第0話「聖夜の後に」
12月25日…それは冬休みのメインイベントの一つだ。
小さな子供はサンタを装った親からのプレゼントで喜びを味わい、
学生や大人は恋人や大切な人達と楽しく過ごすのが普通だ。
しかし、俺にはそんな恋人や大切な人達と楽しく過ごすクリスマスなんて、何年も経験していない…。
母親はいつも仕事で俺に構ってなんかくれない、この歳でそんな事言うのは少し変だが、全く相手にしてもらえないというのも、少し寂しい…。
ー昔はもっと仲良くしてたのにな…。
「こんな夜に外なんか見てないで、早く入りなさい。」
「悪い、母さん…」
俺はベランダから部屋に戻る…
いつも、俺達の会話はこれくらいだ、必要なこと以外全く喋らない…
「ねぇ、悠之…急に引っ越すって言ったらどう思う?」
「はぁ?なんだよいきなり。」
「いいから答えて。」
「別に…普通じゃね?」
「ふ~ん…」
なんだこの母親…普段全く話しかけない癖に…急に。
「まあ、私は風景画家だからね、引越しはよくあることで…」
「知ってるよそんな事…今度はどこいくんだよ?」
「ヒント」
「いや、そう言うのは要らな…」
「海があります」
「おい話を聞け」
…ったくなんなんだ急に…とりあえず海か…どこにだってあるから分からんな。
「あと、山があります」
山と海…どこかの田舎か?まあ、今の都会暮らしにもうんざりしてたところだし丁度いいか。
「ちなみにその山は日本一高い山です。」
「日本一高い山…あぁ、静岡か。」
「そう!母さん遂に富士山の絵を担当することになったのよ凄くない!?」
「………」
いや…急にキャラ変えられても困るんだけど。
「いやぁ、ここ数年作品に追い詰められてたからね~やっと田舎の方へ身体が伸ばせるわ~」
「あ、そう…」
「何よその反応、あんたは嬉しくないの?」
「別に、急すぎるからなんて答えればいいのかわからないだけ。」
俺はどっちかと言うと、アンタのキャラ崩壊にビックリだよ。
「悠之は、覚えてないの?静岡に行くってことはまたあの子達に会えるのよ?」
あの子達…?あぁ、そうか!
「俺達また帰れるのか、内浦に。」
♢
「
はぁ…今、美渡ねぇと喋っても気分が紛れる気がしないなぁ…
「ごめん、今ちょっと海を見てたんだ。」
「海?」
「今あの人はどこにいるのかな…って。」
私は窓をそっと閉める。
「もしかして…悠之君…?」
「うん…考えてたらちょっと悲しくなっちゃって…」
「千歌…」
「…もう遅いから寝るね。」
私はすぐに自分の部屋に入って行った…きっとこの場から逃げたかったのだろう…
私はそのままベッドにダイブして、ぬいぐるみを抱えながら仰向けになる…
「そういえば、引き出しの中に…」
ベッドから降り、引き出しを開けて一枚の写真を取る…
それは、私が小学校に入学した時の写真…
写っているのは、曜ちゃんと果南ちゃん、そして悠之君…
なんだろう…この写真を見ていると、何だか懐かしい気持ちになる…そして、寂しい気持ちにもなる…。
…今年こそ会えるよね?
ー引っ越し当日。
俺は高校の数少ない友達に見送られ内浦へ向かった。
みんなはいきなりすぎて逆に笑えると言われてしまいひとりも悲しげな雰囲気はなかった……
まあ、別にいいか、そこまで高校では仲のいい奴なんていなかったし。
母さんが車にエンジンをかける。
「さあー飛ばして行くわよ!!」
「いや、安全運転で頼む。」
東京から静岡まで、高速道路を使って約4~5時間程…少し退屈だな。
…寝て待ってるか。
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♢
「クシュっ!」
「あれ?千歌ちゃんもしかして風邪?」
「う~ん…昨日窓開けてボーッとしてたから…かな?
「だ、大丈夫だけど…千歌ちゃん顔赤いよ…熱があるんじゃ?」
曜が千歌のデコに手を当てるが、特に熱くはなく平熱だった。
「ありがとう曜ちゃん、でも大丈夫だから。」
「う、うん…たしか今日も店番あるんでしょ?頑張ってね!」
千歌はうんっと頷いて旅館に戻った。
…やっぱり体がちょっと辛いなぁ…でも、休むのはお昼くらいからでもいいかなぁ…。
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「なあ、俺は何時間くらい寝ていた?」
「う~ん…4時間くらいじゃないかしら?」
だったらそろそろ着いてもいい頃なんだが…周りを見てもまだ全然進んでないように見える。
「あ~見ての通り渋滞よ。」
「デスヨネー」
そして2時間程経過し、ようやく内浦の海が見えてきた…流石に疲れた…
「聞いてなかったけど、俺達の引越し先はどこなんだ?」
「あぁ、それは行ってみればすぐにわかるわよ。」
母さんが車のスピードを少しあげる、すると見覚えのある景色が目に入った。
そして母さんが車をとめ、ある旅館に止まった…
「いい?あんたはこれからここでお世話になるんだから、ちゃんとやりなよ?」
母さんが俺を下ろして荷物を渡し、車のエンジンをかけた。
「母さんは行かねえの?」
「私は事務所に住みながら働くから心配ないわ、温泉にまた入りたくなったら伺うって高海さんに伝えといて。」
「なるほど…でも、旅館なんだから金とかは…」
「あ〜年間で借りれるほどの料金を払っといたから大丈夫よ。後、高海さんのお宅には既に話を通してあるからご心配なく。」
「ほぅ…意外とやるじゃん。」
「でしょ、少しは母親を見習いなさい。」
母さんはそのまま車を走らせた。
「さて…と」
恐らく三年くらいだろうあの子は元気にしてるだろうか。
ガラガラガラ……
「こんばんは~!」
「はーい!いらっしゃい~!」
みかん色の髪…少し幼い顔立ち…間違いない、この子が…
「久しぶり、元気だったか?」
「ほぇ…?」
「俺だよ、覚えてない?」
「…だぁれ?」
「え…」
嘘だろ…もしかして完全に忘れ去られたか!?
いや、確かに三年間ずっと会わずにいたら…
「え、俺のことホントに覚えてないの?」
「う~ん…?」
千歌が首をかしげる。
や、やべえよ…完全に忘れちゃってるよ……でも、困ってる顔もまた可愛いんだけどな……ってそれどころじゃねえ!これじゃあ俺が変質者だ…
「えと…お客様?とりあえずお部屋にご案内しますので、お荷物をお持ち致しますね。」
千歌が少し体をふらつかせながら俺に近づく。
「い、いや荷物くらいは自分で……」
マズイ…このままだと普通のお客と勘違いされてしまう…。
「あっ…」
千歌が俺の体にもたれてきたので、慌てて支える。
「ちょっちょっと!?大丈夫?」
「はぁ…はぁ…ごめんなさい…。」
やばい…なんか凄くいい匂いがする…
「い、いや気にしないで……とりあえず今は無理をしないでゆっくり休んで。」ドキドキ
まずい…心臓の音が聞こえちゃうかな…?
俺は他に人がいないか探していると…。
「あれ、悠之君もう来てたんだ!」
「あ、志満姉さん!」
助け舟が俺の所に来てくれて、良かった…。
「千歌が急に倒れちゃって…。」
「え!?大変!!……でも今は他のお客さんもいるし……じゃあ、悠之君?千歌ちゃんの事…お願いしてもいいかしら?」
「えぇ、大丈夫です。」
俺は千歌をおんぶして、千歌の部屋に運んだ。
♢
俺はそのまま部屋まで運び、千歌をベッドに寝かせる。
「内浦に着いていきなりこんな事になるなんてな…。」
幼い顔立ちなのに、結構発育してんだな…
机にみかんの山が置いてある…相変わらずみかんが大好きなんだな。
「(確かこうすると…)」
俺が千歌のみかんを手に取る…
「私の~みかんに手をかけるとは~いったいどこのくせ者だあぁ~!」ガオー
千歌が飛び起きて真っ黒いオーラを放ちながら、ジリジリと迫ってくる。
丸で動きが怪獣のようだ。
「ほら、やっぱり起きた…昔と全然変わってないな。」
千歌が飛び起きて俺の事を襲おうとするが、目をぱちぱちさせながら俺を見る。
「嘘…本当に…悠之くん…?」
「思い出した?」
「本当に悠之君だ~!!」
千歌が俺に抱きつく…やばいやばいやばい…また心臓が…
「悠之君~!」ギュッ
「その性格、全然変わってなくて安心したよ。」
千歌が抱きつきながら急に泣き始め、涙が俺の服に滲む…
「おいおい…いきなり泣くなよ…。」
「だって!悠之君ったら連絡先もよこさずにどっかいっちゃって!凄く寂しかったんだからね!!」
「ごめんな、向こうで色々とあってな…時間とか全然無かったんだ。」
顔をプクっと膨らませてじーっと俺を見つめる…やべ、ちょっと怒ってる…?
「でもまた会えて嬉しいよ!」
「3年ぶりだもんな……ってことは千歌は中学3年生か。」
「うん!悠之君は高校……高校…何年生だっけ?」
「二年生だよ。」
「悠之君が高校生!?…有り得ない。」
「いや、なんでそうなる。」
久しぶりにこんな会話をすると凄く懐かしく思える。
「それにしても、悠之君雰囲気だいぶ変わったねー最初全然分かんなかったよ。」
「そうか?」
「なんと言うか…ちょっと大人っぽくなったって言うか…」
「一応高二だしな、少しくらいは変わるもんだよ。」
俺は千歌の身体の発育に驚いたけどな。
…特に胸。
「ま、いっぱい話したけど今はとりあえず寝ておくんだ。」
「え~…せっかく会えたばかりなのに…」
「具合悪いんだろ?じゃあしっかり休まないと。」
「はぁ~い…。」
「じゃあ、おやすみ。」
「あ、待って悠之君」
千歌が俺の手を握る…
「私が寝られるまで…その…手を握ってて欲しい…なんて。」
「いいよ、寝るまで握っててあげる。」
「えへへ…ありがとう…。」ギユッ
夢じゃなかった…悠之君は帰って来てくれたんだ。
私の思いが届いたのかな?
これでまた、み~んな一緒だね♡
投稿ペースはかなり遅めです!
早くて2日、3日ぐらい
基本的に1週間に一回くらい。
※内容が思いつかないとかなり遅くなるかもです…マイペースなので…。