この俺、小野悠之が内浦に帰ってきてから既に10日が経った……俺は引越しでここに来たからある物から逃れることができた。
千歌が既に追い込まれている…夏と冬に必ずお世話になる宿敵……
そう、その名も…「宿題」という全国の若者が必ず苦しむ…恐るべき強敵である!
「うぅ…ゆ~じ~く~ん…宿題が終わらないよ~」
「最終日まで貯めてるからそんな目にあうんだ、毎年毎年同じことを繰り返してないか?」
「私にとっては「宿題」と書いて「宿敵」って読むのっ!」
千歌がよくわからない言い訳をする。
「変な言い訳はいいから早く終わらせろよー」
「そんなぁ……悠之君はこんなに困ってる私を見捨てちゃうの…?(ウルウル)」
千歌が捨てられた子犬のような瞳で俺を見つめる………
「——誰も手伝わないなんて言ってないだろ?」
「わぁい!やったぁー!」
千歌が嬉しそうに俺に抱きついてきた、千歌の柔らかい胸の感触が俺の身体に伝わる……
それにしても俺は千歌に甘すぎる気がする……だけど、つい甘やかしたくなっちゃうんだよな……甘え上手な所が千歌の魅力の一つだ。
「で、さっきから手が止まっているけど、どこか分からないところでもあるのか?」
「あ、うん…ここの計算の仕方が分からないんだ…教科書と同じようにやってるのにできないの…。」
二次方程式……か。そういえば俺も昔は苦戦していた時期があったなぁ…だが、高校生になった俺にはもう敵ではない。
「じゃあ、俺が直接教えてやるよ。答えを写して解くだけじゃあ後から辛いからな。」
「でも…すごく時間がかかるんじゃ…。」
千歌が心配そうな顔をする……俺の時間が無くなるのかと思って気にしているのか?
「千歌が分かるようになるまで教えるから気にすんな。」
「ほ、ほんとう…?」
「もちろんだ、俺が今まで千歌に嘘をついたことがあるか?」
「あ、ありがとう…///」
俺は千歌の隣に座る……
「じゃあ、始めよっか。」
「うんっ!」
「二次方程式の計算の基本から教えていくから……」
俺が千歌に分かるように解説をしていく。俺は自然に千歌との距離を詰めていく。
「(ど、どうしよう…悠之君の顔が近くて…き、緊張しちゃうよ~///)」
「千歌?」
「(ダメっ!これは…ただのお勉強……お勉強……だけど…。)」
「熱でもあるのか?」
「ひゃあ!?」
俺は千歌の自分の方に寄せて、おでことおでこを合わせる……
「ゆ、悠之君…今はお勉強の時間でしょ…///」
「あ、ごめん…顔が赤いからつい…熱がなくてよかったけど。」
「もう……私はいつも風邪をひいてるイメージなの?」
「あはは…今後気を付けます。」
2人で宿題を続けてから1時間
「ここで、計算を当てはめてみてごらん。」
「やったー!解けたー!!」
「よし、じゃあ一旦休憩にしようか。」
千歌が畳でごろんっと寝転ぶ。
「そういえば、他の教科は何が残ってるんだ?」
「えーと…国語でしょ、社会でしょ、英語でしょ…」
千歌が指で数える……
「ほぼすべてなのはよく分かった…」
「あ、でも今ので数学が終わったからあと4教科…」
「充分残ってるじゃあねえか!」
「えへへ……おねがぁい♡」
「全く……」
さらに時間が経過する……
「あと一教科だ~!」
「最後は何が残ってるんだ?」
「後は……国語…しかも私が嫌いな漢文だ~。」
「漢文か…確かに難しいよな。でも、一緒に解いていけばなんとかなると思うから……頑張ろうぜ。」
「うん!」
気を取り直し、再び勉強に戻る。
「ここにレ点があるから……下の文字を読んでから上の文字を読む……」
「そう、そんな感じ……」
「やった!できたー!!」
「お疲れ様、よく頑張ったな。」
「うん!悠之君がいたからだよー!」
千歌が宿題を始めてから約3時間……ちょうどお昼の時間帯に終わることが出来た。
「じゃあ冬休みの最終日だし、午後はどこかへ出かけない?」
「そうだな……千歌はどこに行きたいんだ?」
「うふふっ」
「……?」
千歌が楽しそうに微笑む……
「悠之君がここに来てから、1度行きたい場所があったんだ~」
「へぇ…どこだ?」
「まあまあ、ついてきて!」
千歌が俺の手を取り、そのまま旅館から出ていこうとした……が。
「千歌……まさかその格好で行くのか?」
「あ…まだパジャマだった。」
「俺も着替えないと……」
2人とも自分の部屋に戻り、支度を済ませた。
オレンジ色のニットのワンピースに、黒色のタイツ……いつもより大人っぽい私服に心を撃ち抜かれた…。
「お待たせ~」
「………」
「悠之君?」
「——可愛い。」
「え…///」
千歌が戸惑いを隠せないでいる…。
「い、いや…いつもと違う雰囲気にびっくりしたというか…」
「そ、そうなんだ…あんまり千歌には似合わなかったかなぁ…?(シュン)」
「いや、全く逆だよ!」
俺は少し深呼吸をして……
「可愛いよその服…千歌にぴったりだ…。」
「……ほんと?」
「千歌は何を着ても可愛く着こなせるんだから、気にしないで大丈夫だよ。」
「その…ありがと…///」
千歌が顔を真っ赤に染めている……きっと頑張ってオシャレしたんだな…。
「じゃあ行こうか。」
「うんっ!」
俺達が玄関を出ようとすると……。
「あれ~?千歌と悠之くんはどこへ行くの?」
「み、みと姉!?」
「デートだよな~」
「ちょっ!悠之君!」
「あ、ごめん…邪魔しちゃったね。行ってらっしゃい。」
「いっ…いってきま~す……」
俺達はそう言い、旅館を出た。
あの子達…楽しそうにしてたな…。もうそんな関係になっちゃったのかな?よかったね…千歌…。
「もうっ!さっきの悠之君デリカシーが無いよー!」
「ああいうのはすぐに話を切った方が効率がいいんだ。」
「デリカシーが無い悠之君なんて嫌いだもん!」
千歌が顔を膨らませている…
「まあまあ、そう怒るなって…可愛い顔が台無しだぞ。」
「なっ!?か、か…かわいいなんて…///」
「ほら、赤くなってる千歌も可愛いぞ~」
「うぅ…悠之君のいじわる…。」
若干怒りながらも、少しずつ笑顔を見せる…素直な性格がバレバレだな。
「ここだよ、悠之君と一緒に行きたかったんだ~」
「ここは…喫茶店か?」
店の看板を見ると「松月」って書いてある…俺が居ないうちにこんな喫茶店ができていたのか…。
「悠之君はやく入ろ!」
「あ、ああ。」
お店に入ると中から美味しそうなお菓子の匂いが漂ってくる…。
「さーて、私は何にしようかな~~。」
「色々とあるんだな……何にしよう…。」
メニューを見ると苺のショートケーキとコーヒーのセットが写真で乗っている……見栄えがとても綺麗だしこれにしようかな?
「悠之君は決まった?」
「ああ、俺はこれにするよ。」
注文後、二人用の席につく……
「悠之君はコーヒー飲めるんだね~。」
「ん?千歌は嫌いなの?」
「私は……ちょっと苦くて…無理かな。」
「そうか…可愛いらしいな。」
「直ぐに「可愛い」って言わないで…恥ずかしいよ…///」
千歌がオレンジジュースを飲みながら顔を赤くする…。
「だってほんとうの事だからつい……」
「うぅ…」
喫茶店の周りにいる人達からヒソヒソと話し声が聞こえてくる……。
「カップルかな?」
「彼女さん可愛い~」
「爆ぜろリア充」
「そういえば千歌は何を頼んだんだ?」
「私は~みかんパフェにしたんだ~!」
「ほう…美味しそうだな…。」
「悠之君のもわけてくれるなら、わけてもいいよ~」
「分かってるって」
千歌がスプーンから1口分すくう…。
「はい、アーン…♡」
俺は何もためらいもなく千歌のパフェを
「今度は俺のだな、ほらアーンして…」
「あ〜ん……おいし~い…幸せ~♡」
千歌の笑顔を見ていると自然に顔がにやけてしまう……。
「なんで悠之君がニヤニヤしてるの~?」
「うん?……千歌が可愛いからだよ。」
「もうっ!さっき言ったばかりなのに…///」
千歌が恥ずかしがりながら目をそらしながら話しかける…。
「悠之君、私がどうしてここに来たかったか分かる?」
「う~ん……スイーツが好きだから?」
「ぶっぶー!」
千歌が両腕でクロスをする。
「じゃあ……なに?」
千歌がクスッと笑い……
「……やっぱりなんでもないっ!」
「えーっ!?」
そこまで言っといて最後は何も言ってくれないのかよ……余計に気になるな…。
そんな会話をしていると辺りが夕焼け色に染まっていた…。
「そろそろ帰ろっか、あんまり遅くなるとみんな心配しちゃうし…。」
「そうだな、早く帰ろっか。」
2人でお会計を済ませ、店を出ると冷たい風が2人を襲う……。
「寒っ!」
「1月だからな……春はまだまだ先か…。」
海の周辺だからなのか、風がとても冷たい…。
「風邪ひくといけないからすぐに戻ろう…。」
「悠之君……」
「何?」
「手……繋がない…?」
「い、いいけど……。」
ギュッとふたりで手を繋ぐ…千歌の少し小さな手の温もりが俺の指の先にまで伝わっていく…
「ほら……2人で手を繋いでいると…心の奥からポカポカしてこない?」
「確かに……安心感があるから…かな?」
互いに顔を見つめる…
「前のお正月の時は果南ちゃん達がいたから…普通に手を繋げたけど…ほんとにふたりきりだと緊張するね…。」
「確かに…今日は1日中2人きりだもんな…。」
2人で歩いているうちに辺りが夕焼けから真っ暗になっていく…。
「1人で暗い場所を歩いてたら泣き出しちゃいそう…やっぱり悠之君がそばにいるからかな…。」
「俺は千歌がそばに居てくれるだけで充分幸せだよ。」
「うん…私も♡」
悠之君の手がどんどん熱くなっていく…少し緊張しているのかな?
「なあ…千歌。」
「なぁに?」
「キスがしたい……」
「え、え…えー!?」
千歌が大きな声をだす。
「で、でも……ここお外だよ…?」
「ごめん…我慢できない…。」
「まって……ゆう……んっ♡」
暗闇の小道で千歌の唇にキスをする…。
「まって…っていったのに……もう~悠之君のバカ…。」
「暗闇だから大丈夫……」
「そ、そうだけど…」
もう一度千歌とキスをする…。
「んっ…んぁっ…」
「外で暗闇のキス…ハマっちゃった?」
「う、うん…♡」
千歌が恥ずかしそうにうなずく。
「でも、寒いからやっぱり早く帰ろ!」
「えー!?」
千歌の手を握ったまま一緒に走り出す…
俺は走りながら少し後悔した…
まだ告白もしていない女の子に唇を合わせてしまったことを…
俺達は旅館に戻ると、千歌の母さんがニヤニヤしながら玄関で待っていた…。
「2人とも~見ちゃったよ~!」
「へ…?」
「さっき車で通ったら、夜道でふたりが……」
『やめてぇー!!』
キスシーン…書いていて凄く恥ずかしくなってしまいました(笑)
まだまだ僕も純粋ですネ~(どの口が言う)