GOD EATER2 ~絆を繋ぐ詩~   作:死姫

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10話 1歩先の強さ

 

 

 

任務のない日に稀に、ブラッドはジュリウスからの報告という名の座学を受けている。主には荒神の種類別の特性、各支部で上がった問題などである。

この日も任務が入っていなかったので、ジュリウスが皆に集合を掛けていた。本当のところは、彼自身の為の、『皆との交流』なのかもしれないが・・。

 

「本日は、各支部からの報告などから得られる、感応種の特質を話そうと思う。後に質問等は受け付けるが、メモなどを取って、出来るだけ自分自身で理解する様に」

「は~い!」

「わ、わかってる・・・わかってる・・」

元気のいい返事をするナナとは対象に、自分に必死に言い聞かせるようにペンを握るロミオ。それに水を差すまいと、ヒロにギル、シエルは黙って頷いて見せる。

皆の言質を取ったという判断をしてから、ジュリウスはロビーに設置してあるスクリーンに、自分の手元の端末から情報を送り、資料を映す。

「極東を主に多数の目撃、接触の報告が上がっているが、今のところ確認できる種類は3つだ。シユウ種に酷似したもの、ヴァジュラ種に酷似したものが2つ。そんなところだ。1体に関しては、前回話した通りシエル以外の俺達が接触したものだな」

「3種・・・・。意外と少ないね」

「今のところは、な・・」

ジュリウスの意味深な答えに、問うたヒロは嫌な汗を感じる。未確認なだけで、もっといると判断したほうが良いからだ。

「だが確認できるものだけでも情報を共有すれば、いざ戦闘になった時に焦らずに動ける。今日のところはその位だ」

「良かったなロミオ。すぐ終わりそうだぞ?」

「お前は一言余計なんだよ!」

おそらく本気で気遣っているギルの言葉だが、ロミオでなくても余計だと思ってしまう。『犬猿の仲』とは、先人もよく言ったものだ。

「まずはおさらいになるが、感応種の特徴を・・・、ナナ」

「え~っと、第2世代?までの神機を眠らせちゃうってやつだよね?」

思い出しながら答えるナナにフッと笑みを浮かべてから、ジュリウスは続ける。

「そうだ。前回皆に伝えたのは、神機の不調、不能を起こす偏食場パルスの存在だったな。それに対して補足がある。どうやら影響は神機だけではなく、周辺の荒神にも影響するらしい。・・・シエル」

「はい。私も個人的に調べてみたところ、偏食場パルスの影響は周辺の荒神へのコンタクトにも使われているようです。簡単ではありますが、人がなす対話に近いものと・・」

模範的な回答に深く頷いて見せ、ジュリウスはシエルへと座るよう促し、話の主導を自分に戻す。

「感応種と名を付けられただけあって、奴らの発する偏食場パルスは、第2世代以降のゴッドイーターの感応現象に近いものと判断されている。・・・俺は、もっと別に近いものを感じているが・・」

「・・・ジュリウス?」

少し考えるような仕草に、ヒロが声を掛ける。それに反応してか、ジュリウスは落としていた視線を皆へと戻す。

「すまない。・・・感応種の特徴は今言ったものと取ってくれて構わない。それを踏まえて、種別ごとに話をしよう」

前置きは終わったという素振りで、ジュリウスはスクリーンに別の資料と、写真を映す。

「こいつはシユウ種に酷似した、イエン・ツィーという。先に伝えた感応種の特徴とは別に、自ら荒神を生み出す能力を持っていると、報告に上がっている」

「荒神を・・生み出すだと?」

「えぇ~!ずるい~!」

ギルの反応に比べたら非常に子供っぽい返事だが、ナナの言葉に一理あると皆は頷く。

「だが対処できないわけではない。詳しい報告があった資料を見てみると、イエン・ツィーは自分の護衛といった感じで、2体までしか生み出せないらしい。まぁ逆に言えば、常に対象の周りに2体は存在するということになるが・・。生み出された方を、チョウ・ワンと名付けたようだな」

「じゃあ、相手にするなら、必ず3体同時にって、考えた方がいいのかな?」

「戦い方次第ではあると、俺は考えている。だが、概ねそうだと思っておくのが妥当だな」

ジュリウスの返答に少し思案するヒロ。確かに、戦い方によってはと思うところがあったのだろう。そう考えながらスクリーンに映しだされている資料に目を戻してた時、ある1点に視線が定まった瞬間、ヒロは何かに弾かれたように立ち上がる。

「うわっと!びっくりした!」

「え!?なに、なに!?」

「どうした?」

「副隊長?」

皆の声が耳に入らないのか、ヒロはスクリーンに近付いて再確認してから、ジュリウスの方を向く。

「この報告書を提出した人・・・、どうなったの?」

「どうなった・・とは、任務の結果と捉えていいか?」

「うん・・・・」

ヒロの反応についていけてない4人にも聞こえるように、ジュリウスははっきりとした物言いで答えた。

「・・・・討伐した。最終的には、一人でだ」

「えぇ!?」

「な、んだと!?」

「・・・うっそ~」

「そんな・・・・、まさか」

ジュリウスも最初は驚いたこと。だが、ヒロはそれを知っていたかのように、歓喜に目を見開き肩を震わせる。

「どういうことですか?現在感応種に対抗できる第3世代のゴッドイーターは、私達ブラッドだけのはずです」

シエルの疑問はもっともだ。そうでなければ、今までの話に矛盾が生じる。が、ジュリウスは驚きなれたかのように苦笑して見せ、その質問への答えを口にする。

「何事にも、例外はある。彼はその内の一人だ。・・・・・報告書の提出者、神薙ユウさんはな・・」

《!!?》

ここ3年以内にゴッドイーターになった者で、彼の名前を知らない者はいない。フェンリル上層部が煙たがっている、極東支部が生んだ英雄の名を・・。

「おかしいと思わなかったか?俺達ブラッドが接触したのは1体のみ。しかも満足に情報を引き出してはいない。にも拘わらず・・・・先に言ってしまうが、俺達が接触した感応種以外の情報が、こうも詳細に存在していることに」

「それは・・・・・、確かに、そうですね」

一時言葉に詰まってから、シエルも納得をする。

「更に言うなら、もう1体確認されているヴァジュラ種に酷似した感応種、ガルムも、居合わせた第1世代のゴッドイーターによって討伐されている」

「第1世代!?もう最強じゃん!?でたらめじゃんか!」

ロミオの嘆きに苦笑しながら、ジュリウスはもう一人の名も口にする。

「そう、地上最強のゴッドイーター、ソーマ・シックザールさんによってな」

「はっ・・・。伝説級の二人なら、納得するしかねぇな」

ギルでなくとも納得する事実。

極東が誇る、二人の最強。彼等ならばと・・・。

「いいか。彼等は例外であったとしても、厄介な足枷がついていたのは事実。だが、それを跳ねのけて見せた。それがない俺達が、怯えて後ろに下がるわけにはいかない。英雄が示した道を、俺達で広げるんだ。希望としてな・・」

ジュリウスの言葉に、皆グッと拳に力を込めて、心の中の迷いを振り払ったのだった。

 

英雄の新たな伝説を耳にしてから、少しだけ休憩を取り、高ぶった気持ちを落ち着けていると、

 

『緊急連絡!オープンチャンネルに救援要請!繋ぎます!』

 

急な出来事に、今度は違った緊張がブラッドの間を駆け抜ける。

 

『こちらサテライト拠点第2建設予定地!感応種と思わしき反応あり!北北東30km地点!他に複数の荒神反応も確認!至急応援を!』

 

感応種というワードに反応してか、全員がその場で立ち上がる。その一人一人の顔に頷いてから、ジュリウスは駆け出す。それに続くように、皆もロビーから神機保管庫へと走り出す。

「あ、ジュリウス隊長!今の放送・・」

「聞いていた!フラン!ヘリの準備をさせてくれ!ブラッド全員で、救援に向かうとな!」

「は、はい!」

伝え終わったジュリウスも、神機保管庫へと向かい、その道すがらヘリに向かっているであろうパイロットに無線で連絡を繋ぐ。

「こちらブラッド隊長、ジュリウス。状況が知りたい。ハッキングでも構わない。現場のゴッドイーターとの、連絡を試みてくれ」

『了解です!』

 

 

瓦礫の影に身を潜めて、少女は先輩ゴッドイーターの無事を祈る。

自分を逃がすためにと、おとりになって時間を稼いでくれたのだ。今だ反応を見せない自分の神機を握り締めて・・。

感応種の存在は知っていた。

だが一太刀浴びせれたことが、彼女の目を狂わせたのだ。

先輩のことが心配で・・。

でも、動く勇気が持てなくて・・。

彼女はかたかた歯を鳴らしながら、涙を流すことしかできなかった。

そこへ、

 

カラッ

 

何かが落ちたような音が鳴る。

瞬間、先輩なのかと思った彼女背中には、人間とは明らかに違う生物の呼吸音が聞こえる。

咄嗟に立ち上がってしまったのもまずかった。すぐそこに感じる殺気に、少女は膝を震わせ失禁してしまう。

彼女は完全に逃げ道を失った。

 

ザスッ!!

 

命の終わりをイメージした彼女は、閉じた目を開けられないでいた。

しかし現実は、

「大丈夫ですか?」

「・・へ・・?」

間が抜けた声だが、ちゃんと耳で確認できる。それでおそるおそる光を求めて目を開けると、涼しい顔をした美麗な青年が、そこに立っていた。

「ヒロ、そっちはどうだ?・・・そうか。では、そこはお前達に任せる。終わり次第、こっちに手を貸してくれ。・・・・ふっ、感応種相手だ。大口は叩かないさ」

誰かと無線で連絡を取っていたのか、耳にあてていた手を下ろし、神機を握り直して声を上げる。

「ギル!ナナ!聞いての通りだ!ヒロ達が合流するまでは、俺達3人で相手をする!無理はするなよ!」

「「了解!!」」

離れた場所で交戦を始めた二人に指示を終えてから、彼は優しく微笑んで少女に声を掛けた。

「隠れていて下さい。後は、俺達ブラッドが代わります」

そうして駆け出した彼の背中から眼を離せずに、少女はペタンと尻もちをついてから声を洩らした。

「・・・・ブラッド・・」

 

 

後ろに高く飛んで距離を取るイエン・ツィーに、ギルはチョウ・ワン1体と交戦しつつ、苛立ちに舌打ちをする。

「ちっ!やっぱり話で聞いてても、なかなか上手くいかねぇな!」

「そうだな。やつは戦闘を有利に運ぶために、進化を遂げたのかもしれない」

「はっ!貧弱な自分に、刃を届きにくくしてるだけだろう?」

ようやく1体を沈めたところで、ギルとジュリウスは同時に前につめる。だが、

 

ズズズズズッ

 

黒い渦が生まれたかと思ったら、再びチョウ・ワンが姿を現しジュリウスの行く手を阻む。

「くっ!知っていても、厄介だな。ギル!本体を叩いてくれ!」

「わかった!」

駆け出すギルから視線を横に反らすと、ナナもチョウ・ワンにかかりっきりのようだ。3人で相手しても、やはり有利に運ぶのは難しい。

(まったく・・・、神薙ユウさんは、どうやって一人で相手をしたのだろうな・・)

思わず苦笑してしまうジュリウスだが、このまま手をこまねいている気はない。腰のバックからスタングレネードを取り出し、口で安全ピンを引き抜く。

それから、銃型に切り替え交戦するギルに指示を出す。

「ギル!スピアに切り替えて目を閉じろ!」

「!!?」

ナナとの距離を測っていたのか指示は出さず、ジュリウスはイエン・ツィーに背中を向けた状態で、グレネードを足元に落とし、地に着く前に踵で思い切り後ろへと蹴飛ばす。

パァァンッ!!

イエン・ツィーの手前で、狙いを定めたように光が弾ける。それに一瞬怯んだのを隙に、ギルが突き出したスピアが片翼を貫く。

ズゥシュウッ!!

ケエェェェッ!!

流石に痛みを感じたのか、高音域の声を上げて地面に転がる。

そこへナナが追い打ちとばかりに、ハンマーを叩き下ろす。

「てぇやっ!」

グシャアッ!!

その1撃で、片翼は完全に機能を失ったのか、イエン・ツィーはダランとした右腕を抱いて、後ろへと距離を取る。

「良い判断じゃねぇか、ナナ」

「えっへへ!何となくだけど、ジュリウスが何するかわかっちゃったんだよねぇ!」

「上出来だ」

三人1度集まってから構えなおし、離れた高台に降り立つイエン・ツィーを睨みつける。が、それが可笑しいと言わんばかりに、ジュリウスは笑って見せる。

「そこは、行き止まりだ」

彼の見つめるイエン・ツィーの更に後ろに、銃を構えるシエルが立っている。

「シエル・・、いいよ」

語りかけるような声と同時に、シエルの発砲したバレッドがイエン・ツィーの背中を撃ち抜く。怯みつつも振り返ったそこに、刃に赤黒いオーラを纏わせたヒロが飛び込んできていた。

「ブラッドアーツ『韋駄天』」

風が吹き抜けたかと思った時には、イエン・ツィーの頭は半分削り取られていた。耐えられなくなったのか、その場に崩れ落ちる寸前に見たものは、ロミオが展開した、捕食形態の大口だった。

ガビュウウッ!!!

 

 

 





感応種イエン・ツィーとの戦闘でした!

あぁ~、出しちゃったな~。大好きな二人を・・・。

まぁ、彼等は私の中で、常に最強ですよ!

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