれたといった表情で苦笑する、ジュリウスが目に入る。

「ご苦労だったな」

「そう思うなら、何か美味しいものを食べさせて」

「ふっ・・・、罰を受けていたんだがな。良いだろう」

「・・ありがと」

少しだけ笑って見せてから、ヒロはジュリウスの出した手に自分の手を当てて、パンッと鳴らす。

「元気そうで、何よりだ。ヒロ」

「これが元気そうに見えるなんて、どうかしてるよ。ジュリウス」

それから二人は並んで歩き、ヒロの希望を叶える為、食堂へと向かった。

 

 

「おい、ヒロ」

「ん?むぐぁに?」

「・・・・まず、飲み込め」

食堂で一心不乱に食べまくるヒロを囲むように、ブラッドは集まって食事していた。そんな中、ずっと黙っていたギルが声を掛けてきたので、ヒロは口の中そのままに、返事をしたのだ。

指摘されたので、とりあえず口の中のモノを飲み込んでから、ヒロは「ふぅ」と息をついてからギルに目を向ける。

「ごめん。それで?」

「あぁ・・・・・。ヒロ、仲間を大事に思うことは結構だが、お前自身の命も大事に考えろ。・・・そいつを、言いたかったんだ」

それを言われると、還す言葉もないといった感じで、ヒロは頬を掻いて苦笑する。

「ははっ・・ごめん。気を付けるよ」

「まっ・・わかればいいんだ」

そこからは静かにスープを口にするギル。そこで何か悪戯を思いついたように、ナナとロミオがニマーッと笑い合い、わざと聞こえるようにヒロに耳打ちする。

「ギルはねー、ずっとヒロのことが気にかかってたんだよ?」

「心配だーって感じで、たまにロビーを意味なく徘徊するぐらいにな」

「ぶほっ!げほっげほっ!・・・お前等っ!」

急な攻撃に、ギルは思わず口の中のスープを吐き出してしまい、その原因となったナナとロミオを睨みつける。

「別に心配なんかしてねぇ!」

「してたじゃん!溜息多かったし!」

「ねー!任務に行ったら、ヒロのこと探してるし!」

「ナナ!お前なぁ!」

「ギル、食事中だ」

「ギル、食事中です」

顔を赤くして思わず立ち上がるギルに、ジュリウスとシエルが静かに指摘する。

「俺を注意するなら、こいつらもだろ!?」

「そうですね、ナナさん、ロミオも、食事中は静かに」

「あー!食事のマナーなら、ヒロもだと思う!」

「そうだそうだ!シエルはヒロを贔屓してる!」

「なっ!・・し・・してません!」

「はぁ・・、シエル」

思わぬところから矛先が向いて、慌てて立ち上がるシエルに、最終的にジュリウスが溜息を吐き、皆席に落ち着く。

少しばかり静かに時が流れたと思った矢先に、

「シエルちゃん。ヒロの食べ方、注意しないの?」

悪びれもなく言ったナナの一言で、またもその場は騒がしくなる。

「だ、だから!贔屓なんてしてません!」

「そんなこと言ってないよー!」

「そうだよ!贔屓してるのは、ジュリウスだよ!ヒロを迎えに行ったりしてさ!贔屓、贔屓!」

「げほっ!ろ、ロミオ!俺は別に・・」

「焦ってるところが怪しいな、隊長さん」

「何達観してるんですか、ギル!そもそもに、あなたが副隊長が心配で眠れないから・・」

「なっ!さらっと捏造するな、シエル!俺が何時そんなこと言った!?」

「わかります!副隊長が拘留されてから1週間、あなたの目の下にクマが・・」

「俺は元々、寝つきが悪いんだよ!」

「嘘だねー!お前部屋に戻ったら、全然出てこないくせに、今回は・・」

「ロミオ!!」

「いい加減、静かにしないか!ここは俺達だけの施設じゃないんだぞ!」

「はーい!隊長もうるさいと思いまーす!」

大騒ぎになってしまった自分の周りを見つめながら、ヒロは戻ってこれたと実感しながら笑顔になる。そんなヒロを見てか、皆一斉にヒロへと詰め寄る。

《何、当事者がのうのうと食べてるんだ(ですか)(の)!!!》

「・・・・・はい、ごめんなさい」

 

 

 




暖かいって思えること、歳食ってからないな~。

温もりを下さい・・・。


次からいよいよ舞台は、極東支部です!


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