『だけどよ、お前達は8人しか居ないじゃねえか。
それに、ソフトボールと野球だとピッチャーの投げ方やフォームだって・・・』
「人数が一人少ないくらいどうってことは無い、それに野球にだってアンダースローとかで投げる選手もいる。」
少しルールが違っても、人数が足りなくても、このメンバーだったら間違いなく戦える自信がある。
体力オバケの果南…水泳ナショナルチームの曜…
何よりも、先程見せてもらった豪速球を投げる千歌がいる。
ルビィちゃんと花丸ちゃんは初めての割には結構様になってた。
それはダイヤも同じ事。
「それとも、負けるのが怖くて言い訳でもしているのか?」
『なっ…!』
少し上から見下ろしながら言ってやった。
年上に対して、あんな言葉使いをしたのだからこれくらい当然だ。
『じゃあ、試合してやるよ!全員恥をかかせて、偉そうな態度をとらせないようにしてらぁ!』
…案外簡単に口車に乗るもんだな。扱いが良い。
「い、いいの?あんな人達と試合しちゃっても…。」
心配そうに、千歌が俺のところに駆け寄ってくる。
「全然問題ないさ、相手は中学生のチームだぞ。」
「で、でも…なんか、あの人たちすごく怖いし…」
「ル、ルビィも…」
全員少し怯えた表情を見せるが…
「大丈夫だ、本当に強い野球チームはもっと態度がキチンとしている。」
『おーい!早く準備しやがれ!』
俺はゆっくりと相手チームに近づき、先攻後攻のジャンケンを始める。
「…俺達が後攻だな。」
『よし、俺達が先攻だ!1回表でコールド勝ちしてやるぜ!』
時間が無いので2回の裏表でゲームセットで勝負することに決めた。
「みんな、少し作戦がある…ちょっと集まってくれ・・・」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
─1回表 (中学野球チームの攻撃)
~全員のポジション
ピッチャー 千歌
キャッチャー ダイヤ
ファースト ルビィ
セカンド 悠之
サード 花丸
レフト 果南
ライト 曜
センター 人数不足の為不在
♢
プレイボール!
…試合前に悠之君が言っていた、ライズボールは強力な球だけど見破られたらすぐに対策が取られるからここぞという時以外は使っちゃいけないって…
確かに、悠之君の言っていることは分かる…いま、キャッチャーをやっているのはダイヤさんだし、怪我だって十分にありえる。
私のピッチングで、あの人たちに通用するのかな…?
『おーい、何やってんだー!早く投げろー!』
『初球からビビってんのー?』
「うっ…」グッ
「全く…下品な連中ですわね…」
私は思い切って、直球で投げた…
バシイッ!
大きな音を立てて、ボールは左中間を抜けて飛んでいった。
「(やっぱり…)」
『いいぞー!走れー!』
『そのままランニングホームランにしてやれー!』
相手のチームが二塁を抜け、三塁に向かって走り始めたその時…
「うおおおおおお・・・!!!」
「…果南ちゃん!?」
物凄いスピードで相手のランナーを追いかけ始めた!?
ボールを手に持ってるってことは…直接アウトにさせる気!?
「だ、ダメだよ果南ちゃん!ボールを回さなきゃ!」
「無理だよ、千歌ちゃん。」
曜ちゃんが、若干苦笑いを見せている。
「こうなった果南ちゃんには、多分なにも聞こえてないからね。」
「まじか、果南怖いな。」
相手チームのランナーは果南に怯え、三塁に止まらず、逃げるように、本塁に向かって走る。
『そ、そのまま走れ!』
『早くしろ!』
「捕らえる…絶対に…!」
「逃がさない…!!」
果南のスピードが更に上昇した、ラストスパートって奴か…
てか、早すぎる…さっき長打を拾ったばかりなのに…流石は体力オバケ…
「はい、タッチ。」ポン
『ハァハァ…う、嘘だろ…』
「カッコつけて、ランニングホームランなんか狙うからだよ☆」
「わあああ…果南さん…かっこいいずらぁ~」
花丸ちゃんがキラキラした目で見ているけど、実際の野球だったら
こんなやり方、有り得ないからね!?
『くそっ!まだ、たかが1アウトじゃねえか!』
『次打つぞ!ゴラァ!』
予想外過ぎる行動に、相手も動揺が隠しきれないみたいだな…。
「千歌!後ろには私達がいるんだから、怯えないで思い切りやりなよ~!」
「果南ちゃん…」
「私もいることもお忘れなくってよー!」
「ダイヤさん…!」
そうだ、初球から不安になってちゃダメだ。
みんながいるんだから、自信を持って投げなくちゃ!
「そりゃ!」
ビシュッ!
『……!』
ガッ!
ボールは鈍い音をを立てて、キャッチャーフライとなり、ダイヤのグローブに綺麗に収まった。
「お姉ちゃんすごーい!」
「とーぜんですわ!私を誰だと思っていますの?」
あのダイヤが、あんなに楽しそうにニコニコしている。
「キャッチャーフライを取っただけなのに随分と楽しそうだな。」
「はじめてアウトドアな事をしたから、楽しくなっちゃってるんじゃない?」
ま、まあいいか…これで、相手はさらに心が動揺するはずだ…
『こんなのはマグレだ!絶対だ!』
効き目抜群だな。
『よーし、次こそ特大なのを打って…』
「おーっと、ちょいまちな。」
『ちっ…なんだよ…』
「ポジションチェンジだ。」
俺はダイヤにこっちに来いと、サインを送る。
「何ですの?まだ1回表なのにもうポジションチェンジするんですか?」
「違うな、まだ1回だからこそポジションチェンジを行うんだ。」
「は、はい…?」
「あと1回アウトが取れれば、俺達の攻撃側になる…その前に千歌の全力の投球を相手に見せつけて、モチベーションを下げさせてから攻撃に移るんだ。」
「千歌さんの、全力を出すには私では力不足だというのですか?」
ダイヤが少しムッとした顔で、下からじっと見つめる。
いつもより少しその表情が幼く見えた
「違う、あの球を受けると怪我をする恐れがあるからだ…特に、普段から慣れていない人は特に…」
「はぁ…そこまで言うのでしたら、代わりますわ。」
「すまねえな。キャッチャーフライで盛り上がっていた時に。」
♢
「千歌あの変化球、もう使ってもいいぞ。」
「え?い、いいの?」
「あぁ、思い切りぶちかましてやんな。」
千歌が頷いたのを確認してから、それぞれの位置に着く。
悠之君が許可を取ったんだから、出し惜しみしないで…思い切りやってやる!
『きやがれ…ぜってえに打ってやる…』
「いけぇ!!」
ビシュッ!
『なんだ…こんな球…簡単に…』
「私の決め球は…打者の手前で伸び上がる…」
グンッ
『……!?』
スパァン!!
「いってぇ…」ビリビリ
な、何とかグローブに収めることは出来たが…相変わらず衝撃が半端じゃない…どうやって投げてるんだあの球…
千歌の投球に圧倒され、相手チームが静まり返った…
『何でだ…球が速度を変えて浮き上がった…?』
「ぴぎゃっ…な、なにが起きたの?」
「み、未来ずら…未来ずらぁ~!」
「あんな投球を…私は受けるつもりでいたのですの…?」
流石にみんなも、ビックリしているみたいだ。
そりゃあ、そうだよな…俺だって最初はビックリしたし、何よりもあの音が衝撃的だったはずだ。
そして残りも、千歌のライズボールでこの回は0点で防ぎきった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「凄いよ千歌ちゃん!」
「ほんと!いつあんな変化球が投げれるようになったの?」
みんなが千歌を囲むように、ちやほや褒める。
みんなで盛り上がっていると、相手チームが配置につかずに帰る準備をしているのが見えた。
「なんだ?最近の野球チームは試合を放棄して逃げるような連中なのか?」
『うるせえ、今回はてめえらの勝ちでいい、それでいいだろ。』
「好きにしな、だが実力を見せつけられて逃げるようだったら、もう2度とあんな態度を取るんじゃないぞ。」
『………』プイ
「これで良かったの?決着は付いていない気がするんだけど…」
千歌が少し不満そうな顔をしている、さっきは思い切りライズボールが投げられたから、もっと投げたかったのかな?
「まあ、早く済んでよかったと私は思いますわ。」
「そうだね、それじゃあみんなでもう一度仕切り直そうよ!」
ダイヤも果南は満足気な顔だ、二人とも楽しそうにプレイしてたもんな。
「よーし!じゃあもう一度みんなでやろうー!」
千歌が清々しい笑顔で、空に向かって指を指す。
今日は楽しい休日だったな…。
皆さんは体調を崩していませんか?
私は昨日まで熱が出てて39度もありました…(><)
春ってホントに体調が崩しやすい季節なんだなと、はじめて実感しました…