~12月24日~
今日はここに居られる最後の日…本当は、12月上旬に帰る予定だったが、大学の方に無理を言って日にちを遅らせてもらえた。
何故俺が早く大学の方へ行かなくてはならないのかと言うと、
俺の受けた学校は新学期が始まる前に、仮入学として授業を受けなければならないからだ。
だから、残りの高校生活は、高校と大学の二つを両立していかなくてはならない…だから、俺は今年中までしか居られないのだ。
残された時間を大切にするために、1日を大事に過ごしてきたが、逆にかなり充実した生活を送っていたので、より時間が早く感じてしまった…。
「おーい、千歌起きろー」
「んぅ…もうちょっと~」
「ダメだぞ、もう朝食は出来てるんだから」
「ん…じゃあキスして…」
「やれやれ…」
寝起きの千歌にそっと唇を交わす…
「ん…えへへ…おはよ悠之君。」
「おはよう千歌、寝起きなのに嬉しそうだな?」
「うん…今日までこうして沢山したな…って…思ったんだ。寝起きのちゅー♡」
「確かにそうだな…まぁ、とりあえず今は起きろ?
朝ごはんが冷めちゃうぞ?」
「はぁ~い」
♢
「それで、今日千歌が行きたいところってどこなんだ?」
「うん、それはね…」
千歌に腕を引っ張られながら歩いていくと、1台の連絡船が見える…
「あの船、どこか見覚えがあるな…どこへ行くんだ?」
「えへへ、それは着いてからのお楽しみって事で♪」
『間もなく出航いたします…船が揺れますのでご注意ください。』
「え、もう出ちゃうって!?早く行こ!」
「あ、あぁ…。」
千歌に手を引っ張られながら船の中へ入る…
『それでは、あわしまマリンパーク行き…出航いたします。』
「そっか、今日千歌が連れていこうとしてくれてるのは、
『あわしまマリンパーク』なんだね。」
「うん!悠之君がこっちに来てからまだ1度も来てないなーって。」
「すごく小さい頃には行ったことあるけどほとんど覚えてないから新鮮味が強いな。」
「えー!?あんな事があったのに?」
「…あんな事って?」
「えっとね…たしか…」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~11年前~
「ゆーじくん~おかーさん~どこ~?」メソメソ
「みろよー、コイツ迷子だってー!」
「ちょーだせー!」
「まーいご!まーいご!」
幼稚園くらいの男子達が私のことをいじめようとした時にね…
「こらー!!千歌の事をいじめるなー!!!」
私のことを探しに来てくれただけじゃなくて、いじめっ子達も叱ってくれたんだよ?
~~~~~~~~~~~~
~現在~
「えー…そうだっかな?」
「私は嬉しかったよ♪今でもずーっと覚えていられるくらいのことだもん!」
「あはは、それはどういたしましてだな。」
『間もなく、到着いたします…船の揺れにご注意ください。』
アナウンスが聞こえたので窓の外を眺めてみると、いきなりイルカのプールが見えた。
「おぉ、水族館の入口にイルカのプールがあるなんて凄いな。」
「でしょでしょ~…ってほんとに覚えてないんだね…。」
「はは…すまんすまん。」
船から降りると、千歌がリードを取るように手を繋ぎ始めた。
「んー…まあ、いいか!今から楽しい思い出を作ればいいんだもん♪」
「あぁ…そうだな。」
「じゃあ、行こ!悠之君に見せたいところがあるんだ~♡」
千歌が見せたいところか…可愛らしいペンギンとかかな?
無難にアシカとかもあるかもしれん…
いや、意外ととクラゲの水槽とか…?
「ここだよ~♪」
一つの建物が見えてきた…なんて書いてあるんだ…?
「カエル館………え、カエルゥ!??」
「うん♡カエルさんだよ♪」
「えっと…カエルはちょっと…」
「い~から♪い~から♪カエルさんのいい所を知るチャンスだからさ~」
「でもなぁ…。」
「うぅ…悠之く~ん…」ウルウル
「そんな捨てられた犬みたいな顔しても……」
♢
そして、半場強制的にカエル館に連れてこられた
「わぁ~このカエルさんも可愛いなぁ~♡」
まあ、千歌の幸せそうな顔が見られたからいいか。
「ねぇねぇ、悠之くんも触ってみてよ~」
「えぇ……ゲコゲコ言ってるし…」
「そりゃあそうだよ、カエルだもの。」
おそるおそる触ってみるが、少しぬるっとしたこの感触…やっぱり慣れないなぁ……でも、このカエル…
「瞳が可愛いかも…」
「ほんとに!?興味を持ってくれたの!?」
「ま、まぁ…少しだけ。」
「じゃあ、次はあれ行ってみよー!」
ゲコゲコゲコゲコゲコゲコ……
「い、いやいやいや!流石にちょっと多すぎるよ…。」
「でも、よく見てごらん?1匹1匹違う目をしてたり、顔の大きさとかが結構違ってたりするんだよ?」
「こんなにたくさんいると、直視できないなぁ…。」
たくさんいるとやっぱり怖い…俺って情けないなぁ…。
♢
「いやー、たくさん回ったけど、あわしまマリンパークってやっぱり広いんだな~」
「だね~それにちょっとお腹すいてきちゃった!」
「この辺りで美味しい店って何かあるのか?」
「えーっとね…『いけすや』とか『チェレステカフェ』とかあるよ。」
どっちも初めて聞く名前だな…でも、千歌が知ってる店ならかなり美味しい店と見た。
「カフェは普段からよく行くし、その『いけすや』ってところに行ってみないか?」
「ふっふっふ…流石は悠之君…お目が高いね…」
千歌がドヤ顔をする…
「その『いけすや』は私のイチオシのアジ定食屋さんなんだよ!」
「へぇ~じゃあ期待できそうだな。そこにしようぜ。」
「うん!決まり!」
♢
歩いて約5分…思ったよりも早く、いけすやという店についた。
「ちなみに、悠之君は何を頼むの?」
「んー、そうだな…」
メニューをめくっていると、沢山のアジ定食が出てくる…どれもこれも美味しそうだ…静岡の魚はほんとに美味しいから迷ってしまう…。
「アジフライ定食なんて美味しそうだな。」
「え…?」
「え?」
珍しく千歌が冷たい目線を俺に送る…
「え…っと…悠之君?聞き間違いかな?今なんて?」
「アジフライ定食なんていいかなーって。」
「アジ…フライ?」
「あぁ。」
「悠之君っ!!」バン!
「は、はい!」ビクッ
またまた珍しく千歌が喝を入れるような声を上げた。
「せっかく美味しい『いけすや』に来たのに、何でアジフライを頼むの!!」
「いや、だって…美味しそうだったから。」
「アジフライだったらいつでも食べれるでしょうが!
何なら今すぐ家に帰って千歌が作ってあげよっか!?」
「あ、それもいいかもな」
「いやいやいや、何でそんな簡単に受け入れちゃうの!?」
「千歌の手料理が好きだから。」
「ふぇっ!?そ、そんなに褒めたって…えへへ…///」
「顔、すっごくにやけてるぞ?」
「う、うるさいなぁ~///…と、とにかく!悠之君にはもっとこの店ならではのものを食べてほしいの!」
あぁ…もうほんとに可愛いな…千歌は。
ポンっと千歌の頭に自分の手を添える。
「つまり、千歌は俺に食べてほしい料理があるって事だろ?」
「それは…その、まぁ……」
「ふふっだったら早く言ってくれればいいのに……
じゃあ、俺は千歌と同じものを頼むことにするよ。」
「え、いいの?アジフライじゃなくなっちゃうけど…」
「いいよ、千歌の好きな物を俺も食べてみたい。」
「も、もぅ…最初から言ってくれればいいのに……///」
「んー?最初から素直じゃなかったのはどっちかな?」
「うぅ…悠之君のいじわるぅ~」
このあと二人で、二食感活あじ丼を堪能した…こっちを選んでおいて正解だったな。
♢
もう既に夕方になり、綺麗な夕日が海を照らし出す…
「今日はいっぱい歩いたな…でも、この夕日が何だか疲れた身体を癒してくれる…そんな気がするよ。」
「うん…そうだね…」
「千歌…?」
「私ね、悠之君がまた東京に帰っちゃうって聞いてからずっと考えてたことがあるんだ…。」
千歌がゆっくりと距離を近づける…
「私も、将来の事…色々考えなくちゃなって思って…悠之君の大学のことをちょっと調べてみたんだ。
そしたら、色々な学部学科が書いてあった…選択の幅も多くて、たくさんのことにチャレンジできそうな感じがした…。」
珍しい…あの千歌がこんな真剣に将来のことを考えてただなんて…。
「だから、私は決めたんだ…」
『私も、悠之君の大学へ目指す!』
「迷惑…かな?」
「そんな訳ないよ、千歌も、俺と同じ大学に来てくれたら…俺だって嬉しいに決まってる…!」
「悠之君…」
「でも、今の千歌だとすこ~し勉強しなくちゃダメだぞ?」
「うん、分かってる!だから見てこれ!」
「なにそれ……って何で通知表を持ち歩いてるんだよ!?」
「えへへ…昨日もらってびっくりしちゃったから持ってきちゃった♡」
や、やれやれ…もし、落としたりしたら大変なのに…。
「で、どうかなどうかな?」
「どれどれ……おぉ、一学期よりも格段にあがったね。」
「でしょ~悠之君が教えてくれたところをちゃんと覚えるように勉強したんだ~♡」
「そっか…これならきっと、大丈夫そうだな。」
「うん!悠之君のおかげだよ!」
嬉しそうに、千歌が笑顔を見せる…この笑顔を見られるのが今日で最後だと思うと悲しい気持ちになってくる…
分かってる…別に永遠の別れになる訳では無いのに…それに、千歌は俺と同じ大学を目指してくれると言ってくれた…でも…
この悲しさは何なのだろう……
「悠之君…?」
気がつけば俺はもう涙が止まらなくなってしまっていた…
ずっとそばにいてくれた人が明日でお別れをしなくてはならないのだから……
「ごめん……」
「ううん…謝らないで…悠之君。」ギュッ
千歌がやさしく俺の事を抱きしめる…。
「悠之君は私に言ってくれたよ…?正直になって…って。」
「…うん。」
「だから今は…我慢しなくてもいいんだよ?」
普段は、小さくて可愛い妹のように思ってきたけど…
今は…やさしい母親のような…暖かい温もりで溢れている…
♢
~翌日~
「悠之君、そろそろ行くよ~」
「あぁ、すぐ行く!」
千歌の声が外から聞こえたので急いで表へ出てみる…。
「み~んな、待っててくれたよ。」
外に出ると、この内浦で知り合った友達…幼馴染みの曜と果南達が待っていてくれた。
「みんな…」
人と接するのが苦手なはずの俺が、こんなにたくさんの友達が出来ていたんだな…
「悠之さん!東京に行っても頑張って欲しいずら!」
「向こうへ行っても、わたくし達のことを忘れてはいけませんよ?」
「ルビィも応援してます!」
花丸ちゃん…ダイヤ…ルビィちゃん
「また、いつでも戻っておいで!私も曜も待っているから!」
「東京でも全力ヨーソローだよ!」
「くっくっく…堕天使の翼でいつでも迎えに来てあげるわ♡」
曜…果南…善子ちゃんに…
「悠之!短かったけどお陰で毎日がベリーグッドだったわ!ほんとにセンキューデ~ス!」
「悠之君、私に勇気をくれてほんとにありがとう…東京でも頑張ってね!」
そして…鞠莉…梨子…。
「ありがとう、みんな…。きっと…いや、絶対に帰ってくるから!」
~~~~~
東京行きの電車まで、あと10分か…そろそろ、ホームへ向かった方がいいかもな。
「あ、悠之君、私も最後までお見送りするよ!」
「あぁ、千歌…サンキューな。」
「やっぱりさみしい…?」
「そりゃあな…でも、もう大丈夫さ。」
二人でホームへ向かう…
「そうだ、悠之君に渡さなくちゃいけないものがあったんだった!」
「え…今、手荷物がやばいんだけど…」
「はいこれ!」
『お誕生日おめでとう、悠之君!』
「……!!」
「えへへ…私が忘れてる訳ないでしょ~♡12月25日は悠之君の誕生日だもんね~!」
「覚えててくれたんだ…ありがとう…!」
『熱海行きの電車がまいります…黄色い線の内側までお下がりください…』
「わ、悪い千歌、このプレゼントは電車の中で見るよ!」
「うん!気をつけてね!」
「そうだ、最後に言い忘れてた!」
「また出会えて…ずっと暮らしていけるようになったら…俺達……結婚しよう!!」
「……!!うん!絶対だよ!!!」
「じゃあ…またな。」
「うん!また会おうね。」
最後にキスをして、電車に乗り込む。
『ドア…閉まります…ご注意ください。』
そのまま、電車は東京へ向けて走り去った…
「行っちゃった……」
「またね…悠之君。」
悠之君と同じように私も涙をこぼした
~電車内~
(そういえば、プレゼントって何をくれたんだろう…)
そっと袋の中を開けてみる…
中には、みんなのメッセージが書いてある色紙と、ネックレスが入っている…。
色紙の真ん中に大きく『がんばって』と書いてある…みんな優しいな…俺が東京から内浦に来る時と全く逆だ…。
プレゼントのネックレスを付けてみる…電車の中には人がほとんど居ないので周りを気にせずに鏡で確認出来た。
「ありがとう…みんな。」
そうだ、さよならは終わりじゃない…
きっと…また新しいスタートなんだ…。
to be continued…
はい…これで高校生編のストーリーは最終回を迎えました。
続きは…あります!!
次回から大学生編を更新していく予定です。
これまであまり登場しなかったキャラクターも入れていくつもりです!
この作品を書いてもうそろそろ一年になります。
最初から見てくださっている方、そうでない方も、本当にありがとうございます!これからもこの作品をよろしくお願いします。
それでは、また次の更新でお会いしましょう!